第4話:盗賊団頭領だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)
前回のあらすじ
シュナの家に突然盗賊が入り込み、シュナを襲うも、寸前に恭弥登場。なんとかシュナの処女は守られたのだった。
視界いっぱいに広がる黒い雲を見て、ヴィズラコンティはふと思った。
(何故俺は倒れているんだ?)
金目のものを奪うべく、ここら一帯で一番大きな家に入ったはずだった。
突然けたたましい音に驚きはしたものの、そこに見つけた極上の獲物を見て、よだれが出たのも覚えている。
途中、邪魔者は入ったものの、全てが順調だった、はずだった。
「いつまでそんなところで寝ているつもりだ?」
自分を見下ろす男の姿を見ても、ヴィズラコンティは全てを理解した。
殴られる直前に聞こえた男の声が、今、自分を見下ろしてきている男の声と合致した。
ゆっくりと体を起こし、その男と対峙する。
不思議なことに、その間、男は殴りかかってこなかった。
「つまらねぇ騎士道精神で見逃したつもりか?」
男は喋らない。
だが、人並み以上の圧を発しながら、そこに立っていた。
(ここらじゃ珍しい黒い髪、長いパンを乗せたような髪型、ジャイアントスネークを蹴り飛ばすパワー……なるほど、こいつが部下達の言ってた女貴族の怪物騎士か)
先日報告を受けた護衛との情報と合致したことで、ヴィズラコンティは極上のステーキを見た時のように愉しそうな笑みを見せた。
「せめて少しは楽しませてくれよ!」
二メートルを超える屈強な肉体での突進、魔物だろうが人間だろうが容易く吹き飛ばすヴィズラコンティ自慢の一撃で、ヴィズラコンティは男を吹き飛ばす予定だった。
しかし、次の瞬間、ヴィズラコンティは辺り一帯に血反吐を撒き散らした。
前進姿勢が思わずのけぞってしまうような威力の一撃が、少なくとも十発は入っていただろう。
ほぼノーモーションな体勢から放たれた目にも止まらぬ早業。
回避することも守ることも許されない必中の連撃。
先程は見下ろしていたはずなのに、ヴィズラコンティはいつの間にか自分が見下される立場に再び戻っていた。
「どうした、早く立てよ」
冷たく淡々とあしらうようなその言葉は、ヴィズラコンティの血管を破裂させた。
「調子に乗ってんじゃねぇぞクソガキがぁあああああ!!!!」
立ち上がり、猪のように突っ込んでくるヴィズラコンティを見て、男は慌てない。
ただ、鋭い眼光を更に鋭くし、重い一撃をヴィズラコンティの鳩尾にぶち込む。
勢いを完全に無くし、血と共に腹の中の汚物をぶちまけそうになるヴィズラコンティ。だが、男の拳はそこで止まらなかった。
飛びそうになった意識がアッパーで再び戻され、直後に放たれた顔面への強烈な一撃が戻ってきた意識を再び闇へと誘った。
◆ ◆ ◆
地面を転がり、起き上がってこなくなったヴィズラコンティを前に、海原恭弥は開いてしまった距離を詰め、ヴィズラコンティの体を蹴った。
だが、ヴィズラコンティから反応は帰ってこなかった。
「おい……まさか気絶したら終わってもらえると思ってんのか?」
いつもであれば、闘争の意思を持たなくなった時点で恭弥は興味を無くし、それ以上の攻撃を行わない。
だが、ここに来るまでに見た村の様子や、知り合いの悲惨な状態が、恭弥の手を止めさせなかった。
「鎧武装」
怒りに満ちた恭弥の言葉。その言葉が引き金となり、恭弥の体が光の粒子に包まれていく。
そして、恭弥はヴィズラコンティの体を掴み、砲丸投げの要領で真上へと飛ばした。
遥か上空へと上がったヴィズラコンティを見て、恭弥は構えをとる。
怒りを力に換えた全身全霊の一撃。
「最強右スト――」
拳を放とうとした瞬間、恭弥の怒りで鋭くなっていた目が突然開き、恭弥は股を限界まで広げて、体を極限まで低くした。
何故自分がそうしたのかは恭弥自身もよくわかっていなかった。ただ、このまま拳を放てば、自分が死ぬと確信してしまう程の殺気を突然、後ろから感じ取っただけだった。だが、咄嗟の反応だったその行動が正解だったことを恭弥はすぐに知ることになる。
無意識のうちに体をかがめた次の瞬間、前方約五十メートルに立つ古い家が奇妙な音を立て始めた。まるで見えない刃に斬られたかのように、その家の壁には細長い亀裂が走り、それは徐々に広がっていった。
その家は一瞬の間に崩壊を迎えた。高く積み上げられた瓦と木材が一つの労働が果てる音を立て、空気中にはほこりが舞い上がった。音は雷鳴のように轟き、恭弥の耳元で反響する。地面は振動し、恭弥の体にその揺れが伝わって来た。
恭弥はゆっくりと立ち上がり、目の前の光景を黙って見つめた。
落ちてきて、倒れたまま意識を失っているヴィズラコンティの姿など、既に視界に入っていなかった。
恭弥の目が向いた先に、一人の男が立っていた。
整えられていない髪と無精髭が特徴的で、堂々と大きな欠伸をする男だったが、恭弥の警戒は解けない。
ポリポリと首元をかきながら、無精髭の男が恭弥に向かって尋ねる。
「その辺で勘弁してやってくれねぇかなぁ、あんちゃん?」
無精髭の男の言葉に苛立ち、言葉を返そうとする恭弥だったが、すぐに苛立たしげに舌打ちをした。
(今のおっさんの斬撃、この筋肉ダルマが当たらないうえに、俺が避けられない絶妙なタイミングだった。鎧武装で身体能力が上がってなかったら、間違いなく今ので死んでただろうな。そんな奴が近くにいる状況でこの筋肉ダルマを殺すだけならまぁ簡単だが、俺の気が晴れねぇしな。だからといって、あのおっさんから目を離しながら筋肉ダルマを殴り続けると、いつさっきの斬撃が飛んでくるかわからねぇ。……最悪だな)
歯を噛み締め、恭弥は結論を出した。
「しゃあねぇ。おっさんをぶっ飛ばしてからこの筋肉ダルマをしばくとするわ」
「ははっ、そいつは楽しみだねぇ」
それが第二ラウンドの合図となった。
◆ ◆ ◆
先に動いたのは恭弥だった。
得意の瞬発力を活かし、一気に距離を詰めた恭弥。
だが、殴れる距離につく直前、無精髭の男から醸し出される雰囲気が先程とは比べ物にならない圧に変わった。
「まだ死んでくれるなよ、あんちゃん」
その言葉と同時に放たれる一閃。
その一撃をバックステップでは避けきれないと即時に判断した恭弥は、男の一撃をバク転で回避した。
(政宗の居合とは違う感じだな。少し速いが政宗の居合程避けにくくはねぇな。ただ、居合じゃねぇにもかかわらず、この威力と剣速、荒いように見えて、ちゃんと剣技だな)
二の手三の手が来るも、回避に専念した恭弥にとって回避は余裕だった。
しかし、剣を右手で振り下ろしたかと思えば、持ち手を左手に変え、即座に振り上げるというトリックプレーや、右手で振ったかと思えば、右手に剣はなく、即座に左手で振るというフェイントを出される為、攻撃への転換が異様に難しいものとなっていた。
「遊んでんのか?」
「本気を出してすぐに死なれてもつまらんからね。俺はステーキはゆっくりと味わって食べるタイプなんだ」
「そうかい、俺は食事に時間はかけないタイプなんだ、よ!」
踏み込む恭弥。だが、無精髭の男に焦りの色は見えない。それどころか少し楽しげに剣を横に振った。
蹴りだろうと武器だろうと、なにが来ても問題無いと思っていた。
拳だけで戦うスタイルは魅力的だが、そういう男程、いざという時に暗器を使うだろう、と。
無精髭の男は考えられる全ての攻撃を想定して、剣を振るっていた。
だが、冷静だったのはその一瞬だけだった。
恭弥は何故か男の剣を避けようともしなかった。
(まさか相討ち狙いか?)
そう思った時には時既に遅く、無精髭の男が放った一撃は、恭弥の首を斬り裂く。……はずだった。
「…………は?」
剣が鉄に弾かれたような甲高い音がした。
しかし、無精髭の男は目を瞑ってはいない。だから、剣を弾いたのが金属ではないことは一目瞭然だった。
何故なら恭弥は何もつけていない右手首だけで男の剣を弾いたのだから。
普通剣の切っ先と腕がぶつかればどうなるかなど、子どもでもすぐにわかる。
良くて血まみれ。最悪切断で剣が圧倒的に有利だったはずだ。だが、どういう訳か、恭弥の腕に赤色は少しも存在しなかった。
「音速パンチ」
恭弥が放った言葉を聞いて、ようやく現実へと戻ってきた男だったが、時既に遅し。
目にも止まらぬ恭弥の左拳が男の鳩尾を捉える。
それは踏ん張ることすら許さぬ無慈悲な一撃で、無精髭の男は後方百メートル先の地面に転がる結末となった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
恭弥が強すぎて雑魚じゃない幹部出したのに瞬殺しちゃった件について。正直、想定よりも瞬殺で「あれ? この敵、タフさがメインなんだけど……瞬殺マ?」ってなってました。




