表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
わがままな義妹なんて荷が重い  作者: 御重スミヲ
33/63

33、冒険者ギルド


 そんなわけで、さっそく見てきた冒険者ギルド!…《耳目》でね。

 ロス爺からも一通り聞いてはいたけど、仕事内容やシステムは、ほぼラノベのそれと考えて問題ないようだ。

 特筆すべきことといったら、建物の構造や受付が役所タイプで、ギルドカードに不思議機能がないことくらい。

 【慈悲いらず】のロスは、ミスリス製のカードを所持していた。

 でたよ、ファンタジー鉱物。そして、二つ名持ち。ヒュウ~!

 一応、表向きは、冒険者向きのスキルがないと登録できないらしい。

 それによって自然と年齢が制限される。つまり、いまの私は冒険者になれない。

 ただ、なんにでも抜け穴というものがあって、登録前訓練って名目で、冒険者と同様に仕事を受注し、報酬を受け取ることができてしまう。

 本来は指導員を付けて、希望者の適性を見たり、事故率を下げるためのものらしいけど。

 期間は六カ月と決まっているものの、あくまで訓練。登録前であれば、誰が何度受けても問題ないというわけだ。

 あとは、すでに登録済の者を中継する方法もある。

 利用しているというか、されてるのは貧民と呼ばれる人たちで、取引相手に、無理のきかなくなったロートルを選ぶあたり、一応あれこれ考えてはいるんだろう。

 でも、冒険者の方も生きていかなきゃならないし、ごく一部の者にはあったかもしれないボランティア精神も、楽を覚えればずるい考えに変わって行こうというもの。

 少々ピンハネが過ぎる気もするけど、他に福祉的な制度は見当たらないし、おかげで生きてる人々が確かにいるわけで、一概に悪と断じて潰してしまうのもいかがなものか。

 いや。そもそも私に、これについてどうこうする気はない。常識的に考えて、できないし!

 未来の第二王子妃アマンダなら何かできるだろうけど、やっぱり何もしないだろうね。

 なぜなら、彼女は貴族だから。

 私も、この容姿で礼儀作法に気を付けてなかったら、ここまで可愛がってもらえたかどうか。

 姉のエリザベスを教育してるのも、あくまでクロムウェル侯爵家が迷惑を被らないようにするためで、あまりおイタがすぎれば、簡単に切り捨てられるだろう。

 平等をうたう世界より至った私より、危機意識のないエリザベス、大丈夫か?

 まあ、有用なスキルがある分、マシだろうけど。

 完全にイコールではないけど、貧民の多くはスキルに恵まれなかった人たちだ。

 その責任が教会だけにあるわけじゃないところが、またね。

 百五十年ほど前、教会との戦いに勝利した国々の権力者たちは、多くの権利を取り戻した。もとより、そのための戦いだった。

 教会の許可なく王位に就けるようになったし、結婚も離婚もできるようになった。

 教会に法外な寄付をしなくてもよくなった。

 なにより、貴族のスキルの判定を、王国なら王家が、帝国であれば皇室が、共和国では議会が行えるようになった。

 彼らが教会を潰さず、民たちの分のスキル判定を権利というか権威として、教会に残したのは恩情でもなんでもない。

 でしゃばらないなら宗教はあった方が、国を治めるのに都合がいいからだ。

 そもそも冒険者ギルドは国境をまたいだ自由組織らしいけど、国家の影響を受けてないはずがない。

 …うん。為政者はそれくらいじゃないとね。

 そんなわけで、私はいまも昔も将来においても、政治にかんすることで何かする気は毛頭ない。

 今回、王家のお家騒動にかかわちゃったのも不可抗力だったし…これでも余計なことは言わないように気をつけてるんだよ。

 だいたい私に、そんな能力あると思う?

 何の思入れもない他人のために危ない橋を渡るなんてごめんだし、自分が危うくなったら全力で逃げる!

 幸い、今世ではそれができそうだ。

 で、話は冒頭に戻る。

 冒険者登録には実質、偽名もオーケーで、場所を変えて二重登録なんてのもざら。

 スパイの隠れ蓑として利用され放題。

 うわぁー…思った以上にザルだ。

 でも、やましいところのある実力者には好都合だよね。

 私も、これを提示すれば入街税なしで街門を通過できるっていう、ギルドカードはぜひほしい。

 ギルドカードのほかに、残高が記載された手形が必要らしいけど、どの冒険者ギルドでも『預金』を引き出せるのも便利だ。

 私は《収納》に貯めるつもりだけど。

 根無し草タイプの冒険者に『伝言』できるのも助かる。

 ただしこのサービス、依頼あつかいになるから当然有料。その代わり、冒険者じゃなくても託けはできる。

 受け取る側が近場の冒険者ギルドで、自分宛てに伝言がないか確認してくれないと伝わらないんだけどね。

 まあ、【慈悲いらず】くらい有名になれば、ギルドの方から声をかけるらしい。

 字数制限があるあたり前世の電報を連想したけど、ギルドからギルドへ手紙や荷物を運ぶついでに伝えていくので、それなりに時間もかかるようだ。

 でも、遅いと思ってるのは私くらいで、サイモン先生が緊急でロス爺を呼ぶ時もこのシステムを利用したんだとか。

 いや。定住してたり、この期間はどこそこにいるってわかっていれば、他にやりようもあったんだろうけど。

 掲示板同様、伝言板は誰でも見られるわけだから、双方だけがわかる偽名や符牒を使うのは当たり前。

 私も、なにかあれば「待てなくなりました/花」と伝言するように言われてる。

 なんだろうね。人をイジりたいのか、自分が笑いものになりたいのか…それで、速攻むかえにきてくれるっていうんだから、ロス爺らしいといえば、らしい。

 ともかく、なんとかなろう冒険者!

 まずは、それに向けて鍛えてくってことだけど。

 我ながら思い切りがよくて驚く。

 なにせロス爺と会う前だったら、絶対に選ばなかった職業だもの。

 じつを言えば、魔法が使えた時点で考えないこともなかった。

 でも、もともと私は選択肢があるなら無難な方を選ぶ方だ。

 その上、異世界だよ? 現代日本と比べてかなり治安悪いよ? 魔物も山賊もいるんだよ?

 でも、ロス爺についていくなら、精神的にも肉体的にも魔法的にも強くなるしかない。

 もちろん頼れるところは頼らせてもらおうと思ってるけど。

 あまりに一方的だと、恥ずかしくて仲間だなんてとても言えない。

 まあ、意識の上ではすでにそうなんだけど。

 そうなる条件の一つに、一緒に何かを成し遂げたってことがあると思う。

 肉塊を赤子にまで育てるっていうのは、なかなかのことじゃないかな。

 本来は、家族についてもそうあるべきなんだろうけど、どうもそんな気にはなれない。

 前世の家族に対する甘えとも違う。

 だいたい、はじめからカトリーヌはカトリーヌ、エリザベスはエリザベスって捉えてた節がある。

 つまり、私にとって彼女たちは自分とは別個の存在で、その軌道を変えることなんて考えもしなければ、できもしない相手というわけだ。

 しかも、いまは二人とも安全圏内にいて、かなり贅沢に暮してるから、もう、私がどうこうする必要はないんじゃないかな。

 その点は、アマンダに対しても同様。

 彼女のことは好きだし、子供ながら敬意を表したくなる人物だ。

 幼い私をとても可愛がって、何かに付けて心配りをしてくれることに感謝してる。

 でも、彼女の意識としては私に与えるのが当たり前で、私自身、たとえ同等のお返しができたとしても、彼女はお世話になってるお家のお嬢様。互いに仲間意識など芽生えようがない。

 アマンダ自身は「本気で私を妹のように思っている」と思ってるし、そこに嘘はない。

 でも、だからといって私が調子に乗って対等に接したら、その違和感と不快感に戸惑うことになるだろう。

 別に彼女が悪いわけじゃない。そういう社会だったってだけのことなんだけど。

 そんなところも、私がロス爺の迎えを心待ちにする理由になる。

 それなりに努力をしたつもりだけど、はっきり言って私は運がよく、客観的に見てかなり恵まれた環境にいる。

 王を王とも思わない爺様に出会わなければ、よろこんでそれを甘受してたし、そうしていくつもりだった。

 でも、一方にある事実として、前世の現代日本でもそれなりに差別意識は存在したし、蔑まれたり、馬鹿にし合ったりはしてきたけど、これほどの階級差を感じることはなかった。

 目を合わせた人間が、無意識にでも自分を同じ人として見てないって察した時のヒヤリとした感覚。

 そこに情や思いやりがあっても、それとこれとは別なのだ。

「何か欲しいものはない? もっとわがまま言っていいのよ?」

 忙しい中、前にもまして着せ替えごっこをし、手ずから菓子を与えようとするアマンダ。

 彼女にしてみれば、私がこの家を出て行くことが最大のわがままになるんだろうな。

 私なりに落ち込むのも、あれこれ言い訳して線を引くのも、あっさりロス爺を選んだ罪悪感っていうか…

 もっとも子供の成長は、大人が思うよりずっと早い。

 もとより早熟な少女だ。

 三年もすれば年齢的にも立場的にも、人形遊びになんてもう興味がないだろう。きっと、たぶん…そうであってほしい。

 ちなみに、冒険者になるつもりだってことは言ってない。

 衛兵との特訓 ( 接待 ) ですら、目玉がこぼれ落ちそうなほど驚いてたし、さらに魔物と戦うとか、ダンジョンに潜るとか、とても言えんわね。

 とりあえずぼーっとしてるだけじゃ、何もはじまらない。

 ちまちまとでも、自分のレベルを上げねば。

 まずは、魔物図鑑を読み込みつつ、厨房をのぞいて鶏の内臓に慣れるところからかな…ウェッ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ