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第8話:魔法だろうがなんだろうがかかってこいや!!(3)


 前回のあらすじ。

 多種多様な魔法を使いこなす天才魔法使いのバジルを相手に、恭弥は自慢のスピードを用いて圧倒したかのように見えた。

 しかし、左のブローを放った瞬間、バジル自慢のトーキング・バリアに防がれてしまい、左手が壊れてしまう。

 そんな絶望的な戦況が行われている一方で、遥斗側の戦況も終わりが近付いていた。


 気付けば、共に戦っていたはずの仲間は誰一人として立ってはいなかった。

 横を見れば仰向けになって痙攣したまま白目をむいて倒れた仲間、チラリと後ろを見れば壁まで吹き飛ばされ、そのまま動かなくなった仲間、前を向けば無謀にも突撃し、相手に触れることすらできずに容易く返り討ちにあった仲間達の姿が目に映る。

 そんな光景を見て、男は唇を強く噛み締めた。


(何故だ……何故俺達はこんなガキ一人にッッ!!)


 強く睨みつけた先に立っているのはたった一人の青年。

 目に憤怒の色を宿した黄色と黒色の特異な髪色をした青年。

 たった一人で数倍の体格を誇る男達を圧倒してみせた青年。

 男はその青年から目を離さなかった。

 一瞬たりとも離さなかった。

 ただ一度、無意識にまばたきをしただけだった。

 そのまばたきによって視界が一瞬ブラックアウトし、すぐに先程まで見ていた光景が鮮明に映るはずだった。

 しかし、男のすぐ前に、その青年は立っていた。


「なっ!?」


 どんなに速い人間であろうと、こんな一瞬で目の前に立つことなどありえないだろう。

 魔法を使われたのならば微かにでも痕跡を探れるはずだった。

 十メートルは軽く開いた距離。その距離をどうやったって一瞬で移動することなど不可能だと信じ、相手の一挙手一投足に神経を注ぎ込んでいた。

 それが今、完全に(あだ)となっていた。

 男は慌てて距離を取ろうと動いたが、その頃には青年の手が自分の胸に当てられていた。


「無寸頸」


 小さく呟かれたその言葉が男の脳裏に焼きついた。

 聞きなれない魔法の攻撃がくると瞬時に男の脳は理解した。

 直後、言いしれぬ衝撃が男の体を襲う。

 抵抗することすらできず、血が口から吐き出され、その体はまるで木の葉のように宙を舞い、その勢いのまま壁に激突した。

 壁によって静止した男は足に力を入れることすら叶わず、そのまま床へと倒れこむ。

 男はかろうじて残った意識の中、霞んだ視界を前方に向ける。

 男の意識は、その去っていく背中を最後に、闇へと飲み込まれた。


 ◆ ◆ ◆


 エントランスホールに広がる凄惨な状況、その一部始終を見ていたシャルフィーラは青ざめた表情を見せていた。

 すっきりしたような表情で戻ってくる伊佐敷遥斗(いさしき はると)に対し、恐怖の感情が全く無いという訳ではない。

 ただ、自分にはあれほど優しく接してきた彼がその状況を作ってしまったことが、シャルフィーラは未だに信じられないでいた。


「あ〜あ、本当に一人でやっちゃったよ。俺っちまだ()り足りないんだけど?」


 意識が無いか倒れた男を足で揺さぶった雷堂修(らいどう しゅう)が、遥斗の方に不満気な顔を向けた。

 そんな修を見て、遥斗は仕方無いだろとでも言いたげにため息を吐いた。


「シャルフィーラさんに手を出されて僕が黙って見ていると思うのか?」

「まっ、遥斗君には無理だよね~」


 遥斗の言葉にすぐさま同意した修は、それはそうと、と話題を切り上げ、別の方へと視線を向けた。


「政宗君の方はまだ終わってない感じ? 相手の人、結構やれる人なんだね?」

「そうだな。マサムネでも手こずるなんて相当な腕前なんだろうな」


 遥斗も修につられてそちらへと目を向ける。

 そこには、互いに距離を取って間合いを測っている須賀政宗(すが まさむね)とファジマールの姿があった。

 お互いに息を切らしているということはなく、逆にファジマールの方は楽しいという気持ちを隠しきれていない表情を見せていた。

 護衛の人間が護衛中に戦いを楽しんでいるのはどうかとも思うが、その戦闘狂な性格に徹してくれているお陰で仲間を先に進められたのもある為、遥斗からすれば大助かりだった。

 対する政宗の方も顔には出していなかったが、かなり楽しんでいるのが遥斗にはわかった。

 そんな二人の姿を見た遥斗は、まだ長くなりそうだなと思い、改めて修の方を向いた。


「なぁシュウ、外でのびている執事っぽいおっさんがいたろ?」

「あぁ、あの漏らした奴?」

「そうだけどさ、そう言ってやんなって。キョウヤの拳に寸止めされたんだ。ちびったって仕方無いよ。って、そんな話はどうだっていいんだ。ねぇシュウ、いつもの頼みたいんだけど」


 いつものという言葉を聞いた瞬間、修は露骨に嫌そうな顔を見せた。


「別にそこら辺でのびてる奴でいいじゃん。絶対小便(しょんべん)臭いから嫌なんだけど」

「そう言うなって。マサムネと戦ってるあの幹部っぽい人ならともかく、こんな下っ端連中が知ってるとは思わないだろ? お前の爺さんだって、自分の組員全員に自分の大事な秘密とかを教えてる訳じゃないだろ?」

「あのクソジジイの内情なんか知る訳ねぇだろ。……でもまぁ、確かに全員は知らなさそうだねぇ」

「つまりはそういうことだ。少なくともあの執事はこの家の内情に詳しいんだろう。あの馬鹿男爵が誘拐を始めたのが二ヶ月前だとして、自分で子ども達の世話をしていたとは到底思えない」

「一回一回取引してたんじゃないの?」

「その可能性は少ないと思うけど……シャルフィーラさん」

「えっ、あっはい!」


 邪魔をしないよう静かにしていたところに名前を呼ばれ、シャルフィーラは思わず声が裏返ってしまう。

 そんなシャルフィーラを笑うことなく、遥斗は彼女に質問をふった。


「この国に人身売買を禁ずる法律……決まりって言えばいいのかな? そういうのってありますか?」

「そうですね。奴隷制度はだいぶ昔に撤廃されたので、今では罰金や逮捕の対象ではあります」

「そうですか、ありがとうございます。それを聞いて安心しました」


 ほっと胸を撫で下ろして感謝の言葉を告げると、遥斗は修の方へと向き直った。


「この国に人身売買を禁ずる法律があるなら間違いなく子ども達はあの馬鹿男爵が所有する施設の何処かにいるはずだ」

「どうしてそう言い切れるん?」


 遥斗からは妙な自信が感じ取られ、修の眉が動く。


「あの馬鹿男爵はどういうわけかこの王都に隣接するカルファ村で誘拐事件を立て続けに起こしている。手口が似ている以上、警察ならこれを連続誘拐事件として扱うだろうな。この国の衛兵が警察と同じ役割を担っているのかは知らないし、警察以上の捜査能力を持っているかは知らないけど、少なくとも警戒状態ではあるだろうね」

「そういや俺っちも追いかける最中に制服姿の警察っぽい感じのおっさんを何人か見かけたな」

「だろ? そんな中で子どもを何回も移送しようなんて流石の馬鹿男爵でも自重するだろうな。しなくてもまともな奴が止めるだろうし」

「おっけ、そういうことならやってくるよ」

「いや、ここまで連れてきてからやってくれ」

「なんでさ? 室内だともっと臭くなるくね?」

「そりゃそうなんだけどさ、この通りは衛兵の屯所が近いって話だし、少し前に起こった爆発が外にばれてる可能性もある。そうなった時――」

「いや、そっから先はいいや」


 修は遥斗の説明を一方的に切り上げると、玄関の方へと向かった。


「どうせ俺っちがあのおっさんをここに連れて来なくちゃいけないのは変わんないんでしょ? 時間無いならさっさと済ましちまおうぜ」

「そう言ってくれると助かる」

「てか、どうせ悲鳴聞かれたら一発アウトっしょ?」

「ああ、だからシュウには悪いが口は塞いでやってくれ」

「……マジ最悪」


 そう言うと、修は玄関の扉をバタンと力強く閉めてから外へと出た。

 すると、それと入れ替わるように山川太一(やまかわ たいち)が遥斗の傍までやってきた。


「ねぇねぇ、お腹減った〜」


 こんな血生臭い現場であるにもかかわらず、太一はいつもどおりだった。そんなマイペースな彼に遥斗は小さく笑った。


「ははっ、タイチは相変わらずだな。まぁ、タイチにしては()った方か。でも悪いんだけどさ、あと少し待ってくれないか?」

「あと少しってどれぐら〜い?」

「ノエルとロイドを見つけられたら早く帰れるぞ?」

「ほんと〜?」

「僕が食に関してタイチに嘘吐いたことあるか?」

「ないね〜」

「そういうことだ。……そういやタイチが飴の匂いに気付いてこうなったんだよな?」

「そうなの?」


 まったく自覚が無さそうに首をひねる太一だったが、遥斗は気にすることなく続けた。


「今も飴の匂いってするか?」

「うんとね〜」


 太一は辺りの匂いを嗅ぎ始めた。そして、うろちょろと歩きまわってから、立ち止まった。


「少しだけどここからするよ〜」

「……相変わらず凄い嗅覚してんな。てか、今更なんだがその飴ってなんなんだ? 二人になんか関連してんの?」

「多分王都で今話題の飴なんだと思います」


 遥斗の後ろでそう告げたのはシャルフィーラだった。


「蜂蜜というのがどういう匂いなのかわからないのでうまく説明できないのですが、近所に子どもが好きな方がいらっしゃって、よく王都からの帰りに買ってきた飴やお菓子を子ども達に配ってらっしゃるんです。……そういえばロイドがノエルのぶんをもう一回もらってくるといなくなる少し前に言ってましたね。おそらくまだ持ってるのかもしれません」

「なるほど。それで飴の匂いがしたってことね。それで――」

「連れてきたよ〜」


 遥斗が言葉を発しているタイミングで、玄関の扉を開けて修が入ってきた。その左手には例の執事が引きずられており、修の気怠げな雰囲気が遠くからでもよくわかった。

 そんな修を見た遥斗は、自然とそちらの方ヘ行こうとするが、急に足を止めて太一の方を見た。


「今からいつものやるんだけさ。タイチはシャルフィーラさんを連れて別の部屋に待機しといてくんない?」

「いつもの?」


 一瞬なにがなんだかわからなさそうな顔を見せる太一だったが、修が連れている人物を見て顔を一気に青ざめさせた。


「いつものって、あれじゃないよね?」

「残念ながらそのあれだ」


 遥斗は残酷にも太一の言葉を否定した。その瞬間、太一は絶望という言葉を顔だけで表現させた。


「……僕ちんあれ嫌い。ご飯美味しくなくなるもん」

「知ってるって。だからタイチはシャルフィーラさんを連れて別室待機って言っただろ?」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろし、太一は心から嬉しそうな表情でわかったと遥斗に告げた。

 そして、太一はなにがなんだかわからないシャルフィーラを軽々と肩に担ぎ、困惑し続ける彼女を他所に一目散に適当な部屋へと入っていった。

 そんな二人の姿を笑顔で手を振りながら見送る遥斗。そして、太一とシャルフィーラの姿が見えなくなった途端、遥斗の表情から笑顔が消えた。

 遥斗は再び歩み始め、執事が寝かされている場所に立った。


「そろそろ始めていいかな?」


 遥斗にそう聞いた修の手に彼愛用の改造釘打機が握られていて、準備が万端なことはすぐにわかった。

 そして、遥斗がニヤリと笑みを浮かべる。

 

「任せるよ」


 その言葉で、修は改造釘打機の銃口を執事の腕に向け、引き金を引いた。

 ゼロ距離で放たれた釘が外れることなどあるはずもなく、一本の釘が執事のダークスーツで守られた細腕に深々と突き刺さった。 


「いっっっづ!!?」


 釘が刺さるのとほぼ同時のタイミングで先程まで意識がなかったはずの執事が飛び起きた。


「なっ……なにをする貴様らっぐふぇっ!!?」


 上体だけ起こした執事の顔が遥斗によって蹴られる。

 その蹴りはかなり手加減されたものらしく、戦闘能力皆無そうな執事ですら赤くなった頬を涙目で擦るような威力だった。


「声出させないようにって指示してたよね?」

「あっ、ごめん」


 素直に謝った修を見て、本気で忘れてたのかと遥斗は露骨なため息を吐いて後ろに下がった。

 そして、修は執事の体に跨ると、口元を掴んで背中を床に叩きつけた。


「さて、これでいいよね〜? それじゃあ質問の方は任せるよ〜」


 その言葉で青ざめていた執事の視線が修から腕を組んでる遥斗へと向けられた。

 そんな執事に恐怖を与える笑みが目に入る。


「先程はどうも。平民代表の伊佐敷と言います。この状況の説明、いります?」


 遥斗の言葉に執事は必死に首を縦に振った。

 時間稼ぎが狙いなのは見え見えだったが、遥斗は敢えてそれに付き合った。


「僕らの目的って、実はあなた方の家を潰しに来たとかそういうことじゃないんですよね。僕らにとって恩人にあたる御家族の大切な家族をあなた方が連れていっちゃったから僕らもこうして返して欲しいと頼みこみに来たんですよ。だから、さっさと返してほしいな〜」


 その言葉に青ざめたまま執事は首を横に振った。


「本当に知らないんですか?」


 その言葉に執事は首を縦に振った。


「そっか〜。それは困りました」

「思ってない癖に」

「うっさい黙れ」


 修のちゃちゃに真顔でそう答えてから、遥斗の表情が再び笑みを形作る。


「まぁ、僕らにあなたが嘘を吐いてるかどうかなんてわからないわけですし、本当に心当たりが無いだけかもしれませんね」


 その言葉に執事の表情が一瞬(やわ)らいだ。


「それじゃあ思い出していただきましょう。シュウ」

「おっけ〜」

 

 その呑気な返事の直後、修は一切の躊躇いもなく改造釘打機の引き金を引いた。

 直後、口を強く抑えられた執事の目から涙が溢れ出し、悶絶し始める。しかし、修に乗っかられた状態だった為、解放されることはなかった。

 そんな執事の目に、遥斗の冷酷な眼差しが映り込んだ。


「お前らはシャルフィーラさんの家族に手を出し、シャルフィーラさんを傷つけた。……だから僕らはお前らを潰しに来たんだ」


 その言葉の直後、執事の腕に再び激痛が走り、体を悶絶させた。

 そんな姿を見て、遥斗は再び笑顔の仮面を着けた。


「因みに気絶しても最初の方法で起きてもらうのでご安心ください。それからうちのシュウは、バイクのエンジン音の次に人の悲鳴が大好きなやばい奴ですので早く喋らないと全身が釘人間になっちゃいますよ? そうなる前に話されることをお勧めします」


 その笑みが与えた恐怖は相当だったようで、執事の男は一分も拷問に耐えることは出来なかった。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 

※すっごく今更ですが、良い子は工具を人に向けないでください。

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