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第3話:長かった一日だろうが疲労だろうがかかってこいや!!(1)


 前回のあらすじ。

 今後の収入源として、『ステラバルダーナ』の面々は、冒険者として狩猟をすることにしたのだが、仲間の一人、太一が突如意識不明の重態に見舞われてしまった。

 だが、偶然にもその場に二人の子どもと、一人の青年が現れたことで、太一結果的にはなんとか一命を取り留めた。

 そんなこんなで『ステラバルダーナ』の面々は、交換条件として、森で出会った三人の母親が経営する宿屋へと赴くことになったのであった。


 恭弥達が森で会った青年(フューイ)に連れてこられた場所は王都ではなく、五分程歩いた先にある小規模な村であった。

 森との境目として、成人男性の腰程はありそうな高さの柵があり、隣接していた王都の家々とは違い、木組みの家がまばらに点在していた。

 また、道や外灯といったものもそう多くなく、煉瓦が敷き詰められていた王都の道と違い、整地がほとんどされておらず、凹凸が目立っていた。

 だが、険しい表情で道行く人々が多かった王都と違い、ここの人々は穏やかな面持ちで談笑したり買い物していたりしていた。

 そんな一見、地球でも見れるような景色ではあるものの、その光景は恭弥達の目を丸くさせた。

 そして、特に恭弥達を驚かせた存在が、こちらに気付き、声をかけてきた。


「おやおやフューイ、後ろの方々は今日のお客さんかい?」


 おおらかな女性を思わせる口調と声を発したのは黒猫。より明確に言うのであれば、人程の身長で女性用の服を着た黒猫であった。

 恭弥の視線がその女性のピンと伸びた髭や、肉球がついた手を見て、最後に顔を見る。

 これまで遠目から見ていた為、被りものかなんかだと思っていた彼らだったが、ここまで接近されれば、流石にそれが偽物の類いでないことくらいは認識できる。


物の怪(もののけ)の類いか?」

「バッカお前! そんなこと言うなって」


 目を鋭くし、刀を引き抜こうとした須賀政宗(すが まさむね)の頭を掴み、そう告げたのは彼の隣を歩く伊佐敷遥斗(いさしき はると)であった。

 遥斗はこちらを見て首を傾げる女性に苦笑しつつ、チームの仲間にだけ聞こえるよう声を潜めた。


「多分、ここでは動物みたいな人がいるんだと思う。王都で周囲の人間が驚いたり騒いだりしていない以上、世間一般の常識なんだろう。だから、あまり変なことを言ったり喧嘩売ったりすんなよ。今更追い出されて森で野宿なんて嫌だろ?」

「確かにそいつは嫌だな」

「うむ、承知した」


 黒猫のおばさんという怪異とも言えるような存在が常識とされる世界というのはなんとも信じがたい海原恭弥(かいばら きょうや)、須賀政宗、雷堂修(らいどう しゅう)の三人ではあったが、毒に侵され現在意識不明の山川太一(やまかわ たいち)の為と聞かされれば、そんな非現実的な光景も受け入れられた。

 結果、なんとか村の住人に然程怪しまれることなく、フューイの母親が経営している宿屋まで辿り着いた。


「ここです。狭苦しいところですが、ゆっくりしていってください」


 フューイの母親が経営している宿屋はそこまで大きい宿屋ではなかった。

 ホテルと比べるのも酷い話だが、そこらの旅館よりも規模が小さく、温泉や豪勢な食事は期待できないだろうな、というのが遥斗の率直な感想であった。

 だが、そんなことは森で儲かっていないという話を聞いた時から薄々わかっていた事ではあった為、そこまでがっかりしたという訳ではなかった。


「ちょっ遥斗君、そんなところで呆けてないで早く入ってよ! 流石に俺っちもそろそろ限界なんだからさ!」

「悪い悪い」


 宿屋の前で立ち止まっていた遥斗に、太一に肩を貸している修から文句の言葉が飛ぶ。

 森から休むことなく太一の体を支えているのだ。

 いくら鍛えてはいるといっても軽く百キロを超える巨体の太一をずっと支え続けるのはきついのだろう。それにしては同様に太一を支えてきた恭弥に苦痛の色が見えないのは色々とおかしいとも言えるが、そこはあえてツッコまないことにした。


 遥斗は既に宿屋の中へと入っていったフューイと同じように、内開きの扉を開けた。


「いらっしゃいませ。あなた方がノエルとロイドが言っていたお客様ですね。お待ちしておりました。(わたくし)、三人の母でシャルフィーラと申します。今宵はごゆるりとおくつろぎくださいませ」


 宿屋に入るとまず目についたのは、優しそうな雰囲気を漂わせる赤みがかった茶髪の女性だった。彼女の背後には、村に入った途端、一目散にどこかへと消えてしまったノエルとロイドが隠れながらこちらをチラチラと見ていた。

 そして、先に入っていたフューイが宿泊の手順について説明しようと振り向いた瞬間、彼の真横をなにかがすり抜けた。

 あまりにも一瞬のことで、フューイには何が起こったのかすぐにはわからなかった。だが、直後に自分の母親が驚いたような声を上げたことで、フューイは首だけをそちらに向けた。

 そこには、驚く母の右手を恭しく手に取り、(つくば)いながら母を見る遥斗の姿があった。


「なんと美しい方だ。琥珀のように輝く瞳、絹の如くきめ細やかな髪。とても三人の子どもが居られるようには見えません!」


 その言葉を聞いた瞬間、フューイの頭が疑問符で埋まった。

 確かに、フューイは自身の母親が年齢の割には見た目が若々しく見えるのは知っている。だが、それでも三十代後半の女性であることには変わらない。

 だからこそ、若々しく顔立ちの良い遥斗が自分の母親を口説くとは思いもしなかった。

 だが、そんなフューイをよそに、遥斗は口説き文句をつらつらと並べていく。


「今日この日、別の世界で生まれた貴女と出会えたのはきっと運命。今宵、このわたくしめとフィーバーいたしませんか――」


 困惑するシャルフィーラを前にして、遥斗は止まらなかった。そんな彼の頭を一発の拳骨が襲う。


「イッッツ!?」


 一切悟らせずに遥斗の背後を取っていたのは政宗だった。

 政宗は痛む頭を両手で押さえる遥斗を見ると、彼の襟を後ろから掴み、無理矢理外への扉まで引きずり始めた。


「人妻はならぬ」

「バッキャロー!! 人妻じゃねぇよ、未亡人だ!!」

「それでもならぬ。家庭を持つ者に好色家を近付けることはできかねる。暫し、外で話をせぬか? 士道のなんたるかを語り聞かせてやろう」

「ふざけんな、離せ!!」


 そんなやり取りをしながらも、政宗は暴れる遥斗を扉の外まで運んでいった。

 それをただただ見送ったフューイは、いったいなんだったんだろう、と心の内で思うのだった。


「俺の仲間(つれ)がすまなかったな。後で俺からも言い聞かせておくよ」 


 太一の肩を支えていた恭弥の言葉で、呆然と扉の方を見ていたシャルフィーラはハッとなり、恭弥の方へと顔を向けて笑みを作った。


「いえ、少し戸惑っただけなのでお気になさらないでください。それより身分証明書のご提示をお願いできますか?」

「ちょっと待ってろよ」

「うおっ!?」


 恭弥は太一から手を離し、左手で尻ポケットに入れていた財布を取り出した。

 その瞬間、急に太一の全体重を支えることになった修があまりの重さで倒れそうになってしまうが、そこは最強と謳われるチームの一人、なんとかぎりぎりのところで踏ん張ってみせた。

 だが、その表情はいつもの飄々としたものではなく、我慢の限界が近そうな表情であった。


「……ちょっとさ、いきなり離さないでくれる?」

「んなこと言ったってしょうがねぇだろ。財布から免許証取り出すには両手がいるんだよ」

「せめて一言(ひとこと)言ってくんない?」

「そいつは悪かったな。ほい、女将さん」


 足と同じように震える声で文句を告げる修に対し、恭弥はまったく悪びれることなくそう告げ、シャルフィーラに免許証を渡した。

 だが、免許証をもらったシャルフィーラはすぐに困惑したような表情を見せた。


「こちらはいったいどういったものなのでしょうか?」

「免許証だよ免許証。普通二輪のやつじゃ駄目だったか?」

「ふつう……にりん?」

「わりぃな。自動車のやつは持ってねぇんだよ。それじゃ駄目なのか?」

「じどうしゃ?」

「ならもう保険証しかないんだが……」


 そう言いながら、恭弥は保険証を取り出して渡すが、シャルフィーラは未だに首を傾げている。


「申し訳ないのですが、こちらではこれらのカードはお使いできかねます。冒険者ギルドで冒険者の資格と証明する為のカードをお受け取りでは無いですか?」


「あぁ、あれ? この変な文字で書かれたカードでいいのか?」

「はい、そうです。そのカードでございます。名前は……かいばらきょうや様? こちらはきょうやが名字でよろしかったでしょうか?」

「いや、恭弥は名前だ。海原の方が名字な」

「それは失礼いたしました。珍しい書き方ですね。他国からいらっしゃったのですか?」

「まぁな」

「なるほど、先程のカードもそれで……。それでは身分証明書をお返しいたします。それと、部屋は五人で寝られる部屋がありませんので、二人用の部屋を三部屋ご用意いたします。あっ、それから夕食はどうなさいますか?」


 そう尋ねられた瞬間、何故か意識を失っているはずの太一のお腹が飯を寄越せとでも言いたげに快音を鳴らした。


「太一君……起きたのなら自分で立ってくんない?」


 限界が近いのか膝が笑い始めた修が、震えた声でそう尋ねるが、太一は反応するどころか微動だにしなかった。

 そんな太一を不審に思ったのか、恭弥は軽く頬を叩いたり、頬をつねったりと何かを確かめるように色々と調べ始めた。そして、満足したのか、腰に手をつきながら苦笑を浮かべた。


「太一の奴、意識ねぇのに腹すかせてんのかよ。やべぇな」


 そう言うと、恭弥は先程同様に太一に肩を貸し、シャルフィーラの方へと顔を向けた。


「飯ができたら呼んでくれ。それと、遥斗はこっちでどうにかするから気にしないでくれ」

「わかりました。それではお食事のご用意ができましたらお呼びいたします」

「あぁ、サンキューな」


 そう言うと、恭弥は修と共に、フューイの案内で太一を部屋まで運び始めるのだった。


 ◆ ◆ ◆


 恭弥は二つあるベッドの一つに腰かけながら、向かいに座る遥斗の方を見ていた。

 だが、その目は奇異のものでも見ているかのようで、なかなかに言葉を発そうともしない。そんな恭弥を見かねてか、遥斗はため息を吐いた。


「なぁキョウヤ。そろそろこれ(ほど)いてくんない?」


 遥斗の体は縄できつく縛られており、彼はまともに動けない様子だった。だが、それは説教の途中で別の村人を口説き始めた遥斗にブチギレた政宗が、勝手気ままに人を口説かない為の処置として行ったのだと、恭弥も政宗本人から聞いていた。

 いきなり縛られた遥斗を引きずって政宗が入ってきた時は恭弥も驚いたが、その理由を聞けば納得もしてしまう。

 元々、軽率に女性を口説く遥斗と士道を重んじる政宗は、その点において互いの主張を譲ろうとしない。

 そのせいか、時折喧嘩に発展することもあるが、そが原因で内部分裂に発展することは無い。

 それは、いつも遥斗が叱られて終わるうえに、遥斗は遥斗で、政宗の言っていることの方が本質的には正しいと理解しているからであった。

 なら辞めろよという話なのだが、遥斗曰く、美人が目の前にいて口説かないのは美人に失礼だろ、とのこと。

 だからこそ、恭弥は遥斗が女性を口説こうとすることに関しては、半ば諦めていた。


「ありがとな。それじゃあ今後のことについてどうするかを話し合うとしますか」


 縄を解いてくれた恭弥に感謝の言葉を述べると、遥斗はすぐに真剣な表情になった。


「そうだな。どうやって東京に戻るか考えねぇとな。あんまりこっちに居すぎると、俺らを慕ってついてきていた連中も心配するだろうし、まぁ、一番やばいのは修のところだろうな」

「シュウは一人息子だからな。修がいなくなったら騒ぎだすのはまず間違い無いな」

「だな。当面の目標は日本に逸早く戻ることだ。遥斗も大学あるし、単位は疎かにできないんだろ?」

「いや、僕は別に戻りたいって気持ちは無いよ」


 てっきり自分と同じで帰りたいのだとばかり思っていただけに、恭弥の表情は理解しがたいという感情が全面的に出ていた。


「あぁ? なんでだよ」

「だって僕は別にあっちの世界に未練なんて無いからね。こっちにはキョウヤ達もいるし。何より命を狙ってくる女の子から解放されてラッキーだったし!」


 声を大にして告げた最後の言葉を聞いた瞬間、恭弥は一人の女性、如月京香(きさらぎ きょうか)という女性の顔が頭に浮かんだ。


「あぁ、お前が高校二年生の頃に作ったとかいう元カノだったか?」


 恭弥自身が思い出した訳では無いが、高校一年の頃に同じクラスの女子生徒だったのだと、遥斗から教えてもらったことがある。

 顔立ちは整っていたものの、あまり目立つような性格では無い。その為、恭弥も紹介してもらうまで同じクラスだったということすら知らなかった。

 とっくの昔に別れているという話は聞いていたものの、未だに付きまとわれて困っていると、恭弥は数日前から相談を受けていた。

 そして、遥斗の表情があからさまに曇る。


「そうそう。あいつはやばいよ。最初は可愛かったから付き合ったんだけど……別れた数日後には下駄箱に大量の手紙と僕の写真が入ってたり、バレンタインでその子からもらったチョコには爪とか毛が入ってたし、おまけに大学生になったら、なんで同じところに入ってくれなかったの? って手紙が毎日のようにアパートまで届くし、挙げ句の果てには、あなたを殺して私も死ぬと書かれた手紙が、昨日アパートの扉にナイフで刺さってたんだぞ。流石にあれは鳥肌立った……」

「いや、やばすぎるだろその女。お前何したんだよ」

「いや別に、処女もらっただけで……特にこれと言ったことは……」

「充分すぎる理由じゃねぇか……」


 恭弥が溜め息を吐くと、急に部屋の扉がノックされた。

 別に着替えている訳でもなかった為、すぐに了承の言葉を告げようとしたが、それより前に、部屋の扉はゆっくりと開けられ、森で出会った二人の子どもが顔を覗かせた。


「ご飯できたってお母さんが言ってた」


 後ろに隠れる妹を背に、ロイドは二人の大人にその言葉を告げた。

 そんな二人を見て、遥斗は人の良い笑みを二人に向けた。


「ありがとう。確かロイド君とノエルちゃんだったよね?」


 その言葉に首肯(うなず)く二人を見て、遥斗はずっと気になっていた質問をぶつけた。


「二人はなんであの森にいたの?」

「材料を取りに行ってたんですよ」


 遥斗に質問をされた瞬間、ロイドとノエルの二人は同時に口をつぐむ。

 だが、二人の背後に現れたフューイが、すぐにその答えをくれた。


「森でも言ったとおり、うちはあまり儲かってないんですよね。だから、いつものように森で晩ご飯の食材を取りに行ってたんです。本当は夕刻までには帰るつもりだったんですが、少し目を離した隙に二人がいなくなってしまって……」

「でもさ、森って危険な化け物が多いよね」

「確かに多いですが、ここらには毒を持つ植物も多いうえに、村と森の境にはお香があり、魔物が来ることはまずありえません。とはいえ、皆さんが見つけてくださらなければ、一生見つからなかったかもしれませんし、あの人のように毒で動けなくなっていた可能性だって充分にありました。本当に、ありがとうございました」 


 ロイドの頭に手を置きながら、フューイは遥斗達に向かって深く頭を下げた。


「別に俺達は何もしてないさ」

「そうそう、てか、二人がいなかったら僕らの方がピンチだったんだから、感謝の言葉なんていらないよ」


 恭弥と遥斗にそう言われ、フューイは顔を上げた。


「そう言っていただけるのであれば幸いです。では、そろそろ食堂の方へ向かいましょう。先程、他のお二方にもお声はおかけしましたので、既に向かっておられると思いますよ」

「そうだな。それじゃあ俺達も行くとするか」


 恭弥と遥斗は座っていたベッドから腰を浮かすと、そのまま先頭を歩くフューイについていき、食堂へと向かうのであった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


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