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第1話:酔っぱらいだろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)

 国王を半殺しにした罪で投獄された恭弥達を逃してくれたのは、騎士団長のフェンネルだった。

 フェンネルは能力で恭弥達を自身が師事した師匠のいる場所へと転移させた。

 そこにいたのは何故か怒れるソフィア副騎士団長。

 何故彼女はこんな場所にいるのか?

 この場所はいったいどこなのか?

 恭弥達の師匠になる人物とはいったいどのような人物なのか?

 どうやら彼らに安寧の一時が来るのはまだ先のようだ。


 それは海原恭弥(かいばら きょうや)伊佐敷遥斗(いさしき はると)須賀政宗(すが まさむね)山川太一(やまかわ たいち)雷堂修(らいどう しゅう)の五人が牢屋からの脱獄を実行した一日前に遡る。

 団長室の中で、どんよりとした曇り空を心ここにあらずといった様子で見上げるフェンネルの耳にノックの音が響いた。

 特に入れたくない理由もない為、フェンネルは入室の許可を出した。


「失礼します」


 凛とした声と共に、扉が開く。

 団長室の扉を開けたのは、パンツスーツのような服装に身を包んだソフィア・ベルド・ファルマイベスであった。


「ソフィアか。用件はなんだ?」

「ヴァルム・ベルド・ファルマイベス公爵閣下から晩餐の招待が来ております」


 その話を聞いた瞬間、フェンネルはしんどそうな顔を隠しもせずに深々と溜め息を吐いた。


「あのおっさんと食事か……嫌なんだよな~正直言って。なんか勝手に処刑の発表したし、どうせあれだろ? キョウヤ達を引き渡せって用件なんだろ? あのおっさん達は異世界勇者様の再召喚を狙ってるんだろうし。その為にはキョウヤ達を生け贄に捧げなきゃいけなくなるし、なんとしてもキョウヤ達を手の内に入れたいんだろうな」

「用件を聞いていない以上、確証はありませんが、九割九分そうでしょうね。いくら魔王の封印が解け、一刻も早く魔王を倒さなくてはならないとはいえ、この世界とは一切関係のない彼らを召喚し、言う事を聞かないからと容易に命を奪おうとするなんて、個人的には許せませんね」

「だが、それでもソフィア、お前は五人を処刑すべきだと考えているんだろう?」

「もちろんです。彼らに同情の余地はありますが、国王陛下に手をあげた以上、その罪は負うべきでしょう。メフィラスさんの独断と貴方の共謀で今はまだここで安全に暮らしていますが、彼らはあまりにも身勝手が過ぎます。彼らのせいでどれだけの損害が出ているか、団長もおわかりでしょう」

「そんなこと気にしなくていいだろ」

「気にしてください!!! 貴方はこの甲冑騎士団の騎士団長なんですよ!!!!」


 怒鳴るソフィアに対抗するべく両耳を塞ぐフェンネル。


(キョウヤ達を脱走させようにもこいつがいると絶対邪魔するか密告されるんだろうなぁ……。とはいえ、ソフィアが本気になると、武器の無いキョウヤ達じゃ厳しいだろうし、どうするかね〜……あっ、そうだ!)


 怒鳴るソフィアの声を遮断していたフェンネルの頭に一つの案が浮かんだ。

 聞く耳持たずの状態になってしまったフェンネルを苛立ちのこもった眼差しで睨みつけていたソフィアだったが、もはや無意味だと理解し、部屋を後にすることにした。


「……もういいです。それでは(わたくし)は執務に戻らせてもらいます。ちゃんと公爵閣下の招待には応えてくださいね」


 それだけ告げると、ソフィアは部屋を退室するべくフェンネルに背中を向けた。


「待ってくれ」


 帰ろうとしていた背中を呼び止められ、ソフィアはジト目でフェンネルを見た。


「……なんです?」

「ちょっと手紙を出すのを頼みたい」

「手紙ですか?」

「そうだ。急ぎの用だからちょっと待っててくれ」


 フェンネルはそう言ってソフィアを呼び止めると、すぐに手元の紙に羽根ペンで手紙を書き、傍にあった空の封筒に入れた。

 時間はそこまでかからなかった。

 フェンネルから渡された手紙の差し出し人の場所には見知らぬ名前が書いてあるだけで住所の類いは見当たらなかった。


「これをどこに出してくればいいんでしょうか? というか近いんでしょうね?」

「大丈夫大丈夫、すぐ着くから」


 フェンネルの声から感じた不穏な気配に、ソフィアは急いで下を見た。そこは幾何学模様の描かれた絨毯の上だった。


「ちょっ――」

「それじゃああっちに行ったらキョウヤ達の案内よろしく〜」


 ソフィアの視界に指を鳴らすフェンネルの姿が映る。


「このバカ団長ぉおおおお!!」


 ソフィアの腹から出た大声が響くものの、フェンネルにその言葉が届くことは無かった。


 ◆ ◆ ◆


 赤土の目立つ山道を歩きながら、恭弥達五人は先導するソフィアから、何故この場所にソフィアがいるのかという質問に対する答えを聞いた。

 その内容があまりにもフェンネルに対する怒りに満ち満ちていた為、恭弥達は何も言えない雰囲気になっていた。


「そんな訳で、(わたくし)はこうしてあの団長に命じられてこの場所にいるという訳です。ご理解いただけたでしょうか?」


 冷静な物言いではあったが、ソフィアの様子からは隠しきれていない怒りの感情が溢れ出しており、なんとも近づきがたい雰囲気を醸し出していた。

 修と遥斗の二人はソフィアの様子が様子なだけに、沈黙を貫くことしかできなかった。

 だが、恭弥はそんなことなど知ったこっちゃないとでも言わんばかりに、ソフィアへと尋ねた。


「それで? ここはどこなんだ? フェンネルの師匠ってのがいるって聞いてたんだが、どこにいる……ッ!? って、なにしやがんだ!」


 ずけずけと自分の聞きたいことを聞こうとする恭弥に遥斗と修が慌てて恭弥の口を手で塞いだ。

 それを無理矢理解き、恭弥は修と遥斗を睨みつけたが、逆に詰め寄ったのは二人だった。


「なにしやがんだはこっちのセリフだよ、恭弥君!! あの人、あのおっさんに怒り心頭なんだよ!! 怒らせちゃったらどうすんのさ!!」

「そうだぞキョウヤ! お前はもう少し女性の気持ちというのを考えてから発言しろって前から言ってんだろ! ここは僕らが知らない土地なんだぞ!! 怒りを買ってこんな辺鄙な場所においてかれたらどうすんだよ! あっちの国の言葉はなんか話せたからなんとかなったけど、こっちの国の言葉が話せるとは限らないんだぞ!!」


 二人は少し離れたところにいるソフィアには聞こえないように小声で怒鳴るが、それは無意味に終わった。


「安心しなさい。貴方達五人にはこの世界に召喚された際、この世界のあらゆる言語が貴方達の知っている言語に変換される『言語理解』の特殊能力(スキル)が付与されています。多少の訛まではどうにもできませんが、会話等のコミュニケーションに影響はないでしょう。それに、(わたくし)は甲冑騎士団副騎士団長として、罪人である貴方達から離れたりすることはありません。(わたくし)はあくまで案内人であると同時に、貴方達がこれ以上の咎を重ねぬよう見張る監視者でもあるのです。それを肝に銘じなさい」

「……めんどくせぇ女」


 ボソリと呟いた恭弥に対し、ソフィアは妖艶な笑みを浮かべた。


「せいぜい逃げられるとは思わないでくださいね」


 ソフィアはそれだけ告げると、再び前を向き、歩きだそうとした。

 その瞬間、修がなにかを思い出したかのように叫びだした。


「あーっっ!!!」

「うるさいな~、どうしたんだよシュウ」


 咄嗟に耳を抑えた遥斗が修に尋ねると、修は遥斗に絶望しきった表情を向けてきた。


「俺っちの釘打機……返してもらってない……」 

「なんだそのことか」

「なんだってなんだよ!! あれは俺っちが十五歳の時に初めて造った傑作なんだぞ!! 試作品に試作品を重ねて、それでも全然うまくいかなくて、何度も何度も造り直してようやく完成させた俺っちの傑作なんだぞ!!」


 遥斗の両肩を掴んで揺らしながら叫ぶ修。そんな修を政宗が背後から羽交い締めにし、遥斗から引き離した。


「大丈夫だって。シュウがフューイ君と話してる時に、あの騎士団長からこれを受け取っておいたから。ほら、シュウの改造釘打機もちゃんとある」


 遥斗の手には五芒星の刻まれた白いポケットが握られており、その中から一丁の拳銃を取り出して修に渡した。

 修は拳銃型の改造釘打機を確認すると、先程の不安そうな顔から一転、すぐにひったくり、恍惚とした表情で頬擦りまでし始めた。


「おかえり〜俺っちの釘打機ちゃ~ん。寂しかったよね〜、ごめんよ~、ずっと一人にしちゃって〜すぐにお手入れしてあげますからね〜」

「おいシュウ、そういうのは一人の時にやれっていつも言ってるだろ。ソフィアさんがドン引きしてるぞ」

「わかってるけどさ〜。遥斗君だってわかるでしょ〜。離れ離れにされた彼女とようやく再会できたらこうなるっしょ〜」

「流石にそこまでは無いよ」

「え〜」

「うぉっほん。そろそろいいでしょうか?」


 修と遥斗のやり取りを咳払いで止めるソフィアに、全員の視線が集まる。


「ここがどこかという質問でしたね。まだ目的地まで少しありますし、歩きながら話しましょう」


 ソフィアはそう告げると、再び山道を登り始めた。そんな彼女の後を、恭弥達は着いていく。


「まずここはどこの国にも所属していないラウルスト山岳地帯という地域です」

「ラウルスト山岳地帯ですか? 地図を見たけどノースランドの大地にはそんな場所は無かったと記憶しているんですが?」

「おや? 『言語理解』の特殊能力(スキル)では文字までは解読できなかったはずですが?」

「図書館にはわからないことを懇切丁寧に教えてくれる優しい司書さんがいるものなんですよ」

「なるほど。それは勉強不足でした。今度伺ってみるとしましょう。それから、ノースランドの大地に無いのは当たり前です。ラウルスト山岳地帯はウエストランドの大地、つまりは別の大陸に存在しているのですから」

「今度はウエストランドの大地か」

「私も知らなかったのですが、どうやら騎士団長はこちらの出身だったようで。山の麓には村があり、そこが騎士団長の実家があるそうですよ。機会があれば行ってみてはいかがです?」

「ちょっと面白そうだな」

「それと、騎士団長の師匠についてですが、なんと言っていいのかわかりませんが、とにかく破茶滅茶なお方で、説明するより実際に見ていただいた方がよろしいかと」

「そういえば酔っぱらいのおっさんでしたか? あの騎士団長も、よくこんな若くて綺麗な人を一人でこんなおっかない場所に送ったものですね。流石に失望しました」

「? なにか勘違いを」

「おっさんとは酷いね〜」


 呂律が回らない声に全員が反応を示し、そちらの方を見た。

 人の高さ程巨大な岩の上で胡座をかき、一升瓶を飲む女性の姿が全員の視界に映る。

 それは長いブロンドが特徴的な見た目二十代の見目麗しい女性だった。その女性を見たソフィアが探し物を見つけたかのような反応を見せる。


「あっ、マーリンさん、そんなところにいたんですね」

「綺麗な人だ……」


 遥斗の呟きに笑みを見せると、その女性はそこから一瞬で姿を消した。

 その姿を視界に捉えられたのは恭弥だけだった。

 人並み外れた跳躍で飛んだその女性は、遥斗の頭に強烈なかかと落としをかまし、一回転してから恭弥達の前に着地した。


「だ~れがおっさんだ~。わたしはれっきとした女だぞ〜。次おっさんなんて言ったら頭かち割るから覚悟しときな〜」

「もうかち割れてんじゃねぇの?」


 ふらふらと赤く染まった頬のまま遥斗に呂律が回らない説教をする女性に余計な一言を入れた修。そんな修を女性はニコニコとした表情でこっちにこいとジェスチャーで語る。

 そのジェスチャーに小首をかしげながらも、修は喚ばれるがまま、近寄っていった。


「うっさいわボケ〜」


 次の瞬間、女性は一升瓶をフルスイングし、近寄ってきた修を見事なまでにかっ飛ばした。

 かっ飛ばされた修はというと、綺麗な放物線を描き、十メートルほど後方に不時着。暫くは立ち上がろうともがくも、すぐに動かなくなってしまった。

 その意味不明な光景を前に、絶句する四人。

 そんな四人に、女性はにこやかな笑顔を向けた。


「おっはー諸君。わたしはマーリン。大好きなものはお酒! 趣味は君達のような青臭いガキどもをボッコボコにすることです♪ そんな訳でこれから暫くの間、よっろしっくね〜」


 それはとてもとても屈託の無い笑顔でありながら、同時に恐怖心を煽るような自己紹介であった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


 ようやく3章に行けたぁあああああ!!

 ここまでほんっっっとうに長かった!!

 さぁ修行編の開始じゃ〜!

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