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第5話:フェンネルの師匠だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)

 前回のあらすじ。

 フューイは騎士団に入団しました。


 伊佐敷遥斗(いさしき はると)は悩んでいた。

 スライムの『上位個体(ネームド)』という思いがけない強敵との戦いにより、海原恭弥(かいばら きょうや)は平気なように振る舞っている。

 だが、恭弥が無理をしているのは、幼馴染みの遥斗にはすぐに分かった。

 その他にも、須賀政宗(すが まさむね)が大技を使った反動でかなり限界が近く、珍しく肩で息をしている。

 後方にいた自分や雷堂修(らいどう しゅう)山川太一(やまかわ たいち)はまだ余裕はあるが、六階層への探索は難しそうだろうというのが正直な感想だった。

 だが、二人の身を案じて今日の修行を切り上げると言えば、面倒な反論をされるのは想像にかたくない。

 ここは平和な日本ではない。

 怪我をしても救急車は来ないし、病院も近くには無い。

 チームの参謀としては、最低でも一週間は休息をとって万全な状態で挑みたいというのが本音だった。

 それに遥斗には、もう一つ懸念すべき事もあった。


「キョウヤ、流石に今日はもう下へ行くのはやめにしないか?」


 下へ向かう階段へと向かっていく恭弥の背に声をかけると、恭弥は不思議そうに遥斗の方を見た。


「どうした?」

「キョウヤお前さ、左腕の怪我、まだ治ってないだろ」


 遥斗の言葉で恭弥は一瞬硬直してしまうが、すぐに表情を繕い、誤魔化すように笑った。


「なに言ってんだよ遥斗。ほら、俺の左腕はこの通りピンピンだぜ」


 左腕でシャドウボクシングをして見せる恭弥だったが、遥斗の疑いの目は未だに恭弥の左腕を見ていた。


「いつもよりキレが無いな。もう隠すことすら出来てないじゃないか」


 図星をつかれ、恭弥の表情が曇る。

 そして、恭弥は周囲を見た。

 太一と修、それに政宗はボス部屋になっている果実に夢中なようで、こちらの様子に気付いた気配は無い。

 ソフィアとマーリンの方も離れたところで何かを話しあっているらしく、同じくこちらの様子に気付いてはいないようだった。

 それを確認すると、恭弥は諦めるように語った。


「まだこの世界に来て間もない頃、村のガキ共助けに行ったの覚えてるか?」

「そりゃもちろん覚えてるけど……」

「あん時に戦った奴の見えない壁を造る魔法にやられてな。そん時は表面をやっただけだったんだが、医者に行ってないのもあって治りがいつもより悪かったんだよ。それなのに完治してない状態でサイクロプスや魔人相手に使ったから、どうやら完全にやっちまったみたいでな。騎士団の後方支援部隊の副隊長だっていうガルシアって女が言うには固定だけしといたから一ヶ月は絶対安静なんだとさ」

「お前……それなんでもっと早く!」

「大丈夫だって。怪我なんて今に始まったことじゃねぇだろ?」

「それもそうだが……ってちょっと待て! キョウヤお前、僕の蹴りやあのスライムの攻撃左腕でもらってただろ! 本当に大丈夫なのかよ!」

「問題ねぇよ。遥斗の蹴りもあの魔物の攻撃も腕で受けたからな。怪我は拳だから殴らなきゃ大丈夫だよ」

「それならいいが……いや、やっぱり駄目だ。修行はここで一旦終わり。まずはもう一度キョウヤの腕をこの世界の医者に見てもらって万全になってから修行を再開しよう!」

「はぁ! だから大丈夫だって言ってんだろ。左手使わなきゃ……」

「馬鹿言うな! キョウヤお前! 腕と手は別物じゃないんだぞ! さっきみたいに腕で攻撃を受けて、その振動で拳の骨に異常が出る可能性だってあるだろうが! そんな状態のお前を、むざむざ死地に送りこめる訳ないだろ!!」

「だが……早く強くなってお前達を元の世界に」

「お前も一緒じゃなきゃ意味ねぇってのがわかんないのか! このかぼちゃ頭!!」


 遥斗による強烈な頭突きが、恭弥の額を襲う。

 あまりのことに仰天する恭弥。そんな彼の胸ぐらを掴み、遥斗は自分の元に手繰り寄せる。


「キョウヤお前、僕の頭突きすら避けれないくらいヘロヘロじゃないか。そんな状態のお前に、こっから先何が出来るって言うんだよ!!」


 遥斗の言葉に、恭弥は何も言い返すことが出来なかった。


「キョウヤの手の怪我も、今はアドレナリンが出てるから痛くないだけだ。やがて痛みも出てくる。僕はこのチームの参謀を任せられた身として、そんな状態のお前を前線に出すことは出来ない! わかったな!」

「だが……」

「うんうんわかるよ〜」


 突然、背後からよりかかってくるように肩を組まれ、恭弥は何事かと後ろを振り向いた。

 そこにはいつの間にか立っていたマーリンがおり、彼女はうんうんと首肯いていた。


「怪我の痛みなんて我慢すればなんとかなる。だが、あんなに圧倒的な力量差を見せつけられて黙って休養を取るなんて我慢ならない! わかる! わかるよ〜! 君はよくフェンネルに似てるからね〜……だから」


 そう告げた途端、マーリンの口元が不敵な笑みを作り、恭弥が反応するよりも早く恭弥の鳩尾を蹴り抜いた。

 それはあまりにも突然で、受けた恭弥も油断していたと言わざるを得ない。

 踏ん張ることすら許されなかった恭弥の身体は宙に浮かび、数メートル後方へと蹴り飛ばされた。


「今から君達全員をここでボコる。意識を保つどころか、全身動かせなくなるぐらいメッタンギッタンにボコる。いいね?」

「ちょっ、ちょっと待ってください! 何もそこまで――」


 慌てるように倒れた恭弥と拳をポコポコと鳴らすマーリンの間に立った遥斗は立つが、言葉の全てを言い終える前に彼の顔面にマーリンの拳が突き刺さった。

 避けることすら出来なかった遥斗の頭はダンジョンの床に叩きつけられ、少し遅れてその身体も地面に倒れた。


「遥斗!!」

「何か勘違いしてるね。わたしはちゃんと言ったはずだよ。君達()()をここでボコる、と」


 ゆっくりと立ち上がりながら、口から垂れた血を腕で拭い、遥斗はマーリンの姿を捉えた。だが、視界は歪み、気を一瞬でも抜くと身体が前に倒れそうな感じがした。


(今の一発、殺気はまったく感じなかった。手加減されたってことか? いや、威力だけならこれまでよりも段違いだった。……例の鎧武装(ガイムソウ)って特殊能力(スキル)を使ったのか?)


 何故いきなりマーリンがこんなことをし始めたのか、遥斗には皆目見当もつかなかった。

 恭弥の腕を治療する時間を稼ぐ為に、我が強く、助言を聞こうとしない恭弥を力づくで止めると言うなら百歩譲って理解出来た。だが、まったく関係ない自分達までボコるというのは理解しようがない。


「理由を……窺ってもいいですかね?」


 気丈に振る舞おうとするも、遥斗の声は震えていた。

 それが痛みによるものなのか、それとも目の前の女性に対する恐怖からなのか、遥斗にはわからなかった。

 そんな遥斗の視界に、一人の巨漢が映った。


「恭弥君達に、手を、出すな~!」


 太一は避けようとすらしないマーリンに対し、力の限りを使った諸手突きを繰り出した。

 だが、マーリンが吹き飛ぶことは無かった。

 それどころか微動だにすることすら無かった。


「良い威力だね。相手がわたしじゃなかったら死んじゃってたかもな〜。ま、わたしの鎧武装(ガイムソウ)の敵じゃないんだけど、ね!」


 マーリンの見よう見真似でやった諸手突きが、動揺し、硬直していた太一の腹に突き刺さった。

 その威力は太一が今まで感じてきた中で段違いに強く、太一は意識を保つことすら叶わず、その場に倒れ伏した。


「まじか! 太一君の攻撃受けて微動だにしないどころか、あの太一君を一発とか、ヤバすぎんだろあのババア!」


 それは一部始終を見ていた修の本心から出た言葉だった。

 驚きからか声は大きく、その場にいた全員にその声は届いた。当然、マーリンにも。


「次は君をぶん殴ろう。いや、いっそ殺すか」


 笑顔で告げるが、一切目が笑っていないマーリンの表情に身の危険を感じた修は急いで服の下に隠していたピクマル型の改造釘打機を取り出し、咄嗟に構えた。


「面白い形の武器を使うな。それも君達の世界の弓矢かい?」

「あんな旧型兵器と一緒にすんなよババア!」


 ブチッと何かが切れる音が辺りに響き、マーリンはゆっくりと修の元へと歩を進め始めた。

 ゆっくりと、だが確実に近付いてくる生命の危機を前に、修は引き金を引いた。

 連射式の改造釘打機から発される釘は音速の速さでマーリンの元に向かう。


(よし当たった)


 修は避けようともしないマーリンの姿を見て確信するが、次の瞬間、釘はマーリンの身体を通り過ぎていった。


「…………は?」


 目の前で起こったことが理解出来ず、修は再びゆっくりと歩いてくるマーリン目掛けて引き金を引いた。だが、今度の釘達も彼女の身体を通りすぎるだけで、当たっているようには見えなかった。


「なんで釘が通り過ぎんだよ意味わかんないだろ!」


 叫びながら引き金を引くも、修が撃った全ての釘は敵に当たることすら出来ずに地面へと転がった。


「射手の腕は良い。矢の出も速い。何より矢を改めて用意せずとも連続して放てる点は素晴らしいな。だが、結局当たらないのだから弓矢と大差無いな」

「てめぇ」


 修は改造釘打機を手放すと右手にモンキーレンチを取り出し、マーリン目掛けて容赦なく振り下ろした。

 怒ってはいても、修の動きは必要最低限の無駄の無い動きであり、振り下ろしまでの動きはコンマ数秒の素早い動きだった。

 だが、マーリンは平然とした様子で修の腕を掴み、攻撃を無力化してみせた。


「よく覚えとけよクソガキ。わたしは永遠の二十代だ。二度とババアと言うな!!!」


 鎧武装(ガイムソウ)で威力を上げた怒りの拳が修の身体にクリーンヒット。

 修は悲鳴を上げることすら許されず、マーリンが腕を離すと同時に地面へと力無く倒れ伏した。


「次は君かな?」


 マーリンが向いた先、そこに立っていたのは政宗だった。

 納刀して刀の柄に手をかける政宗の姿を見て、マーリンはなるほどと呟いた。


「君はこの子同様武器を使うタイプか。遠距離も対応出来る彼とは違う剣を使ったゴリッゴリの超近接タイプ。なら、わたしも武器を使ってあげよう」


 マーリンの不穏な言葉に政宗は警戒の色を見せるが、何故かマーリンは何かを取り出すような仕草はしなかった。

 政宗が不思議に思ったその時、突然、どこからともなく何かが凄い勢いで飛んできて、マーリンの右手に収まった。

 それは先程までマーリンが飲んでいた酒の瓶だった。

 政宗が飛んできた方向を見ると、地面が隆起して造られた簡易的な射出装置が出来ていた。


「見ての通り、このダンジョンはわたしの思い通りに動くんだ。こうやって手放していた武器を手元に戻す事もできるし、地面を操作して適当に武器を造る事も出来る。結構面白いだろ?」

「それは別に構わぬが、もしやその一升瓶で拙者の相手をするつもりではござらぬな?」

「そのつもりさ。だって君、スライム如きを相手にしてボロボロじゃん」


 マーリンの言葉に、政宗は言い返すことすら出来なかった。

 先の戦いで、自身の身体に強力な負荷をかける『七天抜刀流、晴天の型、晴円烈火(せいえんれっか)』を使い、最早立っているのも限界の状態だった。

 だが、目の前で四人の仲間が倒れ伏す光景を見た。

 それを見て、身体が思い通りに動かないからと言って、ただ黙って見ているなんてことは、政宗には出来なかった。


「推して参る!」


 政宗とマーリンの間の距離は一瞬で詰まり、政宗の刀とマーリンの酒瓶が交差する。


(一升瓶すら斬れぬとは……)


 自分の力の無さに悲観するも、政宗は何度もマーリン相手に斬りかかった。

 その威力は並大抵のものではなかったが、一升瓶に傷がつくことはなく、最後は政宗の身体が限界を迎え、攻撃を受けることなく、その場に膝をつき、倒れてしまうのだった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


・シティハンターの映画を原作も知らない状態で行ったら初手ドン引きした鉄火市です。

 でも映画は超絶面白かったです。原作も読もうと思います。

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