3、スキル
教会は思いのほか大きかった。
私が小さいからよけいそう感じられるんだと思うけど。
真っ白な壁に尖った鐘楼。
正面の大きな扉口ではなく、脇に回って小さな扉をノックする母。
のぞき窓が開く。
「スキルの鑑定をお願いしてました、本人の名前はエリザベス。母親は私、カトリーヌです」
「はい、確かに。奥へどうぞ」
扉が開くと蜜蝋の匂いが強くなった。
むぅ。やはり教会はお金持ちらしい。
母親の腕に抱かれた私も特に咎められることもなく、小部屋に通される。
床板は人影が映るほどに磨かれ、壁も緩いカーブを描く天井も白い。
中央の黒い石の台に置かれているのは、ガラポン抽選器にしか見えないけど。
……ふざけてるのか?
側に立つのは、いかにも聖職者といった格好のおじさん。
でっぱったおなかを「らしい」と言うか、「らしくない」と言うかは意見のわかれるところ。
正直、商店街のはっぴの方が似合いそうだ。
「ここまで健やかに成長できたことを神に感謝しましょう。カトリーヌの子、エリザベス。さぁ、ここを持って。はい、回して」
オレンジ色の八角形のアレがくるりと回る。
勢いあまってもう半回転したけど、幸か不幸か出てきた玉は一つだ。
「き、金色!」
ガランガラ~ン。鐘が鳴ったのは私の頭の中だけだけどね。
姉のスキルはなんと《光魔法》だった!
それはもう熱心に、教会に所属するよう勧誘する中年の司祭。
末は聖女、いや大聖女も夢ではないとおだてられて、小鼻をふくらませるエリザベス。
でも、それには教会に寝泊まりして、何年も修行しなければならないとわかると、途端に彼女の熱は冷めた。
「おかあさ~ん。おかあさんとはなれるなんていや~。フローラとはなれるのもいや~」
ほんとか?
「本人もこう言ってますし…」
カトリーヌも娘を手放す気はないようだ。
「まあ、気持ちはわからないでもありません。聖職者ともなれば結婚はできませんからな。では、このようにすれば…」
結局、エリザベスは通いで週に一時間ほど、教会にとって有用なスキルを持つ子供たちと一緒に、魔法について学ぶことになった。
日曜学校みたいなものかな。
帰り道。
「せっかく授かったスキルなんだから、ちゃんと使えるようにがんばりなさいよ?」
「うん!…あっ、そうだ。ロキくんにスキルのことおしえてくるね」
「待って、ベス! あぁぁぁ、聞いてない。聞いてないだろうけど、早く帰りなさいよ。そして服を汚さないで。フーにも着せるんだから…。そうよ。がんばれとは言ったけど、《光魔法》と言ったって、私たち平民が大した魔法を使えるわけがないのよ。せいぜい《ライト》、がんばって《フラッシュ》ってとこね」
なるほど~。
ママンは意外と冷静だった。