第3話:盗賊団だろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)
前回のあらすじ。
アルフィー達を助けた恭弥達だったが、村にはまだ避難できていない者や盗賊達が多くいるという情報を得た。
そこで恭弥達は恭弥と遥斗、修と政宗、太一とソフィアの3チームに別れ、捜索と救助に分かれた。
「おいおっさん、生きてるか〜?」
ペシペシと頬を軽く叩かれ、ガンツはゆっくりとその重いまぶたを上げた。
先程まで自分を蹴っていた男達の姿はなく、目の前にはしゃがんでこちらを見る雷堂修がいた。
近くを見渡せば、血まみれになった盗賊達を縄で縛る須賀政宗の姿があり、ガンツは事の顛末をすぐに理解した。
「すまんな。工房を守りれんかった……」
その目から滲みでた悔しさを前にして、修は何も言えなかった。
自分の家を壊されたにもかかわらず、最初に出てきた謝罪の言葉。
心を煮え滾らせる怒りの炎を抑え、修はガンツの肩を叩く。
「工房や武器はまた造りゃいいだろ。おっさんが生きてんだからなんとかなるって」
「すまんな……」
再度出る謝罪の言葉。
普段は看板の文字を書き換えた時や、勝手に工房の道具を使った時にうるさいくらい怒鳴るというのに、今のガンツはまるで別人のようだった。
武器の造り方などわからない修に怒鳴りながらも懇切丁寧に教えてくれたガンツ。
造られた武器は多く、そのどれもが大切にされているんだなとわかる程大切に手入れされていた。
だが、その全てが今は瓦礫の下となってしまった。
「……いっそ全員殺しとくか」
ボソリと出た修の本音。
その言葉は政宗にも聞こえていたが、政宗はあえて反応を返さなかった。
真剣を握っている以上、人を殺すことに躊躇いはあれど、それ自体を悪と断じるつもりは無い。
現に自分が今縛っている人間達を殺したところで、自分はなんとも思わないだろう。
ただ、修はこれまで半殺しにしたことは幾度もあれど、殺したことは無い。少なくとも政宗の前ではなかった。
人を殺したことがあるのと無いのとでは、人間として大きな壁がある。ただでさえサイコ気質な暴走をする修が、人を殺した時、それに快感を覚える可能性が無いとは言い切れない。
だからこそ、怒りのまま、冷静に殺すことができないのであれば、全力で止めるつもりだった。
その為に、刀の柄に手を伸ばしていた。
決して、後ろから迫っていた相手に気付いて伸ばしていた訳ではなかった。
「ぐっ!?」
刀とナイフがぶつかる甲高い音が辺りに響きわたった。突然現れた殺気に寸前まで気付けず、政宗の瞳孔は大きく開き、その表情に焦りを浮かべていた。
直前に刀の柄に手をかけていなければ間違いなく首を斬られていただろう。
「やるね~あんさん、今のを防ぐやなんて」
「油断……してはおらんかったのだがな……」
立っていた仮面の男を見て、刀を再び鞘に納め、臨戦体勢をとる政宗。
そんな政宗の前に、見覚えのあるブレスレットが飛び込んできた。
それを見た政宗は再びバックステップを取るが、相手の男は疑問符を浮かべたような表情で銀色のブレスレットを眺めるだけ。
直後、ブレスレットが光に包まれ、大爆発を起こした。
「修殿!」
怒号を飛ばすが、ブレスレットを投げた張本人は一切の悪びれもない。
「武器もまともに手入れできないようなポンコツは下がってなよ。こいつは俺っちの獲物だ」
修の言葉に歯を軋らせるが、武器が万全ではないのも事実であった為、政宗は大人しく構えを解いた。
「これで貸し借りは無しでござるよ」
「もちろん」
政宗は修に激励をかけることなく、彼の横を通り過ぎ、負傷しているガンツの元へと向かった。
そんな中、修の鋭い目は先程の仮面の男がいた場所から動いていない。
黒い爆煙で姿は見えないものの、あの程度で倒せたとは修も思っていない。
「お前、遥斗君が言ってた惨殺魔って呼ばれる手配犯なんだろ?」
煙は薄くなっていく。だが、そこに先程の男の姿はなかった。
次の瞬間、修の斜め上後方で修のスパナとナイフがカチンと冷たい音を鳴らす。
「背後からとかありきたりだね〜」
直後、修の手に握られた拳銃が仮面男の目に映る。
発射される釘を二本のナイフで叩き落としながら後ろに下がる仮面男。
「やるね~。ほんじゃ次行ってみよ〜」
「……手品師のような男やわ〜」
修がいつの間にか持っていたサブマシンガン型の改造釘打機を見て、そんな感想を述べる仮面男。
そして、先程までとは比にならない量の釘が仮面男に迫る。
だが、仮面男はそれを見ても焦った様子を見せず、手を地面につけた。
次の瞬間、地面から巨大な土の盾が現れ、全ての釘を受け止めてしまった。
「魔法か?」
「個有能力だよ」
突然背後から声が聞こえて反応するが、サブマシンガン型の改造釘打機を持っていた修には、一本目の一撃を防ぐことはできなかった。
「チィッ」
なんとか反応速度だけで腕を浅く斬られる程度に留めたが、仮面男の攻撃はこれで終わらなかった。
右手のナイフを抉るように修の横っ腹目掛けて、差し込む。だが、修は改造釘打機を盾にして、その攻撃を防ぐ。
防ぐとほぼ同時に修は仮面男に蹴りを入れようとするが、仮面男は大きく後ろに跳んでそれをかわした。
「ま〜じか。今の避けるん? ばかほど反応速いやん」
「おいおいふざけてんのか? さっきまであんな遠くにいたのに一瞬で後ろに現れやがった。恭弥君も絶好調になると見るのでやっとの速さで動くけど、それだって予備動作があったり、過程は最低限見れるもの……瞬間移動ってやつ? まじ勘弁してくれ」
腕にたいした痛みはないが、それよりも動揺の方が大きかった。
修は仮面男のことを軽視していない。
気配に敏感な政宗ですら背後を取られ、斬られかけた。
そんな男から視線を外すなど自殺行為に他ならない。だからこそ、相手が出した土壁に全神経を集中させていた。
それにもかかわらず、不覚にも背後を取られている。
修のスイッチは完全に入っていた。
「政宗君、確か前に政宗君が戦った奴も瞬間移動系だったんだよね?」
「そうでござるな」
「どんな感じだったん?」
「よくはわからぬが、遥斗殿が言うには拙者が消えた際、拙者のいたところに椅子があったらしく、純粋な瞬間移動ではなく物と物を入れ替える能力なのではないかとのことでござるよ」
「なるほどね。確かフェンネルが使ってた個有能力は、目印に向かって人を飛ばす感じだったな。政宗君にはどう見えた?」
「少なくとも先程修殿が斬られた時は、背後には何もなかったでござるよ」
「ってことはこの仮面野郎はおっさん系ってことね。でも、確かユニークスキルに似た能力はあれど、同じ能力は存在しなかったはず。つまり――」
「「瞬間移動を模した別の能力」」
修と政宗の結論は同じで、その目は確信を持っていた。
「多分前に俺っちが戦った影を使う奴と一緒なんだろうね。あいつも影を使って動いてたし」
「では地面の中を潜って移動したと?」
「その可能性は高いかも」
修と政宗の結論は未だに出ないが、仮面男は何故か動こうとしない。
それが修には不自然に思えてならなかった。
(……な〜んかやだな、あの余裕。うちの組にもいたんだよな〜。相手に考えさせてニコニコする奴。そういう奴は大抵、二手三手見せて、相手がこれだと思ってきた瞬間、その前提を覆して混乱しているところに追い打ちをかけてた。多分この仮面野郎はそういう系な気がする)
修の訝しむような目が、仮面男に笑みを浮かばせる。
「話はもう終わったん? それならうちの部下の仇討ちといきましょか」
次の瞬間、仮面男が修の前から姿を消した。それはまるで地面へと吸い込まれるような動きだった。
「修殿!」
政宗が叫ぶと同時に、政宗の足元から地面が競り上がり、政宗とガンツのいた場所に正方形の土壁が出現した。
「分断か」
いつもの政宗だったら避けれただろう。だが、そうしなかったのは傍で動けないガンツを孤立させない為だった。その意思は政宗の目を見て修もすぐに理解できていた。
だからこそ、修に焦りはない。
持っていた改造釘打機を下に向け、警戒を強めた。
そんな修を上から眺める黒い影。
「地面に全神経を向ける……そう思った?」
修の手から改造釘打機が消える。そして、それと同時に出てくる長尺のハンマー。
「世界の果てまで吹っ飛べ! 爆裂ハンマー!!」
静寂を破り、空気を切り裂く一つの爆裂音が響き渡った。空から舞い降りた黒い影を、修が握る重厚なハンマーが一閃。瞬間、ハンマーが一振りされると共に、影は音と共に塵へと還った。それはまるで、時を止めるかのような一瞬であり、その場の空気さえもが凍りつくような、圧倒的な力の見せ場であった。
「思考誘導丸わかりなんだよっ、バカが!!」
「そやったん? ほな考え足りんとちゃうん?」
グサリと横腹につき刺さるナイフ。
それはいつの間にか横に立っていた仮面の男から修への、プレゼントであった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
絶対欲しくないプレゼントNo.1




