19、目標計画
姉をバカにしたからって、妹の私が賢くなるわけじゃない。
我が母カトリーヌは、無事に男の子を出産した。
少し体を休めてから、貴族家のしきたりなど学びつつ、グロリアの仕事の手伝いをはじめたと思ったら、次の子を身ごもっていた。
母さん、でかした!
ついては私も、自分の将来について真剣に考えなきゃね。
前世では、わりと行き当たりばったり生きてたから。
いまになって、小学校で短期目標や長期目標を決めさせられたり、中学校で夏休みの計画表を提出させられたりしたことが、いかに大事かわかる。
曲がりなりにも上流社会に身を置いてみたら、前世チートで活躍する余地はあまりなかった。
私に大した知識がないせいもあるんだけど。
こっちの馬車の車輪には魔物の皮が張られ、スプリングもベアリングも装備されてた。
文化もそれなりに成熟してて、チャールズみたいな前衛芸術家がいるくらいだ。
…お世辞にも受け入れられてるとは言えないけど。
さすがに映画や録音された音楽は存在しない。
でも、歌劇もあればオルゴールもある。
フルコースの料理にケーキ、ハンバーグもあれば、やわらかい白パンも、パスタもピッツァもある。
ライスにかけることはしないけど、カレースープはある。ボルシチもある。
揚げ物や、タルタルソースまであった。
娯楽にかんしても、ダーツにビリヤード、リバーシ、チェス、トランプとそろってる。
将棋は、私がくわしいことを知らない。
郊外に行けば、サーカスや競馬場もあるらしい。
農業は輪転式で、鶏舎や牛舎が誕生してひさしく、おいしい肉を生み出す研究までなされている。
養蜂だって行われてる。
私が唯一誇れるアドバンテージは、スキルについてのあれこれ。
ここではイコール魔法としておこう。
真理なんていうと大げさだけど、皆が知らないことを知ってるのは確か。
いや、独自に研究して、私よりもっと詳しい人がきっといるはずだ。
知ってる人が少なければ少ないほど、知ってる人の価値は上がるけど、少ないせいで言ってることを信じてもらえない場合もある。
仲間がほしいなぁ。
世の中に与える影響が良いものでも、面倒事がついてまわりそうだし、悪いものならなおさら私はビビってしまう。
責任の分散というかね。
ほら、赤信号もみんなで渡れば怖くないっていう…
マッドは困るけど、オタクな魔法使いでも魔女でも、そのへんに落ちてないかな?
とりあえず、現実逃避してても仕方がないので、自分のできることとやりたいことを書き出してみよう。
幸い、十代中頃までの生活は保障されてる。
その頃になったらどこかへ嫁に行けという話になるんだろうけど、それに従うにしろ、手に職を付けて自活するにしろ、十分以上の教育は受けさせてもらえそうだ。
アマンダ曰く、王立貴族学院に通うのは決定事項で、その数年前から家庭教師をつけようという話になっている。
そこで学べることはその時、学べばいい。
転生者の宿命か、自分がどこにいるのかわからない不安感が昔からあって、地理や歴史は常識程度に頭に入れるようにはしてるけど。
能力や状況によって多少は前後するにしても、五年くらいは、礼儀作法に気を付けつつも大した義務のない、いまの暮らしを続けられそうだ。
つまり、その間に好きなことをやれってことだね!
できること 初級魔法
やりたいこと 神級魔法
もちろんそんな定義はないから、私の感覚的なものだ。
あとは二つの間をつなぐだけ。
計画 ①とりあえずクロムウェル侯爵家の蔵書を読破する
②王宮図書館に行く
③宮廷魔法局の見学
④野良の魔法使いをつかまえる
②はダメもとでアマンダに頼んでみよう。
入館の許可さえもらえれば、連日、王子妃教育を受けに王宮に通っているアマンダの馬車に同乗させてもらって、門を入ったところでポイしてもらい、帰りにピックアップしてもらえばよい。
③は見学者を受け入れてる騎士団に対抗して年に一度、訓練場でデモンストレーションを行うらしいので、侍女と護衛をつけて行かせてもらえないかグロリアに頼んでみよう。
④は対象の興味を引きそうなもの…あんたはコレできる?って挑発する感じの、魔法を使った餌を仕掛けてみよう。
わぁ、面白そう。
なんだかんだこれがいちばん手頃で、①をすっ飛ばして夢中になりそうな予感。




