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第3話:盗賊団だろうがなんだろうがかかってこいや!!(4)

 前回のあらすじ。

 修と政宗コンビの前に現れたのは盗賊団ティアフランマの幹部でもある惨殺魔と呼ばれる仮面の男だった。

 仮面の男は政宗とガンツを隔離し、修と一対一を測る。修もそれを受けて立つが敵の策略にはまり、大怪我を負ってしまった。


 治癒魔法は苦手な方だ。

 だが、数え切れない怪我人達の前で、そんな弱音は吐けなかった。

 ソフィア・ベルド・ファルマイベスは世界屈指の大国であるファルベレッザ王国の第三王女として幼少期からあらゆる英才教育を受けてきた。

 魔族達が住む魔大陸と海を挟んだ場所にあるファルベレッザ王国において、魔法や剣の教育は必須事項。ましてや、魔法の才能が高かったソフィアは他の姉弟達と違い、剣技以外にもあらゆる魔法も学んできた。

 その中には、当然治癒魔法も存在する。


「これで……もう大丈夫ですね」


 リーシェの怪我を治療し、ソフィアはほっと胸を撫で下ろす。

 村人達の中には生死に関わる大怪我が多く、その怪我の治療行為が最優先だった。叩かれ、涙を流す少女の怪我を見て、真っ先に治したかったが、貴重な魔力を無駄遣いできないと、拳を握ることしかできなかった。

 だが、ありがとうお姉さんと笑顔で言ってくれた少女を見て、心の底から笑顔を浮かべることが出来た。

 治癒魔法を学んで良かった、と。


「おいあんた、もう休んでくれ」


 後ろから声をかけられ、ソフィアは中腰のまま後ろを向いた。

 そこには最初の方に治した右腕を骨折した男が心配そうな眼差しで立っていた。

 彼は幼い息子や奥さんを守るべく立ち向かった男だと、ソフィアも記憶している。

 先程もこうして声をかけてきたが、リーシェだけは治療したいと我を通して彼の提案を蹴った。だが、改めて自分の調子を見れば、慣れない治癒魔法の行使で魔力はほとんど枯渇しており、疲労もかなり溜まっていた。

 周りを見れば、動ける人間が怪我人を簡易的に治療している行為が見られた。それらは全て、ソフィアの負担を少しでも減らそうと村人達が自発的に動いた結果である。


(これ以上断るのは無粋ですね)


 周囲の光景を見てそう感じたソフィアは、村人の提案を受け入れ、近くの岩に座った。

 次の瞬間、ソフィアの耳に聞き慣れない甲高い音が聞こえた。笛の音よりも高い音でソフィアは何事かと立ち上がる。

 周囲の村人達も何事かと辺りを探すが、音の発生源は見つけられなかった。


(何の音でしょうか? そういえばキョウヤさんが甲高い音がどうのって言っていましたね。今の音でしょうか?)


 鳴っていた時間はほんの十秒程度。

 ただ、音を聞く限り、近辺よりも遠くの方で鳴っている印象を受けた。

 だが、その音を確認しに行ける程、ソフィアの体調は万全ではない。

 慣れない治癒魔法の連続使用、足に疲れは溜まり、思っていた以上に自分が疲労していたのだとわかる。


(……こんなことになるなら、もっと治癒魔法を真剣に学ぶべきでしたね)


 あらかたの治療を終えたが、満足いく結果になったかといえば、そうではなかった。

 治癒魔法は万能ではない。

 何事にも取捨選択というものはある。

 出血の量から、絶対に治せない人間もいた。魔力の大半を使えば、低い確率で命を取り留められたであろう人間もいた。だが、その人達を助けるには、あまりにも怪我人が多過ぎた。

 何も出来ない自分が情けなくなって、ごめんなさいと謝ることしかできなかった。家族から怒鳴られる覚悟もした。だが、ここの村人達は誰一人としてソフィアを責めなかった。

 そんな彼らの為にも、一人でも多くの人間を助けようと頑張った。

 この場で生きている村人達は、百人弱。

 その中で子どもは一割、老人が三割といったところだ。だが、少なくとも彼らの倍近くの人間が命を落としている。

 ファクトリ村の人口は多く、ここにいる村人達は全体の十分の一にも満たない。数年前にマーリンが能力で作った避難施設に逃げ込んでくれていれば生存の確率は高いだろうが、それは希望的観測にすぎない。

 今回の襲撃、ステラバルダーナの面々が圧倒して見せたとはいえ、一人一人がファルベレッザ王国の騎士と遜色ない実力をしていた。

 ただの寄せ集めではなく鍛え抜かれた男達。

 そんな者達が村人を虐殺し金品を奪っている。

 村の奥の被害はここの比にならないだろうなと、ソフィアは遠い空を見た。


(今から向かえば一人でも多くの人が救えるかも……)


 チラリとソフィアは山川太一(やまかわ たいち)の方を見た。

 寝転がる太一の大きなお腹の上で飛び跳ねる子ども達の楽しそうな姿が映る。

 彼の実力はダンジョンで見た為、その実力に不安は無い。

 彼だけでも充分にこの場所は守れるはずだと確信が持てた。

 近くに置いていたレイピアを手に取り、ソフィアは疲労で動こうとしない足に鞭を打って立ち上がる。


「どうしたんだ?」


 村の男が不安げな眼差しで聞いてくる。


「私も村人の捜索に向かいます」

「まだ盗賊連中がいるんだぞ?」

「問題ありません。こう見えても母国では騎士団の副騎士団長を務めていた身。魔力が無くとも盗賊程度に遅れはとりません」

「そうは言うが……あんた、治癒魔法で魔力が」


 男の言う通り、休憩したとはいえ、魔力は半分にも満たない状態だった。しかし、こんな状況下でそんな弱音を吐くことは、彼女のプライドが許さなかった。


「問題ありません」


 止める男の言葉を聞かず、前に歩みを進めようとした瞬間、ソフィアの足が突然止まる。

 一秒、二秒と時間が過ぎても彼女の足は動かない。

 そして、ソフィアの目が鋭く細くなっていく。


「勘違い……ではないようですね?」


 ズシン、ズシンと大地を揺らす音が響く。

 そして、瓦礫になりそこねた家の影から、獣の低い唸り声が響く。

 そして、ゆっくりとその獣は姿を現した。

 堀の深い男のような顔立ちでありながら、それは明らかに人では無かった。

 一際大きな一階建ての家と同等の大きさで、黒艶のある立派な鬣を持つ黒き獅子が、その姿をソフィア達の前に現し、村人達を恐怖のどん底に突き落とした。


「初めて見る魔物ですね。あれはここらに住む魔物ですか?」

「ま……マンティコアだ。ここらにはいないはずなのになんで……」

「マンティコア、確かものによってはSランクにも認定されるギルドが特別危険指定している魔物でしたね。人間のような顔が特徴と聞きましたが、確かに言われてみれば男の顔のようにも見えますね。ですが、その生息地は広大な荒れた大地と聞きます。そんな魔物が何故ここに?」


 腑に落ちない点はあったが、マンティコアは人間を食べることで有名な肉食の魔物だった為、ソフィアは疑問を横に置き、ゆっくりとレイピアを構えた。

 冷や汗がゆっくりと額から落ちていく。

 自分一人で勝てるか不安ではあったが、ここで村人達を置いて逃げるという選択肢は彼女には無かった。

 そして、マンティコアと目があう。

 マンティコアの目はソフィアを見つけた瞬間、その目をソフィアに固定した。

 そして、一瞬にも永遠にも感じられる間の直後、事態は動いた。

 マンティコアが走り出す。

 距離は百メートル程。巨体を揺らし、獲物(ソフィア)へと飛びかからんと、走り寄って来た。

 それはソフィアの予想よりも速く、魔法の詠唱を行うのはとても間に合わなかった。

 死んだ。ソフィアがそう思った時だった。


「今日のごは〜ん!!」


 突然、マンティコアの巨体が横からの衝撃で吹き飛ばされてしまった。

 何が起こったのか理解できないソフィア。

 そんな彼女の前に、一人の男が現れる。

 その口元はよだれでびしょびしょだった。


「ごはん〜♪ ごはん〜♪ ねぇねぇあれ食べていいよね~?」


 呑気な笑顔で聞いてくる太一を見て、ソフィアは開いた口が塞がらなかった。


「あ……あれを食べるんですか?」

「うん!」


 屈託のない笑みで迷いなくそう答えられ、返答に悩むソフィア。


「ご……ご自由に?」


 戸惑いの隠しきれないぎこちない笑顔で許可を出すと、太一はやったー、と嬉しそうにマンティコアへと向かっていった。

 あんなの食べるんだとドン引きした眼差しをソフィアが太一に向けていると、突然、女性の声が辺りに響き渡った。


「あたしのティコアちゃんに近づかないで!」


 鞭のしなるような音が響き、鞭の先が太一の伸ばした手を叩く。

 それは緊張感の薄れていたソフィアの目を覚ますような一発で、ソフィアはすぐに声のした方を見た。

 そこには、露骨なまでに布面積の少ない服を着た黒髪の気が強そうな女性が立っていた。


「まったく、ティコアちゃんを殴り飛ばすなんてどんな怪力よ。ほらいつまでも寝てないであなたも起きなさい!」


 黒髪の女性はマンティコアに近づくと何度も鞭で叩く。

 本来であればその危険性からソフィアも止めるが、ソフィアの目は警戒を強めていた。


「貴女は盗賊団の一人、魔物使いのシャティですね?」


 ソフィアの凛とした声で、シャティの手が止まる。そして、口角を上げ、ゆっくりと振り返った。


「あたしのことを貴族様が知ってくれてるなんて光栄だね〜。そう、あたしはシャティ・ローズ。世界でただ一人の肉食の魔物を操れる魔物使いだよ」


 世界でただ一人というシャティの言葉をソフィアは大言壮語と思わなかった。

 肉食の魔物を操るという情報を見た時、信じられなくてギルドの職員に聞いた程だ。大国の王女としてあらゆる魔法を学び、歴史を学んできた。そんなソフィアが未知だと感じるほど、シャティは異質だった。

 せいぜいが小型の魔物を操る程度だと想定していたが、マンティコアレベルの魔物を操る実力者だとは思っていなかった。

 ソフィアはゆっくりとレイピアの切っ先をシャティに向ける。

 その瞬間、シャティが首を傾げる。


「ねぇねぇ、貴族様ってお金持ちなんだよね? なんでお供がこんなおでぶちゃん一人だけなの?」

「なんの話でしょう?」

「だってこんな危険しかないような辺境の村に護衛がたったの四人ってありえなくない? 一番守らなくちゃいけない人を放っておいて他の人を助けに行くなんてあり得ないじゃん。さっさと近くの安全な街に行くと思って待ち伏せしてたのに時間無駄にしちゃったじゃん!」

「……貴女の言っている言葉の意味が微塵も理解できません。一月とはいえ、お世話になった村の人間が困っているというのに、逃げ出すなんて馬鹿な真似、騎士としてするはずないでしょう」

「…………騎士? 貴族じゃなくて?」


 予想外の言葉に驚くシャティに、ソフィアは頷くだけで肯定の意思をみせた見せた。

 王女の為、貴族以上ではあるのだが、それを説明する義理は彼女にない。


「……な〜んだ。だったら殺しちゃうか。男連中はうるさそうだけど、別にいいよね?」


 シャティの声に応じるかの如く、先程までダウンしていたマンティコアがゆっくりと立ち上がる。


(マンティコアは厄介ですが、タイチさんがいればなんとか……)


 シャティがニヤリと笑う。


「ティコアちゃんだけならなんとかいける。そんな顔をしてるね?」

「ソフィア様あぶねぇ!!」


 次の瞬間、突然視界外から手刀が振り下ろされた。

 それはあまりにも唐突で、予想外な場所からの攻撃だったが、村人からの声で偶然にも回避することが出来た。

 そう、声さえなければ、今の一撃で終わっていた。それほどまでに、予想外な場所からの攻撃だった。


「……タイチさん?」


 手刀をソフィアに放った相手、それは味方であるはずの山川太一だった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


 太一がいると途端にギャグ回になるのなんでだろ?

 まさか男の顔した巨大な黒獅子食べようとするとは思わなんだ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル


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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! ソフィア嬢、頑張った!!( ー̀ωー́)゛ウンウン 全てを救うのは不可能だったとしても! 太一は緊迫した場面でもマイペースで安心するw そこに現れたのはマン…
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