2、異世界
さて、聞きたいこともやりたいことも山ほどあるけど。
「ふうたん、おう、も」
「もう、なにいってんのかわかんないわよぉ」
口は回らないわ、立ち上がってもすぐ転がるわ。
「ちょっとエリザベス! お姉ちゃんなんだから、フローラが転ばないように支えてあげるくらいしたらどうなの?」
「なによ! フーばっかり…なんでベスがやらなきゃならないのよぉ」
「じゃあ、なんならするの? 水汲みは重いからって途中で投げだすし。だからって片付けさせても嫌々やるからお皿は割るし。掃き掃除もできない子なんてこの辺じゃあなたくらいよ?」
母親のぼやきによれば、男の子であればギルドの徒弟として働きだす年齢なので、家の手伝いくらいできて当たり前らしい。
まあ、いままで独り占めしてた母親が、妹にかかりきりになっては面白いはずもないけど。
お世辞にもよい姉とは言えないエリザベス。
ぶたれたりしたことはないけど、私のことをわざと無視することが多い。
べっつに、いいけどぉ?
遠慮するのもおかしな話だから、私は母親には普通に甘える。
純粋に抱っこは気持ちがいいからね。
でも、いまは言い合いをする二人から離れたい。
床の上をハイハイすると膝が擦れて痛いから、ころころ横に転がって移動。
幼児の体は何かと不便だ。
だいいち彼らの教育水準や宗教観がわからない以上、悪魔付きだなんだと怖がられて捨てられても困るので、大人しく幼児のふりをしている。
パソコンもスマホもなく、新聞どころか絵本の一つも見当たらない。
退屈しそうなものだけど、前世で過労ぎみだったこともあって、疲れたら寝る、飽きたら寝る。
これ、最高!
「フフッ…いいでしょう、かわいいでしょう?」
「かわ、い~」
いつになく上機嫌な姉、エリザベス。
いわゆる一張羅を着せられて、黙っていれば商家のお嬢さんくらいには見える。
問うように見上げた先。
母親も清楚なワンピースを着ていて、まだまだ十代独身で通りそうだ。
「今日はベスお姉ちゃんのスキルを見てもらいに教会に行くのよ」
「ふわっ!?」
目を見開き両の手足を突っ張った私の様子がよほどおかしかったらしく、姉も母も大笑いする。
ちょっとそれどころじゃない私。
スキルとな!
なんとなく期待はしてたけど、ただの転生じゃなかったよ。
タイムトラベルでもなかった。
そりゃあ、昨今の流行りからいえば異世界転生に決まってたけど。
実際そうと知れば、それはもうびっくりだ。