第8話:魔法だろうがなんだろうがかかってこいや!!(4)
前回のあらすじ。
遥斗の手によって男爵が雇っていた男共は壊滅状態に陥ってしまう。しかし、遥斗はそこで終わらなかった。
恭弥の脅しで気絶してしまった執事の男を連れてこさせると、彼は言葉巧みに執事に情報を出させ、子ども達の居場所を知ったのだった。
伊佐敷遥斗は別室で待機していた山川太一とシャルフィーラを集めると、気怠げに欠伸をした雷堂修を横目で見てから話を始めた。
「執事の人が率先して協力してくれたお陰でロイド君とノエルちゃんの居場所がわかったよ」
「本当ですか!!」
凄い食いつきを見せたシャルフィーラに遥斗は頷いた。
「ええ、どうやらこの屋敷には地下室があるらしいんです。二人や他の子ども達はそこにいるらしいんです。ただ、そこに行くにはどうやら男爵が定めた暗証番号を解く必要があるらしいんです」
「暗証番号、ですか?」
「はい、ただ面倒なことに、あの執事は知らないの一点張りでした」
「そんな……それじゃあ二人は捕まったままってことなんですか!!」
「いえ、大丈夫。僕に策あり、ですよ。シャルフィーラさん」
そう告げる遥斗の顔は、自信満々ににやけた意地の悪い表情だった。
◆ ◆ ◆
そこは薄暗い空間だった。
光を灯すのは煉瓦の壁に等間隔にかけられた燭台の灯火だけ。
その光源はとても弱々しく、風でなびいてはすぐに消えそうになっている。
そんな弱々しい光が鉄格子の隙間に差し込み、その少年の顔を照らす。
赤みがかった茶髪の少年は体を震わせながらも、自分以上に震えている妹を強く抱きしめていた。
「大丈夫だよ、ノエル。きっとお兄ちゃんや皆が助けにきてくれるんだ! それまでの辛抱だから」
「……うん」
ノエルは弱々しい声で小さく頷いた。
そんなノエルの目は腫れており、涙の跡もくっきり浮かんでいた。それどころか今にも新しい涙が出そうになっている。
そんな妹の姿を見て、ロイドも出そうになっていた涙を腕で強引に拭う。
「大丈夫だ。僕が絶対ノエルを悪い奴から守ってやる。だから泣くな」
気丈に振る舞うロイドの声は、彼の思いとは裏腹に震えている。だが、ノエルはロイドのそんな姿を見た瞬間、涙目になりながらも笑顔で頷き、ロイドに抱きついた。
そんな時だった。
「出してよ〜! ここから出してよ〜!!」
「ママ〜!! パパ〜!!」
近くから泣き声が聞こえ、ロイドの視線が声の上がった方へと向けられる。
そこにはここ二ヶ月の間にいなくなったとされていたカルファ村の子ども達が鉄格子にすがりついて泣いていた。
出してと必死に泣き叫ぶ男の子、父と母を涙ながらに叫ぶ女の子。中にはただひたすら泣き続ける女の子の姿もあった。
彼らと自分達の間には鉄格子などなく、行こうと思えばいつでも傍に近寄れた。実際、数分前までは話をしていたほどだ。
その子ども達の中には昨日の夕方まで一緒に遊んでいたはずのミシェルまでおり、今は泣き疲れたのか健やかな寝息を立てている。
そんな彼らからロイドが離れたのには理由があった。
それはロイドが妹の為にわざわざおじさんからもらってきた飴を周りの皆には見られたくなかったからだ。
その飴をポケットから取り出した瞬間、後ろから声がかけられた。
「その飴、食べない方がいいよ」
いきなりそう言われ、ロイドは声のした方に振り向いた。
そこには一人離れた位置で足を抱えて座る少年の姿があった。
ロイドはその少年に覚えがあった。昔からよく一緒に遊んでくれていたジェルミーだった。
ロイドはジェルミーからの位置だと飴が丸見えなのに気付き、急いで隠した。
「隠さなくていいよ、ロイド君。どうせそれ、あの男に貰ったんだろ?」
「あの男?」
ロイドが首を捻った瞬間、牢屋の鉄格子が強く蹴られた音が辺りに響いた。
「うっせーな、ガキども! てめぇらがうるさくておちおち寝てもいられねぇじゃねーか!!」
苛立った声でそう告げた青年にロイドは見覚えがあった。
「……おじさん?」
そこに立っていたのは数時間前に飴をくれた優しいおじさんだった。
先程自分達をここに入れた時に被っていたフードも今はかけておらず、素顔を曝け出している。
その表情も、自分達に向けていた笑顔とは別物で、今は苛立った様相を隠そうともしていない。
「いいかガキども、どんなに泣き喚こうが、どんなに懇願しようが、てめぇらが家族と再会することはもうねぇんだよ!! わかったら静かにしてろ!!」
誰よりも大きな声で喚くと、白髪の青年は近くにあった椅子を苛立たしげに蹴った。
「チッ! なんで俺が給金減らされなきゃなんねんだよ、あのデブ!! だいたい誰のお陰でここまで衛兵にもばれねぇで攫えたと思ってんだあのウスラハゲ!! しかも俺一人でこいつらを移送させろとか無理言いやがって!! 魔法は万能じゃねぇんだよ!! 常識知らねぇんじゃないのかあの馬鹿男爵っ!」
歯を軋らせ苛立ったように木製のテーブルに座ると、白髪の青年は腕を組みながら更に続けた。
「だいたい影潜りが出来なかったのだってあの馬鹿男爵が急に明日までに四人攫ってこいとか無茶言ってきたからじゃねぇか!! そのせいでこっちはキャパ超えて潜れなかったんだぞ!! 全然俺悪くないじゃねぇか!!」
その後もブツブツと文句や暴言を吐き続ける男を見て、その場にいた全員が言葉を発せなくなってしまった。
その時だった。
「ねぇ……お兄ちゃん達来ないの?」
ポツリとノエルが呟く。
「もう……お母さんやお兄ちゃんに会えないの?」
その目に浮かび始めた涙が、ロイドの言葉を詰まらせる。
「だ……大丈夫」
その言葉とは裏腹に、ロイドの目からも涙が浮かび始める。
その涙はロイドの意志に反し、拭っても拭っても溢れてきた。
そして、ロイドが泣き出すと、周りにいた子ども達が、一人、また一人と泣き始めた。
子ども達の合唱が余程煩かったのか、フェルネは自身の白い髪を苛立ったように掻きむしった。
「あ〜っもう!! うるっせぇなぁ!! ちったぁ静かに――」
その言葉を言い終える直前、天井からとてつもない地響きが発生した。
パラパラと土埃が舞い、フェルネは何事かと天井を見た。
そして、再び巨大な地響きが起こった。
「なんだこの地響き……まさか地震か? そんな訳ねぇか。それにしては間隔が――」
再び地響きが起こる。
その地響きは今までよりも大きく、土埃の量も多い。
そして、何が起きているんだと上を見続けるフェルネの耳に、その絶叫が届く。
「飴ぇええええええ!!!」
意味不明な絶叫が不思議とフェルネの体を震わせる。
何かとんでもない存在が来る気がして、フェルネは必死に来るなと心の中で願った。しかし、そんな彼の願いを打ち砕くかの如く、地響きの間隔が徐々に狭まっていく。
そして、遂に耐えきれなくなった天井は崩れ落ち、広大に舞った土埃の中に二つのシルエットが映る。
「いてて……まったく太一君ってば無茶しすぎだって。いきなり天井崩すなんて普通しないって」
「飴……」
「聞いてねぇし。遥斗君の奴、これで飴が無かったらどうするつもりなんだか……」
二つの違う声、それが成人した男性のものであることはすぐにわかったが、フェルネの頭は混乱のせいですぐに言葉を発せなかった。
「飴の匂い……」
土埃の中、巨漢のシルエットがこちらに顔を向ける。
その瞬間、不思議とフェルネは身の毛がよだつ感覚を覚えた。
すぐさま逃げなければと冒険者の直感が告げるが、体が、足が、凍ったように動かなかった。
吐き出される息が速い。
手が小刻みに震え始める。
その異常な状態に意識が完全に向けられ、フェルネは気付けなかった。
圧倒的な威圧感を放つ巨漢が目の前に立っていることに。
見た感じ、自分よりも微かに若い印象を受けた。それにもかかわらず、与えてくる威圧感は肉食の巨大な魔物をも遥かに凌ぐ。
自分がまるで小型の魔物になったかのような絶望的な状況を与えてくる目の前の青年に、フェルネは戦う気にもなれなかった。
そして、その青年が口を開く。
「飴、ちょうだい」
「…………は?」
聞き間違いかと一瞬脳が判断した。
だが、深く考える時間を相手は与えてくれなかった。
「飴を、寄越せぇええええ!!!」
丸太のように太い腕がフェルネの腹を抉る。
その威力は一瞬走馬灯が見える程の一撃で、フェルネの体は呆気なく吹き飛ばされた。
その一部始終をロイドは見ていた。
「……タイチ君?」
ロイドの腕の中で顔を埋めていたノエルが見知った声が聞こえたからか顔を上げて太一の方を見た。
すると、ノエルの表情が一瞬で明るくなり、気迫で圧倒されて動けなくなっていたロイドの腕の中から抜けた。
「やっぱりタイチ君だ! お兄ちゃん、タイチ君が助けに来てくれたんだよ!」
鉄格子を掴み、ノエルは嬉しそうな表情で太一を見ると、ロイドを呼んだ。しかし、ロイドは恐怖に染まった表情で太一の方を見続け、動けないでいた。
その姿に首を傾げるノエル。
そんなノエルが見ている中、ロイドは口を開けて何かを言いたげにし始める。
「ううう、うし、後ろっ」
ロイドが指を差しながらそう言ったことで、ノエルは訳もわからず後ろを振り向いた。
すぐそこに、太一は立っていた。
「あっ……危ない!」
誰かがそう叫び誰もが終わったと思った瞬間、太一は口を開いた。
「あれ、ノエルちゃんだ〜。なんでこんなところにいるの〜?」
それはいつも通りの太一だった。
不思議と先程まで放っていた威圧感は消え、マイペースに微笑む青年がそこにいた。
「あのねあのね、ノエル達ね、悪い人に捕まっちゃったの! だからね、ここから助けてほしいの」
「いいよ〜」
にこやかに微笑むと、太一はノエルの掴んでいた鉄格子を掴んだ。
「近くにいると危ないよ〜」
まったく危ないとは感じさせない口調ではあったが、ノエルはすぐに一歩下がった。
次の瞬間、太一は鉄格子を握った手に力を込めた。
鉄格子はそのあまりの力に悲鳴を上げ、抵抗することすらできずにその太い棒を折り曲げられた。
その異様な光景に見ていた子ども達は唖然とし、動けずにいた。
ただ一人を除いて。
「ありがとっ、タイチ君」
「どういたしまして〜」
無理矢理こじ開けられた隙間から出ると、ノエルは満面の笑みでお礼を告げた。それに対し、太一が笑みを見せながらどういたしましてと言葉を発した瞬間、後ろで金属と金属が交差する甲高い音が発生した。
太一が振り向くと、こちらに背中を向けながらモンキーレンチで振り下ろされたナイフを受け止める修と先程遠くに殴り飛ばしたはずのフェルネが立っていた。
モンキーレンチとナイフが交差していた時間は短く、フェルネがすぐに距離を取ったことでつばぜり合いは終わった。
「今のおかしくね? あんた、さっきまでそこにいなかったよね?」
「おかしいのはてめぇだろう? なんであの完全な不意打ちに間に合うんだよ? おかしいだろ」
「……まぁいいや。太一君、こいつは俺っちの獲物な? 太一君はさっさとその子達連れて上に戻っといてよ。遥斗君の作戦にその子達は大事らしいからさ」
「は〜い。それじゃあ皆で出よっか〜」
太一が呑気な口調でそう言うと、子ども達は互いに顔を見合わせた。
今起こった事柄に対して唖然としていたのは事実で、太一に対し恐怖の感情が無くなった訳ではない。
ただ、そんなことよりも、これはここから出れるチャンスなのではないかと、子ども達は思った。
もう二度と家族には会えないと言われ、絶望の中に浸っていた子ども達にとって、それはまさしく天から伸びた蜘蛛の糸。子ども達は我先にとそのこじ開けられた鉄格子の隙間から出てきはじめた。
そして、ロイドもまた、一番最後ではあったが、その隙間から出て、ノエルと太一の元に着いた。
「あっ……ありがとう……それと、これやるよ」
そう言って差し出されたのは、ロイドが妹であるノエルの為にとわざわざもらってきた飴だった。
それを見た瞬間、太一の目が光り輝き、一瞬の間にロイドの手から奪い取った。
そして、素早く包装紙を取ると、その飴を口の中に突っ込んだ。
「うんまぁ〜」
心の底から幸福そうな笑みでそう言う太一を見て、不思議とロイドは笑顔になれた。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
※サブタイトルがおかしかったので一新しました。




