第4話:国家転覆罪だろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)
あけましておめでとうございます!
というわけで今年初の前回のあらすじ。
遥斗、ソフィアとサキュラのファンに殺意の眼差しを向けられ、なんやかんやで牢屋に入りました。
燭台に灯された蝋燭の灯火が揺らめく微かに明るい石畳の牢獄の中で、海原恭弥は自分が気を失ってからこれまで起きた出来事を伊佐敷遥斗と雷堂修から聞いていた。
胡座をかき、腕を組ませ、これまで口を挟まず聞き入っていた恭弥の口がゆっくりと開く。
「……あの後何が起こったのかはだいたいわかった……色々聞きたいことはあるが、とりあえずこれだけ先に聞いておきたいんだがいいか?」
「ん? なんだキョウヤ」
「なんで太一はあんなに鎖でぐるぐる巻きにされてるんだ?」
恭弥の指の先には、鎖でぐるぐる巻きにされた山川太一が呑気にもすやすやと鼻提灯を作って眠っていた。
ずっと気になっていた様子の恭弥だったが、いずれ説明されるだろうと思ってそれまで黙っていたのだろう。
太一はかなり頑丈そうな鎖で縛られ、傍目にも容易に解けそうな代物では無いのが伺えた。
他の全員は武器や持ち物は失っているものの、拘束具すらつけられていない状態。その中で唯一縛られている太一は異常に見えた。
遥斗は恭弥からの質問に苦笑してみせた。
「あはは、タイチはさ、起きてすぐに出たご飯の量が少ないって暴れ出しちゃってんだよね。いや~鉄格子をひん曲げるわ、止めに来た人達ぶん投げるわでマジ大変でさ~。皆が起きたら機を見て脱走を考えてたのに鎖で縛られたうえに鉄格子まで強化されちゃってさ。もう最悪だよね。あっはっは」
「それは笑い事なのか?」
「まぁ騎士団の人達も流石に恐ろしく思ったのか食事の量も増えてなんとかなったんだけどね。被害が甚大すぎてこんな寝心地が悪い牢屋に入れられちゃってさ。本当マイッチングだわ〜」
冗談でも言うかのように茶化す遥斗だったが、恭弥は笑う気にすらならなかったようで、その仏頂面で遥斗を睨んだ。そのせいか、遥斗の表情に真剣味が少しは戻っていく。
「だったら牢屋に入れさせなければ良かったんじゃないか? 安全な家なり用意させれば……」
「交渉相手が与えてくれた外の家って実はあんまりよろしくないんだよね。砲撃されたり囲まれたりした瞬間ゲームオーバーだよ」
「人質取ってたんだろ?」
「無理無理、寧ろ王様の弟ってレベルの激ヤバ人物をそれ以上人質に使えば相手はより躍起になっちゃうだろ? 牢屋に入ってるという状況なら少なくとも自由にさせている状態よりかは相手も油断するだろうからそっちの方がまだマシって訳。ましてやオニキスとかいう魔人の出現って事件が起きたんだ。牢屋に入っている僕らをどうこうするって作戦にうって出れないって訳だ。なんせ僕らは勇者らしいからね」
「よくわかんねぇな。そんな面倒なことしないと突破できねぇような状況だったのかよ」
「僕にはあんな大人数と戦う術は無いし、かと言って三人を運ぶ腕力もない。僕に出来るのはあの状況でどうやって皆が無事な条件を出せるかってことだけだったんだよ。まぁあの元団長とかいうおっさんがいなかったらこんだけの好条件は出せなかっただろうけどね」
「そうか……」
そこまで聞くと、恭弥は自分の中にある空気を全て吐き出すかのように大量の息を吐き出し、遥斗に向かって深々と頭を下げた。
「俺が負けたせいで迷惑かけたな」
「力をそのまま跳ね返すとかいう訳わかんない能力者が相手だったんだ。突然だったししょうがないよ」
「へ〜、まるで準備する時間さえあればやりようがあったみたいな言い方じゃん」
遥斗の言葉に引っかかりを覚えたのか、唐突に修が口を挟んだ。
「まぁ、準備が面倒なだけでやりようはあるでしょ。毒ガス吸わせたり、空気の入らない真空空間に閉じ込めたり、やろうと思えば何通りかは思いつくよ」
「でもあいつがいつまでもじっとしているとは限らないじゃん」
「まぁこれは予想だけど、修の攻撃をオニキスは避けるでもなくわざわざ跳ね返してきたんでしょ? すぐに騎士団長による攻撃が来るとわかっていたにもかかわらず」
「そうだよ。それがどうかした?」
「だったらオニキスの能力はフルオートの可能性が高いね。それに使っている間はその場を動けないんじゃないかな? だから修のせいで騎士団長の攻撃を避けることすら出来なかったんだと思うよ?」
「そういうもんなんかね?」
「もしかしたらこれが誘導の可能性も否定しきれないけど、オニキスが残していった言葉や性格を信じるなら、わざわざ騎士団長の攻撃を受けてまでブラフ張る必要もないでしょ。まぁ、なんにせよまずは情報第一。毒や酸素といった人間に効くものが魔人という種族には効かない可能性があるし、逆に僕ら人間には効果が薄くても魔人には効果抜群なものがあるのかもしれない。……ただまぁ、キョウヤのことだから、こういう方法で勝ちたい訳じゃないんだろ?」
「あぁ、やるなら真っ向からだ。フェンネルに出来たなら俺もやるさ。今度こそ俺が真っ向からぶん殴る!」
拳を握り、強い眼差しを向けてくる恭弥に遥斗は楽しそうな笑みを見せる。
「ふふっ、キョウヤならそう言うと思ったよ」
「それで? こっからどうすんの? 遥斗君の話が本当なら牢屋に入るのは想定通りなんでしょ?」
「あはは〜、それが割とこっから策無くてさ~。でも武器を取られたとはいえキョウヤに加えてマサムネもいるんだ。いざという時は強行突破でいいでしょ。タイチの鎖をなんとかして外してもらえば懸念要素はほぼ無い訳だし。むしろこの騎士団の施設を占拠しても――」
「そりゃ無理だな」
突然無理という言葉を吐いた恭弥に、提案した遥斗だけでなく政宗と修まで目を見開いて彼の方を見た。
「無理って……珍しいな、キョウヤが最初から諦め節なんて」
「別に俺だって言いたかないさ。だが、向こうにはフェンネルがいる。あいつの戦闘能力は今の俺より遥かに上だ。少なくとも刀の無い政宗や病み上がりの俺じゃ勝負にもならねぇだろうな」
「よくわかってるじゃないか」
恭弥の背後、鉄格子で阻まれた牢屋の外から突然声をかけてきたのは、軍服に身を包んだ赤髪の男、フェンネル・ヴァーリィだった。
一切気配を感じさせずに突然現れたことに、恭弥と寝ている太一以外の三人が一斉に警戒の動きを見せる。
そんな三人を楽しそうに見やると、フェンネルの視線が恭弥の方へと向けられる。
「意外と元気そうじゃねぇか」
「そりゃお互い様だ。フェンネルもあの時一緒にやられたんだろ?」
「はっ、五日もおねんねのキョウヤとは鍛え方が違うんだよ」
「言ってくれるじゃねぇか。それよりいいのか? また勝手に転移能力使って、嫁さんに怒られんぞ?」
「言っておくがソフィアは嫁じゃないぞ。あいつは副騎士団長でいわゆる俺の部下だ」
「フェンネルお前……部下に叩かれたのかよ」
「それについてはまぁ……長い時間仕事すっぽかしたからしょうがねぇよ。本当なら『ルシュウの油』買ってすぐ戻るところだったんだが、キョウヤに会っちまったからな」
「人のせいにすんじゃねぇ――」
「そこまで!!」
遥斗による大きな拍手によって恭弥とフェンネルの話が止まり、二人の視線が遥斗の方へと向けられる。
「あんまり時間が無いんだ。フェンネルさん、何か用があってここまで来たんでしょう?」
遥斗の目はフェンネルのことを敵意丸出しで睨みつけていたが、フェンネルはそんなことなど気にした様子もなく、そうだったなと腕を組んだ。
「キョウヤが目覚めたから来たってのは、まぁ理由の一つなんだが、つい一時間前、貴族連中がとある内容を大々的に発表した」
「何をだ?」
「内容は国王を暗殺しようとした大罪人達の処刑に関する詳しい日時だ」
「へ〜、暗殺なんて、そりゃとんでもない奴もいたもんだな」
恭弥のまるで自分とは関係なさそうな言い方に、フェンネルも呆れたように溜め息を吐いた。
「キョウヤ、お前達のことだぞ」
「は? 俺達が暗殺? 何の話だ?」
「この世界に来た時、王様や兵士を片っ端からボコっただろ? それだよ」
「あ~、あの太一を処刑するだのなんだの言ったあのおっさんな。確かにボコったわ」
本気でわかっていない様子の恭弥に遥斗が説明すると、恭弥は得心がいったように手を鳴らした。
「ったく、キョウヤ達が王様を殺しかけた犯人だったとはな。面倒なことをしてくれやがって。お陰で面倒事が増えたじゃねぇか」
「おいおい別にボコっただけで殺す気は無かったぞ? ただ、俺達を舐め腐ってたからわからせてやっただけだ」
「受け取り方は人次第ってやつだよキョウヤ。それで? 処刑の期日はいつなんです?」
「三日後だそうだ」
「移送とかの手続きは進んでるんですか?」
「ここは俺がトップの騎士団総本部の地下牢だぞ? 俺が突っぱねればそれで終わりだ。とはいえ、ここまで大々的に発表されると国民の反感が強くなるから、あまり状況は芳しくないというのが本音だ」
フェンネルの言葉で、遥斗は頭をフル回転させるが、あまり良い案が浮かばないようで、その黄色と黒色を交互に混ぜ合わせた特徴的な髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。
「……やっぱフェンネルさんにタイチと牢屋の鍵を開けてもらうのが現実的なのか?」
「勘弁してくれ。ここには見えないだけで物の出し入れに反応するセンサーがつけられてる。牢屋を開けるだけならともかくそこの大男の鎖を解いてたら解いている間に一瞬で騎士共が集まるだろうな」
「そのセンサーを解きゃ良いんじゃないの? ねぇ遥斗君」
「それもできん。そのセンサーのオンオフは副騎士団長であるソフィアに一任してある。最初は協力してもらおうと思ったんだが、何故かお前達に良い印象を抱いてないみたいでな。諦めた」
「僕が説得しましょうか? そういうのは得意ですよ?」
「そもそも来たくもないらしい」
「それは残念」
おそらく遥斗のせいだろうなと恭弥は思ったが、口に出さないでおくことにした。
「それじゃあどうする? いっそここで暴れる? 正直俺っち的には鬱憤が溜まってそろそろ暴れたい気分なんだけど」
「いや、出来ればじっとしておいてほしい」
「なんでよ〜」
「今お前達に暴れられるとどうしたって俺が動かなきゃいけなくなる。俺はここのトップでこの国が誇る甲冑騎士団団長フェンネル・ヴァーリィだからな。今お前達がここで安心して過ごせているのはあくまで立場あってのもの。立場にそこまで拘りはないが、俺が団長じゃなくなればお前達は今以上に待遇の悪い状況になるだろう? だから俺はお前達を本気で叩きのめさなきゃいけなくなる。だからまぁ、俺がどうにかしてやるからお前達はおとなしく待っていてくれ。それじゃあそろそろ仕事に戻るわ。くれぐれも変なことはするんじゃないぞ」
そこまで一方的に言うと、フェンネルはその場から一瞬で消えさってしまった。
「行っちゃったよ……それで恭弥君、実際あの人ってどれくらい強いの? 魔人との戦闘を見る限りじゃかなりの身体能力って感じだったけど? なんか一緒に依頼行ってきたんでしょ?」
「かなり強いぞ。今まで出会った中でぶっちぎりの一位を取るくらいにはな」
「そんなに?」
「まぁな。まず身体能力が軒並み高いうえに、足がめちゃくちゃ速ぇ。受けてはないが拳の威力もかなりのもんだろうな」
「あ~確かにあれはやばかったね〜」
「そんでおそらく一番厄介なのはあいつの得物が拳じゃなく剣だということだろうな。かなり離れた距離から巨人の首を一刀両断するなんて芸当今まで見たことがねぇ」
「そもそも巨人ってのがなんなのかすっごく気になるけど続けて」
「それと味方だった時は頼もしいことこの上ないが、一瞬で場所を長距離移動出来るあの力はおそらく敵対するとかなり厄介な代物になるだろうな」
「さっきのあれか〜」
「確かにあの能力は厄介そうだね。もし上空に飛ばされたりでもしたら僕らじゃ何も出来ずに死んじゃうからね。キョウヤの様子からして誇張でもなんでもなさそうだし、今の僕らが挑むのは無謀もいいところだね」
「拙者としては是非剣士として一戦お願いしたいところではござるが……刀を取られている以上それも叶わぬでござるな」
そんなことを話していると、突然牢屋内だけでなく地下牢全体に響き渡るような巨大な腹の音が恭弥達の耳に入った。
「腹が減ったと思ったらもう十二時か」
恭弥が太一の方を見ながら納得したように呟くと、廊下の方がドタバタと騒がしくなる。その音で修、政宗、遥斗の三人は立ち上がって牢屋の壁際に寄った。
「恭弥君もそこ邪魔になると思うよ」
「どういうことだ?」
「すぐにわかるよ」
修の言葉に戸惑いを覚えつつも立ち上がり、遥斗の横に立ち一分後、すぐにその正体が顕わになった。
牢屋の前に並ぶは大皿に乗った大盛りの料理を手に持つ騎士達、彼らは牢屋の鍵を開けると急いで牢屋の中に入っていき、次々と料理を並べていく。
その勢いに恭弥は目を丸くするが、皿を並べる彼らの必死な形相に言葉を紡げずにいた。
やがて彼らが持っていた皿を全て並び終えると、彼らは牢屋から出ていき、何も言わずに立ち去っていった。
「なんだこれ……」
目の前に広がる意味不明な状況に思わず呟く恭弥。
男が好きそうな茶色が主体の料理達は、豪勢さよりも量を重視したことが明らかで、とても囚人に振る舞われていい量とは思えなかった。
恭弥が困惑していると、横から呑気そうな声が聞こえた。
「あれ、恭弥君だ、おはよ〜」
その聞き覚えのある声で恭弥が横を見ると、そこには何故か鎖の外れた状態になった太一が胡座状態で座ってこちらを見ていた。
「お……おはよう。あれ? 太一、お前鎖は?」
「そういう仕様なんだとさ。ご飯やトイレの時には束縛しないという条件が組み込まれた束縛の魔法具なんだって。あっ、この鹿肉うんんまっ! ……これが面白いことにね、ちゃんとそれ以外のタイミングではどこからともなく鎖が出現して太一君を縛るんだよ。毎度縛る時がチャーシューみたいになって面白いんだよね」
飯を食べながら行う修の説明に戸惑いつつも、恭弥は皆が美味そうにご飯を食べる目の前の状況を見て、考えるのをやめ、自分も皿とフォークを取るのだった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
改めてあけましておめでとうございます。
正月に弟からとあるゲームを勧められ、続きどうしよっかなと気分転換にそのゲームを始めたらドハマリしちゃって肝心の小説をほっぽり出しちゃった鉄火市です。
こんな駄目駄目な私ですが、今年もよろしくお願いいたします。




