第4話:国家転覆罪だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)
前回のあらすじ。
魔人との戦いから目を覚ました恭弥がいたその場所は、まさかまさかの牢屋で、なぜそうなってしまったのかを、遥斗から教えてもらうのだった。
透明感のある銀色の髪と、気品溢れる凛々しい佇まいの女性騎士に伊佐敷遥斗は一瞬見惚れかけるも、すぐに現実を知ることになった。
「皆さん、そんなに殺気立ってどうされたんです?」
百は有に居そうな騎士の軍列、しかもそのほぼ全員が殺気立った目を自分に向けていれば、流石の遥斗も下手に動けなかった。
そんな騎士達を背に、毅然とした様子のソフィアは周りの凄惨たる光景を見て、サキュラにその鋭い眼差しを向けた。
「魔法大隊隊長サキュラ・シュテリングス、状況を簡潔に説明なさい」
「変態に襲われて辛いです! 助けてください!!」
怯えきった声で泣き叫ぶサキュラ。ソフィアの後方で更に殺気立つ男達。そんな状況に板挟みされ、気が滅入ったように頭を抑えるソフィアは小さく溜め息を吐いた。
「……そういうことを聞きたいんじゃないのよサキュラ。魔人はどうしたのかと聞いているのです」
「魔人? ……あぁ〜なんとなく思い出してきた……あのオニキスとかいうクソ野郎に負けたのか、僕は……いや、どうやら僕だけじゃないっぽいな」
表情が一変して真剣なものになった遥斗はようやく気付いたのか恭弥達の倒れた姿を一瞥し、改めてソフィアの方を見た。
「なんとなく状況はわかったよ。貴女方はあのオニキスとかいう魔人を倒しにやってきた援軍ってことであってるのかな?」
「オニキスというのは例の魔人が名乗った名前ですか?」
「そうだけど、それがどうかしたのかい?」
「拘束せよ」
その言葉は一角馬に跨った壮齢の男性が放ったものだった。
ソフィアの後方にいた騎士の内の数名が素手の状態で遥斗の拘束にかかろうとするが、遥斗の腕に触れた瞬間、その二人は遥斗の流れるような動きで地面に叩きつけられた。
「野郎が僕の身体に触れるな……殺すぞ?」
並々ならぬ殺気に、その一部始終を見ていた者達は思わずその足を止めた。
騎士団の者達は誰一人例外なく頑丈な甲冑を纏っている。当然、遥斗に倒された者達も例外ではない。
それにもかかわらず、ほとんど一瞬に等しい時間で遥斗は二人の男性を倒してみせた。
ひょろがりの若造を、では無い。
幾多の戦場に赴き、たゆまぬ鍛錬を積んだ強固な肉体を持った猛者を、だ。
間近で見ていた者達の多くは何が起こったのかも理解できていないのだろう。彼らはその表情を隠すことが出来なかった。
敵の戦意を挫いた遥斗の行動はそれで終わりでは無かった。
遥斗は周囲に一瞬で視界を飛ばす。
須賀政宗と雷堂修の二人は半径五メートル程の位置で転がっており、目に見える傷は無いがこの物音で起きていない以上、簡単には起きないのだろうと瞬時に察した。
海原恭弥も二十メートル近く離れているが、それで聞こえないということは無いだろう。
戦力として数えることは出来ないのだろうと遥斗は悔しそうに察した。
あと一人の山川太一は姿が見えない為、正確な位置はわからないが、どうせ村で呑気にハンバーグでも食ってるのだろうと、思考から消した。
遥斗の頭が回る。
(この状況じゃ一人二人倒したところで無意味に等しい。多人数で無理矢理押さえつけられる可能性があるからな。そうなったら例え万全の状態でも僕一人じゃどうにもならない。だからといって逃げるのも論外。キョウヤ達を見捨てて一人生き延びても僕が僕を誇れないんじゃなんの意味も無い。この状況でやるべきは……)
時間にしてほんの数秒、遥斗にはそれだけで充分だった。
下手すれば間違いなく死。それなのに何故か笑みが込み上がってきて、不思議と感情が昂ぶってくるような感覚に見舞われた。
遥斗は息を整え、冷徹な眼差しを先程指示出しをした壮齢の男に向けた。
「今僕はものすごく機嫌が悪いんだ。次、理由も言わずに野郎共を差し向けるなら、その偉そうな顔を地面に叩きつけんぞおっさん」
「おっさんだとっ……それは私を現国王の弟、ヴァルム・ベルド・ファルマイベス公爵だと知っての狼藉か!!」
怒り心頭といった感情がありありと伝わってくると同時に、あと何個か質問しなければ聞けないであろう情報が流れこんできたことに、遥斗の目が一瞬、つまらなさそうなものでも見るかのようなものに変わった。
(ハムの方かな? まぁどっちでもいっか……)
考える時間は一秒でも多く欲しかったが、相手の怒りを逆撫でしている以上、時間を長引かせることは悪手。端的かつ明確に相手の戦意を挫く必要があった。
「それで? その公爵様が一体全体何用でこんななんの取り柄もない冒険者を捕まえようとしたのか伺っても?」
「そんなもんベルファス城での一件に決まっておろうが!!」
ヴァルム公爵の言葉に遥斗は動揺するどころか、得心がいったような表情すら見せ、一切の余裕を崩さなかった。
(やっぱりばれちゃってたのか。あの赤髪の奴が僕を見る目が変わってたからそうかもな〜って思ってたんだよね……やっぱり早くこの国を出るべきだったか……さて、考え得る限りで一番最悪な結果になったな……)
仲間である太一を処刑しようと宣った国王を殴ったことに今更後悔は無かった。状況が状況で、相手が本物の王と思っていなかったのも事実としてあるが、例え彼らの言葉全てを鵜呑みにしようと同じことをしていたに違いないのだ。
「貴様ら五人はこれより勇者一行では無い。この国を滅ぼさんとした悪虐無道。断じて許してはおけぬ!」
「お待ちください!」
「なんの真似だソフィア!」
決定を下そうとしたヴァルム公爵を手で制したのは、彼の姪であるソフィア副騎士団長であった。
「フェンネル騎士団長が意識の無い今、私に全権があります。確かに彼らが王城で取ったと言われている行動を黙認することはできませんが、まずは状況確認が先です。我々の目標はあくまで魔人の撃退。既に戦いが終わっているのであれば怪我人の救護が何よりも最優先。確保はそれからでもよろしいでしょう」
「それでは逃げられてしまうでは無いか!」
「それはありえないでしょう」
ソフィアは冷静にヴァルム公爵を諭し、遥斗の足元近くに転がっている修や政宗を見た。
「話によれば彼らは仲間の処刑に腹を立て暴れたと聞きます。気を失った仲間四人をここで見捨てて逃げるようなら初めからその仲間を切り捨てているはずです」
「へぇ~理知的な人は結構好みだよ」
「私は貴方のような軽薄そうな人間は嫌いです」
「手厳しいな〜」
「よって、彼らの捕縛はある程度の治療を施し、公平な場で改めて罰を与えるべきだと私は判断致します」
「うんうん、すっごく良い判断。でもそれってさ、僕が何もしなければ、の話だよね?」
遥斗の浮かべた不敵な笑みを見て、ソフィアは自身の直感を信じ、腰に差したレイピアを引き抜くべく持ち手に手をかけた。だが、それよりも早く遥斗は動く。
少し離れた位置に転がっていた修の拳銃型改造釘打機をクロスリールで蹴り上げた。
そして、改造釘打機が吸い込まれるように遥斗の右手に収まると、遥斗は銃口をヴァルム公爵に向けた。
近くに立っていた忠臣達がヴァルム公爵を守るべく動こうとした。次の瞬間。
「動くな!!!」
辺り一帯に響き渡るような大声が、動こうとしていた者達をその場に釘付けにした。
「君らが一歩動くより僕の指が動く方が早い。君らが詠唱をするよりこの銃が公爵殿下の命を刈り取る方が早い。この意味がわかるかい? 君らが勝手な行動をすれば公爵殿下を殺すっていうことだ」
冷静に相手の恐怖心を煽るように単調かつ明確に遥斗は言葉を紡ぐ。
その結果、言葉の意味を理解した者達が早計に動こうとする者達を手や声で制し、状況が静まるのにそう時間はかからなかった。
「良い判断だ」
「なんのつもりだ……私を殺せばお前達は確実に――」
「死刑でしょうね。でも、王様の弟を守りきれなかったらその責任は誰が取る? 勝手な行動をとって僕を刺激しその結果王様の弟が死ねば、その責任はそいつが負うことになり、そいつの一生を間違いなく終わらせる。言っておくが、ブラフだと思わない方がいい。僕は女には手を出さないが男相手なら一切の迷いなく引き金を引けるんだ」
遥斗の言葉を聞き、前へ出ようとする者は一人もいなかった。
遥斗の持つ武器の詳細を知る者はいない。だが、遥斗の余裕が彼の持つ見たことの無い武器の性能を高めていく。
一瞬で相手を死に追いやる武器。
魔法よりも早く、動くよりも早く、相手を殺す武器。
はったりと断じ、遥斗を捕縛しようとする者は誰一人としていなかった。
この場において圧倒的不利なはずの遥斗が、いつの間にか場を制していた。
だが、遥斗とてわかっている。
修の持つ改造釘打機は拳銃の形をしていても銃弾は発射されない。
連射可能ではあるが、正確に急所に当てなければ人の命を奪うことはできない。
修と違って銃なんて扱ったことのない遥斗が正確に当てるのは不可能に近い。
確認する時間が無かった為、もしかしたら釘の残弾数が無いかもしれない。
不安は募る。しかし、その表情に焦りを見せれば全てが水の泡。
遥斗は堂々と、余裕綽々を演じてみせた。
「ぐわっはっはっはっは!」
突如として静まり返った空間に豪気な高笑いが響き、全員の視線がそちらへと向いた。
騎士による人垣をかきわけ前に出てきたのは人並外れた巨躯の男。
重厚な鎧装備と巨大な盾を持ったその男は最前列に立つと、遥斗を見て更に笑った。
「良いな! 流石だ勇者! この状況で物怖じせず打開策を見出すとは! わしはお前さんが気にいったぞ!」
「おっさん話聞いてなかったの? 下手なことをしたらこの公爵を撃っちゃうよ?」
「安心したまえ。わしはメフィラス、この重装歩兵大隊を率いる隊長だ。だが今は元騎士団団長として、お前さんと交渉するべく来たのだ。全員武器を下げよ! これよりわしの視界で武器や魔法を使った者は本気拳骨の刑だ!」
メフィラスの圧がこもった言葉に気圧され、全員が武器をしまい、次の指示を待つ体勢に移行した。だが、その表情には消しきれていない怯えの色が浮かんでいた。
「何をしておるメフィラス。早くこの男を殺して私を守れ!」
「公爵殿下も下手なことはせんでください。貴方も命が惜しいでしょう?」
ヴァルム公爵は怯えきった声でメフィラスに命令するも、メフィラスは動こうとすらしなかった。
「この交渉はわしが責任をもって執り行う。わしに出来ることであればそれなりには譲歩するつもりだ。もちろんその武器を下げる必要も無いぞ」
「元騎士団団長か……それって今の団長がいて世代交代してるってことだろ? 権限とか大丈夫な訳? 今の団長が来てやっぱり受けませんって言われるのは困るんだけど」
「大丈夫だ。今の団長はそこで伸びとるから」
メフィラスが指を差した先に目を向け、遥斗は絶句した。
何故ならそこにいたのは昼間にウィンリン商会で喧嘩を売ってきた赤髪の青年だったからだ。
「嘘ならもっとマシな嘘を吐け」
「悪いが嘘じゃないんだ」
メフィラスの答えを聞き、遥斗は顔に出さないと決めていたにもかかわらず、動揺を全面に出していた。
(……嘘でしょ……あいつそんな重要なポストについてるのに店の中で一般人相手に喧嘩売ってきたの? 頭イカれてんじゃねぇの?)
嘘と断じても良かったが、メフィラスの真っ直ぐな目がそれを真実だと物語っていた。
「……わかった。…………一応あんたの言葉を……っっ……信じよう!」
「お前さん、うちの団長となんかあったのか?」
「いや、気にしなくていい。それよりこちらの要求だ」
「聞こう」
「僕からの要求は二つ。僕らへの完璧な治療と王族の意見が通らない絶対的に安全な牢屋を用意してほしい」
「牢屋? 投獄してほしいということか?」
「そうだ。その際、僕らの名前は伏せてほしい。カルファ村の人達に迷惑はかけたくない」
「それは理解できるが、本当に牢屋で良いのか?」
「あぁ、三食女とベッド付きだと尚良い」
「贅沢言うな。三食と安全な寝床だけで我慢せい」
「……チェッ、しゃあないか」
遥斗は露骨に舌打ちすると、ヴァルム公爵に向けていた改造釘打機を下ろした。
「ピルカ、彼を連行しろ」
「はっ、はいであります!」
メフィラスが近くにいた女性騎士に命令すると、女性騎士は怯えながらも遥斗の両手に拘束具をつけた。
そこからの対応は早く、彼らステラバルダーナの面々は騎士団の者達から治療を施され、甲冑騎士団本部が置かれている王都の地下に国家転覆の罪で投獄されるのだった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
・今年最後の投稿終了です。
今年の1月末に投稿し始めたんですが、社会人になったこともあって長期連載型の作品を同時に手掛けるのは難しいと実感した1年でした。
大学生の頃なら授業中に書けたんですがね(笑)
まぁそれでも書かないって選択肢はなくて、なんとか失踪せずに1年書ききることができました。
それもこれも支えてくださる皆様のお陰だと心から思えます。
来年も楽しく読んでいただけるように書いていきますので、何卒よろしくお願い致します。
それでは良いお年を。




