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第3話:謎の魔物だろうがなんだろうがかかってこいや!!(4)

 前回のあらすじ。

 恭弥は謎の魔物を見て、たった一人で戦いに望むも、中々近づけない為、得意の接近戦に持ち込めず苦戦していた。

 だが、恭弥は持ち前の瞬発力で一瞬にして魔物の眼前まで近付き、拳を放った。

 だが、それは罠だった。


 魔物は人間の言葉を喋ることは出来ない。只一つの例外を除いて。


 海原恭弥(かいばら きょうや)の表情には隠しきれない動揺の色が浮かんでいた。

 確かに聞いた。

 女性のものでもない。

 仲間のものでもない。

 人のものと呼ぶには、あまりにも濁ったようなおぞましい声。

 どうやって発声しているのかもわからない。

 顔がどこにあるかもわからない。

 それほどまでに、魔物の容姿はわからない。

 だが、恭弥は確信していた。

 聞き取るのがやっとのそのおぞましい声が、目の前の魔物から発されたものだということに。


「マサムネ!!」


 動揺して動けないでいた恭弥の背後から大声が発され、直後、恭弥の視界にいくつもの剣閃が漆黒の魔物に刻まれた。

 刀の納刀音と共に崩れ落ちる魔物の黒い肉片。

 恭弥の動揺消えやらぬ中で、恭弥は身体を持ち上げられる感覚を味わった。


「ちょっ、降ろせって太一!」


 えっほ、えっほと自分を肩に担いで運ぶ山川太一(やまかわ たいち)にそう訴えかけるが、彼は珍しく恭弥の言葉を無視し、そのまま依頼人である伊佐敷遥斗(いさしき はると)の元まで送り届けた。

 太一に丁重に降ろされた恭弥の視界に怒る幼馴染の顔が映る。


「おい単細胞。僕はお前になんて言ったか覚えてるか?」

「あっ、いや……」


 腕を組み、笑顔でどす黒いオーラを放つ遥斗の姿に恭弥は言葉をつまらせた。


「僕は言ったよね? まだあいつがどんな奴かわかんないんだから踏み込みすぎんなって。今さっき! 言ったよね!」

「悪かったって……」


 遥斗を怒らせるな。

 幼き頃から身体に刻まれた忠告が、恭弥に謝罪の言葉を述べさせた。だが、遥斗の怒りのポイントはそこだけでは無かった。


「いや、もう別にそこはいいさ。キョウヤが僕の忠告を無視したことなんて一度や二度じゃないんだし、今更どうこう言うつもりは無いよ。だけどさ、なんで敵に捕まったまま抵抗すらしない訳? 死にたいの?」

「んな訳ねぇだろ! あいつが喋ったからそれに気を取られて――」

「そんなはずはありません」


 恭弥の言葉を違うと断言したのは、遥斗のすぐ近くにいたソフィアだった。


「魔物は魔人と違い、言語体系が存在しません。例え異世界転移時に付与された『言語理解』の特殊能力(スキル)があろうと、魔物の発する声を言語として認識することは出来ません」


 確かに、恭弥もこれまで何匹もの魔物と戦ってきたが、言語を介する魔物と出会ったことは無かった。

 幻聴なのか、それとも気の所為なのか?

 恭弥の中で激しい葛藤が起きるが、すぐに結論は出た。


「やっぱり聞き間違いなんかじゃねぇよ。俺はあの魔物がつまらねぇって言ったのをはっきり聞いた」 


 屈辱だった。

 十年以上鍛えてきた拳をつまらないと一蹴されたあの屈辱が、自分の中の煮え滾る怒りが、あの言葉は幻聴などでは無いと断言した。


「ありえません。少なくともダンジョンモンスターという戦うことしか能のない無機物が言語を修得するなどあり得ません」

「まぁまぁ。別にいいじゃん、そんなんどうだってさ」


 一歩も譲らない恭弥とソフィアの間に割って入ったのは、雷堂修(らいどう しゅう)だった。


「どうせ魔物は政宗君が斬っちゃった訳だしさ。今更そんなことで喧嘩なんてしなくたっていいじゃん」


 修の言葉通り、恭弥の右手首にぷるぷるした黒い肉片はあるが、それは本体では無い。

 魔物の本体は須賀政宗(すが まさむね)の刀が切り刻み、地面に散らばっている。

 どこからどう見ても、決着は着いたように見えた。

 だが、修の言葉で、遥斗は異変に気付いた。


「あれ、なんで霧散しないんだ?」


 遥斗の疑問に一拍遅れ、恭弥とソフィアも異変に気付く。

 ダンジョンモンスターは、倒されれば黒い靄となって霧散する。

 現に、これまで戦ってきた魔物は例外無く霧散していったし、このボス部屋の主であるサイクロプスは霧散し、既に跡形もない。

 だが、恭弥の右腕にくっついている肉片は未だにその形を保っていた。


 違和感に気付いた恭弥達の前で、恭弥の右腕にくっついている肉片がぷるぷると動き出す。

 当然、恭弥によるものではない。次の瞬間――


「……ッッ!?」


 突然、恭弥の顔目掛けて、鋭くなった肉片が飛びかかってきた。

 至近距離にもかかわらず、恭弥は持ち前の反射神経でギリギリのところでかわした。

 しかし、それで終わりでは無かった。

 恭弥に避けられ、宙に浮いた肉片は、そのまま他の肉片達の元へと戻っていった。

 そして、先程と同じように、再び不定形な漆黒の魔物として、恭弥達の視界に映った。


「ニンゲンは……ヤッカイだな。ヒトリにナラナイ……メンドウ……だ」


 それは、今度は恭弥だけでなく、その場にいた全員の耳に届いた。


「ほ……本当にダンジョンモンスターが喋ってる? そんなことって……」

「だから言っただろうが!」

「そんなこと言ってる場合じゃないだろ、バカキョウヤ!」

「え〜やば〜。小間切れ状態からなんか復活してんだけど~」


 恭弥達の反応は様々だが、その中で唯一マーリンだけが、なるほどと、納得顔でその光景を静観していた。


「面白いね〜。まさか私のダンジョンに『上位個体(ネームド)』が紛れこんでいたとはね~」


 マーリンの言葉に逸早く反応したのはソフィアだった。


「『上位個体(ネームド)』!? あり得ません!! 『上位個体(ネームド)』はそもそも魔物にしか生まれないはずです! 魔力で生成されたダンジョンモンスターで……わ……」


 そこまで言って、ソフィアもなにか気付いた様子だった。


「ソフィアちゃんも気付いたみたいだね。そう、あの黒い魔物はダンジョンモンスターではなく最弱種で有名な世にも珍しい、スライムの『上位個体(ネームド)』ってことだ」

「スライムって、あの森で何度か見たぷるぷるした魔物ですか!?」


 スライム自体は遥斗も知っていた。

 王都とカルファ村の道中にある森の中でもしょっちゅう見かけた魔物で、最初は恭弥達もその奇怪な生物に興味を示していたが、次第に戦う意志すら持たない雑魚だとわかり、視界に入っても無視するようになった。

 だが、ここまで近くで見れば、遥斗にもわかる。

 この魔物がそこらで見かけた魔物なんかよりも遥かに強いであろうことに。


「本来、スライムの『上位個体(ネームド)』は弱い。良くてBランクの冒険者と良い勝負だろうね。なにせ最弱の魔物、スライムの『上位個体(ネームド)』なんだからね。でも、この子はこのダンジョンでわたしの魔力を食らって今の今まで生きてきた。それこそ一年や二年なんて短い月日じゃないんだろうね〜。少なくとも十年はここで暮らしていたんだろう? その黒いモヤモヤ、魔力が器を溢れている証拠だね」


 マーリンの問いかけに、黒き不定形の魔物が、上部に人間のような口だけを作りだす。


「そのトオリ……ワレは……あのニンゲンをタオス……そのタメにアラユルモノをトリコンダ……」

「ははっ! びっくりだよ。十回層のボス部屋に置いたアースドラゴンをも超える魔力が無けりゃ魔力が溢れるなんて現象は本来無いんだからね〜」


 そう告げるマーリンの様子はどこか楽しそうだった。

 目の前に現れた危険な異分子を見ても動揺するどころか笑ってすらいるその姿に、ソフィアは不思議と底しれない恐怖を覚えた。


「いや〜。掃除用にスライムも出るように設定しちゃってはいたんだけど、まさかダンジョンモンスターのスライムが『上位個体(ネームド)』になっちゃうなんて、本当、びっくりだよね~」


 楽しそうにケラケラと笑いながら、マーリンが一歩、また一歩と近付いていく。

 そして、マーリンとスライムの距離は五メートルを切った。


「お前、中々面白そうだな。わたしの下僕になれ」

「コト……ワル」

「へぇ……じゃあここで殺すか」


 その言葉を告げた瞬間、恭弥達の身体は言いしれぬ恐怖によってその場に縛られた。

 周囲の気温が一気に下がったのかと錯覚するかのような悪寒。

 身体が小刻みに震え、彼らの本能が警告してくる。


『あの女は危険だと』


 殺気だけで理解した。

 理解させられた。

 このマーリンという女が、目の前の魔物よりも、いや、あの日惨敗した魔人よりも圧倒的に強いということを。


「やっぱ、や〜めた」


 その言葉と共に、マーリンは殺気を完全に解き、いつものあっけらかんな状態に戻った。


「あのバカ弟子から受けた一生のお願いの最中だったんだった。せっかくちょうどいい相手が出て来てくれたんだし、わたしがお前を殺したらちょ〜っと勿体ないよな〜」


 そう言うと、マーリンは堂々と背中をスライムに晒しながら恭弥達の元まで戻ってきた。

 だが、スライムもマーリン目掛けて攻撃しようとはしなかった。

 おそらくスライムも本能で直感したのだろう。

 マーリンには敵わないのだと。

 マーリンは、恭弥達の元まで戻ってくると、恭弥の肩に手を置いた。


「そんじゃあ頑張ってね、異世界から来た勇者君。わたしはちょっと酔いが覚めちゃったから追加持ってくるわ」


 恭弥がマーリンの方に目を向けると、彼女の足場には土が盛り上がっており、土はそのまま高いドーム型の天井を突き破り、マーリンは外の世界へと戻っていった。

 恭弥はただ、それを見送ることしか出来なかった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


・更新日、投稿時間、共に遅れてすみませんでした。

 文学賞用の小説もあらかた書けたので、こちらにようやく集中出来そうです。

 ちなみに投稿時間遅れたのは昨日深夜遅くに書き終えてそのまま寝坊したからです。

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