21、耳目
人との交流は勉強になるって実感した。
それが同じ趣味人で、素直に認めたくはないけど、先行しているならなおさら。
魔力で何かをつくるって発想は私にはなかった。
外の魔力をいきなり形にするのは、まだ無理だけど、自分の魔力を伸ばして行って、その先に疑似的な目や耳をつくるのはけっこう簡単だった。
自分の魔力だからこそ違和感なく、そのまま自分の《耳目》として聞いたり、見たりすることができる。
生まれかわってからの私は、下町の一部と、クロムウェル侯爵邸の中しか知らない。
世の中のかなり低いところと、とても高いところ…我ながら極端すぎる。
とにかく、いろいろなことを見聞きして知りたい。
自室に居ながらにして世間の様子がわかるなんて、魔法ってすばらしい!
盗み見、盗み聞きしてる罪悪感がまったくないわけじゃないけど、そこは節度を持って…
はい。正直言って、そのちょっと悪いことしてるなぁって感覚も込みで楽しいです。
「マントの食堂」の女将さんの、旦那を罵る時のスピードと語彙力には毎度感心させられる。
一匹の野良猫の名前が、ブチ、チョロ、マール、クロシロ、ジャミール、トト、ミミ、ガッツ、バック、ケニー、などなどたくさんある上に、本人(?)がちゃんと覚えて使い分けてることに驚く。
セールストークの下手な行商人と、注文を間違えてばかりの酒場の給仕と、美形だけど音痴な歌姫の恋の行方も気になる。
ネットで動画を見続けるのと同じで、目的と手段が入れ替わってるような気がしないでもないけど、人探しを忘れてるわけじゃないんだよ。ほんとだよ?
《耳目》を伸ばして、問題の付近を定期的に観察してるけど、仮称「緑のヘンタイさん」らしき人は見当たらない。
当然、外見的な特徴はおろか、年齢や性別すら不明なわけだけど、どう考えてもふつうの人より魔力が多めで輝いてると思うんだ。
そういう《目》で見れば…
森の中を通る街道は、商人の乗った馬車とか、騎士を乗せた馬とか、冒険者(!)が通ったりする。
強そうな人は、やはり魔力を多く保有してることが多いけど、私の思うレベルに達してる人は、いまのところいない。
あの日の移動方向からすると、「緑サン」は、川を渡るために橋を目指してたはずで、王都に入ってる可能性は十分にある。
王都ネーブルの人口は、公式記録では五万人をちょっと超える程度。
実際はその倍とも、三倍とも言われてる。
その中から、いるかどうかもわからない一人を探す…
どうせ見聞きするならって《マップ》作成に挑戦しながら、そこに《鑑定》で見た魔力の光を重ねてみるも、人だけに限ってもその数は膨大。
しかも、それぞれが好き勝手に移動するものだから、私の頭じゃとてもじゃないけど処理しきれない。
この場合は、脳に魔力を集めて《高速思考》か?
いろいろ思いついて試して修正して、それは楽しいし、いい訓練にもなってるけど、まだまだ未熟なのは確かだから、向こうが見つけてくれるのを期待しても罰は当たらないと思う。
でも、私が人目に触れる機会って極端に少ないんだよね。
まず、形だけとはいえ貴族令嬢に準じる扱われ方をしてるから、おいそれと外をうろつくことができない。
年齢的なものもある。
それもあってお呼ばれの対象にはなりえないし、アマンダのおまけで連れて行かれても、屋敷→馬車→屋敷という行程から逸脱できない。
仮にその貴重な機会に、せっかく加工した宝飾品を耳にぶら下げたところで、それはどこで手に入れたのかって話になるわけだ。




