第4話:国家転覆罪だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)
前回のあらすじ。
恭弥が倒れ、フェンネルの切り札が発動。
それは魔力の鎧によって防御力を向上しただひたすら殴り続けるというTHEゴリ押し戦法だった。
これにより、一度は魔人オニキスの強力な防御壁を打ち破るも、その結果魔人オニキスの怒りを買ってしまう。
魔力で出来た大量のテーブルナイフ。
相手の意識を奪う効果を持つそのナイフは、フィル、修、政宗の三人の意識を奪い、遂にはフェンネルにも牙を剥く。
誰一人として立てる者はおらず、魔人オニキスの能力の仕組みをフェンネルが暴くも、魔人オニキスは歯牙にもかけない。
だが、魔人オニキスの目的は魔王クリスタからの伝言を恭弥達に伝えることだったようで、彼はそれを済ますと、誰一人殺すことなく、その場から立ち去るのだった。
雲一つ無い晴れた晴天の下、フューイは自身の母親が営んでいる宿屋の前をいつものように箒で掃除していた。
しかし、そんな彼の表情は曇っており、なにかに悩んでいる様子だった。
「はぁ……あれからもう五日も経つのか……」
何度目かもわからない溜め息を吐き、掃除していたフューイの手が止まる。
すると、突然後ろの扉が開けられ、音に驚いたフューイは慌てて箒を握っててきぱきと掃除をし始めた。
「お兄ちゃん……」
聞き覚えのある少女の声が聞こえてフューイが振り向くと、そこにはフューイの妹であるノエルと弟のロイドが立っていた。
「なんだノエルとロイドか……驚かせるなよ」
「ねぇねぇ、タイチ君とシュウお兄ちゃん、いつになったら帰って来るの?」
ノエルの質問に、フューイは息を飲んだ。
魔人の出現により、その場にいたフューイとその母親であるシャルフィーラを逃がす為に一人残った伊佐敷遥斗。
フューイ自身はカルファ村に戻った後、気を失ったシャルフィーラの治療をするべく村の皆と共に避難したが、遥斗の仲間である海原恭弥、須賀政宗、雷堂修、山川太一の四人は遥斗を救出するべく騎士団の人と共にモハン湖の方へと向かっていった。
だが、その日から五人はカルファ村に戻ってきていない。
様子を知ろうにも森へ行く入口には騎士団の人間が見張りに立ち、部外者の立ち入りを一切禁止とし、知ろうにも情報を得られないでいた。
だからこそ、フューイはノエルの質問に答えられずにいた。
「ごめん、お兄ちゃんにもわからないんだ」
しゃがみ込み、ノエルの頭を撫でた。
そんな言葉しか与えてやれない自分が歯痒かったが、それ以上言える言葉が無かった。
「帰ってきたらまた遊んでくれるって約束したのに……」
ノエルは目に涙を溜め、俯く。ノエルのそんな姿になにか言葉をかけたくなるが、適切な言葉がフューイには思いつかなかった。
そんな時だった。
「おいおい聞いたか? 例の王様を暗殺しようとした連中の処刑が決まったらしいぞ?」
その声はフューイもよく知る村の男のもので、どうやら仲の良い男友達と談笑している様子だった。
「本当かよそれ、いつになるんだ?」
「三日後になるって話だ。まぁ、王様を半殺しにしたんだ。間違いなく断首か火炙りだろうな」
その話題は今国中を賑わせているものだった。
二週間程前に起こった国王陛下並びに多くの大臣が半殺しにされた大事件。
当時城の中で警備にあたっていた兵士や騎士たちですら太刀打ち出来ず、結果犯人は捕まることなく逃亡。
当時渦中にいた者達は犯人の特徴を黙していたが、例の魔人が攻め込んできた次の日に犯人を捕まえたという情報が国中を駆け回巡った。
ただ、この国にしては大層珍しく、犯人の素性や顔、その人数ですら公表しておらず、国民の中には国の威信を回復させる為の嘘なのではないかと疑う声もあった。
フューイ自身はシャルフィーラの容態やノエルとロイドの世話等でそれどころでは無かったが、国王陛下を襲う程の凶悪犯が処刑されるというその情報は、少しの安堵感をもたらす内容であったことは間違いないだろう。
(はぁ……早く帰ってきてくれないかなぁ……)
心の中で溜め息を漏らしつつ、虚空を見てそんなことを思いながら、フューイは二人と共に宿の中へと戻るのであった。
◆ ◆ ◆
それは日も届かない地下の一室。燭台に乗った蝋燭の火が揺らめき、槍を持った男が暇をもてあますように大きな欠伸をした。
ただその場に立ち、中にいる者達を監視する。
大事な職務とはわかっていながらも、その時間は退屈の一言に尽きる。
せめて話相手でもいればとも思うが、中の者達と話しているところを見られれば共謀の罪で彼らの仲間入りをする可能性もある。
結局、なにもしないが彼に残された唯一の選択肢だった。
そんな男の耳に、牢の鉄格子が蹴られたような鈍い音が聞こえた。
本来であれば見なければわからない為、真っ先に確認しに行くのだが、男はそれが鉄格子を蹴る音なのだと断定し、そのままの姿勢を貫いた。
何故ならそれが一番面倒では無いのだから。
鈍い音は何度も何度も続く。
時折、ここから出せと反響した声が届いて来る。
普通の囚人であれば痛めつけ、それ相応の立場というものをわからせるのだが、彼らだけは丁重に扱うようにと騎士団長から指示を受けている以上、見逃すことしか出来なかった。
「こっから出しやがれ!! 元はと言えばてめぇらが太一君に手を出したんだろうが!!」
苛立ちを発散するかの如く、修は何度も何度も自分達を閉じ込める鉄格子を蹴った。
しかし何度蹴っても鉄格子はうんともすんとも言わない。
それもそのはず、初日に普通の鉄格子を修が蹴り砕き、太一が歪ませて暴れたせいで、その鉄格子は強度を魔法で最硬クラスにしてあるのだから。
修自身も自身の行為が無駄であることはとっくに理解していた。
理解していたが、やらなきゃ自身の中にある衝動を抑えることは出来なかった。
「修殿、落ち着くでござる」
「けどよ!」
落ち着き払った声で諭され、怒りに染まった眼差しが、そちらへ向いた。
「拙者達は敵の陣営で暴れたのだ。この地に留まり、隙を見せた拙者達の落ち度でござろう」
「そういうことだ。この国が本物の国だとわかった時点で僕らはこの国を出ていくべきだったんだ。なんせ本物の王をボコったんだからね。参謀なのに時期を見誤った僕のミスだよ」
「チッ……」
正座をしながら諭す政宗と、壁に背を預けて立っている遥斗の自分を卑下するような言葉で、修は今まで以上の威力で強烈な蹴りを放ち、それを最後に鉄格子を蹴るのを止めた。
そんなタイミングだった。
「ん……ここは……どこだ?」
寝心地の悪そうな石畳の上で、恭弥は重そうに瞼を持ち上げ、掠れた声を上げた。
その声にいち早く反応したのは修だった。
「おっ? や〜っと起きたか寝坊助リーダー」
ズボンのポッケに両手を突っ込んだ修が覗き込むように恭弥の顔を見ると、恭弥は身体を起こそうとしていた。だが、恭弥が身体を動かそうとした瞬間、全身を駆け巡る激痛に耐えきれず恭弥は辛そうな声を漏らす。
「クソいてぇ……遥斗、ここはどこなんだ?」
「牢屋だよ、キョウヤ。僕らは捕まっちゃったんだ。参ったよね」
冗談でも言うように笑う遥斗。だが、恭弥は笑わずいまいち状況が掴めていない表情で遥斗の方を見続けた。
その表情は明らかに覚醒しきっていない様子だった。
「なんで牢屋に……?」
「それを今から説明するよ。キョウヤ、気を失った君にとってはあれから一瞬のようにも感じられたかもしれないが、実はあの日から五日も経ってるんだ」
そんな前置きをし、遥斗はその場に胡座をかいて事の顛末を恭弥に語り始めた。
◆ ◆ ◆
魔人オニキスが魔王からの伝言を伝えて立ち去ると、既に限界だったのか、騎士団長であるフェンネル・ヴァーリィはすぐに意識を失ってしまった。
そんな状況の中、たった一人見逃されたサキュラ・シュテリングスは少しの間、呆けて動けなくなってしまっていた。
「……団長……ぁ……回復……しないと……」
震える口でなんとか言葉を紡ぐが、それを聞いている者はいない。
震えながらも木に手をつけながら立ち上がり、サキュラはゆっくりとフェンネルの元へと歩いていき、気を失った彼の傍らにへたりこむように座った。
「我は乞い願う。彼の者を癒す清浄なる力を……理を覆す神の御業を……上級回復魔法!」
サキュラを中心に赤き魔法陣が展開し、魔法陣はフェンネルだけでなく、近くにいた修と政宗の倒れている場所にまで範囲を広げていた。
辛そうな表情を見せるサキュラの周囲に赤い光の粒子が出現し、それらは効果範囲の三人に我先にと付着していった。
しかし、時間が経つにつれ、サキュラの表情に動揺の色が浮かんでいった。
「…………嘘……なんで目を覚ましてくれないの?」
サキュラの言うように、フェンネルの外傷や修の額の傷は治っていっているが、三人が起きる様子は全く見られない。
ただでさえ苦手な回復魔法を使ったうえにその結果が芳しくないのを見て、サキュラは自分の認識を改めるしかなかった。
(上級回復魔法は怪我や病気には効果があるけど、衰弱や毒といった状態異常にはあんまり効果がない……だから多分これは状態異常によるブラックアウト……状態異常に対する魔法も覚えてはいるけど、私の付け焼き刃程度の魔法であの魔人の状態異常が治る訳がない……でも騎士団の後方支援部隊の人達ならもしかしたら……)
確証はなかった。
もちろん騎士団の仲間であり、何度もその実力を見てきた後方支援部隊の者達を信じていない訳ではない。
だが、現に先程サキュラの中の最強が完膚無きまでの敗北を喫した。
もしかしたら彼らにも治せないのではないかと不安が過ぎる。
だが、それでも何もしない訳にはいかなかった。
「だけど……皆を見捨てて助けを呼びにはいけないよね……」
サキュラもこの辺には凶暴な肉食の魔物がいないことは知っている。だが、年に数回、肉に飢えた魔物がこの辺に来ることもある。
唯一動ける自分がこの場を離れるのはギャンブルにも程があった。
「せめてさっきの村みたいな安全なところに運べれば……」
だが、体格の良い男連中を運ぶにはサキュラはあまりにも線が細すぎた。
誰かが偶然ここを通るのを待つしかないのかと諦めかけたその時、サキュラの視界に回復の途中だった遥斗の姿が映った。
「確か彼は……あのナイフの攻撃は受けてなかったはず……でも、もし同じ症状だったら? ……迷ってる暇は無い。もうすぐ夜になる……そしたらもっとやばい……」
サキュラは未だに発動し続けている…上級回復魔法を解くことなく、少し離れた先にいる遥斗に向かってかけた。
これによりフェンネル達ヘの回復効果は無くなるものの、三人分に割かれていた効果が一点に集中し、範囲という概念も必要なくなった。
やがて五秒も経たぬうちに遥斗の怪我は癒え、重そうな瞼が開かれた。
「ここは……!!? 美女発見!!」
急に叫びだしたかと思えば、突然目の前に傅かれ、サキュラは目を白黒させた。
「あぁ……目が覚めたら絶世の美女が何故か目の前に……不思議とわかります。貴女はこの私めを死の淵から救い出してくれたのですよね?」
「確かに……上級回復魔法はかけたけど、そんな大袈裟なものじゃ……」
「これはあれか? 白雪姫の逆バージョンか? 美しいお姫様のキスで目が覚めた僕は彼女と結婚する運命なのか?」
「いや別にキスはしてないんだけどね!? ていうか君と結婚する気は微塵も無いんだけど!」
「そんな恥ずかしがらずに。先ずはデートからでどうです? お互いのことをよく知ってから歩み寄るのもまた恋というものです」
「君全然話を聞いてくれないね!? なんかさっきの魔人より君の方が百万倍怖いんだけど!?」
「異性が怖いのなんて当たり前です。だからこそお互いのことをよく知ることが大事なんです」
「絶対間違えた!! 絶対起こす方間違えた!!! 助けて団長〜!!!!」
森中に響き渡るような悲鳴をサキュラが上げた直後だった。
「大丈夫ですか! サキュラ!」
サキュラを心配するような女性の声が聞こえ、サキュラと遥斗は同時にそちらへ向いた。
そこにいたのは、甲冑騎士団副騎士団長を務めるソフィア・ベルド・ファルマイベスであった。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
・遅くなって申し訳ないです。来年まであと一本は投稿したいと思っています。




