第3話:長かった1日だろうが疲労だろうがかかってこいや!!(2)
前回のあらすじ。
フューイの案内で『ステラバルダーナ』の面々は、王都近郊の村、カルファ村へと向かうことに。
暢気な恭弥、暴走する遥斗、獣人を倒そうとする政宗、踏ん張る修、意識が無くても腹をすかす太一。
個性豊かな5人は果たして元の世界に帰れるのか?
宿屋の二階にある一室を使っていた海原恭弥と伊佐敷遥斗は、上がる際にも用いた階段で下に降り、フューイの案内で食堂へと向かった。
その道中、毒に侵された山川太一を運んだ部屋の前を通ると、恭弥の足は止まり、視線は自然とそちらを向いた。
ウェルザム大森林でフューイからポーションという名の薬をもらったとはいえ、未だに目を覚まさない太一を心配する恭弥の表情には、自責の念が見え隠れしていた。
すると、立ち止まっていた恭弥の肩に、そっと手が置かれた。
「タイチは大丈夫だ。お前はそう信じて待っときゃいいんだよ」
自分を慰めてくれたのだろう。
そう思うと、強張っていた恭弥の表情が少し和らいだ。
「案外飯ができたらあっさりと起き上がるかと思ったんだが、流石の太一も毒には勝てなかったみたいだな」
恭弥が遥斗の背中にそう告げると、遥斗もまた、恭弥の言葉に同意するように、そうだな、と笑い、食堂へと続く扉を開いた。
食堂の中はあまり広いと言えるようなものでは無かった。
中心には木製の広いテーブルがあり、それを取り囲むように木製の椅子がいくつもあった。
恭弥が左を向けば、半分だけの壁で隔たれたキッチンがあり、コンロと思しき場所には鉄製の大きな鍋が置いてあった。
「こちらへお掛けになってお待ちください」
フューイに促され、恭弥と遥斗は木製の匙が置かれた場所へと向かい、そこに座った。
同様に匙が置かれた席には、『ステラバルダーナ』のメンバーである雷堂修と須賀政宗が大人しく座っており、食事を待っていた。
色々ありはしたものの、王国の騎士団と戦朝から戦ったうえ、森では不思議な姿をした怪物との戦闘を行ってきたのだ。
恭弥のお腹が快音を鳴らすのも無理は無かった。
(遥斗の話じゃここは地球ですら無いって話だからな。おそらく俺が想像もつかないようなものが出てくるんだろうな。そういや修と太一が大通りでなんとかって実を美味そうに食ってたな……)
太一と修が王都の大通りで食べていた果実も、日本では見たこともないような食材でありながら、修と太一は絶賛していた。だとすると、肉料理に期待してしまうのも仕方ない話で、恭弥は現実に回帰した瞬間、口元のよだれを拭った。
「お待たせいたしました」
そう言って出された夕食は木の器に入れられた透明感のあるスープとフランスパンに似た細長いパンのみだった。
恭弥は太一程でないにしても、人並み以上に食べると自負している。だからこそ、顔に出てしまっていたのだろう。
フューイが慌てたように頭を下げた。
「すみません!! 元々今日は俺達三人用だと思って用意していたらしくて、予備を使ったとしてもこれだけしか無くて……」
「あ〜いや……そりゃそうだよな。普通旅館とかって予約とかするもんだったよな……それをせずに来たんだ。準備が出来てねぇのも仕方ねぇさ」
恭弥は精一杯の気遣いをするが、改めて出された料理を見れば嫌でも思ってしまう。
日本の飯が食いたい、と。
スープの具材は野菜のみで肉は一切無く、パンも人を殴り殺せる程の硬さを誇っていた。
一口飲んでみれば、コンソメスープに近い味はしたものの、あまりの薄さに恭弥の表情はしかめっ面になりかけていた。
そんなタイミングだった。
「お兄ちゃん、僕達の分は?」
フューイの服を引っ張りながらそう告げたのは、彼の弟であるロイドだった。その後ろには羨ましそうな視線を恭弥達に向けるノエルが静かに立っている。
二人の様子を見れば、お腹が減っているのは一目瞭然だった。
しかし、フューイは申し訳なさそうな表情でしゃがみ、ロイド達に向かってこう告げた。
「ごめんよ。まだお客様が食べているからもう少し待っててくれないか?」
「やだやだ!! 僕お腹減った!! お兄さん達ばっかりずるい!!」
我儘を言うロイドを前にして、フューイは困り果てた様子だった。
どうやら彼は弟達に強く言えないタイプの人間なのだなと、遥斗は心の内で思いながら、匙ですくったスープを飲む。
「だったら俺達と一緒に食わねぇか?」
その言葉は、恭弥の口から放たれたものだった。
思わぬ提案だったのだろう。
フューイは驚きに満ちた表情で恭弥の方を見た。
「……いいんですか?」
「どうせ二人の分も用意してんだろ?」
「それは、まぁ……皆様がお部屋に戻られてから食べようと思い用意してはいましたが……本当にいいんですか?」
「遠慮すんなって。どうにも静かな食事ってのは性に合わねぇんだ。まだ数人は余裕で座れるスペースはあるんだ。一緒に食おうぜ!」
「……お心遣い、ありがとうございます」
深々とフューイが頭を下げ、それによって七人による賑やかな食事は始まった。
◆ ◆ ◆
そこは、カルファ村の外れにある一軒家だった。
庭などはないが、そこの住人であるガディウスは少し歩いた先にベルードと呼ばれる牛によく似た魔物を飼育する厩舎を持っており、ベルードの乳や肉を販売所に売って生計を立てていた。
三十代後半の夫婦には今年で八歳になる娘がおり、その子は夫婦にとって何よりも大切な宝物だった。
「ねぇねぇママ! 今日ね、今日ね、とってもおっきな人を見たんだよ!」
興奮気味に喋る赤毛の少女は、皿洗いをしている母にそう告げた。
「おっきい人か〜? それはパパとどっちが大きかったんだい?」
椅子に座りながらテーブルに木製のコップを置いたガディウスが、少女に笑みを向けてそう聞くと、少女は悩むように腕を組んだ。
「う〜んとね〜。多分その人の方がおっきかったよ! 遠かったからあんまわかんない」
「あんまわかんないって、村の人じゃなかったのかい?」
「うん、ノエルちゃんとロイド君がね、森で会ったって言ってた!」
「そうか。ってことは冒険者かな?」
「気性の荒い人じゃないといいわね」
「そうだな。……って、あれ?」
ガディウスの視線がふと、厩舎の方を見た。
「電気……消し忘れたかな?」
消したと思っていた電気が点いているのを見て、ガディウスは椅子から立ち上がった。
「ちょっと〜。最近は電気の魔石も高いんだから消し忘れとかやめてよね〜」
「すまんすまん。ちょいと消してくる」
「ミシェルも行く〜♪」
満面の笑顔でガディウスの元に行くが、彼は困ったように笑った。
「別にお出かけするんじゃないぞ? 電気消しに行くだけだぞ?」
「いいの! ミシェルね、ベルードさん達におやすみなさいって言うの忘れたからね。おやすみなさいって言いに行くの」
そんなかわいいことを言われれば、ガディウスには駄目と言えなかった。
「そっか。じゃあミシェルも一緒に行くか」
「うん♪」
疲れも吹き飛ぶような満面の笑みで首肯く娘を見て、ガディウスの強面は気持ち悪いにやけ顔になっていた。
暗いからと手を繋ぎ、意気揚々と厩舎へ向かうが、家からの距離がそこまである訳ではない。
あっという間についたガディウスはミシェルの手を離し、彼女笑顔を向けた。
「それじゃあパパは電気消してくるから、ベルードさん達におやすみなさいってしてきなさい。くれぐれも、一人で外に出ちゃだめだよ」
「は〜い」
右手を上げて可愛らしい笑顔で返事する娘を見て、自分の娘はやはり世界一可愛いと再確認したガディウスは、点いている電気の魔石が置いてある場所へと向かった。
電気が点いていたのは奥の部屋で、ぶら下がったまま発光している魔石の元まで近付いたガディウスは、魔石を取り外して電気を消した。
手慣れた作業だったこともあり、部屋を出るまで十秒もかかっていないだろう。
ガディウスは部屋の扉を閉め、ミシェルの元へと向かった。
「さぁミシェル、帰るぞ」
ミシェルがいるであろうベルード達の元まで行き、ガディウスは中にいるであろうミシェルにそう声をかけた。
だが、そこにミシェルの姿は無かった。
「ミシェル?」
金網越しである以上、ミシェルがベルード達の中に入ることは絶対にできないうえ、奥の部屋には鍵がかかっていて出入りすることすら不可能。
ましてや隠れる場所なんてありはしない。
ガディウスの中に嫌な予感が過る。
「ミシェル! かくれんぼなんてしてないで出てきなさい!」
不安をかき消すように大声をあげるが、返事は帰ってこない。
ガディウスの額に汗がこびりつき、動悸も徐々に早くなっていく。
「ミシェル!!」
大声をあげながら、ガディウスは慌てて厩舎中を探し回り、厩舎の周辺も懸命に捜した。
だが、ミシェルが見つかることは無かった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
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