13、おめざ
誰かかが私を呼んでる。
「…フローラ様、フローラ様。起きてください」
「ほぇっ!」
ガバッと上半身を起こしたら、メイドのお姉さんが微笑んでいた。
「気持ちよくおやすみのところすみませんが、お支度がありますので」
「おしたく…」
「フローラ様、寝ちゃダメです」
「…様、ちゃう…そんな身分じゃないぇす、よ」
「では、フローラちゃんとお呼びしましょうか。どうせすぐ、様とお呼びするようになると思いますが」
「うぃ…」
「はい、フローラちゃん、お口をあけて。あーん」
「…あーん」
飴玉を放り込まれて、ビビッと目が覚める。
ミントとかじゃない。子供の舌にもおいしいフルーツ味の飴だけど、砂糖の甘みは寝惚けた頭に暴力的に効く。
朝じゃないけど、おめざってやつだね。
うまうま。
味わっているうちに、温かいおしぼりで丁寧に顔を拭かれる。
よだれ、垂らしてた?
それから、アマンダが譲ってくれたドレスをさっそく着せられて、それに合わせた靴を履かされ、髪を整えてもらう。
「…もしかして、お夕飯に呼んでいただけるんですか?」
「そうですよ。もう少ししたら、晩餐室にご案内します」
いらぬ緊張もセットだけど、おいしいものが食べられるのはうれしい。
先のケーキは無理なく消化吸収されたようだ。
うん。魔力への変換も、日に日にスムーズになってる気がする。
まだちょと寝惚けてるので、部屋の中を歩き回って食事に備える。
壁紙は、うっすらピンクに金糸の花模様。
白く曲線の多い家具には、金の縁取りがしてある。
ホタテ貝みたいな背凭れのソファーもピンク。
窓辺に並べられた空の香水瓶がきれいだ。
そして、大きな大きなテディベア。
全体的に少女趣味だけど、上品にまとまっている。
「可愛い…」
「お気に召しましたか? 数年前までアマンダ様がお使いになっていた部屋ですよ」
「お礼を申し上げなければなりませんね。どうしてここまでしていただけるのかわかりませんが、とてもありがたいです。気に入りました」
女の子なら一度は憧れる、お姫様の部屋だもの。
「もう、お目覚めなのですね。残念…僭越ながら、アマンダ様のお気持ちがわかる気がいたします。私もフローラ様…フローラちゃんのような妹がほしかった」
ほうけ?
中身アレだから、ちょっと気持ち悪いと思うけど。
「…さて、お時間です。ご案内します」
音が響いてくるわけじゃないけど、気配というのかな…屋敷全体に人が詰まってる感じ。
普段と比べてめちゃくちゃ忙しいはずなのに、礼儀正しく、でも、四角定規でもなく、やわらかな雰囲気のメイドさん。
こんな大人になりたいものだ。
前世もっと年上だった私は、仕事中はギスギスしてたからなぁ。




