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第1話:第一の試練だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)

 前回のあらすじ。

 恭弥とシュナが二人でお茶菓子を食べていると、誰かがやってきた。


「おっ、ここに居たのか」


 立っていたマーリンは海原恭弥(かいばら きょうや)の姿を見るやいなやそう告げた。

 そして、彼女は部屋の様子を一瞥すると、少し気まずそうにこう言った。


「ん~~お邪魔しちゃったかな?」


 その言葉でシュナは慌てるように立ち上がった。


「あわわわわわ、帰ります!!!!」


 恭弥はいきなり帰ると言い始めたシュナになにかを告げようとするが、その前にマーリンの横を抜けてシュナは走り出して帰ってしまった。


「は〜、それで? なんか用か?」

「あの子って確かリョウさんとこのシュナちゃんだったよね? いや~君も隅に置けないな〜」

「おいおい、こんな朝っぱらから呑んでんのか? そんな訳がないだろ」

「ふ~〜〜ん」

「ニマニマすんのやめろ。てか早く用件を話せ」

「そうだよね。わたしがとやかく言うのも違うもんね」

「早く、用件を、話せ」


 言葉の節々から怒りの感情が滲み出ている恭弥を見て、流石におちょくりすぎたかとマーリンは少し反省の色を見せた。


「ごめんごめん、もう言わないよ」


 適当に謝ると彼女は歩き出し、先程までシュナが座っていた椅子に座った。そして、テーブルに置いてあった茶菓子を摘む。


「用件はまぁあるんだけどさ、一人一人に言うのも面倒だしさ、全員を集めてくんない?」

「全員ってソフィアもか?」

「ソフィアちゃんは大丈夫。彼女にはここに来る前にある程度事情とか言ってあるからね。そのうちここに来ると思うよ」

「だったら遥斗達だけか。修はまぁ、あの工房にいるんだろうが、遥斗達の居場所に関しては知ってんのか?」

「それを探すのが面倒だからリーダーの君に頼んでるんじゃないか。ほら、ちゃっちゃと頼むよ。だらだらしてるとせっかく雨が止んだのにまた降ってきちゃうよ?」

「人んちの茶菓子勝手に食っといてよく言えんなあんた」


 額に筋を浮かばせながらも、恭弥はここ数日でマーリンがこういう人物であることを理解していた為、怒りを必死に抑え込む。


(これは教えてもらった恩義を返す為。これは教えてもらった恩義を返す為。これは教えてもらった恩義を……)


 自分の中で何度も復唱し、怒りを緩和させる恭弥。

 やがて、恭弥は自分の中の空気をすべて吐き出すかのようなため息を吐いた。


「……少し待ってろ」


 それだけ告げ、恭弥は四人を探すために家の外へと出た。


 ◆ ◆ ◆


 ファクトリ村はかなり広大な村だ。

 田畑も多く、家と家の間も広い。おまけに雨上がりで少ないとはいえ人だってそれなりに外に出ている。

 闇雲に探したところで日が暮れるのが落ち。

 それは恭弥も重々理解していた。

 だから手始めに雷堂修(らいどう しゅう)山川太一(やまかわ たいち)が借りている借家に行ったのだが、残念ながら人の気配は無かった。


(修はともかく太一までいないのはちょっと予想外だったな。てっきり家で飯でも食ってるかと思ったんだが、まさか狩りにでも行ってんのか? そうだとしたら流石にすぐには難しそうだな。……えっと、次に近いのは政宗が借りている場所だったか)


 恭弥は以前シュナが書いてくれた手書きの地図を頼りに政宗が借りている借家の場所へと向かおうとした。

 その最中だった。

 伊佐敷遥斗(いさしき はると)のものと思われる声がどこからともなく聞こえてきた。


「……なんか言い争ってんのか?」


 声からは微かに怒りの感情が汲み取れるが、まだ遠い為、内容まではわからない。

 その為、恭弥はとりあえず声の方へと向かうことにした。

 いくつかの角の先に、声の主がいるであろう人垣を見つけた。

 その中でも一際目立つ巨体が目に入り、恭弥はその男の元へと向かった。


「おう太一、こんなところに居たのか」

「あっ、恭弥君だ。おはよ〜」


 のほほんとした雰囲気で挨拶をしてくる太一。そんな太一を横目に恭弥は人垣の中心へと目を向けた。

 そこには言い争う遥斗と政宗の姿があった。


「美しい人に向かって美しいと正直に言って何が悪い! 薔薇や百合だって姿形は違えど綺麗なことには変わりないだろうが!」

女子(おなご)は花ではない! 人間でござろう!」

「比喩で言ってるに決まってんだろうが!! それくらいわかれよこの刀馬鹿っ!!」


 堂々と言い放つ政宗と、そんな政宗に頭を抱える遥斗。

 そんな二人の姿を見て、恭弥はまたかと心の内でため息を吐く。

 女性を見ては飛んでいく遥斗と、何事にも誠実な侍の中の侍であろうとする政宗。

 この手の言い争いは日本でも日常茶飯事であった為、恭弥も見飽きており、その表情からは呆れているのが容易に見て取れた。


「……太一、何がどうなってこうなった?」

「うんとね〜。僕ちんに政宗君が重り役を頼みたいって言いに来て〜、僕が政宗君の背中に乗って政宗君が腕立て伏せとかスクワットとかしてたんだけどね~、そこにあの人達が来たんだよ~」


 太一が指を差した先にいたのは何故かボコボコにされ倒れている青年三人組だった。

 恭弥もその顔には見覚えがあった。


「あいつらって確か三日くらい前にシュナをナンパしてた連中じゃねぇか」


 三日程前のランニング帰りに借家の玄関近くでシュナをナンパしていたこの三人を蹴りだけで沈めたのは恭弥もよく覚えていた。

 嫌がるシュナに対し、しつこくからみ続けた挙句、無理矢理どこかへと連れ去ろうとしたのだから後悔は微塵も無いが、まさかこんなところで再会するとは恭弥も想定外だった。

 

「そんで? あいつらはなんて?」

「覚えてな〜い」

「だと思ったよ」


 恭弥はそう言うと、一歩前に踏み出した。

 その瞬間、それまで大人しく遥斗と政宗の言い争いを見ていた全員が恭弥の方に視線を向けた。

 その異変に気付いた遥斗もまた、彼らの見る方へと目を向けた。

 そして、バツの悪そうな顔を見せた。


「ゲッ、キョウヤ」

「ゲッてなんだ。ゲッて。まったく……で? この騒ぎの原因はなんだ?」


 恭弥の問いかけに、遥斗と政宗が目を合わせる。

 そして、政宗が引いたことにより遥斗が話し始めた。


「事の発端は一昨日だったかな。このボコボコにしてある三人がいきなり絡んできたんだよ。よそ者のくせに平気で闊歩しているのが気に入らないんだとさ」

「なるほど。いつもの縄張りのあれか」

「そうそう」

「それで?」

「まぁ僕もくだらないなとは思いつつも、ここで面倒事は避けたかったから、穏便にすませようと思って話し合いで解決しようと思ったんだよ。そしたらこいつらの内の一人が僕に彼女を取られたとか言いがかりをつけ始めて」

「また寝取ったのか?」

「人聞き悪いな〜。そんな事今までもしてないって。その子だって僕がちょっと道案内をしてもらおうと思って声掛けてご飯奢っただけだし、本当に何もしてないよ」

「まぁ遥斗が何もしてないって言うんならそうだろうよ。それで?」

「殴りかかってきたから躱したよ? そしたら全員でかかってきたから更に躱し続けて、最終的になんか勝手に疲れて、覚えてろよ〜って捨てゼリフ吐いて帰ってった」

「ボコれば良かったじゃねぇか」

「まぁ、どうせあんまりこの村に長居すると思ってなかったからね〜。ボコボコにするのも可哀想かなって」

「でも今日はボコボコにしたんだろ?」

「うん。だってこいつらマサムネを呼んできたんだよ? 僕が村中の女の子を手籠めにしている悪い奴だとか吹聴して」

「……政宗はそれを信じたのか?」

「拙者は数日前まで山籠りでマーリン殿から手ほどきを受けておったから、その間遥斗殿が何をしていたかは知らぬのでござるよ。ただ、村中とまではいかずとも何人かの女子(おなご)に手を出していてもおかしくはないとは思ったでござる。それ故、ここは拙者が心身を鍛え直さねばと来た次第」

「うわ〜余計なお世話〜」


 遥斗の言葉で政宗の目が鋭くなり、遥斗に向けられる。

 いつもだったらここまで長くなることはない。

 だいたい事情がわかれば折れない政宗に代わり、遥斗が折れる。だが、今回は第三者の悪意ある発言のせいで、政宗も遥斗も折れる意思を見せない。


(面倒な……)


 今は二人共、恭弥の手前黙っているが、目は闘り合う気満々である。その為、仲裁が困難であることは目に見えて明らかだった。

 太一といつの間にか太一の横にいる修も仲裁に手を貸す様子を見せない。

 このままマーリンの元に集合させる手もあるが、それをしたところで面倒事を長引かせるだけ。

 最善はここで両者を納得させることだった。

 恭弥は目をつぶり、思考を巡らせる。

 そして、ゆっくりと目を開き、息を吐いた。


「政宗」

「なんでござろう」

「お前のそういう誠を貫く姿勢は俺も気に入っている。だが、そこの三人はこの前、シュナに手を出そうとしていて俺がボコった連中でもある。やってる事は遥斗の何百倍も下衆だぞ」


 その話は政宗に大きな衝撃を与えたようで、政宗は息を飲んで倒れている三人組に目を向けた。


「……初耳でござる」

「だろうな。確かに遥斗が村中の女を手籠めにするという事はあるかもしれん」

「ねぇよ」

「だが、その話の内容以前にその情報が真実か否かを確認せずに仲間を疑い、責めるのはよくねぇ。たとえ九十九パーセントありそうだったとしても、最後の一パーセントまで信じろ。それが仲間だ。反省しろ」

「……すまぬ」

「俺に言ってどうする」


 恭弥がそう言うと、政宗は遥斗に向かって深く頭を下げた。


「今回は拙者が悪かったでござる。悪人に騙され、仲間である遥斗殿を疑ってしまった。誠に申し訳ない」


 遥斗はまだ少し不満そうだったが、大きく息を吐くと、その顔から怒りの色を消した。


「いいよ。元はと言えばこの馬鹿共が変なことを吹聴したのが原因なんだし。次から騙されないように気を付けてくれればそれでいいよ」

「かたじけない」


 二人の険悪な雰囲気はなくなると、恭弥はマーリンが呼んでいることをその場にいた四人に伝え、恭弥達五人はマーリンがいる借家の方へと向かっていくのだった。


 

 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


・遅くなり、本当に申し訳ないです。

 イベントとそれに伴う準備、また、私のやらかしのせいで長引いてしまいました。

 次回はなるたけ早く出せるようにします。


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