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わがままな義妹なんて荷が重い  作者: 御重スミヲ
24/63

24、兎


 やっとこさ、王宮図書館の入館許可証を手に入れることができた。

「ありがとうございます、アマンダ姉様」

 少し前から彼女は、「気持ちの上では間違いなく姉妹なのだから」と言って、私にこう呼ばせている。

「何かあったらすぐに、まわりの人に助けを求めてね。きっとみんな親切に、あなたを手助けしてくれるわ。なんといってもこんなに可愛いんですもの、フローラは」

 姉馬鹿に拍車が掛かっているようで、義妹(仮)としては少々心配だ。

 学院生である上に、政務にも携わってるせいで忙しすぎる第二王子とは、会わずに済むのがありがたい。

 本来なら、王宮入場許可の口添えに、お礼を申しげなければならないわけだけど。

 緑のヘンタイさんだけでおなかいっぱいなので、ほかの濃そうな人たちとは、まだ当分会いたくない。

 身支度した私はいそいそと、件のイヤリングを身につけた。

 まあ、魔力保有量だけでもわかると思うけど、念のため。

 いちばんは、相手の驚きをできるだけ濃縮させて、その顔を見たいから。

 馬車から降りて、「知らない人についていったら駄目よ」とさらに念を押す、心の義姉(十一歳)に手を振ってわかれる。

 侍女も付いてきてるけど、入館許可証のない彼女は図書館内には入れないんだそう。

「こちらでお待ちしております」

 適当に息抜きしててほしいけど、そう言うのは相手のプライドを傷付けることになるらしい。

「お願いね」

 せいぜい可愛らしくお願いするくらいだ。

 プロのお姉さんの笑顔が眩しいぜぃ…

「なにかお探しですか?」

 司書らしきお姉さんも、これまた美人でやさしそう。

 せっかくなのでお願いしてみよう。

「魔法やスキルについて知りたいのですが」

「ではこちらです、ご案内します」

 こっちの歩幅まで気遣って、ゆっくり歩いてくれる。

「お取りしましょうか?」

 誰もいなければ、魔法の《手》で取っちゃうけどね。

「お願いします。そちらの『魔法一覧』と、『スキル辞典・改訂版』と…」

 三冊ほど棚から出してもらって、閲覧用の机まで運んでもらう。

「お手数をおかけしました」

「いいえ。必要でしたら、またいつでも声をおかけください。では、ごゆっくり」

 じつはこの辺はすでに目を通したものばかりだから、読んでるふりで、空気中の魔力の糸をどんどん取り込む。

 宮廷魔法師のいる王宮でなら、素ではまだ紛れてた私だけど、光量三を超えたあたりで反応があった。

 私の現段階での光量十を超える魔力の塊が、どんどんこちらに近付いてくる。

 私はかまわずどんどん魔力を取り込みむ。

 そして、光量十三。満タンの十三倍だ。

「なんじゃ、お前…」

 立ち上がって待ってた私の前に、緑のヘンタイさんこと将軍サマがいる。

 両膝に手を置いて、尻が床につくぎりぎりまで屈み込んでも、まだ私より頭が上にある。

 さらに下げられ前に突き出される顔。

「図書館では、お静か…」

 さっきの司書さんかな?

 鋭く発せられた決まり文句も、尻切れトンボになるはずだ。

 えらい存在感、すごい迫力だもの。

 私が持ちこたえられているのは、これが魔法の変態だって知ってるから。

「目が潰れそうじゃの」

 文句を言うなら、そんな間近で見るのやめればいいのに。

 たぶん、魔力でフィルターでもつくって防御してるんだろう。

 コンタクトみたいなサングラス?

 いいかも。この爺様も、人のこと言えない眩しさだから。

 私もさっそく自分の目を防護。

 光があること自体はわかるけど、眩しくなくて、あー、楽。

 ほんと、この人と会うだけで、魔法にかんしてはいろいろ進むなぁ。

 まじまじと人の耳、正確にはイヤリングを見ているヘンタイさんに向かってカーテシー。

「む」

 すっと立ち上がった姿勢のよい老人は、まさに壁だ。

「ラビット公爵、ロス・ノート・ラビットじゃ」

 兎! 緑のヘンタイで巨人な爺様は兎さんだったよ…

 驚愕に目を見開かないようにがんばって、なんとかそれを達成した私。

「クロムウェル侯爵が側室カトリーヌの連れ子、フローラ・シャムロックと申します」

「うむ。楽にせい」

 ここまでは貴族の定型文ってやつかな。

「なんなんじゃ、もう…ボイン、バイーンの妖艶な美女だと確信しておったのに」

 私が小さな手で「ちゃちゃつぼ」をして見せると、将軍サマはがくりと項垂れた。

「こんなちんまいガキんちょに、儂はなにを…」

 私が想像してた以上のダメージがあったらしい。

 いや、去勢する必要がなかったようで、よかったよかった。

「こ、ここは皆様がべ、勉強する場所です。お静かにできないのでしたらっ、ご退出を!」

 その後、私たちは、勇気を振り絞った司書に図書館から追い出された。



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