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第5話:フェンネルの師匠だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)

 前回のあらすじ。

 恭弥の怪我に気付いた遥斗は、恭弥に休むよう提案するも、恭弥はなかなか聞き入れようとはしなかった。

 そんな恭弥の説得に苦戦していると、突然マーリンから殴られ、訳もよくわからないまま対マーリン戦が始まってしまった。

 マーリンの実力は凄まじく、太一、修、政宗の三名は、為す術なく倒れてしまうのだった。


「さて、あと二人だね」


 眼前に映る三人の倒れた仲間。

 それが海原恭弥(かいばら きょうや)の目から油断を消した。

 目の前の女性が、今まで出会ってきた女性とは違うと恭弥もわかっていた。だが、それでも所詮は女性だと心の奥底で侮っていたことは否めない。

 筋力の密度も、速さも、自分には劣ると。

 だが、この世界はそれで優劣は決まらない。

 魔法や特殊能力(スキル)といった地球には無かったものが、当人の能力値を何倍にも引き上げる。

 それを自分はまだわかっていなかったのだと、恭弥は歯噛みする。

 彼女は強い。少なくとも、あの魔人やフェンネルと同等以上に。


「なんのつもりだ?」


 意識を改め、前へと踏み出そうとした恭弥の肩が掴まれる。

 視線をそちらへ向ければ口から血を流している遥斗の姿があった。


「怪我人は引っ込んでなよ」

「遥斗お前……女性に手をあげらんねぇだろ」

「あはは、そこ突かれると痛いね……まぁ見とけって……」


 そう言いながら恭弥の前に立った遥斗はふらふらと歩き出し、マーリンの前に立つ。


「加減しすぎたのかな? 殺さないまでも意識くらいは簡単に奪えると思ったんだけど、見た目によらず意外とタフだね」

「女性には殴られ慣れてますから」

「ふ~ん。わたしをそんじょそこらの女と一緒くたにすると痛い目見るよ?」

「一緒くたなんてとんでもない。貴方はそんじょそこらの女性とは比べ物にならない程の美しい女性ですよ」

「懲りない男だね~」


 呆れたように笑うマーリン。そんなマーリンを前にして、遥斗も笑顔で作戦を組み立てる。

 相手はどんなに強かろうが女性は女性。

 殴るのは論外。蹴るなんてもっての外だ。

 だが、怪我をしている恭弥にこれ以上無理をさせる訳にはいかない。

 政宗も修も太一まで倒れた。

 残るは自分と恭弥のみ。

 あの事件以来、恭弥のスパーリングの相手を務めてきた。

 拳にグローブをつけた恭弥の姿を見て、もう二度と恭弥がグローブを捨てる姿は見たくないと思った。


 絶対に恭弥の拳を守ってみせると、遥斗は心の中で誓い、ジークンドーの構えを取った。

 その目にいつものようなおちゃらけた感じはなく、真剣さがありありと伝わってきて、マーリンはふっと小さく笑った。

 その直後、マーリンの姿が遥斗の視界から消えた。

 だが、遥斗はまるでそれを見慣れたものでも見るかのように動じなかった。

 そして、鎧武装(ガイムソウ)で強化された拳が遥斗を襲う。

 だが、その拳に遥斗の手がそっと置かれ、拳は遥斗を捉えられず、空を切った。

 感心した表情を見せるマーリンとは裏腹に、遥斗は少し不満そうだった。


「感覚より早く動いてようやくギリかよ……。気ぃ抜いたら一瞬で持ってかれるな」

「良い動きだ。次はもうちょっと早く行こう」

「はは……勘弁してくださいよ」


 続けて今度は二発の拳による攻撃が来るも、遥斗は辛うじて動きについていき、その二発の攻撃ですら躱して見せた。

 それが、マーリンを喜ばせてしまい、更に連撃のスピードが上がってしまう。だが、遥斗は掠りはしても、紙一重でその攻撃を全て躱して見せていく。


「人間の反応速度では絶対に間に合わない速さで打ってるはずなんだけどね……」


 まったく当たらない攻撃を続けるマーリンも流石に不審感を抱いたようで、その目が少し細くなる。

 数えた訳ではないが、既に二十発は躱された。

 修行最終段階のフェンネルですら、まぐれで数発躱すのがやっとのスピードの拳がものの見事に当たらない。

 遥斗の動きはシンプルで、攻撃が来れば最低限の動きで拳を躱し、反撃を試みる意思すら見せず、すぐに一定の距離を取って構える。

 避けれないと見れば脱力した隙の無い構えから繰り出される最小限の動きで拳の軌道をずらし、急所に当たらないようにしている。

 この速さに対応出来るのだから攻撃へ転じることも可能だろうと判断し、敢えて釣り餌()を用意してみるが、食いついてくることはなかった。

 決して速い訳では無い。

 ただ適確なだけだ。


(なるほど、他の子達に比べて平凡かと思っていたが、この子も勇者として喚ばれただけのポテンシャルを持っているってわけか)


 マーリンの口角が釣り上がり、遥斗は何か来ると思い、次の攻撃を警戒した。

 マーリンの動きを観察し、次は()()()()()攻撃だと悟った遥斗は、マーリンの左手に意識を集中させた。

 だが、突然放たれるはずだった左手が目の前で止まった。

 そこでようやく遥斗はしくじったことを理解した。


「クッ」

 

 すぐに距離を取ろうとするが、突然自分の体重が倍に増えたかのような錯覚を覚え、動きが鈍重になってしまった。

 そんな遥斗の腹をマーリンの突き刺すような蹴りが一閃。

 意識が明滅するような蹴りに遥斗の身体は踏ん張ることが出来ず、勢いそのまま地面を転がることしか出来なかった。

 だが、威力は思っていたものよりも低く、遥斗の意識は辛うじてあった。

 息も絶えだえとなった遥斗はこちらへと歩いてくるマーリンに悔しそうな顔を見せた。

 そんな遥斗を見て、マーリンは追撃の意思を見せるどころか感心するような顔を遥斗に向けた。


「左手に集中した魔力は、魔法の為の魔力って訳でしたか……殴ってくると身構えたのは完全にミスだったな」

「やっぱり見えてたのか。君はなかなか良い目をしているね。わたしの動きではなく魔力の流れを見て次の攻撃を予知して躱している。そうだね?」

「ええ……ボス部屋に成ってたあの果実を食べてからですかね。……集中すると相手の身体に白い水みたいなのが出てきて……前に師範が言ってた力の流れってってやつかなと思って、攻撃を予測してたんですが……でも結局……僕は何も出来ずに……」

「そう自分を卑下するんじゃない。その力を目覚めさせてまだ一日と経たずにわたしの攻撃をさばききったんだ。正直酒を飲む余裕どころか使わないと決めていた魔法まで使わされたんだ。誇ってもいいくらいだ。……あ〜、そうそう、卑怯だとは言わないでくれよ。わたしは鎧武装(ガイムソウ)しか使わないなんて一言も言ってないんだからね。むしろ君らに合わせて不得意な接近戦で戦ってやってるんだから感謝してほしいくらいだよ」

「わかって……ますよ。貴女は理不尽に見えて……鎧武装(ガイムソウ)って特殊能力(スキル)だけでここまで僕らの相手をしてくれた。……まるで、こう使うんだぞって教えてくれるかのように」

「意図を理解してもらえて嬉しいよ。……お話はここまでみたいだね。どうやらもう一人の子が待ち遠しいみたいだ」


 その言葉で、遥斗はマーリンの見ている方向に目を向けた。

 そこには上着を脱ぎ、臨戦態勢ばっちりの恭弥が立っていた。

 左手を怪我し、身体やズボンのあちこちには赤い血のりが付着しており、すぐにでも休ませるのが正しいのだと遥斗も理解していた。理解していたが、不思議とその姿を見て、安堵感に包まれてしまった。


「後は頼んだよ……リーダー……」


 そう言い残すと、遥斗は微睡みの奥へと沈んでいった。


「良い仲間を持ったね」


 自分に対し、怒りの感情を露わにする恭弥に対し、マーリンは臆する気配すら見せず、淡々と告げた。

 それは怒りも高ぶりも喜びも憎しみも感じさせない。ただ言葉通りの意味としか捉えようのない表情。

 それが恭弥には疑問だった。


「何故こんなことをする? 俺の怪我を理由に一時撤退を促すなら俺だけを気絶させるだけで良かったはずだ。攻撃してきた太一や修だけじゃなく、攻撃する意思すら見せなかった遥斗や政宗まで倒す必要はあったのか?」

「わたしが君達の師匠だからだよ」


 言い淀むことすらしないマーリンの言葉に、恭弥は更に困惑した。

 そんな恭弥に対し、マーリンは言葉を続けた。


「まぁ、わたしも久しぶりの運動なうえにさっきの戦闘で疲れちゃったしで休憩は大歓迎だ」


 そこまで言うと、マーリンは指をパチンと鳴らした。

 すると、彼女と恭弥の足元の地面が隆起し、ちょうどいい大きさの岩になり、マーリンはその岩に腰掛けた。

 だが、恭弥は座ろうともしなかった。

 マーリンはそれを気にすることなく話を始めた。


「本当はさ、ここの最終ボスを倒してもらってから君達五人をボッコボコにする予定だったんだけどね。さっきのスライムいたろ? あいつがわたしのダンジョンから魔力をしこたま奪ったうえに、無遠慮に使いやがったせいでこれより下の階層の魔力が足りてなくてボロボロなんだよね。おまけに残った魔力を回収したせいで気分悪いから、いっそ予定を繰り上げちゃおうって思ったって訳。でもまぁ、それは君が聞きたい答えとはちょっと違うんだろうね」


 最後の言葉を告げた瞬間、先程までおちゃらけていたマーリンの顔色が真剣なものへと変わった。


「まず初めに言っておこう。君達五人がこのままの状態でここを出たとして、生き残る確率は零だ」


 マーリンの言葉に恭弥は絶句するしかなかった。

 そんな恭弥を見て、マーリンは更に続けた。


「別に意地悪を言っている訳じゃないんだ。魔人側にはとある男が居てね。大精霊のいる場所も勇者という異世界からの来訪者に対しての脅威も全て知っている人物がいるんだ」

「そんな人物がいるなんて、初耳です」


 マーリンの話に驚いたのは、恭弥よりもソフィアの方だった。


「そりゃソフィアちゃんじゃ知らないのも無理ないよ。この世界にそいつの存在知ってるのってわたしくらいなんじゃないかな? まぁとにかく、そいつは間違いなくわたしよりも強いし頭が回る。そんな奴が大精霊を持たない今の君達を狙わないはずがない。間違いなく居場所を特定し、刺客を差し向けてくる。だから君達は最低限自分達の身を守る術を持ってここを出なきゃいけないって訳」

「だから俺達全員をボコった訳か」

「ああ、君達は人類の希望だ。失うことがこの世界の人類にとっての損失に等しい。だから、わたしは一切手を抜かない。情で甘やかされた生に未来は無い。いずれは超えてもらわねばならない領域というものは、身をもって知らねばわからないのだから」


 マーリンが何を言っているのか、恭弥には最後までうまく理解出来なかった。だが、まるで経験したかのような話し方に、自然と聞き入ってしまっていた。


「さて、話はここまでだ。今からわたしは君をボコる。全身全霊で、魔法も特殊能力(スキル)もフルで活用し、容赦なくボコる。他の四人が受けたダメージとは比べ物にならないだろうが、それでも再起するのが不可能になるレベルでボッコボコにする。用意はいいね? ふふっ、答えは聞くまでもないみたいだ」


 マーリンの言葉を皮切りに、戦いの火蓋は切って落とされた。

 それは、言葉にするのも憚られる程の激しい戦いで、肉弾戦だけでなく、多種多様な属性を使った魔法の弾幕を前に、恭弥はなんとか食らいついていくも、先の戦いのダメージはあまりにも大きく、最後までマーリンに拳が届くことはなかった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


・携帯バッキバキになって機種変することになりました。

 出費えぐすぎ(`;ω;´)

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