34、アバター
田舎の方では、いまだ二食のところもあるらしいけど、王都では、平民でも一日三回食事をする。
子供の私は、王宮から帰ったらお昼寝の時間で、そうして健やかに成長するはずだったんだけど。
どうやら育たないとわかってからは、もっぱら覗き…社会見学の時間になってた。
気の向くままに世情を眺めながら、うつらうつら。至福!
そこで気付いた。
フルダイブVRMMOにログイン中って、こんな感じじゃなかった?
もちろん前世でも、まだそこまでの技術はなかった。
あくまでラノベに登場した架空のシステムだけど、雛形があるだけイメージしやすい。
すでに《耳目》をつくることには成功してる。
魔力と霊力の違いはあれど、わざわざ体をつくって生活してる精霊もいるって話だ。
いまだ体外の魔力を操ることはできないから、自分の魔力で、もう一人の「私」をつくっていく。いわゆる《アバター》だね。
とりあえず魔力を人型にまとめて、鏡を見ながら細部を調整。
あくまで試しだからアレンジはせず、そのままシンプルに視覚化してみたんだけど。
「ひょぇっ…」
自身もビビる幽霊状態。
いかにもデジタルデータな「私」は、確かに自分そっくりで、タイムラグもなく動かせるけど。
握手しようとした手はすり抜けるわ、壁に埋まるわ…怖たのしい。
ここはきちんと物質化して、外から触れるのはもちろん、こちらからも物を持ったり、外部に働きかけられるようにしたいところ。
そこで、さて。側だけにするか、中身をがっつり詰めるか。
両方やってみよう!
外側だけの方が、当然つくるのは簡単。
ただ、中身がないから、風に吹かれただけでもふらつきそうだ。
貴族の令嬢として過ごすなら、それでもかまわないわけだけど、私の場合、女官や侍女に抱っこされる機会が多いからなぁ。
重石代わりに水でも入れようか。
でも、つくる時に風船をイメージしたせいか、割れた時がなかなかの惨事だ。
まあ、よほどの衝撃じゃなければ、そんなことにはならないだろうけど。
カップ一つ持ち上げるにも、《念動》でものを動かさないとならないのが、ちょっと面倒に感じる。
ただ、後始末は楽。
それこそパァンッ!と割って、散った残骸も自然の魔力に紛れこませることができる。それくらい使用魔力が少ない。
囮として使うにはいいかもしれない。
一方、中身有りはなかなか手間がかかる。
かなりアバウトな仕様とはいえ、骨に筋肉を巻き、皮膚で覆い、内臓も一応それっぽくつくってみた。
侯爵家の厨房、冒険者ギルドや肉屋の解体現場をがんばって見学した成果がいまここに! オエッ。
でも、手間をかけ、相応の魔力を注ぎ込んだだけあって、どんな動作をするにも、普通に体を使う時のカロリー相当の魔力で済む。
なんといっても、《身体強化》をはじめとした各種魔法を使えるのが大きい。
問題は、後始末。
一瞬で、そこに「私」がいない状態にはできるけど、私の魔力がとても濃い状態で残ってしまう。
まあ、《吸収》して強引に解決することはできるけど。
何かアクシデントがあって魔力的繋がり…個人的に魔力線って呼んでるけど、それが切れた時、死体っぽい死体じゃない何かが残る可能性もあるわけで。
予備の魔力線を伸ばしておいて、即座につなぎ直す訓練をしよう。
そうすれば、回収だってすぐできる。
なにしろ私は、コレで冒険者活動をするつもりだからね。




