第3話:未知の魔物だろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)
前回のあらすじ。
五階層ボスであるサイクロプスに挑もうとするも、そこにいたのはサイクロプスを倒したと思われる不定形な黒い魔物だった。
それは漆黒の靄に包まれた不定形な生物だった。
ゆらゆらと揺れながら、その場を動かないその存在を前に、海原恭弥は、やはりか、とその表情に笑みを浮かべた。
「おもしれぇ、やっぱり生きてやがったか!」
「待てって!」
感情の昂りのままに飛び出そうとする恭弥の肩が突如として掴まれ、恭弥は苛立ち混じりの表情で肩を掴んできた伊佐敷遥斗の方を向いた。
「なんだよ遥斗、邪魔すんじゃねぇよ、約束だろ!」
「そんな怖い顔向けんなって、キョウヤ。あいつだよな、例の二階層で会ったダンジョンモンスターってのは?」
「見りゃわかんだ……ってそういや遥斗は見たことなかったんだったな。あぁ、俺達が二階層で会ったのはあいつだ。だが、やべぇな。あの時より更に強くなってやがんな、あいつ」
「わかんの?」
「あぁ、空気でわかる。ありゃ楽しそうな奴だ」
恭弥の楽しそうな表情とは裏腹に、遥斗の表情は強張っていく。
恭弥の言う楽しそうな奴。それは、自分が勝てるかどうかわからないレベルの怪物という表現だからだ。
遥斗は恭弥から視線を外し、既に霧散したサイクロプスの跡と、ボス部屋の奥に視線を向ける。
(下の階層への道が出来てるってことは、ボスであるサイクロプスは完全撃破って訳だ。キョウヤが倒せなかったサイクロプスを瞬殺する程の怪物か。想像したくも無いね。キョウヤの負ける所なんて)
遥斗は目を閉じ、そして逡巡の後、恭弥の肩を離した。
「オーケーオーケー。僕はもう止めない。恭弥がやりたいなら好きにするといい。どうせお前のことだ。僕が何言っても止まらないんだろ?」
「さすが遥斗。俺のことよくわかってんじゃねぇか」
恭弥の言葉に露骨な溜め息を吐く遥斗。
本来であれば、こんな状況下で怪物とのタイマンを許すのは遥斗にとって避けたい事態だった。
だが、恭弥のことをよく知る遥斗は、皆で戦おうという言葉が恭弥の怒りに触れることもよく理解している。
ここまでの道のりでは、この謎の魔物を相手にする為に体力を残しておこうといって協力させてきたが、本来チーム戦は『ステラバルダーナ』のやり方ではない。
「一応これは参謀としての忠告だ。あの不定形で未だにグニョグニョしている黒い魔物はどうやら物理攻撃に強い耐性があるみたいだ。シュウの撃った釘も投げたモンキーレンチも効き目が薄かったらしいからな。ただ、不思議なことにそのどちらも二階層の道中には無かった。おそらく物理攻撃を取り込む能力みたいなのがあいつにはあるんだろう。深く踏み込むのは危険かもしれない」
「なんか二階層のボス部屋終わった時も同じこと言ってなかったか?」
「覚えてるならいい。ほら、行ってこい」
恭弥の背中に紅葉が咲き、恭弥はニヤリと口角を釣り上げる。
「行ってくるわ」
そう短く答え、恭弥は一直線に魔物へと突撃しに向かった。
◆ ◆ ◆
須賀政宗は不思議に思っていた。
恭弥同様、雷堂修を助けに向かい、その先で一時だが戦った。
だからこその違和感。
かのダンジョンモンスターは昨晩よりも遥かに強くなっていることに、政宗は恭弥同様気付いていた。
刃を交えた訳では無い為、実際にどれ程上がったかはわからないが、少なくとも二倍や三倍という話ではないだろう。
ダンジョンモンスターの特別な性能なのか?
だとしても、たった一晩でこれほど強くなるというのは違和感しか無かった。
「やっぱり強くなりすぎだよね〜」
しゃがみながら退屈そうに恭弥と魔物の戦闘を見ていた修が横で呟く。
「修殿もそう思うでござるか?」
「あっ、やっぱり政宗君もそう思うよね!」
ビシッと指を政宗の方に向け、政宗が修の言葉に首肯いたのを見ると、真剣な眼差しを戦場へと戻した。
「俺っちは自分の実力がわからない馬鹿じゃない。俺っちは道具ありなら組の連中の中じゃ敵無しだったけど、それでも恭弥君には勝てない。人としても実力としてもね。でも、昨日の夜のあの魔物は違った。万全の装備さえあれば、俺っちでも勝てると思った。それが恭弥君を相手に善戦どころか押してるときた。これを変に感じないのはおかしいっしょ」
政宗は修の話を否定しなかった。
それほどまでに修と自分の意見は同じだった。
◆ ◆ ◆
「こいつはだりぃな。これじゃ近づけねぇ」
ぼやく恭弥の視界いっぱいに映ったのは漆黒の刺々しい触手だった。
恭弥を串刺しにせんと放たれる触手だったが、恭弥はそれを軽々と避けていく。だが、その表情は何処か面倒そうなものを見るような眼差しを触手に向けていた。
(避けても避けても懲りずに何度も何度も……鬱陶しいったらねぇな!)
恭弥の右拳が炸裂し、魔物の触手は恭弥の拳に負け、その身を爆ぜた。
一瞬、恭弥の表情に喜びが浮かぶが、その表情はすぐに曇った。
「なんだこれ……煙幕か?」
まるで墨を吐かれたかのように視界が黒く染まっていく光景に、恭弥は動揺を隠せないでいた。
「なんだこりゃ、前が全然見えねぇ……チッ、触手を壊すとこうなる訳か。厄介――」
突如として、恭弥は腹部に強烈な一撃を食らう感触を味わった。
何が起こったのか。それを理解させてくれる為の時間は無かった。
「グッ――」
横からしなるように放たれた触手による一撃。
それは恭弥の身体を吹き飛ばし、恭弥は五メートルほど転がり、その身を起こす。
「黒い檻攻撃に槍のような弾の嵐に刺々触手の一撃粉砕、黒い煙に最後は鞭のようなしなる一撃。多彩すぎだな」
無傷とまではいかないが、とても攻撃をもろに食らったようには見えないほどケロッとしている恭弥。そんな恭弥に容赦無い触手攻撃が振り下ろされる。
「しゃあねぇ、上げてくか」
そう呟いた恭弥の頭に触手が振り下ろされた。
それはとても避けられるタイミングではなく、ソフィアはその表情に一瞬、恐怖の色を浮かべた。
だが、すぐにそれが杞憂だったと彼女は思い知らされた。
「最強右ストレート」
恭弥の声が聞こえ、ソフィアは驚きの表情でそちらを見た。
そこにはモヤモヤとした不定形な魔物の眼前で拳を握る恭弥の姿だった。
ソフィアはファルベレッザ王国の第三王女でありながら、剣と魔法の才能を開花させ、今やファルベレッザ王国が世界に誇る甲冑騎士団の副団長にまでのぼりつめた。
そんな彼女ですら、いつの間に恭弥が魔物の前に立ったのか見ることが出来なかった。
「馬鹿キョウヤ!! 踏み込みすぎんなっつったろ!!」
手前に立っていた遥斗が突如として叫びだす。
だが、その警告は時既に遅しというものだった。
恭弥は目一杯の力を右の拳に込め、全身全霊の右ストレートを放った。
(なんだこの感触は?)
それは、今まで感じた事の無い感触だった。
拳はめり込むように不定形な魔物の中心を捉えており、不発など万が一にもあり得なかった。
だが、攻撃が通った感触を一切感じられない不思議な感触。
まるで水の塊を殴ったかのような無意味感が、そこにはあった。
すぐに体勢を立て直そうと恭弥は後ろに下がろうとした。
だが、そこで初めて気付く。
「抜けねぇ!」
先程までは水のようだった魔物の身体が、恭弥の右腕をがっちりと掴んで離さなかった。
汗が恭弥の額に浮かぶ。
「ツマラ……ナイナ」
それは、誰のものとも異なる声だった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
ほんっとうにすいません!!!
長く時間をもらってるうえに短いものとなってしまいました。
次回も遅くなるかもしれませんが、もう少し長く書けるようにしたいと思っております。




