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第5話:先輩冒険者だろうがなんだろうがかかってこいや!!(2)


 前回のあらすじ。

 実はちゃっかり受付嬢のことも口説いていた遥斗君。

 しかし、ギルドのマドンナには厄介なファンもいて、遥斗はそんな奴に絡まれることとなる。

 まぁ、瞬殺だったんですけどね。

 そんな訳で、後編始まります。

 


 彼は、その道何十年というただならぬ風格を持った男だった。

 葉巻きをちぎり、火をつけて一服。血生臭い仕事の締めはこれに限ると言わんばかりに、男は煙を吐いた。

 すると、来客を告げるベルが鳴った。

 朝から一仕事を終えたばかりで未だに楽しみの葉巻きすら吸い終わっていない状況。彼の表情が苛立ちの様相をなす。


 だが、男もわかっている。


 例え面倒だろうが、タイミングが悪かろうが、仕事は仕事。

 自分の気分一つで仕事を受けないという行為は、信頼して仕事を回してくれているギルドに対して不義理を働くことと同じ。

 道理を欠けば、唯一の楽しみとしている葉巻きですら、満足に吸えない生活になってしまうだろう。


「いらっしゃい。いったいなんの用だ?」


 歓迎していない心情が丸わかりな声で、店主の男は葉巻きを口から離しながら入ってきた三人に訊いた。


「ここが解体屋メルディーエルの店で合ってる?」


 男は答えず、ただ黙ってその青年を値踏みするように観察した。

 一見、金色の髪に黒色の線が入った奇抜な髪型と、その見た目を重視したファッションから軽薄なイメージを感じそうになるが、店主メルディーエルは気付いていた。

 細い身体ではあるものの、その実無駄なく鍛えられた筋肉が服の隙間から見え隠れしており、並々ならぬ実力を秘めているのだろうと容易に想像出来た。

 だが、そんな青年もその背後に立つ人間二人に比べれば、可愛い方だろう。


(……そもそも本当に人間なのか?)


 彼の脳裏にその言葉が過る。

 洗練され、覇気も殺意も飛んでこない。にもかかわらず、その二人が醸し出す雰囲気は歴戦の猛者を匂わせる。

 見るからに、二十歳前後の青年から放たれる雰囲気では無いだろうと、メルディーエルは直感した。


「儂がメルディーエルだ」

「良かった。それじゃあ、今朝送られてきた魔物の肉と昨日届いたはずのツインヘッドウルフとかなんとかの肉って解体終わってる?」


 伊佐敷遥斗(いさしき はると)は貼り付けた笑みのまま、男にギルドからの紹介状を見せた。

 メルディーエルは葉巻きを持っていない手でその紹介状を受け取ると、ちょっと待ってなと一言残し、裏へと向かっていった。

 数分後、彼は数人の男と共に、百キロはありそうな肉の塊を持ってやってきた。


「ギルドの連中が言うには、食える肉だけで内蔵とかの薬になりそうな部分は売却でいいんだったよな?」

「それで構わないよ」

「今日持ってきたやつの中には毒が染みて食えないやつもあったが、それは無しで良かったんだな?」

「ああ、それで? いくらになるんだ?」


 今朝急いでしてもらったうえに色々と注文した以上、高くなる覚悟をしていた遥斗だったが、何故かそれを聞いたメルディーエルは面食らったような顔を遥斗に向けた。


「お前さんらは知らんのか?」

「何が?」

「そうか……お前さんら、まだ冒険者になったばかりという話だったな。……とてもそうは見えんが……」

「あはは、ギルドでもそう言われたよ」

「だろうな。お前さんら、テントで依頼する際、色々と注文しただろ? その際に代金は発生し、売却する素材の適正価格から差し引いた金額がお前さんらの懐に入る。何も売らんというなら代金は発生するがな」

「そういう感じなの?」

「まぁな。それよりも本当に良いのか?」

「何が?」

「ツインヘッドウルフのような肉食の魔物は筋が多くてとても食えたもんじゃない。ベルードやバルフォースのような草食の魔物ならともかく、こんな肉をこんなにもらってどうするつもりだ?」


 心配しているのかどうかすらわからない仏頂面でそう言われ、遥斗は笑い飛ばすように答えた。


「いいんだよ。うちには大食らいが三人いるし、これくらい無いとシャルフィーラさんに迷惑かけちゃうからな」

「そうか。なら、何も言わねぇさ。それで、こんだけの肉だ。バルフォースを用意してやろうか?」

「なにそれ?」

「そんなことも知らないのか? お前さんらいったいどこで生活してたんだ?」

「……どうだっていいじゃんそんなこと。それで? バルフォースってなに?」

「乗用の魔物だ。足が早く、力も強いが、草食で人に懐きやすい変わった魔物だ。荷車を引いてもらったりもするが、その肉は絶品で高級食材とされているんだ」

「馬みたいなもんか? 狼はウルフの癖に訳わかんないな、この世界」

「うま? お前さんらがいた国ではそんな変な呼び方がされているのか?」

「多分似たような奴だと思う」

「そうか。それで? どうする?」

「別にいいや。どうせ、こいつらが持つし。なんかカバンみたいな感じの背負えるようなものに入れてくんない?」

「それは構わないが二人で持つにしたって結構な重さになるぞ?」


 見るからに百キロは軽くありそうな二つの肉塊を指差し、大丈夫かとでも言いたげな表情で遥斗を見るメルディーエル。だが、そんなメルディーエルに遥斗は大丈夫大丈夫と簡単そうに告げた。


「どうせいつものトレーニングに比べればこれをカルファ村まで運ぶくらい楽な仕事だろ?」


 さも当然かのような目で遥斗は後ろに控える須賀政宗(すが まさむね)海原恭弥(かいばら きょうや)を見た。

 すると、腕組みをしながら壁に寄りかかっていた恭弥が口を開いた。


「まっ、問題はねぇわな。多少動きに影響は出そうだが」


 黙ったまま喋ろうともしない政宗の方からも不可能という気配は感じられず、遥斗は再びメルディーエルの方を向いた。


「そういう訳だ。よろしく頼めるか?」

「お安いご用さ。別料金にはなるがな」

「それはもちろん、ちゃんと払うよ」


 遥斗はそう言うと、袋に入った銀色の硬貨を五枚程取り出し、メルディーエルに手渡した。


「おいおい、こんなにいらねぇぞ?」

「いいんだよ。しばらくカルファ村にいるからこれからも世話になるだろうしな」

「そうかい? ならありがたく受け取っとくよ。にしてもお前さん、冒険者にしては変わってんな」

「そうか?」

「あぁ、せびる冒険者ならいくらか見てきたが、チップを渡してきたのはお前さんが初めてだ。ちょっと待ってろ、すぐに持ってきてやるよ」


 メルディーエルは作業着のポケットに硬貨を入れると、奥の方へと去っていった。


 ◆ ◆ ◆


 太陽が真上で照り輝く青空の下、恭弥達三人は店が多く構えられている王都の大通りを歩いていた。

 そんな彼らは今日もいつものように注目を集めていた。

 だが、彼らの服装は道行く者達とはそう変わらない普通のもので、先程まで着ていた血染めのシャツやズボンは既に着替えている。にもかかわらず、彼らが注目を集めてしまうのには理由があった。

 何故ならば、恭弥と政宗の二人は自分達よりも一回り以上大きい革製の荷物をからっていながら、平然と言う他ないけろっとした表情で普通に歩いているからだ。


「なぁ、遥斗」

「なに?」


 疲労を感じさせない声音で恭弥に呼ばれ、隣を歩く遥斗は串焼きを頬張りながら、顔をそちらに向けた。


「さっきは黙って見ていたが、なんで金払ってまでリュックを買ったんだ? 着替えを入れたようにあのポケットに入れときゃいいんじゃねぇの?」

「ポケットってこれのこと言ってんの??」


 遥斗はそう言いながら、円に囲まれた五芒星のマークが刻まれた白いポケットを取り出した。


 そのポケットには一見何も入ってないが、それは外側から見た構造なだけで、その中には簡易的な異次元空間が広がっており、物を自由に出し入れ出来るようになっている。

 だが、そんな便利な道具も完璧という訳ではない。


「それって別に重さは感じないんだろ? だったらそれに入れりゃあいいじゃん」

「キョウヤ達が狩りすぎるから許容量超えたんだろ? まったく、余計な金を使わせやがって。ツベコベ言わずにさっさと運びなよ」


 未だに不満たらたらな顔で、はいはい、と投げやりに返事をすると、恭弥は大きく欠伸をし始めた。

 そんな彼の耳に一つの会話が聞こえた。


「おいおい、あいつらだろう? ツインヘッドウルフの主を討伐したって奴らは……」

「そうみたいだな。見た感じ、随分景気がいいみたいだな?」

「そりゃあそうだろ。ツインヘッドウルフの革装備は厚くて動きやすいで超人気の素材……お尋ね者だったし、相当な金が入ってんだろ?」

「…………なぁ、あいつら初心者の分際でちょっと調子乗ってね?」

「……ケヒッ、確かにそうかもな。ちょっと躾が必要だよな?」

「だなだな。ちょっと暇そうな連中に声かけてきてくれね? 今日は酒が飲み放題だ」


 そんな下心丸見えの会話を聞いた恭弥の口元がニヤリと歪む。


「なぁ遥斗、あっちの方行ってみね?」


 恭弥が指を差したのは明らかに人通りが少なく、閑散とした通りだった。出ている出店もこちら側に比べれば随分とみすぼらしい。

 どう考えても行って得するような気配は無かったが、幼少期から長い付き合いの遥斗には、恭弥の狙いがすぐにわかった。


「帰りに魔物とやりゃいいじゃん」

「いいじゃんいいじゃん、最近は俺達とやろうって連中少ねぇんだし、相当強いに決まってる!!」

「この世界の強者(つわもの)か。拙者もそちらに行ってみたいでござる」

「政宗もかよ……どうせ、大したことない連中なだけだと思うぞ?」

「何言ってんだ? 俺達を見て勝てると踏んだ相手が更に仲間まで呼んでくれるんだ。俺は絶対に楽しめると踏んだね!」

「はぁ……もう勝手にしろよ」


 露骨な溜め息を遥斗が吐くと、うっきうきな気分になった恭弥は自ら進んで人通りの少ない路地へと二人を連れて歩き始めた。


 十数分後、恭弥と政宗が絶望に暮れることは、言うまでもないことだろう。


 ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。

 この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。

 その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。

 こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。

 もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。 


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― 新着の感想 ―
[気になる点] ばんわ~ 何処かです(*´∇`*) からうは熊本の方言で背負うって調べたけど (なんとなく本文で分かったけど気になって調べたよ~w 遥斗のセリフで >「はぁございます…… この部分…
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