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第1話:騎士団長だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)


 前回のあらすじ。

 ロイドとノエルの双子と仲良く遊んでいる修の前に、ポマードを切らしたと告げる恭弥が現れた。

 修に持っていないと言われた恭弥は仕方なく、太一がいるとされる食事処『ガイガン』へと向かうのだった。


 カルファ村は発展した王都からほど近いところにあるが、その実態はベルードという角の生えた草食でおとなしい牛型の魔物を活用した農業を主体としている正しく田舎と呼ばれる情景の村である。

 また、王都に近いせいで多くの若者は二十歳を前に村を出ていき、年々過疎化に悩まされてはいるものの、喧騒や差別意識もなく、親近感溢れる村人達が住むのどかな村ということで、居心地の良い村となっている。

 そんなカルファ村にも特産品はいくつかあり、中でも、カルファ村のベルードの乳で作られたチーズは濃厚で独特な味わいが特徴な為、酒との相性も非常に良く、王都でも大人気だった。

 そして、村一番の食事処『ガイガン』では、そのベルードの濃厚なチーズとベルードの肉をふんだんに用いたチーズインハンバーグを作っており、子どもから大人まで幅広く愛される看板メニューとして、その名を広く知らしめていた。

 そんなチーズインハンバーグは、『ステラバルダーナ』の一人、山川太一(やまかわ たいち)の大好物となっていた。


 カランコロンと小気味よいベルの音が店内に響き渡る。

 扉を開いたのは黒い髪を短いリーゼント風に固めた青年で、彼は扉を開けると目的の人物を探すかのように店内を目で探った。

 だが、そんなことをしなくても、その男はすぐに見つかった。


「おかわり〜」

「もう!!!!! 勘弁してくださ〜い!!!!!!!」


 逞しい大の大人が涙を流しながら土下座する姿を見て、手遅れだったかと、海原恭弥(かいばら きょうや)は苦笑した。

 平皿を高々と積み上げながらも、未だに満たされぬ腹を満たさんと追加オーダーをする太一の姿は、その場にいた者達を唖然とさせる。だが、当の本人はそんなことなど露知らず、おかわりができないという状況に不平不満を全面に表した表情で店長の姿を見ていた。


「え〜〜、今日はいっぱい食べても良いって言ってたじゃ〜ん」


 その言葉に店長はなんとも言いしれぬ顔をしていたが、彼を救う手は太一の隣から差し出された。


「太一殿、それ以上の暴食は店主殿を苦しめるだけでござるよ。ただでさえ安くしてもらっておいて、その気遣いを無碍にするのは些か目に余る」

「でも食べていいって……」

「これ以上食べれば、二度とここに立ち入れなくなるかもしれぬでござるよ。それでも良いのでござるか?」

「…………お勘定!」


 須賀政宗(すが まさむね)の言葉が効いたのか、太一は逡巡し、少しすねた口調で勘定を申し出た。


「ありがとうございます! ありがとうございます!!」


 涙ながらに感謝する店長を手で制すと、政宗は熱いお茶で一服を始めた。

 そんな二人の前に、恭弥は座った。


「おや、恭弥殿ではござらぬか。遅い朝飯でも食べにきたでござるか?」

「わ〜恭弥君だ〜おはよ~」

「おう、おはよう。突然で悪いんだが政宗、お前ポマード持ってきてないか?」

「ぽまーどでござるか? 拙者は遥斗(はると)殿が買ってきてくれた石鹸しか使っておらぬゆえ、そういった物は持っておらぬ」

「政宗も持ってねぇのか……後は遥斗だけか……」

「遥斗君ならさっき見たよ〜」

「何処でだ?」

「う〜んとね〜確かあっちの方」


 太一は指で場所を示すが、恭弥はそれだけでわかったのか席を立ち始めた。


「ちょっくら探してみるわ。遥斗ならよく買い物とかしてるしらしいし、似たような物が売ってる場所もわかるかもしれないしな」

「拙者達も助太刀いたそう」

「それは助かるが、俺の個人的な事情だし、いつも通り好きにやってていいんだぞ?」

「困った時は助け合うもの。それ以上の言葉は必要ないでござろう?」

「それなら頼むわ」


 政宗は恭弥のその言葉で立ち上がると、持っていた袋をテーブルの上に置いた。


「店主殿、今日の分はここに置いておくでござるよ」

「いや、今日はそもそも娘を助けていただいた御礼のつもりでお代は……」

「構わぬ。あれだけ美味な食事を無賃でいただくのは拙者の信念が許さぬのだ。静かに受け取ってくれ」


 そう言うと、政宗はテーブルに立てかけておいた愛刀を腰に差し、恭弥と太一を連れて店を出たのだった。


 ◆ ◆ ◆


 伊佐敷遥斗(いさしき はると)は思いの外、すぐに見つかった。

 元々黒色の髪の中に黄色の髪が入った目立ちやすい髪型をしていた為、見つけやすい男ではあったが、今回の場合、髪型だけではなかっただろう。

 うら若き少女達に囲まれ、顔ひとつ高い身長の青年。

 過疎化した村でそんな光景が目立たないはずがなかった。


「あれ、キョウヤじゃん。こんなところでなにしてんの?」

「相変わらずだな、遥斗」


 恭弥が遥斗に気付くと、遥斗の方も恭弥達の姿に気付いたようで、彼は自ら恭弥達の方に話しかけてきた。

 そして、遥斗は連れの少女達にちょっと待っててなと告げ、不満そうな少女達をわざわざ離れさせた。


「で? 用件は?」

「なんか悩み事か?」


 その言葉に側で聞いてた太一と政宗は疑問符を浮かべるも、遥斗だけは虚を突かれたかのような顔を見せ、そして笑った。


「悩み事? そんなん無いよ。むしろあるのはそっちの方なんじゃないか?」

「まぁ、お前がそう言うならこれ以上聞くつもりはないが、相談したいというなら話くらいは聞くぞ?」


 恭弥の言葉に遥斗の表情は一瞬陰るが、遥斗はすぐに恭弥達に背中を向け、何かを悩んでいる素振りを見せた。

 そして、明るい声のまま答えた。


「そうか? じゃあそうだな〜。特に悩みは無いけど、いつこの村を出るのかくらいは聞いときたいかな? 出発する準備とか色々しておきたいし」

「いつ出るか? 俺は別にいつでもいいぞ? 少なくとも急いで何処かに行く用事とかも無いし、最悪の場合はここに拠点を構えるのも……」

「そりゃ無理でしょ」


 その言葉は先程までの明るい声が嘘に思えるかのような冷静で暗い声音だった。だが、遥斗は振り向き、満面の笑みで告げた。


「何年の付き合いだと思ってんの? キョウヤのことなら僕はキョウヤ以上によくわかってるんだ。そんな僕が断言してやるよ」


 そして、遥斗は真剣な表情と真剣な声音でこう告げた。


「お前はこんなところで燻っていられるような器じゃないんだよ」


 その言葉に恭弥が何も言わないのを見て、遥斗の表情が明るくなった。


「まっ、なんにせよここを出る時はちゃんと前もって言っといてくれよ。僕の可愛いレディ達にお別れを告げないといけないからね」

「ああ、わかってるよ」

「てかこんな話をしに来たんじゃないよね?」

「そうそう、遥斗お前さ、ポマード持ってね?」

「ポマード? なに? 使いきったの? 予備は?」

「うち」

「そっか〜。こっちに来たのだって急だったもんな〜。てか、今までの分はどうしてたんだよ?」

「チューブ型のを携帯しててな。今まではなんとかなってたんだが、流石に予備までは持ってこれてねぇ。遥斗さ、この辺でポマードが売ってるところ知らね?」

「そうだなぁ……それだったら王都に髪用のシャンプーみたいなのを売ってる店があったぞ。可能性は低いけどそこならポマードみたいなやつが売ってあるんじゃないか? まぁ無駄足踏むかもしれないけど、行くなら道書こうか?」

「おう、頼むわ」

「オッケー」


 恭弥の返事を聞き、懐からメモ帳とボールペンを取り出したところで、遥斗は書こうとしていた手を止めた。


「……って、ちょっと待て。キョウヤお前、最後に王都ヘ行ったのはいつだ?」

「最後? この前誘拐された双子を捜しに行った時が最後だが……それがどうかしたのか?」


 何故その質問をするのかわからないかのように恭弥は首をひねって遥斗の方を見るが、遥斗はそんな恭弥に対して何も言わず、ジト目になりつつも太一と政宗の方へ視線を向けた。


「マサムネとタイチの二人は流石に何度か行ったよな? この世界に来て一週間以上経つんだし。買う物とかあったろ?」

「拙者は特に買いたいものなど無い。鍛錬ならここでもできるでござるからな」

「……まぁ、マサムネはそうだろうね。それでタイチは? 王都には美味しい飯屋もあったし、一回くらいは行っただろう?」

「王都? 王都ってどこだっけ〜?」

「マジかお前ら」


 遥斗の表情は一瞬にして絶望を露わにしたものになるが、恭弥は腕を組んだまま、それがおかしなことなのかとでも言いたげな表情で遥斗を見続けた。

 そんな恭弥の姿を見て、遥斗は深々とため息を吐いた。


「……やっぱりお前らを放っておくなんてできねぇよな……」

「なんか言ったか?」

「いいや。ちょっと待ってろ」


 遥斗はそう言うと、先程まで一緒にいた少女達の元へと向かっていった。

 そして、恭弥達には聞こえない声で二言三言(ふたことみこと)話すと、少女達による不満の声が上がった。

 そして、遥斗はそんな少女達に手を振りながら恭弥達の元へと戻ってきた。


「夕方には用事があるんだ。さっさと買いに行こうぜ」

「別に遥斗まで来る必要は無いんだぞ?」

「お前らだけで行かせる方が心配で気が気じゃねぇんだよ。てかシュウはどこ行ったんだよ。あいつなら王都までの道覚えてんだろ」

「修なら宿で双子とお手玉で遊んでたぞ?」

「またか……なら仕方ねぇか」


 溜息混じりにそう言うと、遥斗は渋々といった様子で三人を連れてウェルザム大森林側の入口へと向かうのだった。


 ◆ ◆ ◆


 道中襲いかかってきた魔物達を狩りながら、恭弥達四人はファルベレッザ王国の王都に辿り着いた。


「それじゃあ僕とキョウヤはポマード買ってくるから、マサムネとタイチは解体屋で待っといてくれ」

「承知した」

「行ってらっしゃ〜い」


 大手を振って送りだす太一に軽く手を振りながら、恭弥と遥斗は王都の大通りにある薬屋の方へと向かっていった。


「僕もそこまで詳しい訳じゃないんだけど、女の子達の話だとその薬屋は世界中に展開している有名な店らしくてな、品質が良くて値段も手頃で女性人気が高いらしい」

「相変わらずよく知ってんな〜」

「髪の手入れは女に限らず男も大事だぞ?」

「俺はそういうのには興味ねぇなぁ」

「まぁ、キョウヤならそう言うと思ったよ。ほら、あそこだよ」


 遥斗が指差した先にあったのは、他の店よりも比較的大きく、若い女性の多い店だった。


「ウィンリン商会。漢方薬や病薬ではなく、髪や体を洗う薬品や洗剤とかを主に扱う店だな。文字はちょっと読めないが、そこは僕がフォローするから気にすんな。さ、入るぞ」


 ウィンリン商会の店内は塗装が白く清潔感に溢れており、床は土足でありながらまったく汚れを感じさせず、陳列棚も整頓された綺麗な造りとなっていた。

 恭弥もとりあえず中をざっと見てみるも、そこに書かれた文字は恭弥の故郷で書かれていた日本語とは明らかに異なる言語で、商品の効能等はまったく読み取れなかった。


「なぁ、あんた」

「はい、なんでしょう」

「ここにポマードって置いてあるか?」

「ポマード???」


 仕方なく偶然目についた女性店員に聞いてみるも、女性店員は明らかに知らなさそうな顔で困惑し始めました。


「すみません。そのような商品はお取り扱い――」

「僕らの国でポマードと呼んでいただけなので、もしかしたらこの辺りでは違う名なのかもしれません。髪を固める薬品なんですが、似たような物はありませんか?」


 女性店員が申し訳なさそうな表情で頭を下げた途端、恭弥の隣にいた遥斗が即座にフォローし、店員はすぐに確認してきますと言い、後ろへと下がっていった。


「ポマードで通じる訳ないだろ。ここは日本どころか地球ですら無いんだぞ」

「それもそうだな」

 

 暫くすると、後ろに下がっていた女性店員は手に円柱状の缶を持って戻ってきた。


「こちら『ルシュウの油』という商品なのですが、こちらでお間違いなかったでしょうか?」

「これはどういう商品なんですか?」

「ルシュウと呼ばれる植物の油を加工した商品なのですが、髪を固めたりするのに用いる商品ですね。ポマードという薬品につきましても店長に確認したところ無いとのことでしたので……」

「じゃあそれ買います。在庫はいくつあります?」

「それが……現在この一つのみとなっておりまして……」

「そうですか。だってよ。また来るしかねぇな」

「めんどいが仕方ねぇか」


 ルシュウの油を購入することにした恭弥と遥斗の二人は、他にも入り用の商品があるということでその女性店員と店内を散策しようとした。

 そんなタイミングだった。


「なに!? 『ルシュウの油』が品切れだと!!?」


 突然、店全体に響きわたりそうな大声がすぐ近くから聞こえてきた。

 恭弥と遥斗の二人がそちらに目を向けると、大柄な男がか弱い女性店員を怖がらせている状況が目に入った。


「マジか〜。『ルシュウの油』は王都じゃここでしか手に入んないんだよな~~。マジどうすっかな〜」


 明らかに困っている様子の男は頭をかくと、偶然にも恭弥達と目があった。

 いや、明確に言うのであれば、彼の視界に映ったのは恭弥の手に握られた缶の方だろう。


「なぁ、そこのあんた」


 大柄な男はそう言いながら恭弥達の方に近付き、満面の笑みでこう告げた。


「俺と、殴りあいをやらないか?」


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


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