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第5話:騎士団全員だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)

 前回のあらすじ。

 太一はやっぱり太一だった。


 フェンネル・ヴァーリィはファルベレッザ王国が世界に誇る最強の男である。

 自由すぎるという欠点はあるものの、圧倒的な身体能力という類稀なる才能で騎士団長という地位を得、一生を遊んで暮らせるような稼ぎを得た。

 団員からは尊敬と畏怖の念を抱かれ、国民からも王からも確固たる信頼を得、支持されてきた。

 そんな彼が国王の実の弟であるヴァルム・ベルド・ファルマイベス公爵から晩餐の席に招待されることは、元来であればなんらおかしなことではなかった。


 一切の埃や汚れの無い大理石の床。壁には自分の地位や財力を自慢したいのか無駄にかっこよく描かれた自画像があるそんな場所で、テーブルを挟んでヴァルム公爵と二人っきりでいるのは息苦しいというのがフェンネルの正直な感想だった。


(早く帰りてぇな〜) 


 ナイフとフォークで巧みに切り分けた高級肉の量が少ないステーキを食べながら、フェンネルは来た当初と同じことを考えていた。

 彼自身が高級な料理や酒よりも庶民的に振る舞われる料理や酒の方を好んでいるというのもあるが、彼が帰りたいと感じている理由は他にあった。


「そろそろ本題なんだが、そろそろ彼ら五人を受け渡してはくれんかね?」


 にこにことこちらのご機嫌をうかがってくるように聞いてくるヴァルム公爵を前に、フェンネルはやっぱりかと心の中で溜め息を吐いていた。


「私は彼らを処刑することに反対しています。それで答えとしては充分でしょう」


 フェンネルが鋭い目で睨むと、ヴァルム公爵は怯えたようにフェンネルの方を見返してきた。

 つまらない。それがフェンネルの中で抱いた率直な感想だった。


 ヴァルム公爵は『ステラバルダーナ』の五人が召喚された時にその場におり、『ステラバルダーナ』の一人である山川太一(やまかわ たいち)に投げられ呆気なく気絶したという経緯からか、『ステラバルダーナ』の五人に対して明確な敵意を抱いている。

 それにもかかわらず、『ステラバルダーナ』の五人を未だに処刑できないのには理由があった。

 それは騎士団本部の地下牢で『ステラバルダーナ』の五人が投獄という形で守られているからであり、騎士団のトップに位置するフェンネルが受け渡しや処刑を拒否しているからだった。

 立場的にはヴァルム公爵は国王の実の弟でもある為、フェンネルよりも上なのだが、フェンネルという実力者を他国が欲しているせいで、無理矢理聞かせようという強気な態度には出れなかった。


 フェンネルは元々この国の出身では無い。

 元は冒険者として、当時王国内最強と名高かったメフィラス・アドマレークに興味を抱いて騎士団に道場破りをし、そこでメフィラスがフェンネルを気に入って半ば強引に騎士にした結果、フェンネルは騎士になった。

 当時は反対する者も多かったが、今ではすっかり国の英雄となってしまっている。

 そんな彼を欲しがっている国は多い。

 隣国にでも取られてしまえばこの国の立場が一気に弱まってしまうだろう。

 それだけは絶対にあってはならない為、ヴァルム公爵は慎重に言葉を選んだ。


「まぁ聞いてくれんか? 私は奴らに何もしておらんというのにあの大男はこの高貴な身である私を投げ飛ばしたのだぞ! 信じられんと思わんか!」

「まぁ、そこには同情しますが、元はと言えば国王陛下が話を邪魔したからとかいうしょうもない理由で彼らの内の一人を処刑しようとしたから彼らの逆鱗を買ったのでしょう?」

「だ……だが」

「むしろ一個人としては圧倒的な数の差に怯むことなく仲間を守る為に立ち向かった彼ら五人の方を評価しますね。逆にうちの者達は鍛え方が足りませんね」


 フェンネルの言葉一つ一つがヴァルム公爵の歯を軋らせる原動力となり、フォークを握る彼の手がわなわなと震え始めた。


「……良いのか? どちらにせよ二日後には大々的に処刑すると公表している以上、処刑の有無次第では……」

「私を処刑しますか? それならそれで別に構いませんよ。私を排除した後、魔大陸に一番近いこの国が何年平和を謳歌できるかは知りませんが……」


 今までで一番大きな歯ぎしりが部屋の中に響き、フェンネルはフォークとナイフを空になった皿の上に置いた。


「それでは私はこれで。まだ今日はやることがあるのでね。それと、くれぐれも余計な真似はしないでくださいよ。もし来訪者が王弟殿下に繋がったなら、俺は容赦しませんからね」


 それだけ言い残すと、フェンネルはその場から一瞬で姿を消した。

 直後、その残像にナイフが投げられるものの、そのナイフが誰かを傷つけることはなかった。


 ◆ ◆ ◆


 二人はただ向き合っていた。

 互いの距離は二メートル程で、一歩でも踏み出せば、容易に間合いとなる位置。

 お互い、それがわかっているからこそ安易に自ら動くような真似はしなかった。

 向かいあっているだけで周囲の温度が上がっていく。

 昔からよく知っているからこそ、互いの手の内は知り尽くしている。

 先に動いたのは伊佐敷遥斗(いさしき はると)だった。

 宙に跳び、鍛え抜かれた渾身の蹴りを海原恭弥(かいばら きょうや)の顔面にむけて放った。

 その蹴りに一切の躊躇はない。だが、遥斗の足は空を切る。

 外したのでは無い。恭弥が紙一重で蹴りを見きって後ろに下がったのだ。

 しかし、遥斗の表情に驚きの色は無い。

 蹴りに出していた右足が石畳に着地すると同時に、今度はその右足を軸に左足で回し蹴りを放ったのだ。

 遠心力の加わった強力な回し蹴りが恭弥の横顔を穿たんと猛威をふるう。

 しかし、遥斗の左足は恭弥の顔に当たるどころか掠りすらしなかった。

 苦虫を噛み潰したような表情の遥斗が見た景色、それは自分の蹴りを容易く止める恭弥の左腕だった。

 遥斗もその現実を目の当たりにして呆けていた訳では無い。

 すぐに足を戻して体勢を立て直そうとするも、目で追うことすら叶わない強烈な右のアッパーカットが遥斗の脇腹をえぐった。

 何度も受けてきた拳、しかし、その威力は今までとは比べ物にならない。

 視界が明滅し、意識を保つのもやっとだ。

 しかし、恭弥の拳はそんな遥斗を容赦なく追撃した。

 目で追うことすらできない左手によるマッハパンチ。

 威力よりも速さを重視したその一撃は的確に遥斗の胸を貫いた。

 最初の一撃で既に意識が朦朧としかけていた遥斗にとってその一撃が耐えられるはずもなく、彼の身体は牢屋の床に転がった。


「賭けは俺っちの勝ちだね〜。ステーキもらうよ〜」

「是非も無し」


 意気揚々と楽しそうに雷堂修(らいどう しゅう)が銀製のフォークを皿に乗ったステーキを突き刺し、それを口に運ぼうとした。

 しかし、その道中、ミディアムレアの香ばしいステーキは何者かによって掻っ攫われしまい、修の口に運ばれたフォークは銀と肉汁の味しかしなかった。

 まるでマジックのような早業、肉を持っていた修にですら見切ることのできないまさに神の御業とも言える所業。

 しかし、犯人はまるわかりだった。


「た〜い〜ちく〜ん」


 修が恨めしそうな視線を向ける先には鎖でぐるぐる巻きにされながらも幸せそうな表情でもぐもぐと何かを咀嚼している山川太一(やまかわ たいち)がいた。


「なんで毎回毎回俺っちの肉を食べるのさ〜!」

「いだいよ修君〜」

「なにやってんだか……」


 太一のほっぺを両手でつねりながら泣き喚く修と涙目の太一。そんないつもの情景を呆れたように見ながら、恭弥は両手に巻いたタオルを外して大の字で起き上がろうともしない遥斗の元へと歩み寄った。

 

「前よりも良い蹴りだったぞ」

「簡単に止められたけどな」


 恭弥の差し伸べた手を、遥斗は掴んで立ち上がる。

 遥斗の表情には怒りも悔しさもなく、微かな諦めのこもった眼差しが恭弥へと向けられた。


「絶対引っかかると思ってたんだけどね。やっぱり読めてたの?」

「まぁな。遥斗が二手目を放った時に地面についた右足が不自然に力が入ってたからな。体勢を立て直すつもりがないってのは一目騒然だったぞ」

「一目瞭然な。騒がしくしてどうすんだよ。てか、結構スムーズに行けたと思ったんだけどな。マサムネ、そんなにわかりやすかった?」

「微かではござったが、確かに外から見ていれば少々わかりやすいものとなっていたのは事実でござろう。しかし、少なくとも拙者であれば攻撃を躱した後の反撃に意識が持っていかれる故、対応が遅れていたでござろうな」

「それでも政宗なら避けれるだろう?」

「避けることだけであれば出来たでござろうが、恭弥殿のように流れるような動きで反撃を繰り出すことは出来ぬでござろう」


 正座し、淡々と言葉を紡ぐ政宗に遥斗は疑いの眼差しを見せるも、すぐにその目を恭弥へと向ける。


「ちなみにさっきの一撃、本気で殴ったんだよね? 僕が相手だからって手加減してない? 特に最後の左! この世界に来る前のキョウヤの方がまだ強いと感じたよ!」

「しょうがねぇだろ。こっちはグローブじゃなくてタオルなんだぞ。威力落ちるに決まってんだろうが。それに治してもらったとはいえ左の拳はひびがかなり入ってて絶対安静とか言われてんだぞ!」


 恭弥の左手は一つ目の巨人、サイクロプスとの交戦において先日バジルとの戦いで負った傷が開き、まともな治療をする前に自らを上級魔人オニキスと名乗る者と戦い、完全に壊れかけていた。

 サキュラを始めとした騎士団の者達が柔軟かつ迅速な対応をしてくれたことにより、恭弥は左手を失わずにすんだのだった。


「……いやキョウヤお前、そんな状態なら左手使うなよ」

「はぁ? 左手使わないでどうやってボクシングすんだよ」

「……いつも通りというかなんというか……はぁ……とりあえず左手は大丈夫なんだよね? 痛みとかは?」

「問題無いぞ」

「まったく……処刑の期日まであと半日切ってるんだよ。いざという時に使い物にならないなんてふざけたこと、絶対しないでくれよ」

「任せとけって」


 遥斗が再び大きな溜め息を吐くと、不思議と牢屋の外にある廊下のほうが騒がしくなっているのを遥斗は聞き取った。


「なんかあったのかな?」

「ご飯!」

「太一君さっき大量に食ってたじゃん。まだ食う気?」


 先程まで喧嘩していたはずの二人も反応し、五人の視線が廊下の方へと向けられる。やがて、甲冑騎士団の騎士が一人の青年を連れて恭弥達がいる牢屋の前で立ち止まった。


「うっそ」


 遥斗が思わず口に出してしまうほど、それは意外な人物だった。


「ここでお前も反省していろ」


 鍵を開けて牢屋に青年を入れた騎士はそれだけ告げると、自分の責務へと戻っていった。

 そして、牢屋にいた五人の視線がそのよく見知った青年の方へと降り注がれる。


「……さて、どういうことなのか説明をしてもらおうか……フューイ君」


 牢屋に連れて来られた青年、それは恭弥達がお世話になっている宿屋の息子、フューイであった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 感想、高評価を心よりお待ちしております。


・最近眼鏡を寝ぼけて踏みつぶし、その修理代に心折れてました(笑)

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