第2話:炎の剣士だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)
前回のあらすじ。
恭弥達ステラバルダーナの面々は、マーリンから一つの課題を出される。
それは、一人で各層のボスを倒すというもの。
だが、無理難題かと思われたその課題をあっさりとクリア。
最後の十回層に挑まんとする恭弥達の前に、一人の精霊が現れ、恭弥達を認めないと告げ、一人の炎の剣士を召喚した。
一方その頃、恭弥達が滞在していたファクトリ村に、危機が迫っていた。
大地をも焦がす灼熱の豪火を纏い、その鋭き眼光は見る者を凍らせる程冷たい。
並の者であればその覇気にあてられ、気を失っていただろう。もしくは、震える足を必死に動かし、敵前逃亡を図ったかもしれない。
だが、海原恭弥は違った。
その一縷の隙もない立ち姿を見て強者であると直感し、口角を吊り上げた。
(佇まいが達人のそれだな。政宗のとこの爺さんみてぇな感じだ。攻撃しようにもまるで隙がねぇ)
一手でも間違えれば死ぬ。
そう思わせてくる覇気に、胸の高鳴りは太鼓のように音を鳴らす。
両腕に魔力を集中させ、臨戦態勢を整える。
後は開始のゴングを待つだけの状態だった。
「拙者に戦わせてはくれぬか?」
後ろからかけられた言葉で恭弥は目を閉じた。
「……まぁ、お前ならそう言うと思ったよ」
後ろを振り返れば、真剣な表情の政宗が立っており、その目からは確固たる意思が伝わってきた。
だが、前の四戦では動かず、仲間達の戦いを見るだけで抑えた恭弥にとっては、ようやく回ってきた手番をみすみす見逃すのは惜しい。
目の前に立つのはおそらくこの世界で最高峰とも言えるような剣士。剣士同士タイマンで戦いたいという政宗の気持ちも理解できた。
戦いたい。だが、政宗の気持ちもよく理解できる。
苦渋の選択に恭弥は天を仰いで歯を軋らせる。
「……せめて……じゃんけんにしないか?」
それが恭弥にできる精一杯の譲歩だった。
勝ったら思いっきり戦う。負ければじゃんけんに負けた自分が悪いのだから譲る。どちらにせよ自分を納得させられる。
その思いからの提案だった。
政宗は恭弥の提案に応じ、じゃんけんをしようとしたその時だった。
「戦いたいのが二人だけだと思ったら大間違いだよ、お二人さ〜ん」
拳銃型の改造釘打機を炎の剣士に向けて構える雷堂修の姿を見て、しくったと悔しそうに呟く恭弥。
次の瞬間、魔力の込められた改造釘打機が火を噴いた。
魔力の込められた釘の数は三本。威力はジャイアントスネーク戦で見せたものよりも弱かったが、当たれば痛いでは済まなかっただろう。
炎の剣士は迫りくる釘を見て刀の柄に手を置いた。
一閃。
炎の剣士が刀を引き抜くと同時に三本の釘は六本となり、床に散らばってしまっていた。
「うっそ~ん、一瞬であんな細い釘を正面から真っ二つって、もう漫画じゃん」
剣士の早業にドン引きする修。
だが、そんな修に次の攻撃へと移る猶予を炎の剣士は与えなかった。
気付いた時には既に刀の間合いに炎の剣士は立っていた。
「やっば――」
最後まで言い終える前に、炎の剣士は修に向かって刀を振り上げていた。
修の体は上空へと打ち上げられ、宙を舞う。
「シュウ!!」
攻撃をまともに受けた修の元へ駆け寄ろうとする伊佐敷遥斗だったが、そんな遥斗の肩を恭弥が掴む。
「問題無い。修は無事だ」
恭弥の表情からは一切の迷いが感じられず、遥斗は駆け寄ろうとしていたその足を止め、戦場に視線を戻した。
地面に仰向きで倒れる修。
だが、すぐにアクロバティックに立ち上がり、真っ二つになった靴を脱いで見せた。
「あっぶね〜対政宗君用の仕込み靴にしといて正解だったわ〜。やばいと思って勢い利用して飛んだけど、受け止めてたらこの靴みたいに真っ二つだったね〜いや~あぶねぇあぶねぇ」
まるで緊張感を感じさせない修の姿を見て遥斗は安堵する。そんな遥斗の視界に映る修の吊り上がった口角。
「靴をこんなにされちゃ〜、ちゃんとお返しをしてあげないと駄目だよね~?」
修の手には棒状のスイッチのようなものが握られており、それを見た遥斗は炎の剣士の方を見た。
よく見れば、炎の剣士の刀に先程までは無かったはずのブレスレットがかけられていた。
「吹っ飛べ。バーベキュー野郎」
カチリと音がする。次の瞬間、刀にかけられていたブレスレットがまばゆい閃光を発し、半径十メートル程の爆発が起こった。
「いや~爽快爽快。こちとらあの酔っ払いババアにやられてから武器のバリエーションは増やしといたんだ。いつ襲われてもいいようにこうやって腕につけられるやつとかね~」
修が遥斗に向かって腕を見せる。
そこには先程刀にかけられたものと同様のブレスレットが二本つけられており、てっきりお洒落アイテムだとばかり思っていた遥斗はその光景にドン引きした。
「シュウお前、それ絶対僕相手の時に使うなよ」
「え〜どうしよっかな〜」
ニマニマと遥斗の反応を楽しむ修。
だが、すぐにその顔色は驚いたものに変わり、すぐに後ろを振り向いた。
広がる爆煙。
周囲に剣士の姿が見えない以上、至近距離で爆発をもらったのは確実。それでも不安が何故か拭えない。
「いやいや、爆裂ハンマーの半分の威力とはいえ至近距離だよ? そんなことあり得る?」
刀が振られる。
その瞬間、漂っていた爆煙は上下に分かれ、その姿を薄くしていく。
そして、映る。
先程と一切変わらぬ無傷の状態で立つ炎の剣士の姿が。
(……なるほどね~。人や魔物とかそういうのじゃないんだ、あれ。多分、炎そのもの。正直信じられないけど、あの爆発を至近距離で受けて無傷ってことは見た目通り実体が無いってこと……こうなると俺っちの用意してきたものは半分以上効果無し、仕込み靴すら真っ二つとなるとあの刀を受け止める武器がねぇ……)
考えれば考えるほど、ありとあらゆる攻撃方法が否定されていく。
それほどまでに、炎の剣士は強かった。
いらつき、頭をガシガシと掻く修。
武器の在庫は取り出せばまだまだあるが、その多くは釘や爆弾といった消耗品。効果が見られない相手に乱発するには、修は冷静すぎた。
そして、いらつきを全て吐き出すかのように大きく息を吐くと、両手を挙げた。
「こりゃお手上げだね。交代しようぜ、政宗君。ありゃ俺っちと相性が悪いわ」
「そこは俺じゃねぇのかよ」
「あはは、それも考えたんだけど、やっぱり刀には刀っしょ。という訳でさ、政宗君。刀の凄さ、俺っちに見せてくれよ」
挑発的な修に対し、政宗はただ静かに正座を解く。
「良いのか?」
その問いは修に対してではなく、戦いたそうにしている恭弥にむけてのものだった。恭弥は不満そうではあったが、腕を組んだまま動こうとはしなかった。
「好きにしろ。だが、峰打ちで勝てるような相手じゃねぇぞ」
「わかっているでござるよ。故に、此度の戦いは本気で臨む所存でござる」
近付けば火傷するかの如き熱気を放つ政宗の言葉に、恭弥は口元が緩むのを抑えられなかった。
「よし! 絶対勝ってこい! 俺は残飯処理なんて役割、ごめんだからな!」
心からの激励を送る恭弥を背中に、政宗は前に出た。
相手は刀を振るう炎の剣士。だが、その実力は達人の域。
何故か構えない政宗と待ちの体勢を取る炎の剣士の間に、謎の間ができる。
それはほんの十秒にも過ぎぬ時間ではあったが、急に先程までやる気に満ち溢れていた政宗の顔が曇った。
そして、政宗は冷徹な眼差しで炎の精霊を見る。
その目はどこか怒りをはらんでおり、炎の精霊はむっとした顔で政宗を見た。
「何か言いたそうね?」
「侍の戦いは名乗りが礼儀。修殿がそれを準じないのは仕方なしにしても、あの侍がそれをしないのは納得いかぬ」
「あんた馬鹿なの? 炎が喋る訳ないじゃん……でも、確かにしげるも人や魔人と戦う時は名乗ってたわね」
「しげる殿と言うのでござるか。拙者、須賀政宗と申す。若輩者とはいえ、手加減無しの真剣での戦いを所望する」
政宗は頭を下げる。炎の精霊は言葉なんて通じる訳ないのに、と彼を嘲るような目で見るが、すぐにその目は驚きの色に変わった。
先程まで刀を下げていたはずの炎の剣士が、突然、上段の構えを取ったのだ。
「感謝する」
政宗は炎の剣士の構えを見てその言葉を告げると足を広げ、鞘を逆さにする程上げた異質な居合いの構えを取った。
二人の距離は二十メートル程、そして、先に動いたのは炎の剣士だった。
「炎刄」
それは精霊エンラの声だったが、それと同時に炎の剣士の刀にオレンジ色の炎が宿る。そして、炎の剣士はゆっくりと刀を振り下ろす。
次の瞬間、政宗の前に反り立つ巨大な炎の刃が出現し、政宗を襲う。
だが、政宗の姿は一瞬にして消えた。
「七天抜刀流、雷天の型、神速迅雷」
いつの間にか炎の刃を抜けて炎の剣士の目の前で構えていた政宗。
どうやって、いつの間に、そんなことを考えるよりも早く、政宗の刀は鞘から解き放たれる。
いつもであれば、峰打ちにする一瞬の硬直が故に見える止まった姿も、今回ばかりは見られない。
目に止まる時、それは刀を収めた時のみ。
それが、七天抜刀流の雷天の型、神速迅雷の真の速さである。
刹那、剣と剣が交わる甲高い音が響き渡った。
一切の加減もない全力の速さ。
その政宗の全身全霊の一撃は、炎の剣士にあっさりと止められてしまっていた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。




