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第5話:先輩冒険者だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)

 前回のあらすじ。

 恭弥達は、村で起こっている誘拐事件についての話を聞き、事件が解決するまでの間、宿に滞在することを決めた。

 そして、恭弥、遥斗、政宗の三人は昨日依頼しておいた肉と金を受け取りに、王都へと向かうのであった。


 冒険者ギルドとは、冒険者と呼ばれる職業を生業とする者達が活発に利用する施設である。依頼を受注したり、ポーションや薬草といった薬を売ったり、素材を買取したりと、冒険者が円滑に仕事を行う為のサポートを主としている。

 また、世界中に支部を持つ一大組織ではあるが、特定の国に肩入れすることはなく、中立的な立場として戦争に参加することは無い。

 冒険者ギルドの中を見れば、強固な鎧に身を包み大の大人が隠れられそうな大盾を軽々と担ぐ巨漢や、白い長耳を生やし、人のような体格をしながらも白く丸い尻尾を生やした若い女性など、様々な者がいるが、彼らは目的の為に一致団結した仲間という訳では無い。

 時には協力し合うが、彼らは一部の例外を除き、全員が上を目指すライバルなのである。

 そしてここ、ファルベレッザ王国の王都に存在するファルベレッザ支部もまた、普段通りに活動していた。

 だが、今日に限っては、いつも通りとはいかない様子だった。 


「なんだ? 今日はいつもより騒がしいな」


 大剣を担いだ袖無しの青年は両開きの扉を開けて入ると、普段より騒がしい雰囲気を見て、そんな疑問を抱いた。

 そして、彼はいつものようにお気に入りの受付嬢がいる受付へと向かった。

 すると、受付にいるその女性は青年がこちらに来るのを見て、営業スマイルで挨拶をした。


「おはようございます、キャルグさん」

「よう、ターニャさん。これはいったいなんの騒ぎだい?」


 笑みを浮かべる黒髪ショートの女性に対し、キャルグはカウンターに肘をつきながらそう尋ねた。

 すると、ターニャの笑みが戸惑ったようなものに変わった。


「実は昨晩、ツインヘッドウルフの亡骸を換金してくれとウェルザム大森林の広場にあるテントに依頼がありまして……」

「ツインヘッドウルフの? そりゃあ珍しいな。あいつら一体一体はCランクの冒険者でも事足りるが、基本群れで動くからBランクのパーティーでもそう簡単には行かねぇだろ。ましてや、ここ最近は他のツインヘッドウルフが幼子に見えるくらいでけぇ奴が率いてたからな。倒すどころか五体満足で帰って来れただけでも幸運だぞ」


 キャルグは快活に笑う。

 その姿を見て、言うか言うまいか悩んでいたターニャは口元を隠すように潜めた声で告げた。


「それが……そのツインヘッドウルフを持ってきた人……昨日冒険者になったばかりなんです」

「…………は?」

「しかも、群れのボスと思しき個体を連れてこられたので、こちらとしてもどう対応すべきか悩んでいるんです……」

「は……はぁああああああああ!?」


 キャルグが上げた驚きの声に、冒険者ギルドの中にいた者達が何事かと彼の方を見た。

 その視線に気付いたキャルグは顔を近づけ、声を潜めた。


「それってAランクパーティーの荷物持ちとかパシリとかそんなんじゃねぇの? 流石に初心者があの怪物を殺せる訳ねぇじゃねぇか!」

「いえ、それがどうやら五人で元々パーティーを組んでいたらしく、昨日の昼頃、全員が冒険者登録を終えたんだそうです」

「全員がってことは初心者パーティーが狩ったってことか……だからこんなにざわついてんのか」

「はい。でも、それだけじゃないんです。冒険者登録には試験がありますよね?」

「あの元冒険者の試験官と実戦方式で戦ってみるあれか?」

「はい、それです。今回は元Bランク冒険者で後進育成の為に引退なされたディックさんが試験を担当したんです。ディックさんも中々に良い身体つきをしているな、と張り切って試験に臨んでいたんですが、帰って来るなり、俺……弱いのかな……と落ち込んだ様子で呟いた挙げ句、今日は欠勤してます。その様子が真に迫っていたので、おそらくそれも噂になっているんでしょう」

「あ……あのディックさんが? そりゃざわつく訳だ。それで? そんな優秀な新人が入ってきたのになんでターニャさんはそんなに嬉しそうじゃないんだ?」


 キャルグの言葉に、ターニャは一瞬ビクリとなり、驚いた表情をキャルグに向けた。


「わ……わかりますか?」


 おずおずと訊いてきたターニャにキャルグはまぁなと告げた。


「好きな女の顔色一つ見抜けないでB級冒険者なんてなれっかよ」


 キメ顔でそう言われ、ターニャは顔を引き攣らせながら笑った。


「あはは……実は昨日、その内の一人にその……口説かれまして……でも、なんだか軽薄そうな感じであまりタイプじゃなくて……その人が今日も来るんだなと思うと憂鬱で……」


 ターニャの表情にだんだんと陰りが見えているのは、誰の目からも明らかだった。特に、目の前に立つその男には。


「そいつの名前は?」

「いえ、流石に個人情報なので……」


 そう告げながら、ターニャはキャルグを見た。

 そして、その顔を見て、思わず言葉を詰まらせる。

 まるで巨大な魔物と対峙しているかのようなプレッシャーを感じ、彼女は全身から汗が噴き出すような感覚と共に全身が凍りついて動けなくなったかのような錯覚を覚えた。

 そして、憤怒という表現が生ぬるく見える程の怒りに狂った男の表情を見てガタガタと震えだしたターニャに対し、キャルグは再びゆっくりと口を開き、低く威圧的な声でもう一度同じ質問をした。


「そいつの名前は?」

「…………ハルトさんと名乗っていました」


 怯えきった声で小さく呟いたその名前を聞き、キャルグは小さくそうかとだけ呟いた。

 すると、冒険者ギルドの扉が突然開き、ギルド内がざわついた。


「おい、あいつだよ、ツインヘッドウルフのボスを討伐したって奴らは」


 冒険者達の誰かがそう告げたのを聞いて、キャルグはすぐさま後ろを見た。

 ツインヘッドウルフのボスを倒し、調子に乗っている新参者に、自らの手でお灸を据えてやらねばという目的もあったが、やはり一番は自分の好きな女性を口説いた命知らずに身の程をわきまえさせようという気概からだろう。

 彼の目は鋭く、殺意のこもったものだった。


 だが、その殺気は一瞬で萎縮されてしまうことになる。


 一切服の汚れていない虎の紋様が如き髪色をした青年の背後に立つのは同じ年頃の青年が二人。

 並々ならぬ殺気をまとい、赤黒い斑点で服のあちこちを染め上げた軽装備の二人によって、その場にいた全員が凍りついたかのように動けなくなってしまう。

 だが、ただ一人、二人の前に立つ伊佐敷遥斗(いさしき はると)だけは、キャルグの横を通りすぎ、受付嬢であるターニャの前に立った。

 そして、遥斗は笑みを浮かべながらカウンターに片肘をついた。


「やぁ、ターニャさん。今日も一段と美しいね。この後って時間ある? あるなら一緒に食事でもどう?」


 人並以上に優れた容姿を持つ遥斗に面と向かって美しいと言われ、ターニャの頬が朱色に染まっていく。

 すぐに断らねばとわかっているのに、ターニャはすぐに言葉が出なかった。

 そして、ターニャがしどろもどろとしていると、遥斗の胸倉が突然横から掴まれた。


「おいこら!! 誰の女に手ぇ出してやがる!!」


 キャルグの太い腕が遥斗の胸倉を掴むと、遥斗の笑顔は途端にだるいとでも言いたげなものに変わった。


「きゃ……キャルグさん! ギルド内での暴力行為は禁則事項ですよ!!」


 流石のターニャも突然の事態に困惑している場合ではないと急いで止めるが、キャルグは聞く耳を持たない。


「あのさ~、ターニャさんって彼氏とかいないんじゃなかったっけ? 俺の女って……あんた、ターニャさんのなんな訳?」

「俺はターニャさんの未来の旦那だ!!」

「違いますけど!!?」


 キャルグの暴走に、ターニャは思わずツッコミの声を飛ばす。

 そんなターニャの姿を横目で見て、遥斗は露骨な溜め息を吐いた。


「……違うってよ?」

「違わねぇよ!! ターニャさんは照れてるだけだ!!! てめぇこそ、ツインヘッドウルフのボスを狩った程度で調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」


 キャルグの右腕が勢いよく振るわれる瞬間、予想された凄惨な光景を見たくないが為に、ターニャは両の目を閉じた。

 新進気鋭のBランクパーティ『蒼炎の牙』で前衛として活躍する彼の膂力は彼女もよく知っている。

 だからこそ、『ハルト』という一人の新人冒険者が大怪我を負うことは容易に想像出来た。

 だが、何かが倒れるような大きな音がして目を開けると、そこには一切の傷を負っていない遥斗が立っており、殴りかかったはずのキャルグはその場で白目をむいて倒れていた。


「これだから男って奴は……」


 小さく呟いた遥斗は襟を正すと、再び笑顔になり、ターニャの前で肩肘をついた。


「ごめんね、騒がしくしちゃって。それじゃあ、デートの誘いはまたにして、お仕事の話でもしよっか♪」


 ◆ ◆ ◆


 老若男女、多種多様な人々が行き交う通りを三人の青年は歩く。

 普段ならば特別目を引くようなことはない彼らだが、その服に付いた返り血が、遠目に見る者、すれ違う者、店を開く者全てに畏怖の感情をばら撒いていく。

 その視線が鬱陶しいのか、海原恭弥(かいばら きょうや)は溜め息をつきながら、頭を掻いた。


「まったく……視線がうざったいったらねぇな〜」

「お前らが考え無しに戦うのが悪いんだろ? だから言ったじゃん。着替えなんて買う余裕も無いんだから戦うなって」

「敵に背を向ける行為は武士の恥でござる」


 遥斗が反論すると、それまで黙り続けていた須賀政宗(すが まさむね)が鋭い眼差しでそう告げた。


「時には逃げることも戦略なの。まったく……勝てる勝てないよりもその後のことを考えろって何度言えばわかるんだよ」

「はいはいわかったって。それで? 買い物する予定だったよな? まずは何を買うんだ?」

「……ったく。まずは服を見繕う。それから飯だな。それと香辛料も買おう」

「香辛料?」

「獣肉の特徴は臭みだからな。筋云々は置いておくにしても、臭いと流石の太一も食わねぇだろ?」

「一理あるな」

「だからこそ、香辛料を使う。それでマサムネさ、お前が山で修行をしていた時さ、どんな香辛料を使ってたの?」

「大概のものは焼けば食える。食えぬものは山に返せばそれでいい。美味かどうかなど二の次、食わねば死ぬのであれば、味がどうであろうと食うのみよ」

「…………お前に聞いたのが間違いだったよ」


 あからさまにがっかりされた顔をされれば、流石の政宗も平静ではいられない。


「お主はどうなのだ?」

「僕? 何が?」

「お主は料理が出来るのかと聞いておるのだ」


 ポーカーフェイスではあるものの、機嫌を悪くしたと誰が聞いても明らかにわかる質問で、遥斗は答えに詰まった。

 だが、すぐに何かをひらめいたらしく、笑みを浮かべて政宗の方を向いた。


「僕は料理が上手い人を嫁にするからいいんだよ♪」


 その質問に、政宗は思わずポーカーフェイスが崩れる程つまらなさそうな表情を見せてしまうが、すぐに溜め息をこぼした。


「……お主はそういう奴だったな」

「そういうこと。まぁ、どっちにしたってあっちの知識なんて参考程度にしかならないから別にいいけどね」

「どういうことだ、遥斗?」

「こっちじゃ僕らが知っている食べ物が少ないだろ? 皿洗いを手伝った時に聞いたんだけど、こっちの世界と日本じゃ食生活が違うらしい。主食はパンだけで、麺や米といったものは無いらしいし、肉も牛や豚といった動物がいないから魔物の肉を使うらしい。だから基本的に市場の肉は高いから肉料理なんて殆ど無いんだそうだ」

「それはまた……太一が聞いたらブチギレそうな話だな……」

「確かにそれだけ伝えたら止めるのに一苦労しそうだね。でも、こう考えたらどうだろう? 魔物は森なんかに入れば取り放題。僕らなら金なんてかけなくても腕っぷしだけで簡単に手に入るって訳だ」

「……なるほど。俺と政宗が好きなだけ戦えば肉も手に入るし、強者とやれるしで一石二鳥という訳だな?」

「そういうこと。さっきもらったこの金も皮や牙といった食えない素材を売った金で、残りの肉に関しては後で直接解体屋って所に行くことになってる。だからまずは、どっかで服でも買ってそのきったねぇ服をどうにかしろ」

「汚いは言い過ぎだと思うが、確かに着替えはどうにかしないとな。とはいえ、朝から太一に全部食われたせいで腹減って仕方ねぇし、まずは飯にしね?」

「そんな血塗れな格好で入ったら間違いなく追い出されるわ!」

「……大人しく服を先にするか〜」


 露骨に落ち込んだ様子を見せながらも、己についた血の跡を見て遥斗の言葉に納得した恭弥は、政宗と遥斗と共に、服屋を目指すのであった。 


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 

 ちなみに、ディックさんが落ち込んだのは、舐めきっていた太一君に容易く投げ飛ばされたからです。

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