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第4話:上位個体だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)

 前回のあらすじ。

 謎の魔物はスライムの上位個体だったらしく、ダンジョンの魔力を吸って強くなっており、マーリンは酒が切れたと帰っていきました。


『目の前の人間を襲え』


 最初はそんな声を耳にした。

 周囲には仲間の魔物がおり、人間は只一人。

 炎のように赤い髪をかきあげた若い男。

 最初は襲おうと思った。

 だが、次々と黒い靄へと変わっていく仲間達と、その男の圧倒的強さを目の当たりにし、スライムは初めて恐怖という感情を覚え、逃亡した。

 絶対に逃げ切れるはずはない。

 そんなことはスライムも理解していたが、逃げる以外の選択肢は無かった。

 だが、スライムは殺されなかった。

 見向きされることすら無かった。

 安堵を覚えると同時に、スライムの中に屈辱という今まで感じたことのない感情が芽生えた。

 そして、スライムはどこからともなく流れた機械のような聞き覚えのある声を耳にした。


『ダンジョンスライムはスライムに進化しました』


 それが、全ての始まりだった。


 ◆ ◆ ◆


 マーリンがこの階層から出ていくと、ぽっかりと空いていた天井の穴はすぐに修復され、元通りになってしまった。


「ん〜? 結局あの人は何がしたかったんだろうね〜?」

「僕にわかる訳ないだろ」


 マーリンが出ていった方を見ながら雷堂修(らいどう しゅう)は隣の伊佐敷遥斗(いさしき はると)に尋ねるが、遥斗は素っ気なく答え、『上位個体(ネームド)』スライムの方へと視線を戻した。

 スライムは未だに硬直したまま動こうとはしなかった。

 それを見てか、遥斗はすぐ近くにいたソフィアに尋ねる。


「王女様はあのスライムって魔物に詳しいんですか?」

(わたくし)も人並み程度しか詳しく知りません。ただ、数年前にスライムの研究家を名乗るスライ・ムシラベールという方の研究論文については拝見しました」

「名前凄いな。それで、何か弱点に関する情報はあったんですか?」


 ソフィアは少し間を置き、答えた。


「非常に申し上げにくいのですが、そもそもスライムは弱点を探るような敵ではないのです。なにせ狩ろうと思えば子どもでも倒せる魔物ですから。ですが、殴るや斬るといった物理的な攻撃には耐性があり、あまり効果は見込めません。ましてや『上位個体(ネームド)』ともなれば、まず効果はないでしょう。攻撃するのであれば魔法等の攻撃をおすすめします」

「それはまた……なんと言いますかぁ……相性悪いなぁ〜」


 遥斗は後ろ髪をかきながら苦笑した。

 海原恭弥(かいばら きょうや)須賀政宗(すが まさむね)山川太一(やまかわ、たいち)、この三人はそれぞれ、瞬発力、攻撃力、破壊力と人並み外れた攻撃特化の才能を持っているが、ソフィアの話を信じるのであれば、今回それらは役に立たないということだ。

 そして、あらゆる武器を使いこなす器用さを持つ修もまた、改造釘打機しか持っていない今、役に立たないと言わざるを得ない。


(当然僕のジークンドーもあのスライム相手じゃ役に立たないってことだ。王女様は多分魔法は使えるだろうけど、それは僕のポリシーに反するし……はてさてどうしたものかな)


 不思議と笑みを浮かべる遥斗。

 その表情に気味悪さを覚えたソフィアは遥斗から黒いスライムの方へと目を向けた。


「いけません! 攻撃が来ます!」


 ソフィアの言葉は大きく、そして通りの良いハキハキとした声だった為、その場にいた全員の耳に届く。だが、恭弥達はソフィアの言葉よりも早く、回避行動に移っていた。

 スライムの身体から無数に生える触手が、恭弥達が先程までいた場所に雨の如く突き刺さる。

 だが、只一人を除いた全員がその触手を完全に避けていた。

 触手の雨が止むと、修は、あっちゃぁ、と呟いた。


「お〜い太一く~ん。無事ですか〜?」


 まったく心配している様子の伝わらない言葉をかける修。

 だが、それに呼応するように呑気な声が聞こえてくる。


「大丈夫だよ〜」


 太一の周囲には、他の場所同様多くの触手が攻撃したような形跡はあるが、まるで太一の巨体を避けるようにして深々と地面に突き刺さっていた。


「相変わらずタイチは意味不明な身体してんな〜。こんな尖った触手すら無傷で弾くとか、もうタイチの方がスライムなんじゃないか?」


 呆れたように告げる遥斗。そんな遥斗の横で、修が何故か自分達の方へと来ない太一に疑問を抱き、再び声をかけた。


「お〜い太一く~ん。なんでこっちこね〜んだよ〜?」

「なんか閉じ込められちゃった〜」


 相も変わらぬ緊迫感のない声で返す太一に、修は露骨な溜め息を吐いた。


「折っちゃえばいいじゃん」

「それもそっか〜」


 満面の笑みでそう言った直後、太一はその周囲にあった邪魔な触手をぶっ壊しながら遥斗や修のいる方へとやってきた。


「相変わらずだな、太一は。さて――」


 恭弥は太一の方に向けていた施設をスライムの方へと向けた。


「あれが森にいたあのぷるぷると同じ生き物ね〜。未だに信じられねぇが、なんかぷるぷるしてるし嘘じゃねぇんだろうな」

「キョウヤ、あのネームドとかいうスライムはお前のボクシングスタイルとは相性が悪いみたいだぞ?」

「そうみたいだな。ところで遥斗よ。相性が悪いとか人数的に不利とかで、今まで俺が止まったことなんてあるか?」


 遥斗は恭弥のその言葉を聞いてか笑みを見せると、一歩下がった。


「修! あれ、造っといてくれたか?」


 恭弥に声をかけられ、修は一瞬ぽかんとするが、すぐに思い至ったのか、白いポケットに手を突っ込んだ。

 そして、すぐに修は取り出した。一対のグローブを。


「宿屋の女将さんに感謝しなよ。俺っちの代わりに造ってくれたんだからさ」


 そう言いながら、グローブを投げ渡す修。

 それを受け取ると、恭弥は両手にはめ、感触を確かめ始めた。


「サイズもぴったり。注文通りだ」


 嬉しそうに笑い、そして、恭弥は構えを取る。


「ラウンドツーだ」


 その一言を告げ、恭弥の姿が消える。

 だが、スライムには全て見えていた。

 常人離れしたスピードで、自分の方へと近付いてくる恭弥の姿を。

 放っていた触手を身体に戻しきると、スライムは恭弥一人に対し、触手の雨を降らせた。

 だが、恭弥はそれら全てをトップスピードを維持したまま回避し、スライムとの距離を詰めた。

 恭弥との距離は二十メートルを切った。

 スライムは恭弥に向けて、今度は直線状の触手を放った。

 距離も距離だけに絶対かわしきれないと、スライムはそう思っていた。

 そして、スライムの予想通り、恭弥の足は止まった。

 次の瞬間、恭弥の姿がスライムの視界から完全に消えた。

 目の無いスライムに視覚は無いのだから、視界というのはおかしいのだろう。だが、それ以上の的確な表現が見つからないほど、スライムは完全に恭弥の姿を見失っていた。


「ドコに……?」


 直後、スライムは側面から強烈な一撃をもらい、その身体を弾け散らせた。


「ナ……に……?」


 何が起こったのか、スライムには理解出来なかった。

 只一つ言えることは、先程まで目の前にいたはずの恭弥という人間が消え、どうやってか横から攻撃を放ってきたということだ。

 スライムは混乱した。

 自分の肉体が受けた攻撃は魔法的な側面を一切持たない物理攻撃。

 それは間違い無かった。

 だが、自分には物理無効の能力があることをスライムは理解している。

 自分の認識が間違っているのかと不安に思うが、すぐに体勢を立て直すべく、その形を先程までと同じ状態へと戻していく。

 視覚を作れば、今度ははっきりと恭弥の姿は認識出来た。

 やはり、魔法的な効果があるようには見えなかった。


「ナニを……した?」

「何って……殴っただけだよ。こんな風にな」 


 再び恭弥の攻撃が炸裂する。

 今度は弾き返さんと自由自在の肉体を弾力重視にしようとした。

 だが、それよりも早く恭弥の拳はスライムの肉体を捉える。

 次の瞬間、スライムは自身の核にダメージが入ってることを確信した。

 何故、物理攻撃が効かないはずの自分にダメージが入ったのか先程同様さっぱりわからなかったが、スライムはこのまま受け続けるのは不味いと、周囲一帯に触手の雨を降らせた。

 流石の恭弥も、距離を取ることしか出来ず下がっていく。

 外側へのダメージはなく、内側で守っているはずの核にのみダメージが入った事実に、スライムは動揺が隠しきれなかった。

 しかし、スライムに落ち着く時間が与えられることは無かった。


「政宗!」


 恭弥の叫ぶ声がドーム状のボス部屋全体に響き渡ると、スライムは身体が熱くなっていくのを感じた。


「七天抜刀流、晴天の型、晴円烈火(せいえんれっか)


 凛とした声が響き渡る。

 直後、広範囲に広げられた触手の檻が赤く燃えさかり、その全てが一刀両断された。

 そして、政宗の刃はスライムに届いていた。

 一切、加減をしなかった政宗の一撃をその身に受け、スライムは自身の身体が燃えていくのに気付いた。

 すぐに消さなければ危険だと、スライムにはわかっていた。

 自身の肉体は物理的な攻撃には強いが、魔法的な攻撃には弱い。

 その弱点はスライムである以上、どうすることも出来ず、その中でも炎系の攻撃にはめっぽう弱い。

 せっかく蓄えた力を、あの人間に復讐する為だけに蓄えたこの力を振るうことなく朽ち果てる訳にはいかない。

 スライムは全神経をもって、その身を燃やす炎を消すことに専念した。

 燃えていた時間はスライムにとって永遠のようにも長く感じられたが、実際は十秒程だった。だが、十秒は恭弥にとって十分すぎる程の時間だった。


「最強右ストレート」


 その言葉が聞こえた直後、スライムの身体は強烈な一撃を一身に受け、後方の壁へと激突してしまうのだった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


・5時まで起きて書いてたんで投稿時間に起きれる気しないので今日は予約投稿です。

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