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第2話:サイクロプスだろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)


 前回のあらすじ。

 恭弥と謎の男フェンネルが一触即発の状態になっていると、彼らの元に店の店長であるオネールがやってきた。

 彼? は恭弥とフェンネルが喧嘩のきっかけとなった『ルシュウの油』が納品されていない理由を説明し、その元凶である魔物の討伐を依頼してきたのだった。


 海原恭弥(かいばら きょうや)は、ウィンリン商会で出会ったフェンネル・ヴァーリィについてこいと言われ、人気の無い通りへと入っていった。

 陽の当たらぬその場所はとても薄暗く、ゴミのような物も散乱しており、活気のある表通りとは正反対な様相。

 てっきり目的地ヘ向かうとばかり思っていた恭弥の目が、訝しむようにフェンネルの背中を睨んだ。


「まさかここでさっきの続きをやろうってのか?」

「ハハッ、まさか。ただ人目を避けたかっただけさ。ああ、そうそう、一つ言い忘れていた」


 そこまで言うと、フェンネルは振り返り、更にこう告げた。


「初めてだと酔うから気をつけろよ」


 次の瞬間、フェンネルが高らかに指を鳴らした。

 それは、彼が持つ個有能力(ユニークスキル)の発動を意味していた。


「…………は?」


 恭弥は目の前で起こった状況を前にして、思わず固まってしまった。

 先程まで薄暗く散らかった裏路地にいたはずなのに、何故かそこには、広大な大地が広がっていた。


(何処だ、ここは?)


 目の前で起こったことが飲み込めず、恭弥は辺りをキョロキョロと見渡した。

 自分は一歩も動いていなかった。

 乗り物にも乗っていなかった。

 それにもかかわらず、ここは先程までの場所とは違っていた。

 周囲にはちょくちょく動物のような存在が見えるが、人影一つ見つからない。

 獣のうめき声は聞こえても、人の話し声はまったく聞こえない。


「驚いたって顔だな?」


 いきなり声をかけられ、恭弥はフェンネルの方へと視線を戻した。

 フェンネルは自慢気な表情をしており、恭弥の額に筋が立つ。


「おい、いったい何しやがった……」

「何って、ただ歩いて移動すると時間がかかるから俺の個有能力(ユニークスキル)で移動しただけさ。感謝しろよ? 歩きだと数日はかかっていたからな」


 個有能力(ユニークスキル)。それは千人に一人の逸材のみが開花することの出来る特殊な力で、人によっては影の中に潜ったり、人によっては呪文詠唱を省略できたりと、その力は千差万別で多種多様。だが、揃って言えることもあった。

 それは、戦闘において、圧倒的な優位性を得ることだ。

 恭弥も当然、その存在を知っていたし、そのことについて今更驚いたりはしない。

 だが、もしフェンネル()と戦うことになった場合、その個有能力(ユニークスキル)という未知なる存在は大きな障害となっていただろう。


「歩いて数日かかる距離を一瞬で、か。すげぇな。そのユニークなんたらってやつは」

個有能力(ユニークスキル)な」

「それで? ここは何処なんだ?」

「ここか? ここはウィール平原のちょうど真ん中辺りだったか? 店長の話だと魔物が出たのは関所を抜けて少ししたらって話だったが、俺は今お忍びで来ているからな。関所の連中にばれるとまずいからここに来たって訳だ」

「ばれるとまずいって、お前なんか悪いことでもしたのか?」

「悪いって程では無いと思うが、多分ソフィアのやつはかなり怒ってるだろうな。『ルシュウの油』買ったらすぐに戻るつもりだった訳だし、面倒事押し付けてきたし」

「ソフィア? 誰だそいつ?」

「すぐに会えるさ。ほら、もたもた歩いていると被害者が増えるぞ。 ついてこい!!」


 フェンネルが走りだすと、大地が揺れるような踏み込みのせいで土煙が上がり、恭弥は反射的に顔を庇った。

 そして、すぐに腕をどかすと、フェンネルの背中は既に小さくなりかけていた。


「クソがッ!」


 苛立ちを隠せず毒を吐いた恭弥は、負けじと地面を蹴り、その遠く離れた背中を追いかけるのだった。


 ◆ ◆ ◆


 三キロ程だろうか。

 走っても走っても追いつかない背中を追いかけていると、先頭を走っていたフェンネルが足を止めた。

 車顔負けのスピードを維持しながらも、息をまったく切らしていないフェンネルを見て、恭弥は言いしれない苛立ちを覚えた。

 だが、すぐに恭弥の意識は別のところに向かった。

 フェンネルと恭弥の視線の先にあったのは人が寝転がれる程の巨大な足跡だった。


「おいおいこれって人間の足跡だよな? この世界にはこんなでっけぇ人間がいるのかよ」

「いや、この大きさは一つ目の巨人(サイクロプス)だな。人間とよく似た足の形はしているが、その大きさは段違いだ。ただ……」

「ただ?」


 まるで自分が見ているものを信じられないとでも言いたげに深刻な表情で足跡をまじまじ見るフェンネルに、恭弥は言葉の続きを促した。


一つ目の巨人(サイクロプス)は元来森の奥地や山の奥地といった人目につかない場所で生息していたはずだ。この国でも見たって話はここ数十年聞いたことがない」

「単に見つかってなかっただけじゃないのか?」

「身体の大きさが人やそこらの魔物とは段違いなんだ。少なくともこんな広大な草原で見つからないなんてことはまず無いだろう。今日まで目撃情報の一つも無かったなんて信じられないな」

「じゃあ別の魔物なんじゃないか?」

「いや、他の魔物なら鋭い爪の跡が無いのはおかしい。これは人間と同じように指の上に爪が出来る一つ目の巨人(サイクロプス)の特徴だな」

「じゃあ誰かが遊び半分で描いたアートとかいうやつなんじゃないのか?」

「草原の魔物はとにかく足が速いのが特徴だ。こんな格好の狩場で呑気にこんなものをつくるやつがいれば、そいつはよっぽどの馬鹿か、死にたがりぐらいだろうな」

「つまり要約すると?」

「この近くに一つ目の巨人(サイクロプス)というとんでもなく強い魔物がいるってことだ」

「へぇ~」


 フェンネルの言葉を聞いた瞬間、恭弥の顔がニタリと愉しそうな笑みを形成し、フェンネルを軽くドン引きさせた。


「そいつは近いのか?」

「いや、それだったら姿が見えていてもおかしくないはずだ。となれば、この少し先にちょっとした窪地がある。近くに川が流れているから、魔物達の水飲み場として知られているが、おそらく一つ目の巨人(サイクロプス)もそこにいるだろうな」

「それじゃあその水飲み場まで案内を頼む」


 一つ目の巨人(サイクロプス)は、ハイランクの冒険者でも一人では戦おうとはしない危険な魔物。そんな魔物がいると知れば、恭弥は確実に日和るだろうと、フェンネルは思っていた。

 だが、フェンネルの予想とは裏腹に、恭弥は何故かやる気を見せ、自分が負けるとは到底思っていないような眼差しでこちらを見ていた。


(思っていた以上に面白そうな男だな)


 恭弥にばれない程度に小さく笑うと、フェンネルはこっちだと言いながら、足跡が向かう方角に向かって走った。


 ◆ ◆ ◆


 現在、二つの首を持つという奇怪な姿でお馴染みのツインヘッドウルフに、ボスとなる存在はいない。

 少し前までここら一帯はとあるツインヘッドウルフの縄張りだったが、先日人間に討伐されてしまったことで、今は空き状態となっていた。

 そしてここに、周囲の魔物達に強さを見せつけるべく、人間を襲わんとするツインヘッドウルフが一匹、草陰に潜んでいた。

 人間(獲物)は三人。二人は大きな荷物を背負っており、おそらくただの荷物持ちだと断定。

 護衛は優男ただ一人。

 獲物にはちょうどいい。

 ツインヘッドウルフの口から涎が垂れる。

 だが、慎重に必殺の間合いまで来るのを息を殺して待った。

 そして、すぐ側まで獲物が近寄ってきたのを見て、ツインヘッドウルフは手ぶらの優男目掛けて飛び出した。

 次の瞬間、ツインヘッドウルフの左の顔の側頭部に人間の足と思われるものが深々と突き刺さった。


「このっ、馬鹿キョウヤがッッ!!」


 優男が放った上段蹴りが飛びかかってきたツインヘッドウルフの左の頭を捉えた。

 その威力にツインヘッドウルフは意識を保つことすらできず、蹴りの勢いそのままに体を巨木に激突させられ、そのまま意識を失ってしまうのだった。

 他にも多くの魔物達が彼らのことを狙っていたかもしれない。

 草陰に潜み、息を殺して隙を伺っていたかもしれない。

 だが、その光景はそれを見ていた魔物達に死という逃れることのできない残酷な未来を思わせた。

 

「それくらいで許してやったらどうでござるか?」


 巨大な荷物を背負った須賀政宗(すが まさむね)は、目の前に飛んできた残骸を見下ろしながら、未だに怒りを抑えきれずにいる伊佐敷遥斗(いさしき はると)にそう告げた。

 解体屋で合流してからずっとこうして苛立ちを発散している姿を見れば、流石の政宗も心配するというもの。

 ましてや、チーム創設からずっといる恭弥と遥斗の喧嘩は個人的にも気分が良いものではなかった。


「だいたい恭弥殿が負けず嫌いなのは幼馴染みであるお主が一番わかっているではないか」

「そういう問題じゃないんだよ!! 僕が言いたいのは危機感が足りてないんじゃないかってことだ! ここは僕らの見知らぬ土地で、スマホすら機能しないんだぞ!! それなのにっ! それなのにだぞっ! ついさっき会ったばかりの人間に負けたくないからって一人で魔物討伐に出掛ける馬鹿が何処にいるってんだよっっ!!」


 遥斗の森全体に響いてるんじゃないかと思える怒号に、政宗は藪蛇だったかと溜息を吐いた。

 こうなると後は時間の問題な訳で、政宗は横で我関せずと言わんばかりに呑気に歩いている太一同様、黙っておくことにした。


(だいたいあの男、初めて会った時は僕なんて空気程度にしか思ってなさそうだったのに、キョウヤと出てきたら僕を興味深そうに見てやがった……。あのオネェ店長の話だと長期的な遠征帰りって言ってたはず……。奇しくも、同じ日に王都では騎士団のお帰りパレードが行われてるって女の子達は言ってたし……これを偶然で済ませたら参謀失格だよなぁ……)


 いきなり黙り込んでしまった遥斗を不思議そうに見て、どうしたのかと口を開こうとしたその時だった。

 突然、政宗は全身の毛が逆立つような感覚に襲われ、腰に差していた愛刀の柄に手を置いた。


「どうした?」


 その尋常ならざる様子には、怒り心頭中の遥斗も気になったようで、深刻な様相で冷汗をかいている政宗にそう言葉をかけた。

 だが、政宗は喋らない。

 ただひたすら無言で何かを探すように周囲を見渡した。


「どうしたの?」


 今まで黙っていた太一にも訊かれ、政宗は見えない何かに警戒しながらも、刀から手を離し、構えを解いた。


「遥斗殿も太一殿も感じなかったのでござるか?」

「何か感じたのか?」


 遥斗の言葉に、政宗は首肯(うなず)く。


「並々ならぬ殺気でござった。これまで感じたことのないような……まるで身体を殺気という刀で刺し貫かれたような感覚でござった」

「どこからだ?」

「わからぬでござるが……これほど強烈な殺気でありながら、その姿を視認させぬとは……どうやら相当な手練。これは一手ご指南いただきたいでござるな!」

「まったく……頼もしいこって」


 カッカッカッと高笑いを始めた政宗を見て溜息を吐くも、その目はすぐに次を見ていた。


「なんにせよ、今はカルファ村に戻ろう。荷物抱えたままじゃ、不意打ちで死にかねないからな」


 そう声をかけ、遥斗が見えていたカルファ村の入口に向かおうとすると、遥斗は動かそうとしていた足を止めた。

 そんな遥斗に疑問を抱きながら、太一は遥斗の視線の先を見た。


「あっ、ノエルちゃんとロイド君だ〜」


 入口の方から嬉しそうに手を振っている二人のよく似た少年少女に、太一もまた、嬉しそうに手を振った。

 そんな双子の肩に手が置かれる。

 それは、質素な衣服に身を包みながらも一際目立つ眉目秀麗な女性だった。


「シャルフィーラさん……」


 遥斗が呟くと、シャルフィーラは遥斗達に向かって深々と頭を下げた。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


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