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第4話:怒った村人だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)


 前回のあらすじ。

 未知なる夕食を期待し、食堂へと向かった恭弥達だったが、そこに出されたのは宿屋とは思えないような貧相な食事だった。

 それでも皆で食べればどんな食事だって美味しいよね!!

 一方その頃、村の外れでは、一人の少女が行方不明になっていた。

 


 小鳥の囀りが響く爽やかな天気の下、二人の青年は向かいあっていた。

 和気藹々と喋るでもなく、罵詈雑言を飛び交わせるでもなく、ただただ静かに立っていた。

 一人は黒い髪を短めのリーゼント風にした青年で、その手に得物はなく、上半身にも何もつけていない。対照的に、群青色の髪を結んだ和装の青年は、両手で真剣を握りしめ、対峙している。

 剣と徒手とではリーチは圧倒的、まともに貰えばかすり傷では済まないだろう。だが、それにもかかわらず、徒手で挑む青年の表情には笑みが浮かんでいた。


 先に仕掛けたのは黒髪の青年、海原恭弥(かいばら きょうや)だった。

 真剣を向ける須賀政宗(すが まさむね)に対し、一瞬の躊躇いもなく間合いを詰めると、右の拳を繰り出した。

 しかし、政宗の顔色に動揺の色はなく、その攻撃を難なく躱してみせ、そのまま刃を返すことなく振るった。

 その瞬間、恭弥の体が胴から真っ二つに割れる。

 だが、彼の体から血が出ることは無かった。

 まるで煙が消えるかのように、恭弥の斬られた体は薄れて消えると、政宗は背後から強烈な殺気を感じとった。

 だが、政宗は恭弥が後ろで拳を構えているのを知っているにもかかわらず、目を閉じ、刀を下ろして見せた。

 背中を向けたまま刀を下ろした政宗を見て、一瞬驚いた表情を見せる恭弥だったが、彼の闘気が未だ衰えぬのを見て、なるほどねとでも言いたげに笑った。

 突如、恭弥はその場でステップを踏み、シャドーボクシングをし始めた。

 しかし、恭弥の間合いには政宗がいた。

 相手がいるにもかかわらず、恭弥の動きがシャドーボクシングと思わせられるのは、偏に恭弥のパンチを全て、政宗が最小の動きで躱しているからだった。

 背中を向け、目を閉じ、自分に当たる攻撃だけを完璧に避けてみせるため、恭弥の表情は徐々に楽しそうなものになっていった。

 しかし、その時間は唐突に終わりを告げた。


「キョウヤー、マサムネー、飯出来たってよ!!」


 その言葉で、恭弥の拳は止まった。

 そして、その視線は建物の裏口に向けられる。

 そこに立っていたのは、虎の紋様が如き派手な髪色をしている青年、伊佐敷遥斗(いさしき はると)だった。

 恭弥が遥斗に視線を向けていると、刀を鞘に収める音が響く。


「拙者達も戻るとするでござるか」

「だな。腹減った〜」


 政宗の言葉に同意を示すと突然恭弥の頭にタオルが投げかけられた。


「ったく、朝から汗くせぇんだよ。ほら、マサムネも。ちゃんと汗拭いて服着てこいよ」


 そう言うと、遥斗は扉の奥へと消えていった。


 ◆ ◆ ◆


 幼馴染みに上着を着てこいと言われた為、渋々二階にある自分達の部屋へと向かった恭弥は、ベッドの上に放っておいた上着を着てから、部屋を出た。

 部屋を出ると、政宗が部屋の前にいた。


「そういえばこっちでの朝飯ってなんだろな?」


 階段を降りながら、恭弥は共に歩く政宗へと声をかけた。

 政宗はその言葉に足を止めることなく、すぐに答えた。


「拙者は白飯以外は朝食と認めぬ」

「そりゃあ政宗はそうだろうけどさ。そもそもここって米があるかもわかんないじゃん。かってーパンはあったけど……ん? なんか表が騒がしくねぇか?」


 恭弥の言うとおり、微かにだが、玄関入口の方から怒声と思しき声が彼らのいる階段まで聞こえてきた。

 食堂に向かうのであれば玄関の方まで行く必要は無いのだが、飛んでくる怒声の中に、冒険者を出せという声が入り混じっていた為、恭弥は気が惹かれた。


「なにかあったのでござろうか?」

「わかんねーけど、ここに宿泊してる冒険者って俺達のことだろ?」

「聞き間違いの可能性もあるでござろう?」

「かもな。でも、俺達が呼ばれてんなら行ってやらねぇとな」


 そう言った恭弥の足先は、玄関の方へと向けられた。


 玄関へ近付くと、その光景は嫌でも目に入った。

 鍬やシャベルといった農具を握りしめた村人達が、この宿屋の玄関に密集していたのだった。

 その先頭に立っていたのは、太一よりかは一回り小さいものの、村人達の中では誰よりも筋肉質で大きな体躯を誇る壮年の男性だった。

 そして、その巨漢は困り果てた様子のフューイに詰め寄っていた。


「いいからその冒険者を出せって言っとるだろうが!!」

「落ち着いてくださいガディウスさん!」

「これが落ち着いてられっか!! こっちはミシェルがいなくなってんだ!! 下手に隠し立てしようってんならフューイ君とはいえ許さんぞ!!」

「だからまずは落ち着いてください。彼らは悪い人じゃ――」

「冒険者なんて信用できっか!!」


 憤怒の表情で聞く耳を持たない男性の後ろには彼程でないにしても怒りの面持ちを見せる者が多かった。


「おいおい、俺達に話があるってんなら聞くぜ?」


 恭弥はいつの間にかフューイの真横におり、政宗は慌てて横を向いた。当然、そこに彼の姿は無かった。

 フューイに詰め寄っていたガディウスの興味が、完全に恭弥へと移った。


「てめぇが昨日来た冒険者って奴か? ミシェルが言うには俺よりでかかったって話だが? どう見ても俺より小さいじゃねぇか!」

「でかい? あぁ太一のことか。あいつなら俺の仲間だ。今はまだ寝てるんじゃないか?」


 そう言った瞬間、ガディウスの腕が伸び、恭弥の体が宙に浮いた。

 そして、恭弥の胸ぐらを掴んだガディウスは彼に怒鳴る。


「ミシェルを返せ!!」

「うちの子も返してよ!」

「この悪党め! 警邏の連中に突き出してやらぁ!」


 恭弥はジーパンのポケットに両手を突っ込んでおり、浮いた今ですら抜く素振りを見せていない。

 その姿を見てか、ガディウスの後ろにいた村人達が恭弥のことを責め立てた。

 次々と怒声が飛び交うなか、突然空気の色が変色した。


「何の話かわかんないんだけどさぁ……この手、放せよ」


 突如、笑みを浮かべていた恭弥の手が、ガディウスの腕を掴んだ。

 ガディウスの腕は太く筋肉質で、恭弥の手は彼の半分しか握れていなかった。それにもかかわらず、恭弥の指が円を作ろうと曲げられた。


「うッッ……ぐぁあぁあ……」


 恭弥の瞳孔が開き、その威圧的な眼が、苦悶の声を上げるガディウスを見る。

 この場にいる誰よりも大きかったガディウスの体は縮こまっていき、その姿は、声を上げていた村人に恐怖という名の言葉を突きつける。

 

「待ってください!!!」


 突然大声が放たれ、彼らを萎縮していた空気が緩和された。

 足を震わせ、叫ぶように告げたフューイの行動によって、ガディウスを苦しめていた恭弥の手は緩められた。

 ガディウスは痛む自分の腕を押さえながら、恭弥の方を涙目で睨んだ。

 そんな二人の間にフューイが割って入った。


「彼らは今回の件に関係ありません!! 彼らは森で離れ離れになったロイドとノエルを見つけてくれた恩人なんです!!」


 フューイの言葉を聞き、ガディウスは初めて表情に迷いの色を見せた。


「とにかくまずは落ち着いてください! 話はそれからでしょう。キョウヤさんも、すみませんがここは俺に任せてください。話は後でちゃんとしますから」


 恭弥は未だに怒りを抑えられてはいなかったが、フューイの目を見た瞬間、ニヤリと笑みを作り、わかったと小さく告げてから、政宗と共に食堂の方へと向かった。


 ◆ ◆ ◆


 ドアノブをひねり、恭弥が食堂の中に入ると、彼の目はすぐにその存在を認識した。


「太一!」


 この世の幸福を噛みしめるかのように山川太一(やまかわ たいち)は朝食を食べており、その横には椅子で行儀悪く寝ている雷堂修(らいどう しゅう)の姿もあった。しかし、先に来ていたはずの遥斗の姿は無い。

 太一は恭弥の声で彼の存在に気付き、毒に侵されて苦しんでいたとはとても思えないような暢気な笑みを向けた。


「おはよ〜恭弥君。ご飯美味しいよ〜」

「ハハッ、相変わらずだな。それで体の方は大丈夫なのか?」

「うん、変な茸食べてから変な感じだったけど、もう大丈夫だよ〜」

「太一お前……生えてた茸を生でいったのか?」

「? 美味しかったよ〜?」

「そういう問題じゃねぇだろ。ったく、今度から落ちてるもんとか絶対食うんじゃねぇぞ!! わかったな?」

「は〜い」


 ものによっては死ぬ可能性すらあったというのに、太一はそんなことを露とも感じさせぬほど、暢気に返事をした。

 その姿を見て、本当にわかったのか不安になってくる恭弥であったが、そんな恭弥にキッチンの方から声がかかる。


「おいキョウヤ、こっち来てみろよ! なんか石から水出てくんだけど!!」


 その興奮したような声の主は、恭弥の幼馴染みである遥斗のもので、恭弥は何事かとそちらへと向かった。


「おいおいなんだこりゃ……まじで石から水出てんじゃねぇか!!」


 遥斗がいたのは洗い場で、何故か泡のついたスポンジと汚れた皿を持っていた。だが、そんなものよりも恭弥が目を引かれたのは管の繋がれていないぶら下がった何の変哲も無さそうな石から水が出ている光景だった。


「それは魔石っていうんです。元来は魔法を発動しやすくするための補助具として使われていた鉱石だったんですが、現在では魔術の印が刻まれたものが多く流用されていて、光を灯したり、火を点けたり、水を出したりと、魔法が使えなくても使える道具として評判なんです。ただ、魔術を刻まれる際にのみ魔力が補充できる為、使い捨てになってしまうのが欠点ではありますね」


 懇切丁寧に説明をしてくれたのは、鍋を煮込んでいるシャルフィーラだった。

 彼女は常識として知っていてもおかしくない情報であったにもかかわらず、恭弥のことを馬鹿にするような素振りもなく、人の良い笑みを保ちながら教えてくれた。


「おっ、美味そうな飯の匂いだな。それが俺達の朝飯か?」

「あ、いえ。これは息子達のお昼用で……朝食の準備でしたらハルト様のご指示で既にテーブルの上に並べてあります」


 そう言われ、食卓の方を見ると、確かに皿が並べられていた。

 朝から動いたことで腹を空かしていた恭弥は、既に座っていた政宗の隣に座ったが、目の前の皿は何故か何も入っていなかった。


「……なぁ、朝食ってもう出されてるんだよな?」

「はい、昨晩は突然で用意が間に合わなかったのですが、今朝は朝早くに家を出て食材を買い込んできたのできっとお気に召すと思いますよ?」

「いや……なんも入ってないんだけど」

「えっ!?」


 シャルフィーラは驚いたような声を上げると、急いでテーブルの元まで来た。そして、中身の入っていない皿達を見た瞬間、顔色が真っ青になった。


「……ぇ……なんで? 私は確かに……」

「キョウヤ、確かにシャルフィーラさんは全員分の皿にスープをついでパンを置いてたぞ? なんなら今日はサラダもあったぞ?」

「はぁ? じゃあなんで入ってねぇの?」

「相変わらずバカだな~。お前さ、よくよく考えてみろよ。昨日の食事をもし太一が食べたとして、太一があの量で満足すると思うか?」

「そりゃあ無理に決まってるだろ……」

「じゃあなんでお前の横にいるハングリーモンスターは満足そうに舌舐めずりしてると思う?」


 恭弥はその言葉で、太一の方を見た。

 彼は朝食に大食いする男では無い。とはいえ、常人以上に食べる男だ。

 その男が、泣きもせず、喚きもせず、ただ幸せそうに座っていた。


「ごちそうさまでした!」


 手を合わせ、満面の笑みでそう告げた太一を見て、恭弥の目から一筋の涙が流れた。


「……水を……もらえるだろうか?」


 その姿を見て、シャルフィーラは苦笑しつつも、わかりましたと了承の言葉を返した。



 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


 余談ですが、本来の調理担当はフューイの母シャルフィーラさんなのですが、初日は遥斗に怯えてフューイと受付を代わってもらっていました。

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