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第2話:炎の剣士だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)

 前回のあらすじ。

 エンラが出した炎の剣士と戦うことになった恭弥達。

 先んじて動いた修が仕掛けるも、その攻撃は全て通用せず、修は武器を無駄に消耗すると考え、戦闘を政宗に譲った。

 そして、政宗は放つ。

 全身全霊の一太刀を。


 目の前で起こった現実を前にし、須賀政宗(すが まさむね)の目は驚きで大きく見開いていた。

 反応することすら不可能。

 不可視とも言われた神速の居合い。

 一切の加減は無く、全身全霊の力で放った。

 それをあっさりと受け止められたことに、動揺するなという方が無理である。

 本来、七天抜刀流に二手目は存在しない。

 回避不可能であり、一撃必殺の攻撃。二手目を打つ前に相手が倒れているのが、七天抜刀流の技だ。

 それ故にあり得ない状況。

 混乱する政宗は、とりあえずの仕切り直しを図り、炎の剣士と距離を取ろうとした。

 そんな政宗の耳に届く、炎の精霊エンラの凛とした声。


「焔龍」


 炎の剣士が上段の構えを取る。

 政宗の身体能力は高く、動揺したとはいえ、既に彼我の距離は十メートルを超えていた。

 どんな攻撃が来ようと対応できると、政宗は確信していた。

 炎の剣士の刀に炎が宿る。

 刹那、政宗の視界が埋め尽くされる程の炎が目の前に迫ってきていた。


「速い。だが、対応できぬ速さではない」


 政宗の目に冷静さが戻る。


(七天抜刀流が通じない時、それ即ち己の未熟が故)


 家訓の言葉を己に言い聞かせ、刀を持つ手に力を込める。

 甲高い音が、刀の交錯を知らせる。

 四方八方から近付いてるくる炎の中に紛れた刀。

 寸でのところでなんとか気付くも、不思議と避けるよりも刀が先に出た政宗。

 それはただの直感だった。

 この技は避けてはならないと、自身の経験がそう訴えてきた。

 その一撃はまるで突っ込んでくる車を受け止めているかの如く重く、受け止めた政宗の表情に苦悶の色が映る。

 だが、焔龍はそれで終わる攻撃ではなかった。

 刀が引かれ、再び炎の龍が政宗を襲う。


(あの一撃をまた……これでは刀が保たぬ) 


 咄嗟にそう判断した政宗は、自身の中で響く警鐘を無視し、その攻撃をバックステップで避けた。

 次の瞬間、避けられた炎の龍が先程よりも速く迫ってきた。

 想定よりも速く迫ってきたことで、政宗は仕方なしと刀でそれを受け止めようとした。

 だが、受け止めた瞬間、体が潰されかねない程の重さに、政宗は声を発することすらできなくなってしまっていた。


「さっきより速いな。回避されたことで速くなってんのか?」

「違うわ。速く、そして重くなるのよ」 


 戦況を見て分析していた海原恭弥(かいばら きょうや)に、エンラはそう答えた。


「焔龍は攻撃を避けられる度にその勢いを利用して速さと威力が倍になっていくの。受け止めればリセットはされるけど、しげるがやめるか魔力が無くならない限り続くの。まぁ、あれはしげるの力を宿した炎だから意思はないけど、降参して帰るってんなら、彼の命は保証してあげるわよ?」

「冗談だろ? 男の勝負を外が止めるのは無粋ってやつだろ?」

「……いいの? 本当に死んじゃうわよ?」

「問題ねぇよ。それに万が一刀の勝負(これ)で死ぬってんなら政宗も本望だろう」

「そう……やっぱりあなた達も()()なのね」


 エンラの意味深な言葉に眉をひそめる恭弥。

 その他大勢と一緒くたにしたような発言は不快であると同時に不可解だった。

 だが、エンラの雰囲気から察するに、彼女は恭弥の言葉でがっかりしたようで、何が引っかかったのかまでは恭弥にもわからなかった。ただ、一つ言えることは、エンラが完全にこちらに興味を失ったことだけだった。

 そんな二人のやり取りの一方で、迫りくる炎の龍を紙一重でさばいていく政宗。回避が有効でないとわかってからはあえて刀でダメージを最小限に抑えて戦っているが、攻撃に転じる余裕までは政宗にもなかった。


(人間であれば体力がある以上、何度も放てば威力は落ち、隙も生まれるのでござるが、このしげるという名の剣士は、まったく衰えぬ威力と変わらぬ速さで攻撃を打ち込んでくる。このまま受けていてはよくないでござるな……)


 状況は劣勢。体力が無い者とある者、このままでは先に倒れるのは間違いなく政宗だった。

 迫る炎の龍を受け流し、政宗は大きく息を吐いた。


「まだ未完成……しかし、試さねば拙者は死ぬ……」


 かつてないピンチだというのに、不思議と笑っている自分がいた。

 そして、炎の龍が政宗を襲う。

 刀と刀の交錯音が鳴り響き、政宗の体がその威力で大きく押され、政宗と炎の剣士との間に十メートル程の空間が出来た。一見、吹っ飛ばされたようにも見えたが、政宗は体勢を崩してはいない。


「うまいね。相手の力を利用して距離を取った。でも、すぐにその距離は縮まるよ」


 遥斗が褒める。だが、政宗も遥斗の言っていることはよく理解していた。

 だからこそ、この千載一遇のタイミングで仕掛けると、決めていた。


「七天抜刀流、霧天の型……」


 政宗は構えを取り、イメージする。

 七天抜刀流の中でも最も不可能と言われ、使えた者など誰一人としていなかった机上の空論と化した技。

 人の視覚を狂わせ、死へと導くあの濃霧のように、敵を欺くイメージ。


幻霧双閃(げんむそうせん)


 炎の龍が政宗へと向かう。

 だが、政宗は納刀した状態から動こうとしない。

 攻撃が迫っているにもかかわらず、その足は、手は、微塵も動こうとはしなかった。

 そして、政宗は恭弥達が見ている前で、炎の龍に飲まれてしまった。

 どこからどう見ても直撃だった。

 エンラも炎の剣士が勝ったことを確信している表情だった。


「ふふん、やっぱりしげるとアタシのコンビが最強なのよ!」


 それは嬉しそうでありながらどこか哀しげな表情だった。

 だが、エンラが喜んだ直後、炎の剣士の体がクロス十字に斬られた。

 それはあまりにも唐突で、炎の剣士自身も防御が間に合わない様子だった。

 そして、炎の剣士が膝をついたことで、納刀した政宗の姿が全員の視界に映る。


「嘘……嘘よ!」


 まるで信じられないものを目撃したかのように、エンラが叫ぶ。だが、彼女の願い届かず、炎の剣士は動かない。


「おつおつ~」


 そんな呑気な言葉をかけながら、雷堂修(らいどう しゅう)を始めとした面々が、戦いを終えた政宗の元へと歩いていく。


「やるじゃん政宗君。最後のあれなに? 日本でも見せたことなかったよね。確か幻霧双閃(げんむそうせん)だっけ?」

「うむ。『七天抜刀流、霧天の型、幻霧双閃(げんむそうせん)』でござる。拙者も練習はしていたが、そのあまりにも不可能とされた条件のせいで困難とされていた技でな。攻撃を受ける直前まで避けると悟らせず、そして、一瞬で斬る。言葉では簡単ではござるが、回避の見極め、目にも止まらぬ速さでの移動、そして、気付く間もない抜刀からの移動、全ての動作を完璧にこなせねば失敗する技でござるが、拙者も鎧武装(がいむそう)を教えてもらっていなければ使え……なかっ……」


 急にふらりとよろめき、まるで糸が切れたかのように倒れ込んできた政宗を、修はなんとか受け止めた。


「すまぬ……」

「いいっていいって。俺っちが押し付けたようなもんだし。肩くらい貸すよ」


 そう言いながら政宗に肩を貸す修。

 そんな修と政宗の前に、怒りを露わにしたエンラが立っていた。


「……認めない……」

「エンラ!」


 頑なに認めようとしないエンラにマーリンは声を荒げる。

 しかし、エンラは意固地になった子どものように、目に涙を溜め、頬を膨らませる。


「アタシは認めない。しげる! こいつらをやっちゃって!」


 エンラの泣き叫ぶ声に恭弥は顔をしかめ、炎の剣士の方を向いた。

 炎の剣士の体についた斬られた傷は回復しており、既に万全の体勢だった。


「あれをもろに食らって無傷か。思っていた以上に厄介(おもしろそう)な相手だな」


 恭弥は笑い、構えを取る。

 だが、すぐに違和感に気付き、その拳を下ろした。


「やる気あんのかてめぇ」


 炎の剣士は構えない。

 それどころか、敵意すら感じさせない状態で、恭弥を苛立たせた。そして、炎の剣士はいきなり正座をすると、刀を差した鞘を腰から取り、地面に置いた。


「まるでマサムネみたいだな。負けたから潔く敗北を受け入れるって感じかな?」

「俺は第二ラウンド大歓迎だけどな」

「なんでよ!」


 恭弥と遥斗が笑っていると、突然エンラが叫び出した。


「一生アタシと一緒にいるって約束したじゃない……ここで……あなたもアタシに行けって言うの?」 


 エンラの涙がこぼれ落ちていく。


「アタシは嫌だよ……もうあんな思いをするのは……」


 エンラは涙する。

 その時だった。突然、まるで何かに気付いたかのように彼女は顔を上げた。だが、向いた先は恭弥達の方ではなく、天井だった。

 何事かと思った恭弥も天井を見るが、そこには何もない。


「マーリン……このダンジョンの外ってもしかしてファクトリ村?」

「そうだけど、それがどうかしたの?」


 先程までとは違うエンラの雰囲気に、マーリンの表情が不安げになる。


「燃えてる……」

「燃えてるって、料理の火って訳じゃないよね?」

「そんなちっちゃなものじゃない。もっと大きくて、多い……」


 エンラがどうしてそう思ったのかはわからない。

 だが、不思議と彼女の言葉が嘘ではないと、恭弥は確信を持った。


「マーリン、俺達をすぐに外に出せ」

「外にって、また再スタートになっちゃうよ? エンラと契約してからの方がいいんじゃないの?」

「村が火事かもしれないんだろ? そんなのどうだっていいだろ」


 恭弥の言葉に呆気にとられるが、すぐにマーリンはニヤリと笑った。


「わたしのところに来たのが君達で良かったよ。わたしはあんまり外じゃ力を使えないんだ。頼んだよ、皆」


 その言葉を最後に、マーリンは指を鳴らした。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。



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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます! 七天抜刀流の雷天の型、神速迅雷をあっさり止めた!? あっけにとられた政宗の隙を逃さず炎の精霊・しげるの反撃!! 焔龍、どうすりゃ良いのさレベルの業だ……(;゜…
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