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第4話:上位個体だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)

 前回のあらすじ。

 物理攻撃がまったく効かないスライムに苦戦するも、恭弥、政宗の攻撃でなんとか撃退することは出来たが……

 


 手がビリビリと痺れる感覚。

 久しく感じることのなかった芯を捉えた感覚。

 グローブに包まれた右手を、海原恭弥(かいばら きょうや)はがっしりと握りしめる。


「ようやく良いのが入ったな」


 表情に微かな笑みを浮かべながら、恭弥は呟いた。

 パラパラと崩れ落ちる土片、壁に大きく広がった亀裂が、恭弥の放った右ストレートの威力を物語っていた。

 魔物の姿は土煙で視認出来ない。だが、恭弥は倒した相手の姿に興味は無いと言わんばかりに壁へ背を向け、遠くに立っていた仲間達の元へとゆっくりと戻っていく。

 そんな恭弥の耳に聞き覚えのある声が届いた。


「三十点ってところかな〜」


 その声に恭弥の足は止まり、声がした上空を見上げた。

 そこには地割れように広がった天井からゆっくりと降り立ってくるマーリンの姿があった。

 マーリンは意気揚々と降り立つが、恭弥の表情は険しいものになっていた。


「三十点だと?」

「あれ、お気に召さなかったかい? 君達五人の評価は百点満点中の三十点だ。まぁ、よくやったほうなんじゃないかな〜。魔法が使えないにしては、だけど」


 聞き捨てならない発言だった為に恭弥は食い下がろうとしたが、それを手で制したのはいつの間にか側に来ていた伊佐敷遥斗(いさしき はると)だった。


「流石に聞き捨てなりませんね。恭弥は物理攻撃の効かない相手を倒しました。いくら貴方があの騎士団長を最強にした師匠だったとしても、酒で評価を濁らすようなら敬うことは出来ませんね」

「へ〜、君、そんな顔も出来るんだね〜。ちょっと驚いたよ。でも、酒で評価を濁らせたってのは違うね。わたしは純然たる事実を述べただけだよ。だってまだ、あのスライムは死んでないんだからね」


 マーリンがそう告げた直後、突然地響きが鳴り響き、ドーム天井まで届くほど巨大化したスライムが、恭弥達の視界に現れた。


「ヨクも……ヤッテ……クレタな!!」


 ドーム全体に響き渡る不快な声に、遥斗は歯を軋らせた。


「なんでまだ生きてんだよ、あの化け物! キョウヤの右ストレートだけじゃなくマサムネの晴円烈火も食らってただろ!」


 怒りを露わにする遥斗とは違い、マーリンだけが、そのスライムに対し、涼しげな表情を見せていた。


「魔物の中にはスライムのように魔法でしか倒せない相手が存在する。君達がこれから対峙していくであろう魔人達は殆どがその類いだ。つまり、どんなに工夫しようと腕っぷしだけでやっていけるほどこの世界は甘くはない、ということだね。だが、魔法とは才能の世界だ。魔法の無い世界から来た君達に魔法を使えなんて無茶も良いところ。出来たところで魔人どころか魔物にすら通用しないだろうな。だが、別に魔法を使わなくても魔物や魔人を倒す術はある」


 そこまで言うと、突然、マーリンの持つ一升瓶が光を放ち始めた。


特殊能力(スキル)鎧武装(ガイムソウ)、プラス付与(エンチャント)


 マーリンはしゃがみ込み、そして人間技とは思えないほど高く跳躍し、まるで瞬間移動でもしたかのようにスライムの眼前に移動した。


「ニンゲン……ミナゴロシ」

「借りもんの魔力で粋がんなよ、スライム君」


 襲いかかってくるスライムに笑みを向け、マーリンは一升瓶を一閃。

 たった一振りの、ましてや一升瓶による一撃で、ドーム天井に届きうるほど巨大化したスライムは、強烈な断末魔を上げ、靄と化した。

 自分達が与えたダメージがあるとはいえ、あれほどまでに苦戦したスライムのあっけない末路に、恭弥達はただその光景を呆然と見送ることしか出来なかった。

 そして、その光景を作り出したマーリンは何事もなかったかのように悠然と降り立ち、恭弥達の方を向いた。


「魔力を身に纏って戦う。戦闘能力は高いが魔法をまったく使えない君達が唯一魔人と渡り合う方法だ。是非とも教訓にしてくれたまえよ♪」 


 昨日までとはどこか違う悠然と、それでいて凛とした立ち姿に、恭弥は拳を強く握りしめることしか出来なかった。


 ◆ ◆ ◆


 晴れ晴れとした昼下がり、百名はくだらないであろう若者達は天然の芝生の上で、木剣を振るっていた。

 指導者と思われる大柄な男性の掛け声に合わせ、少しも乱れない剣の振り。

 ただでさえ気温は四十度を上回っているというのに、その一帯だけは彼らの熱気のせいで十度は上昇しているのではなかろうか。

 そんな中、一人だけ汗だくになりながら外周を走っている青年がいた。

 額どころか全身から汗を噴き出し、着ている服はびしょびしょ。

 体力の限界からか顔の位置は定まっておらず、今にも倒れそうに走っている。

 そして、周囲の予想どおり、その青年、フューイは自分の足に絡まり、踏ん張ることすら出来ずにその場に転倒してしまった。

 すぐに起き上がろうと、手を地面につくが、まるで巨大な鉄球を持ち上げているかのように微動だにしなかった。

 そんなフューイの前に一人の男が現れた。


「おいおい、もう限界か? まだ他の奴らの半分も走ってないぞ?」


 呆れたように告げる赤髪の男を、フューイは恨めしそうな眼差しで見上げた。だが、口から出るのは荒々しい吐息だけで、声が発されることは無かった。

 そんなフューイの言葉を代弁するように横から可愛らしい声が入る。


「しょうがないよ団長〜。この子は昨日まで普通に村で若者やってたんでしょ? メフィラスのおっさんの下で鍛錬を積んできたうちの連中と同じ鍛錬して、ついてこれる訳ないじゃん。ほら、水持ってきてあげたんだからちゃんと飲みな〜」


 木製のジョッキに注がれた水を見た瞬間、フューイは感謝の言葉よりも先に両手でジョッキを握りしめ、一目散に自分の喉に流し込んだ。


「ありがとう……ございます……」

「いいっていいって。キョウヤっちの友達は私の友達でもあるんだから遠慮しなくていいって!」


 バシバシとフューイの肩を何度も叩いてくるサキュラ。そんな彼女の距離感の近さのせいか、フューイの表情が微かに赤らめていく。


「そういえばキョウヤさん達が修行に行ってる場所ってフェンネルさんの師匠がいるんですよね?」


 いかんいかんと首を振り、雑念を吹き飛ばすべく、フューイは思い出したかのような質問をフェンネルにぶつけた。

 唐突な質問にフェンネルは水を飲むのをやめ、フューイの質問に答えた。


「……ん? ああ、師匠にあいつらの稽古をつけて欲しいって頼んだからな。今頃は酒瓶でぶん殴られてるところなんじゃないか?」

「酒瓶でですか!?」

「ああ、あのババア、気に入らないことがあると鎧武装(ガイムソウ)って特殊能力(スキル)で強化された酒瓶を使って殴ってきたからな」


 フェンネルのまるで忌まわしい記憶を思い出しているかのような喋り口調に、フューイは思わず悪寒を覚えた。


特殊能力(スキル)で強化された酒瓶で殴るって……いったい何者なんです、その人?」

「何者か、か。……一言で表現するのは難しいが、それでも敢えて表現するなら、世界最強の魔法使いってところだな」

「世界最強の魔法使い……ですか?」

「ああ。なぁフューイ、魔法使いとして必要な才能ってなんだか答えられるか?」

「才能、ですか? う~ん……やっぱり属性とかですかね? 僕は結構魔力がある方だったんですが、使える属性が無いせいで魔法は撃てませんし」

「まぁ、それも一つだな。サキュラ」

「確かに使える属性も重要だけど、やっぱり一番は魔力でしょうね〜。どんなに使える属性が多くても魔力が無きゃ威力は出ないし、すぐ枯渇しちゃうからね」

「その通りだ。俺の師匠は個有能力(ユニークスキル)迷宮創造(ダンジョンクリエイト)』というものを持っているが、これは一見、師匠の自由自在に迷宮の内装や魔物を造ったりする能力に思われるが、この能力の真価はそこじゃない。この能力の真価、それは……巨大な魔力貯蔵庫だ」

「魔力の貯蔵庫、ですか?」

「そう。あのダンジョン、構造上地下に出来てるように見えるが、実際は異空間のような状態である為、時間的な概念や地理的な構造、中の広さも自由自在。だからこそどこにでもダンジョンを造れるという意味のわからない能力になっている訳だ。だが、一番意味不明なのはそこじゃあない。あのダンジョンに魔力を貯蔵すればいつでも好きな時に魔力を引き出せるようになるって点、これが一番最悪だ!」

「? それのどこが最悪なんですか? 強いですけど、魔法使いなんて魔法を唱える前に肉弾戦で倒しちゃえばいいじゃないですか。キョウヤさんにもやれたんですから、団長にも出来るんじゃないですか?」

「確かに並の魔法使い相手だったら勝てるだろうな。だが、遠距離になれば無限とも思えるような魔力を使った殲滅魔法。中距離になれば惜しみなく使える魔力で多種多様な連続攻撃。近距離は鎧武装(ガイムソウ)でフルボッコ。こんなやつ勝てる訳ないだろ。……正直……あの師匠がいなければ俺がここまで強くなることは無かっただろうが、逆に言えば、あの人が相手じゃなきゃ、俺は十代という貴重な時間を血みどろの状態で過ごすことは無かっただろうなと、今でも思うよ」


 遠い目で空を見上げるフェンネルの姿を見たフューイは、どうか無事帰ってきてくださいねと、同じ空を見上げて恩人達の無事を祈るのだった。


 ◆ ◆ ◆


 スライムが黒い靄と化したことにより、その場は闇が如く真っ暗になるが、次の瞬間、その靄達は、まるで吸い込まれるようにマーリンの身体に吸収されていった。

 先程まで喧騒に包まれていた空間に静寂が訪れる。

 自分達の勝利だと勝ち誇るつもりは、恭弥には無い。

 サイクロプス戦()の時と一緒だった。

 自分だけでは勝つことが出来なかった悔しさが、不甲斐ない自分への憤りと化し、歯を強く食いしばることしか出来なかった。

 そんな状態の恭弥の元にマーリンはゆっくりと歩み寄ってきた。


「君達五人はフェンネルの特殊能力(スキル)鎧武装(ガイムソウ)を見たことがあるかい?」

「他の三人は知らないけど、俺っちと政宗君はあるよ」


 マーリンの質問に答えたのは雷堂修(らいどう しゅう)で、彼は政宗の方を親指で差しながらそう告げた。


「シュウ、それはいつのことだ?」

「魔人戦の時だよ。あの時、あのおっさんはさっきのこの人みたいに全身がキラキラってなってさ。メチャ強状態になってたんだよね〜。攻撃をそのまま返される外殻に包まれてたのに圧倒してたんだよな〜」


 修の話を聞き、遥斗はそういえばそんな話を以前聞いたことを思い出し、手を口元に当てた。


特殊能力(スキル)か……。そういえば昨日フィルって騎士が特殊能力(スキル)について詳しく教えてくれてたな。確か、巻物を使うか修練を積めば誰でも習得出来るとか……なるほど。あの騎士団長の狙いがわかってきたな)


 遥斗は再びマーリンの方へと視線を戻す。

 顔色は泥酔者特有の赤みを帯びた状態で、今も一升瓶に口をつけ、ラッパ飲みを始める始末。

 痩せてはいるが、目に見えてわかる程の筋肉はなく、最初は訓練する為の施設提供と、隠れ家の提供をする為だけにこのマーリンという女性はいるのだとばかり思っていた。

 だが、先程の戦闘を見て改めて理解させられてしまった。

 この女性が、ファルベレッザ王国最強の騎士団長、フェンネル・ヴァーリィの師匠であるということを。


「ぎもぢわるぅ……」

「どうかしたんですか?」


 マーリンが今にも吐きそうな程真っ青な表情をしていることに気付いたソフィアは、マーリンの元に赴き、彼女に肩を貸した。


「いやね。さっきのスライム倒したら魔力がだいぶ戻ってきたんだよね……。あいつ、半年分くらいの魔力吸収してたみたいでさ、ちょっと発散しないと本気で吐きそう」

「ちょっと何言ってるかよくわからないですが、どうしたらいいとかありますか……」


 ソフィアにはマーリンの言葉の真意がよくわからず、どうしたらいいかと慌てるが、マーリンの方は何かを閃いたように顔色が一瞬で明るくなった。


「逆にちょうどいいかもしんないな〜。一人じゃ足んないかもしんないけど、五人いっぺんになら少なくとも半月分くらいは発散出来るかもしんないな〜」


 そう言ったマーリンの表情は、何か悪いことを企んでいるのがまるわかりで、もしかして考え方って師匠に似るのかな〜と、ソフィアは密かに心の中で思うのだった。


 1ヶ月以上、投稿出来ず、すみませんでした。

 文学賞用に作っていた小説も投稿を終え、ようやく本腰を入れてこちらに励めることになりました。

 とはいえ、自分も社会という魔窟に住む若輩者としての勤めを果たさなくてはならない為、時折そちらのせいで執筆に時間を取れなくなり、遅れることもあるでしょうが、それでも見てくださっている方々の為にも書き続ける所存です。

 これからもどうかよろしくお願いいたします。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。


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