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第1話:第一の試練だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)

 

 コツッコツッと足音が響き渡る。

 階段をゆっくりと降りていくマーリンに迷いの色は無い。

 マーリンは階段の終わりと共に、視線をゆっくりとある場所に向けた。

 そこには彼女自身が刻んだ十一という文字があった。


「いるんでしょ? 出てきなよ」


 その空間には誰もいない。

 ダンジョンモンスターどころか人っ子一人見当たらない。

 それでもマーリンは確信の表情でその言葉を告げた。

 そして、数秒が経った頃、突然何もなかったはずの空間から炎が揺らめいた。


「ふ~ん。姿を見せる気はないんだ? もうわたしの顔は見たくないってこと?」


 マーリンの冗談めいた言葉に、反応はない。

 マーリンもそれはわかっていたようで、深くは言及しなかった。


「まぁ、別にいいけどさ。それよりあのスライム、貴方の仕込みだよね? お陰でこのダンジョン元通りにするのに一ヶ月もかかったんだけど、どうしてくれるの?」


 心から怒っていないことがわかっているのか、またしても炎は反応を見せなかった。


「せっかく見定めてもらおうと思ってこのダンジョンを使ったのに台無しじゃん」


 ボソリと告げたその言葉を聞いた瞬間、突然炎が数倍の大きさに膨れ上がった。


「アタシはもう人間を信用しない」


 怒りの感情がこもった声が辺り一帯に響き渡る。


「わかってるよ。わたしが一番貴方の気持ちをわかってる。でも、そうも言ってられなくなったんだ」

「なに?」

「フェンネルからの連絡が断たれた。あいつならどんな状態だろうとここに来れるし、一ヶ月も彼らを放っておくなんて性格上絶対にしない。それでも来ないってことはあいつになにかあったってことだ。……多分あの男に消されたんだろうな」

「あの男?」


 動揺したのか炎が揺らめく。

 だが、それは一瞬のことで、すぐに炎が強い怒りの感情を放ち始めた。


「あの男を殺すにはエンラ、貴方の力が必要なんだ。だから、彼らを明日、ここにもう一度来させるよ」


 そう伝えると、マーリンは炎に背を向けた。

 そして、階段の一段目を登ろうとした時、ボソリと後ろから声がかけられた。


「アタシは人間を信用しない」


 最初と同じ文言だったが、その声音に怒りの色はなく、むしろ葛藤のようなものが感じられた。


「でも、マーリンだけは信用してる」


 その言葉の意味をマーリンは間違えない。間違えてはならない。

 だから、顔だけで振り返った。


「わたしじゃ駄目なの。貴方が一番知ってるでしょ?」


 その表情は笑みを浮かべていたが、一筋の涙を隠すことは出来なかった。


 ◆ ◆ ◆


 どんよりとした灰色の雲が広がり、外に出るのが億劫になるほどの雨が降る中、海原恭弥(かいばら きょうや)は借家の外に立っていた。

 上は何も着ておらず、ズボンのみという格好である為、既にかなり濡れているが、彼は目を瞑ったまま、ボクシングの構えを取り続けていた。

 相手はいない。

 だが、恭弥はただ静かにファイティングポーズを取っていた。

 そして、恭弥はゆっくりと目を開けた。

 視界に広がるのは無数の雨。

 しかし、恭弥はその中にある一滴の雫に狙いを定めた。

 次の瞬間、目にも止まらぬスピードの拳が、その雫を打ち抜いた。

 下から上にすくい上げるようなアッパーではなく、ただ拳を前に放つだけのジャブ。

 だが、その速さは尋常ではなく、次から次に止まることなく雫を打ち抜いていく。

 狙いも速さも的確な拳が垂直落下していく雫を次々と弾いていく。


(左手が……痛くねぇ!)


 口元が緩み、その表情にはいつの間にか笑みの色が浮かんでいた。

 ジャブのスピードは更に上がり、恭弥が満足したのは開始から三十分が経った頃だった。


 雨で汚れた体で恭弥が借家に戻ると、部屋の中にはバスタオルを持って少し頬を赤らめていたシュナが立っていた。


「……どうぞ」


 少し震えるような声でバスタオルを渡してきたシュナから、恭弥は訳がわからないといった様子でバスタオルを受け取った。


「ありがとう……ところでなんでいるんだ?」

「えっと……腕の様子を確認してこいって父が……」

「なるほどな。見てのとおり腕は大丈夫だ。毎日看病してくれたあんたのお陰だな」

「そんな私なんて……」


 赤らめていた頬を更に赤くさせ、下を向くシュナ。


「じゃあちょっくら部屋で着替えてくるわ」

「あっ、はい、すいません!」


 慌てたようにそう言うと、シュナは急いで恭弥に道を開けた。

 そんなシュナを尻目に、恭弥はいつもの格好に着替えるべく、奥の部屋へと向かった。


 着替え終え、部屋を出ると、何故かシュナがお茶の用意をしていた。


「茶の用意くらい俺がしたぞ?」

「すみません、つい癖で!」

「いや、別にしてくれるなら助かるが……まぁいいや。昨日アルフィーの爺さんがお礼にって茶菓子持ってきてくれたんだ。そこの棚にあるから一緒に食おうぜ」

「そんな、私はもう帰りますんで」

「茶の準備もしたのにか? いいから遠慮すんなって。アルフィーの姉ちゃんの怪我を治したのはあんたなんだ。一緒に食おうぜ」

「で……では、お言葉に甘えて」


 困惑しつつも、シュナは恭弥の指す棚から茶菓子を取り、そのまま椅子に座った。

 だが、普段トレーニング以外に興味が無い恭弥と、内気がちなシュナとの間に流れるのはただただ気まずい沈黙だった。


(……この空気、どうしたもんかな……)


 茶菓子をくわえながら、恭弥はもじもじと一向に喋ろうとしないシュナを見て、心の中でため息を吐いた。

 この借家を管理している村長の娘であり、左手を怪我していた際、看病ということで身の回りの多くを世話してくれていたシュナ。

 そんな彼女を邪険にし、ただ帰すという不義理な行為は恭弥の主義に反している。その為、茶菓子を振る舞ったのだが、話題というものが一切なかった。

 小中高とボクシング一筋で生き、高校中退後は男とばかり絡んできた為、同年代の女子と話したことはまったく無い。

 緊張する訳では無い為、無理に話して挙動がおかしくなることは無いが、ただただ長い沈黙が流れるのは、恭弥にとっても苦痛であった。


(こういう時に遥斗が居てくれたら勝手に話してくれるから楽なんだがな……)


 頼りになる相棒の不在を憂いながら、恭弥はお茶をすすった。すると、シュナが突然口を開いて何かを言おうとした。だが、すぐに口を閉ざし、しゅんとした面持ちになった。


「どうかしたのか?」

「い……いえっ、その……失礼だとは思うんですけど……なんで背中に絵を描かれておられるのですか?」

「背中に絵……入れ墨のことを言ってんのか?」

「いれずみと言うのですか? その怖いおじさまの絵は」

「あ〜、なんて言やいいんだ? 俺らの世界じゃ入れるのが普通だったからな〜。まぁ、修以外の三人はあんまり興味が無いからって入れてなかったけど、他の連中は結構入れてたぞ?」

「キョウヤさんのいた国ではそういうこともしておられるんですね? 私も花とか描いてみよっかな。あっ、すみません、私なんかが花を描いても似合わないですよね」

「いや、結構似合うと思うぞ。あんた美人だし」


 恭弥の何気なく放った一言によって一瞬で茹でダコのように顔が真っ赤になるシュナ。そんなシュナの表情の変化に気付いた様子もなく、恭弥はお茶をすすった。


「まぁ、入れ墨は一生もんだ。好きなもんを描けばいいんじゃないか。かくいう俺だって、このポセイドンの入れ墨は結構気にいってんだ。でっけぇ海すら支配する男……俺の憧れなんだ」

「そうなんですか。いつかなれるといいですね」

「…………」

「ど……どうかしたんですか?」


 突然鳩が豆鉄砲でも食らったように自分の顔を見つめ始めた恭弥を見て、シュナばなにか自分がしでかしたのではないかと不安を覚えた。

 だが、すぐに恭弥はふっと小さく笑った。


「あんたが初めてだよ。笑わずにいつかなれるといいなって言ってくれたの。昔なれと唆した幼馴染みですら忘れて笑いやがったからな」

「そ……そうなんですね。そんなにおかしいことなんでしょうか?」

「いんや、少なくとも俺はあんたのことを気に入ったよ」


 恭弥は心から楽しそうな表情でお茶を飲もうとするが、そのタイミングで初めてお茶を飲み干していたことに気付いた。


「おかわり頼めるか?」


 シュナにそう訊くが何故か返答はなく、その異変に気付いてシュナの方を見てみれば、何故か彼女は真っ赤になって硬直していた。

 恭弥はシュナの意識があるかどうか確認する為に、彼女の顔の前で手を振るが意識はない。


「お〜い大丈夫か〜? しゃあない。自分でつぐか」


 急須を持つべく席を立った恭弥。

 すると、突然家の扉がノックも無しに開け放たれた。

 そこに立っていたのは一人の女性だった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


 4章開幕です!

 新年一発目の今作の更新ですが、今年も何卒よろしくお願い申し上げます。

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