第2話:毒だろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)
前回のあらすじ。
見知らぬ土地に来た『ステラバルダーナ』の面々は、遥斗が集めてきた情報を頼りに冒険者稼業でお金を稼ぐことにした。
だが、その最中、森からなかなか帰ってこない修と太一。
不安に思った3人が探しにいくと、そこには毒に侵され意識不明の太一が横たわっていた。
いったい太一はどうなってしまうのか!?
赤みがかった茶髪に、同じく茶色い瞳をした少年と少女は見た目がすごく似ており、髪の長さが違わなければ、違いを見つけるのも困難だっただろう。
年端の近い兄妹、もしくは双子なのだろうと、伊佐敷遥斗はすぐに理解しながらも、なぜ、夜の森に子どもだけでいるのかと、疑問を抱いた。
「……お兄さん達、悪い人じゃないんだよね?」
怯える少女を背にし、少年は勇気を振り絞って遥斗に尋ねた。
遥斗からすれば、自分達は武装した大の大人で彼らは幼き子ども、彼らの警戒心は当然のことだと認識しており、ただ一言、もちろんとだけ答えた。
騙すつもりはもちろん無いが、自分の言葉を易々と信じ、胸を撫で下ろす少年を見ていると、その警戒心の低さに一言言いたくもなる。
だが、今は太一の症状をどうにかする方が先決であり、ここで下手なことを告げて長引かせるのは愚策以外のなにものでもない。
遥斗は彼らが怯えないようにしゃがみ、二人と目線を近くして、彼らに尋ねる。
「悪いんだけど、近くに病院はないかい?」
「びょういん?」
少年が首を傾げたのを見て、遥斗は最悪な予感を感じ取った。
(まさか……この世界には病院すら無いのか?)
この世界が地球では無い以上、様々なものが自分達の知っている物とは異なるのだろうと遥斗は薄々勘づいていた。
とはいえ、流石に病院といった施設くらいはあるだろうと楽観視していた遥斗にとって、彼らの反応は衝撃を受けるには充分なものだった。
(いや、案外名前が違うだけの可能性もあるな……)
まだ、病院が無いと言われた訳ではない。
あくまでそれは遥斗の想像にすぎない。
もしかすれば、彼らが病院の意味を知らないだけで、診療することが可能な施設はあるかもしれないからだ。
「病院じゃなくてもいい。友人が毒に侵されているから、毒を治せ場所を知らないかい?」
「それなら知ってるよ~」
その言葉を聞き、心の内で遥斗がガッツポーズをした時だった。
遥斗の直感が近くに人の気配を感じ取る。
「遥斗」
「わかってる」
意識が無い山川太一を支えているリーダーからの言葉に、遥斗はスクリと立ち上がりながら、そう答えた。
仲間の海原恭弥や須賀政宗に比べれば、遥斗は人の近付く気配に敏感ではない。
だが、そんな遥斗でもわかるくらい、相手は音を立てながら近付いてきていた。
そして、その気配は真っ直ぐにこちらへと向かってきており、遥斗はそちらに視線を向けた。
いざとなれば動けない恭弥の代わりに自分が対処するつもりでいた。
だが、その心配は杞憂に終わった。
何故なら、近付いてきていた者は、一切隠れ潜むことなくすぐに姿を現したからだ。
それは、二人と目元がよく似た青年だった。
「ロイド!! ノエル!!」
「「お兄ちゃん!!」」
その青年は少年と少女を見ると、彼らの元まで走り寄り、二人に向かって抱きついた。
それははぐれてしまったであろう二人を本気で心配していたのだとわかる程、激しい抱擁だった。
だが、その青年は涙目を袖で拭い、すぐに遥斗達に向かって鋭い眼差しを見せる。
「あんたらが最近ここらを騒がせてる誘拐犯だな?」
確かに状況的にはそう見えるのだろうが、遥斗からしてみれば言い掛かり以外のなにものでもない。
「僕らは別にそのようなつもりはないんだ。まずは話を――」
「うるさい!! 誘拐犯の話なんて聞くかよ!!」
遥斗の言葉を聞こうともせず少年と少女を後ろに青年は腰の両手剣を引き抜き、遥斗達に向かって構えた。
それを見て、遥斗は少し面倒だなと頭を悩ませる。
ここで力付くという手を行使するのはあまり良い行動では無い。
それは自分があまり是として取りたい行動では無いというのも理由の一つだが、一番は自分達の目的を遂げる以上、近隣住民の協力は必須だからだ。
今の時刻は夜。病院や診療所の多くは閉まる頃だろう。
そこへ見ず知らずの人間が助けてくれと言ったところで診てくれる可能性は低いだろう。だが、近所の人も同伴であれば、診てくれる可能性は前者の何倍も高くなる。
この状況において、自分達に非はない。
とはいえ、長時間を説得に要するわけには行かない。
「俺っちがやろうか?」
太一に肩を貸している雷堂修がそう告げるが、遥斗は彼の焦りに満ちた目を見て、その意見を却下しようとした。だが、同時に遥斗は見逃さなかった。
相手の青年が修を見た瞬間、ビクリとしたことを。
見れば青年は剣を持っているだけで、装備をつけていない。
首や手足を見れば満足に栄養も足りてないのだろうと察せられた。
それを察した瞬間、遥斗は良い案を思いついたのか、ニヤリと笑い、修を手で制す。
「ここは任せてくれ」
修は少し納得がいかないという様子だったが、こういうことは自分よりも遥斗が適していると理解している為、潔く退いた。
遥斗は冷徹な眼差しで青年を見て、びくつく青年に対し、少々威圧的に告げた。
「はっきり言おう。僕らは君が言う誘拐犯ではなく、ただの新米冒険者だ。だから、君達に危害を加えるつもりはない。だが、君が襲いかかってくるというのならば、自衛の手段を取らざるをえない。そうなれば、君の命がある保障はできないし、そうなった後、後ろの二人がどうなるかの保障もしかねる。だが、君が僕らの話を聞いてくれるというのであれば、君達に危害を加えないと約束しよう」
「……話を聞くだけでいいのか?」
「もちろんだ」
「……わかった」
そう言いながら、渋々剣を収めた青年を見て、遥斗は自ら纏った威圧的な雰囲気を脱いだ。
「それで、話ってのは?」
未だに警戒心を隠そうともしない青年を前にしながら、遥斗は彼の手が剣の柄を握っているのを見た。
そして、遥斗は青年と目を合わせ、答える。
「僕らの仲間が毒と思しき症状を負ってしまったんだ。だが、僕らの中にここらの環境に詳しい者がおらず、対処に困っている。君の知り合いに彼を蝕んでいる毒に対処出来そうな者はいないかい?」
「毒?」
青年は遥斗が親指を向けた先に目を向けた。そこには修と恭弥に体を支えられた太一の姿があり、事の重大性に気付いた。
「毒を摂取してからの時間は?」
「修」
「そんなに経ってないよ。日が落ちきる直前までは元気だったっぽいし。多分、二十分くらい前じゃないかな?」
「体は動かしてないんだな?」
青年の質問に、遥斗は修の方を目だけで見やる。その意図を察し、修は口を開いた。
「見てのとおり、太一君は体が大きいんだ。引きずってなら俺っち一人でもいけるけど、流石に苦しそうだったしやめたんだ」
「魔物との戦闘は?」
「魔物ってのがなにかは知んないけど、俺っち達は木の実とかの収集を任せられてたから、何も狩ってないよ」
「なら考えられるのは植物系の毒って訳だ。なら、これさえ飲ませれば治せるよ」
青年がポシェットから取り出したものは、手のひらサイズの小瓶だった。その小瓶には緑白色の液体が入っており、青年はそれを遥斗に手渡した。
どう見ても医者ではない青年が取り出した液体を訝しげに見た遥斗は、そのままの目で青年を見る。
青年の様子からは騙しているとはとても思えず、むしろ親切心で動いているのだろうと察せられた。
「一応これがなにか聞いていいかい?」
「あれ? お兄さん達、ポーションを知らないの?」
「ポーション?」
聞き覚えのない単語に、遥斗の頭が疑問符で埋まる。
そんな遥斗を青年は訝しげに見始めた。
「お兄さん達、冒険者なんだよね? それなのに知らないの?」
「ごめんけど、知らないかな。ポーションって薬かなんかなのか?」
「ちょっと違うね。薬は病気の人が飲むものでしょ? ポーションは毒や怪我、魔力なんかを回復させたいって時に使うんだ。上級のポーションなら病なんかも治せるけど、僕達庶民には手がでないくらい高いから、これは下級のポーションね。魔物の毒とかだったらきつかったんだけど、ここらに生えてる植物の毒は致死性が無く、あくまで下痢や熱、麻痺の効果を出す程度なんでほっといても治るんだ。でも苦しいことには変わりないから、その症状を緩和し、治癒を早める効果があるこのポーションさえ飲んで一晩安静にしてれば、次の日には今日以上に元気になってるよ」
「この世界には、そんな便利な代物もあるのか……」
「この世界?」
「あーいや、気にしないでくれ。それよりお代は?」
「無論いりません。ただ……」
「ただ?」
突然敬語になった青年の表情が突然暗くなったように、遥斗は感じた。
「実は家、すぐそこのカルファ村で冒険者の方々専用の宿屋をやってましてね。ただ、王都が近いせいもあってあんまり儲かってないんですよ。父は冒険者稼業で早くに亡くなり、女手一つで自分達を育ててくれた母に少しでも恩返しがしたいんです」
「要するに、僕らに客として来てくれって訳ね」
「もちろん無理強いはしません。その場合はポーションの適正価格を払ってさえくれれば、文句もありません」
「ふ〜ん、だってよ? リーダー」
遥斗は後ろで黙り続けていた恭弥にポーションの入った小瓶と共に全ての判断を投げた。
だが、その声音はどう答えるかがわかりきっているのか、明るいものだった。
そして、飛んできた小瓶を受け取った恭弥もまた、ニヤリと笑った。
「悪意には悪意で返すが、義理には義理で返す。それが俺達『ステラバルダーナ』の信条だ! んなもん、断る理由がねぇよなぁ!! だろ、てめぇら!!」
「無論」
「俺っちも問題ねぇぜ」
「て訳だ。厄介になるよ……え〜っと」
「フューイです。フューイ・エルディ。こっちは弟のロイドと妹のノエルです」
兄の背中に隠れながら少年と少女がペコリと頭を下げた。
それを見て、遥斗は人の良い笑みを向けながらフューイと名乗った青年に向かって手を差し出した。
「よろしく、フューイ君。僕は伊佐敷遥斗、気軽にハルトって呼んでくれ」
差し出された手を見て、フューイは一切躊躇うことなく遥斗の手を握り返した。
「はい、よろしくおねがいします、ハルトさん。それでは宿までご案内しますね」
「ああ、よろしく頼むよ」
こうして、『ステラバルダーナ』の面々は、フューイの案内で、カルファ村へと向かうのであった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
※文章の中にある数字は漢数字に統一することにしたので、今日中に直してきます。