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第2話:ダンジョンモンスターだろうがなんだろうがかかってこいや!!(4)

 前回のあらすじ。

 血が騒いでおさまらない修が単独で2階層を攻略していると、一匹の魔物に出会った。

 それは、黒い靄に全身を覆われ、姿形が上手く認識出来ないというこれまで出会った魔物の中でも異質な存在。

 他とは違う異質なオーラに、修は自分の準備不足を呪い、一時退散を選択する。

 だが、修はその魔物から逃れることが出きず、最後にはピンチに陥ってしまう。だが、そこに現れたのは……


 靄に囲まれ、それでも必死に灯りを灯す燭台の蝋燭が照らし出したのは、上層に居る筈の海原恭弥(かいばら きょうや)須賀政宗(すが まさむね)の二人だった。


「遅くなったな、修」


 恭弥の言葉で、それが自分の作り上げた幻想では無いのだと雷堂修(らいどう しゅう)は自覚した。同時に、安堵と羞恥が心の中でせめぎ合うも、修はそれを相手に見せないように二人に向かって口を開こうとした。


「……遅いよ二人共ぉ……」


 いつもの調子で話そうとするが、思っていた以上に自分の身体へのダメージが重く、それは掠れたものになってしまっていた。

 修は全身を駆け回る痛みに歯を食い縛りながらも、壁に背を預けたまま立ち上がった。

 そんな修は、一人で直立していることも辛そうで、背を壁に預けるような態勢で、荒い息を繰り返していた。


「政宗君も……もうちょい優しくふっ飛ばしてよ……」

「火急の事ゆえ許せ。それより恭弥殿」

「わかってる。どうやら(やっこ)さんは待ってくれなさそうだ」


 恭弥の言葉でダンジョンモンスターの方を見れば、今にも次の攻撃を放とうとしていた。修は急いで武器を構えようとするが、身体は指示を無視するように動かない。


「政宗。腕の調子は?」

「問題無い、と言いたいところでござるが、雨天の型を無理矢理放ったゆえ痺れが取れぬ。情けないが、刀を持つことすら叶わぬ状態でござる」

「だよな。しゃあねぇ。とりあえずこいつは俺がなんとかするわ。政宗は修を連れて一緒に上へ戻っといてくれ」

「委細承知」


 その直後、恭弥に向かって多くの黒く薄い刃が放たれるが、その全てを恭弥は最低限のステップワークで回避してみせた。

 先程まで自分がなんとかぎりぎりで捌いていた攻撃をあっさりとかわされ、修は乾いた笑い声を発した。


「相変わらずの回避スキルだなぁ……俺っちなんて叩き落とすので精一杯だったってのに」

「この程度、万全のお前なら避けれたはずだろ。遊びすぎだな」

「耳が痛いな~。一応言っとくけど、こいつは多分物理的な攻撃が効かないっぽいんだよね〜。現に俺っちのモンキーレンチと釘は効果無かったっぽいし、あの緑髪の女の人が使ってた魔法とかじゃないと効きが悪いんじゃないかな?」

「なるほど。俺の攻撃はあまり効果がないということか」

「多分ね。まぁやってみなきゃわかんないって言うんなら止めないよ。ただ、恭弥君一人でって言うんならあんまりおすすめしないかな。この魔物は俺っち達が相手にしてきた攻撃の効く人間とは違う……どちらかといえば湖で対峙したあの魔人よりの存在だよ。なんの対策も無しに挑むべきじゃない」

「わかってるさ。俺はまだまだ弱え。日本にいた頃はそれなりには強いだろうなとは思っていたが、どうやら俺は井の中の()()()だったらしい」

「……それを言うんなら井の中の蛙じゃないの?」


 修の一言で空気が硬直し、沈黙が流れる。


「……そうとも言うかもな」

「そうとしか言わないんだよな〜」

「どうだっていいんだよ、そんなことは! とにかくだ! 俺はここで死ぬつもりは毛頭ねぇ。修と政宗が上まで戻るまでの時間稼ぎをしたらさっさと退散するさ。だから心配なんかしてねぇでさっさと遥斗達のところに戻ってろ!!」

「へいへい」


 恭弥の羞恥を感じさせる言葉で修は毒気を抜かれたように笑みを見せ、肩を貸す政宗の肩に腕をまわした。


「そんじゃまた後でね」


 背中でその言葉を聞きながら、恭弥は二人が去っていく足音を振り返ることなく見送った。

 その間、攻撃が飛んで来ることは無かった。


「わりぃな、待ってもらって。だが悪いんだが、もうちょい俺に付き合ってくれや。黒いの」


 その言葉を告げた恭弥の表情は、面白そうなおもちゃを見つけた子どものような、そんな楽しげな様子であった。


 ◆ ◆ ◆


 ボス部屋で三人の帰りを待つ伊佐敷遥斗(いさしき はると)は、ちょうど良い大きさの岩に座りながら、一人書物を読みふけっていた。


(この本、百年程前に勇者が魔王を倒した際の伝記だって話だったけど、何度見ても勇者に関する詳しい手掛かりは無しか……)


 その書物にはノースルードの大地で広く使われている言語で書き記してあったのだが、遥斗はそれをすらすらと読み解いていく。


(百年前、異世界から召喚された五人の勇者は大陸の何処かに暮らしているとされていた五人の大精霊と契約し、大陸を支配していた魔王軍と対峙。結果的に勇者の一人を失うも、大精霊の協力もあって魔王の封印に成功した。魔王ってのが、湖に現れた魔人の親玉と考えると、勇者達は相当凄い実力者だったことがうかがえるな)


 遥斗は疲れたように大きく息を吐きだし、かけていた眼鏡を外し、指でくるくると回し始めた。


「それにしても……司書さんからプレゼントしてもらったこの『言語解読』の魔導具は便利だな〜。眼鏡みたいで掛けやすいし、どんな大陸の言語でも勝手に解読出来るし、本当にありがたいや。……ただ、解読設定にニホン語ってのがあるとは思わなかったな。偶然の一致と解釈するには僕の知ってる日本語とあまりにも似過ぎている。多分、百年前の勇者の一人が日本人だったってことなんだろうな」


 遥斗の中で出た結論は口に出ていたが、その場に反応を返してくれる者はいない。一瞬、寂しげな様子を遥斗は見せるが、すぐに誤魔化すように首を振った。


「まったくキョウヤのやつ。シュウが心配だからってマサムネまで連れていくとかいくらなんでも心配し過ぎだろ。シュウだってガキじゃないんだから満足したら勝手に帰ってくるだろうに、ったく、一人こんなところに残された僕の気持ちにもなってほしいもんだね」


 本を閉じ、大きく伸びをした遥斗は、眇めた目を下の階層へと繋がる石階段へと向けた。

 血が騒いでおさまらないという修が下の階層へと足を踏み入れたのがほんの三十分前、それを心配した恭弥が政宗を連れて降りたのが五分程前。

 修がどこまで進んだかまでは知らないが、そんな早く帰ってくるはずが無いと、遥斗も心の内では理解していた。


「まったく……キョウヤが変なこと言うからこっちまで心配になってきたじゃないか!」


 遥斗は悪態を付きながら、再び本を開こうとした。

 その時、不規則な足音が遥斗の耳に入ってきた。

 遥斗は開きかけた本をその場に置き、かけていた眼鏡を眼鏡ケースに入れてポケットにしまった。

 そして、再び視線を階段の方に向ける。


「足音は二つか? にしては一歩一歩の感覚がやけに長くないか?」


 修ならともかく、いくら階段とはいえ、政宗と恭弥がこんながさつな足音を鳴らすとは思えなかった。

 マーリンや王女様が戻って来たのかとも思ったが、すぐにその選択肢も頭からかき消した。


「流石にダンジョンの外に出ていった二人が下から戻ってくるはずないか。となれば可能性は一つ、懸念していた通り、下の魔物が上に登ってきたってことか」


 遥斗は自分の中で出た結論に納得すると、階段の方に向かって構えをとった。

 この場には自分以外誰もいない。

 頼りの綱である山川太一(やまかわ たいち)が熟睡している以上、この場で戦える者は自分しかいない。

 遥斗の表情が今まで以上に真剣味を帯びる。


(……思えば魔物とタイマンしたのは初めてだったかもな)


 遥斗の表情に浮かぶ微かな不安。

 自分よりも遥かに強いという恭弥ですら、魔物相手に苦渋を飲まされたことが何度かあると聞いていた。

 遥斗は自分が他の四人よりも実力で劣っていることを理解している。一瞬、太一を起こすか迷ったが、そんな時間的余裕はもう無さそうだった。

 遥斗は、視線を階段に釘付けにしながら、唾を飲んだ。

 だが、遥斗は階段から現れた者達の姿を見て、すぐに構えを解いた。


「シュウ! マサムネ!」


 遥斗が見ていた階段から上がってきたのは、満身創痍な修と、彼に肩を貸している政宗の姿だった。

 すぐに駆け寄る遥斗の目が最初に気付いた異変は、政宗の右手が微かに痙攣しているところだった。


「まさか七天抜刀流を使ったのか? なんで……まさかボス部屋に!」

「あはは……流石の俺っちでも遥斗君との約束はちゃんと守るさ。いや〜道中にやばいのが居てさ。絶対絶命のピンチを政宗君と恭弥君に助けてもらったって訳」

「そんなやばいのが下にはいたのか……それで? キョウヤは?」

「ここ〜」


 その言葉で遥斗は再び階段の方を見た。

 すると、そこには元気そうな恭弥の姿があり、遥斗はほっと胸を撫で下ろした。だが、修は驚いたように振り返って、恭弥の姿を見た途端、目を限界まで見開かせた。


「あれ!!??? 恭弥君!?? あの魔物は????」


 何がなんだかわからない様子の修は、慌てふためいていたが、恭弥は気恥かしそうに頭をかいた。


「いや、なんかな。修達を逃がした後に、あの魔物が攻撃してきたんだけどさ。あれ全部避けながら近付いて殴ったらなんか煙みたいに分散してな。気付いたらいなくなってたんだよな」

「え!??? 倒したってこと???」


 修にそう聞かれ、恭弥は腕を組んで首を捻った。


「いや〜? 確かに道中の魔物みたいっちゃ〜みたいだったんだが、殴った時の感触がさ、海の水? を殴ったみたいな感じで上手く芯を殴った感触がしなかったんだよな? 俺も訳わかんなくてな。倒したという感じには思えなかったんだよな」

「んんん??? じゃあ逃げられたってことなの? だったら早く合流すれば良かったじゃん」

「いや、なんかあんなこと言って殿引き受けたのに思いの外あっさりだったから、なんか気まずくてな」


 指で頬をポリポリと照れくさそうにかいた恭弥の姿を見て、場の空気が硬直していく。そんな沈黙を拍手で遥斗がかき消した。


「とりあえず、三人には何があったか話を聞くけど、それは明日、二人が来てからにして、とりあえず修の治療を済ませようか」


 そう言って遥斗がこの場を締め、長い一日は幕を閉じた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


・久しぶりの鉄火市です。

 GWは皆さんいかがお過ごしだったでしょうか?

 私は両親といる時間が多く、執筆活動の心配をされてしまいました。

 そもそも鉄火市の名前すら両親は知らないんですけどね(笑)

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