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第2話:毒だろうがなんだろうがかかってこいや!!(1)


 前回のあらすじ。

 恭弥達『ステラバルダーナ』の5人は、突然異世界転移されるも、王様がブチギレたことで王様との喧嘩に発展!!

 王国きっての騎士団を圧倒し、食糧庫を空にし、いざ行くは未知の世界。

 果たして彼らは元の世界に戻れるのか!!



「さて……こっからどうすっかな〜」


 木々が生い茂る森の中で、海原恭弥(かいばら きょうや)は困り果てた様子で後頭部を掻いた。

 周囲には人影はない。どうやら彼一人のようだ。

 いや、明確に言うならば、その表現は異なるだろう。

 彼の周囲数メートルの辺りには十は優に超える数の獣がいた。

 灰色の尖った毛皮やその顔を見れば、日本人ならば誰もが狼を連想するだろう。だが、恭弥が知る狼とは違い、その狼の顔はニつあった。

 血走ったような赤い双眸が恭弥を捉えて離さない。

 一方、恭弥の方には恐れという感情が無いのか、見たことも無い怪物を相手にボクシングの構えを見せる。

 だが、何よりも驚くべきことは、彼の周囲に散らばる亡骸の数だろう。

 その亡骸は全て、ニつの顔を持つ狼のような怪物であり、その共通点として挙げられるのは、全て()()で意識どころか命を刈り取られているところだろう。

 だからなのか、怪物は無闇矢鱈と突っ込む姿勢を見せない。

 目の前にいる化け物を相手にするべく、周囲の仲間と連携を合わせなくてはならない。

 だからこそ、慎重に機会を窺っていた。

 だが、恭弥にそんなことは関係なかった。

 恭弥はニヤリと口を歪ませ、目の前にいる怪物に向かって告げた。


「わりぃな。俺もそろそろ仲間(つれ)と合流しないといけねぇんだわ。だから、さっさと終わらせるぞ」


 その言葉が、惨殺の始まりを告げる言の葉であった。

 

 ◆ ◆ ◆


 〜一時間程前〜


 煉瓦造りの家や木組みの家が建ち並ぶ通りで、海原恭弥(かいばら きょうや)伊佐敷遥斗(いさしき はると)須賀政宗(すが まさむね)山川太一(やまかわ たいち)雷堂修(らいどう しゅう)の五人は適当に歩いていた。


「なぁなぁ遥斗君よ〜。ここって日本?」


 周囲に忙しなく顔を動かす修の口からそんな質問をされるが、遥斗はその言葉に確信を持って首肯(うなず)くことができなかった。


「あ~〜どうだろ? 日本語……を喋ってるんだよな? でも書いてある言葉はなんか、韓国語みたいな感じだよな?」

「じゃあ遥斗君は読める感じ?」

「いや、形がそれっぽいだけで全然わからないかな」

「マジか……遥斗君でも読めない字か……」


 薄汚れた布の服を着る人間、対照的に高そうなネックレスや宝石の類いを身に着ける人間、そして、戦いにでも赴くのか戦闘に適した服を着て歩く人間、彼らの言葉は共通して聞き取れるものの、店と思しき建物に書かれた文字は、五人全員が読み取れなかった。


 これから先の不安を憂いた修が困りはてた顔で悩んでいると、急に肩をバシバシと叩かれた。

 その威力は加減がされておらず、あまりの痛さに修も顔をしかめ、叩いてきた太一の方を見上げた。


「痛いって太一君!! もうちょい加減をさぁ……」

「あれ見てっ、あれ見て!! 動物さんが歩いてるよ!!!」

「動物が〜?」


 興奮気味で喋る太一の様子に興味を引かれた修は、太一が指を差した方向に顔を向けた。

 その先には、皮材質とした軽装備を身に着け、腰に帯刀しているチーターと思しき動物が、複数の人間と共に歩いていた。


「マジじゃん!! 何あれ被り物かなんか? プロレスの選手かなんかか!?」

「それにしては足や腕といったところまで動物のようにするのはおかしくないではござらぬか?」

「えっ!? じゃあ本物ってことか?」

「いや、流石にそれはねぇだろ。さっきのおっさんみたいなコスプレってやつなんじゃないか?」


 恭弥の言葉により、露骨にがっかりした様子を見せた修は、だってよ、太一君、と太一に向かって告げようとした。

 だが、そこで彼は気付く。

 先程まで確かにいたはずの太一がそこにいないことに。


「あれ……太一君は? てか、しれっと遥斗君もいなくね?」

「遥斗殿ならば先程厠へ行くと言っておった。おそらくはいつもの如く、情報でも探りに行ったのだろう。ちなみに太一殿ならあそこにいるでござるよ」


 政宗が指を差した先には、太一の目立つ巨体があった。

 修は恭弥と政宗の二人に太一を連れ戻す旨を伝え、彼の元へと向かった。

 太一がいたのは多くの野菜と思しきものが並んだ個人経営と見られるお店だった。

 店主はニコニコと笑顔を絶やさない人の良さそうなおばちゃんで、初見の太一を接客していた。

 そんな太一を連れてくると告げ、修は二人と別れ、太一の元へと向かった。


「太一君、皆のところに戻るよ?」


 少し興奮気味の太一に対してそう声をかけた修は、改めて店頭に並べられた野菜を見た。そこに彼の知る野菜は一つもなかった。

 そんな野菜達を奇異の目で見る修と違い、太一は修の言葉で動こうとせず、並んでいる野菜を見てよだれを垂らしていた。


「あんたも一個食べてみるかい?」


 店主のおばちゃんが渡してきたのは、謎の紋様が描かれた果実で、少なくとも修はそれを見たことがなかった。


「おばちゃんこれ何の実?」

「あんたウェズの実を知らないのかい?」

「ウェズの実?」


 初めて聞く実の名前に戸惑っていると、急におばちゃんが納得した様子を見せた。


「なるほど。あんた達、さては国外からの観光客だね?」

「国外? ここって日本じゃないのか?」

「日本? どこだいそりゃ? ここはファルベレッザ王国だよ。知らなかったのかい?」

「いきなり連れて来られたからなー」


 今朝起こったことを思い出しながら、修はそう告げた。

 そんな修の言葉で何かを察したのか、おばちゃんは同情するような眼差しで修の方を見た。


「何があったかは聞かんが、あんたも大変だったんだねー。でももう安心さね」

「なんで?」

「もうすぐ国王様が勇者って人を召喚するらしいからね。きっと勇者様が悪いことしとる奴らをやっつけてくれるさ!」

「そんなスゲー人が来るのか。ちょっと戦ってみたいな」

「そんな馬鹿なこと言ってないで、早くウェズの実を食べちゃいな。じゃないとお連れの子に食われちまうよ?」


 店主のおばちゃんが笑いながらそう告げたことで、修は横にいる太一を見た。彼はこちらを向いて水溜りを足下に作っていた。

 それを見た修は、暴れ出さないか心配しながらもウェズの実を齧った。


 皮などまるで存在しないかの如く、無抵抗に噛まれたウェズの実は、皮で包み込まれていた芳醇な香りで修を攻撃した。

 口の中いっぱいに広がる果汁は、ずっと口の中に入れていたくなるほどの幸福感を与え、咀嚼するごとに細かく砕かれる果実は舌の上で踊り回る。

 りんごのような食感でありながら、上等なマンゴーのような味わいに近いその果実を食べた修の目からは、一筋の涙が出てきていた。


「うめぇ……こいつはうめぇよ」


 そして、再び感動を味わうべく二口目を食べようとしたが、何故か手に持っていたはずのウェズの実は消えていた。

 知らぬ間に食いきってしまったのかという考えが一瞬過ったが、目の前にいる店主のおばちゃんが明らかな苦笑いをしていたことと、隣の太一が満足そうな表情で舌なめずりをしたことで、修は真相に行きついた。


「てめぇ!! 俺っちのウェズの実食いやがったな!!!」

「だって僕ちんお腹空いてたんだもん!!」

「理由になってねぇだろうが!!!」


 返せやごらぁああ、と叫びながら胸ぐらを掴む修に対し、太一の方は怯えた様子で悲鳴に近い声を上げていた。

 ただでさえ目立つ服装をしている二人が暴れていると、通りを歩いていた者達はなんだなんだと興味深そうにその喧嘩を見始めた。


「おいおい修よ。こんな往来の多い場所でなにやってんだよ?」


 先程まで遠目で見ていた恭弥も流石にこのような場所で仲間が喧嘩するのを静観するつもりは無いようで、政宗と共に二人の元へ近付き、修に対して呆れるように訊いた。

 すると、修は太一の胸ぐらを乱暴に離し、恭弥の方を見た。


「だって太一君がさ、俺っちのウェズの実を食べちまったんだぜ!」

「…………まさかそんな理由で喧嘩してたのか?」


 理由を聞いた瞬間、呆れた顔で露骨な溜め息を吐いた恭弥は、ジーパンの尻ポケットに入っていた黒い折り畳み式の財布を取り出した。


「修よ。太一が俺達の飯をつまみ食いするのなんて今日昨日の話じゃねぇだろうが。ウェズの実、だっけ? おばちゃん、これでそれを買えるだけちょうだい」

「あいよ」


 修を嗜めながら、財布から取り出した万札をおばちゃんに渡すと、店主のおばちゃんはポカンとした表情でその万札を見始めた。


「なんだいこの紙きれは?」


 流石の恭弥もその言葉は聞き逃がせなかった。


「おいおい、冗談はよしこちゃんだぜ。そいつは偽札じゃなくて正真正銘の万札だ。俺は確かにヤンキーとして知られているが、そこらへんはちゃんと筋は通すぞ?」

「いやいや、別に偽札を疑ってるんじゃないんだよ? もしかしてあんた達、ファルッセント硬貨すら持ってないのかい?」

「ファッ、ファル? なんだそりゃ?」


 初めて聞く硬貨の名前に困惑する恭弥だったが、そんな恭弥の耳元に政宗がこっそりと彼にだけ伝わる声で告げた。


「おそらくこの国で流通している硬貨なのではないか? 見たところ服装はかなり古いがかつて西洋で流通していたものによく似ている気がするでござる」


 和装に帯刀のお前が古いと言うのか、とでも言いたげな目で政宗の方を見た恭弥は、改めておばちゃんの方に顔を向けた。


「悪い。実は俺達、さっきこの国に来たばかりでさ。ここの金は持ってねぇんだよ。どっか近くに換金してくれる場所ってあったりしないか?」

「残念だけど、近くにはないねぇ」

「そっかぁ……」

「でもまぁ、金はいらないよ」


 そう告げたおばちゃんは、突然大きめの紙袋を取り出し、売り物であろう色々な木の実をパンパンになるまで詰め込み、恭弥に渡してきた。

 それがどういう意図なのかわからぬ恭弥ではなかった。


「いいのか?」


 恭弥が本心からそう告げると、おばちゃんは人の良さそうな笑みを向けてきた。


「困った時はお互い様さ!! そん代わり、金が入ったらまた買いに来な!! そん時はまたサービスしてやるからね!!」

「あぁ、そん時はちゃんと金を払うよ。ありがとな」


 おばちゃんに向かって大手を振りながら別れを告げた恭弥達四人は、果実の大量に詰まった袋を手に、その場を後にした。


 ◆ ◆ ◆


「それで? 結局キョウヤ達四人はあんだけ時間あったのにフルーツしか手に入れられなかったわけ?」


 カフェと思しき場所にあるテラス席で、『ステラバルダーナ』の五人はテーブルを挟んで座っていた。

 太一と修はおばちゃんにもらった果実に舌鼓を打ち、政宗は出てきたお茶が緑茶ではなく紅茶であったことに不満をたらしている。

 そんな中で、まともに話しているのは恭弥と遥斗だけであった。


「一応ここじゃ万札が使えないってことはわかったぞ?」

「そんなん文字見た時からわかってたっつーの。ったく、ここはどう見たって日本じゃないんだ。万札が通じる訳がねーだろ」


 不満たらたらな遥斗を見た恭弥はムッとした表情を彼に向けた。


「じゃあお前はどんな情報を掴んできたんだよ。どうせさっきの間、情報の収集に時間を費やしてきたんだろ?」

「まぁな。どうやら聞いた話によると、ここは世界で一番大きな大陸、ノースルードの大地と呼ばれる大陸に存在する国の一つ、ファルベレッザ王国ってところらしい。なんでも一番西にある大国なんだそうだ」

「ファルベレッザ王国? つまりあの国王(おっさん)によって、俺達は海外に来たってことか? 俺達五人が誰もそれに気付かないってあるのか?」

「いや、それどころかここは地球ですら無いのかもしれない」

「地球じゃ……ない?」


 遥斗の衝撃的な発言によって、恭弥は鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔を見せた。

 その反応を予期していたのか、遥斗はゆっくりと首肯いた。


「そもそもノースランドの大地なんて大陸は存在しないだろう? 国名なら知らぬ存ぜぬで受け流せるが、大陸となれば話は別だ。もしこの国特有の言い方だとしても、日本語で喋るような国の連中が揃いも揃って日本を知らないというのはおかしいだろ」

「じゃあなんで皆日本語喋ってんだよ」

「それは僕にもよくわからなかった。どっからどう見てもここは日本じゃない。なのに僕達は道行く人達の言葉がわかる。いったいこの国はどうなってんだ?」


 遥斗が頭を抱えて唸り始めるが、それは何の解決にも繋がらなかった。すると、急に恭弥が深刻そうな顔を見せた。


「……ちなみにさ、ずっと気になってたことを聞いてもいいか?」

「どうした?」

「お前さ、ここでは万札が使えないのは知っていたよな? ……ここの代金はどうするんだ?」


 先程、金が使えないという話をしたにもかかわらず、いつものように注文していた遥斗に対し、恭弥は訝しむ視線を向けた。

 その視線を向けられた瞬間、遥斗は何故かニヤリと笑い、ポケットの中から何かを取り出した後、それを上空に弾いた。

 そして、遥斗は落ちてきたそれを右手でスマートにキャッチし、恭弥に見せた。

 それは、日本で使える百円硬貨であった。


「さっき金持ってそうな人がいたから交渉してきたんだよ。ちょっと大袈裟に言ったら思いの外、受けが良くてさ〜。ここいらで使える金と交換してくれたんだよ。そん時に情報ももらってきたって訳」

「じゃあここの代金は?」

「よくわからん紙幣をもらったからさっき店の人に聞いたんだよ。そしたらその紙幣一枚で今注文している物があと三回は頼めるんだそうだ」

「えっ……百円一枚でか?」

「明確には百円四枚でだな。とはいえ、日本に明日明後日で帰れるとは限らない。そうなると……」

「資金の調達……しかも見ず知らずの場所で五人分となると結構厳しそうだな」


 恭弥が肩を組んで虚空を見始めると、待ってましたと言わんばかりに遥斗が指を鳴らした。


「それがあるんだな〜。僕達にとっておきのやつが♪」


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


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