第1話:突然の異世界転移だろうがかかってこいや!!
とある島国の間で、一つの噂があった。
北、南、東、西、何処だろうと挑まれれば駆け付け喧嘩し、助けを求められれば力を貸すべく喧嘩する。
例え東日本最強と謳われたチームだろうと、例え相手が裏の世界で名高い極道だろうと、関係無い。
誰が相手だろうと戦い、そして、一度の敗北すら無く、彼らは昇りつめた。
チームの人数は?
百人?
一万人?
否、彼らに協力する者はおれど、そのチームに所属している真のメンバーはたったの五人。
どんな時でも、彼らは五人で挑み、そして、五人で乗り越えてきた。
そして、そんな五人は今、『異世界』に来ていた。
◆ ◆ ◆
その空間は、明らかに異質だった。
精巧に造られた白色の煉瓦を母体として造られた壁にはシミの一つも無く、また、豪勢に飾り立てられながらも、無駄だと思えるような代物が全くと言っていい程見当たら無いその空間に、多くの人間が存在していた。
赤く長いカーペットの先には五十半ばと思われる白髭の男が、数えるのも億劫になる程高く積み上げられた階段の頂点にある玉座でふんぞり返り、赤いカーペットの両端で等間隔に並ぶトーチによって照らされるは一糸乱れず立ち並ぶ銀色の甲冑に包まれた男達。そして、最前列には仕立ての良い服を着た高貴な立ち居振る舞いを心掛ける壮年の男達。
そんな彼らが見ないようにしながらも視界に入れようとしているのは、赤いカーペットの中心に出来た円に囲まれた六芒星の魔法陣上でいびきをかいている五人の青年だった。
すると、漆黒とも言えるような黒い髪を短めのリーゼント風に整えていた青年が、その重そうな瞼を上げた。
そして、欠伸、伸び、首掻きと一通りの動作を終えて、眼前に広がる光景に意識を向けた。
「…………どこだ、ここ?」
どちらかと言えば強面と言えるような顔立ちの青年、海原恭弥は、あまりにも異次元的な光景を前にして、思考がうまくまとまらない感覚を味わっていた。
それもそのはず、彼はただ喧嘩が強いだけの一般人だ。
仲間と仲良く遊んだり、喧嘩しに行ったりを多少する程度の十九歳。
アジトと彼らが呼称している場所でいつものように寝て、いつものように起きたらそこがお城になっているとは夢にも思わないのだろう。
だが、現実とは非情なもので、彼に対し、懇切丁寧な説明を行ってくれる者はいなかった。
王の御前である以上、甲冑を身に纏う騎士達に自由な行動権など存在するはずもなく、また、仕立ての良い高貴な衣服に身を包んだ貴族達も、王の御前であるにもかかわらず、いびきをかき、よだれをたらし、気持ちよさそうに寝ている彼らに対し、まるで汚物を見るかのような視線を向けていた。
だが、その視線は恭弥に苛立ちを抱かせるには充分すぎるものだった。
「……おい、てめぇら俺らに喧嘩売ってんのかよ?」
恭弥の鋭い眼光が、銀色の甲冑を身に纏った男達を萎縮し、仕立てのいい服を着ている男達を青ざめさせる。
そして、恭弥が彼らに苛立ちをぶつけようとすると、身体を起こした恭弥のすぐ傍で、うめき声が聞こえてきた。
恭弥がそちらに目を向ければ、チーム『ステラバルダーナ』の一人であり幼馴染みの伊佐敷遥斗が上半身を起こした状態で、金に黒というまるで虎の紋様みたいな髪をかいていた。
「……おはよう、キョウヤ。寝坊常習犯のキョウヤが僕より早いなんて珍しいね……今日は豪雨かな?」
まだ寝ぼけているのか彼の口調はいつもより遅かった。そんな彼に対し、恭弥は小さく笑った。
「ははっ、豪雨なんかよりとんでもないことが起こってんぜ」
「豪雨より? …………なにこれ……」
ようやく周りに目を向けた遥斗の表情からは、驚いているのがはっきりとわかった。
どうやら自分だけに見えている幻覚ではないようだと恭弥は再確認すると、自分の周りを確認し始めた。
よく見れば、同じチーム『ステラバルダーナ』のメンバー須賀政宗、山川太一、雷堂修の三人が気持ち良さそうに寝息を立てているが、その光景は何も知らない他者から見れば異様だろう。
太一はその大きな腹を無防備に晒しながら飯の名前を寝言で連ね、そんな巨体によりかかりながら眠る修の手にはいつもの如くモンキーレンチが握られている。
そして、最後の政宗は鞘に入った真剣を抱きしめながら、胡座の状態で眠っていた。
いつもと変わらない光景ではあるが、城の赤いカーペットの上では異様と言わざるを得ない。
そんな危機感無く眠っている彼らに恭弥が呆れていると、背後から声が掛けられた。
「ようやく目覚めおったか、異世界から参られし勇者よ」
壮年男性の野太い声はその広い室内に響き渡る。
その声がきっかけで、政宗、太一、修の三人は目を覚まし、三者三様の反応を見せた。
まず始めに声を上げたのはまるで戦国時代からタイムスリップでもしてきたかのような和装をしている政宗だった。
「珍しいな。恭弥殿が拙者より早く起きるとは……明日は槍が降ってくるかもしれぬな」
「おい待て。お前ら起きてからの第一声がそれって、どんだけ俺を寝坊助にしたいんだよ!!」
「そう怒鳴るな。少なくとも貴殿が拙者より早く起きたことなど今まで一度も無かったではないか」
「そうそう」
カッカッカと大きな声で笑う政宗の声に賛同したのは身体を起こして大きな欠伸をした太一だった。
「確かに遥斗君ならともかくリーダーが政宗君より早いって珍しいよね。雪でも降るんじゃない? あ、なんだかお餅食べたくなってきちゃった……ねぇねぇ修君、朝御飯まだ?」
「後五分寝かせて……」
若干一名二度寝を敢行しようとする修だったが、そんな彼は寝返りを打って、太一に背中を向けた。
「そっか、ならしょうがないね。リーダー、なんか作ってよ」
「今日の飯当番は修だろ? 食いたきゃ修に言えよ」
「えぇ……だって、修君。僕ちん、お腹減った……」
「後十分寝かせろ……」
「そっか……じゃあしょうがないね……」
そう呟いた直後、その場にいた全員が身体の奥底から恐怖を感じるような威圧感を覚え、『ステラバルダーナ』の面々以外の全員がたじろいだ。
彼らが感じた恐怖、それは、腹を空かせた捕食者と相まみえたかのような錯覚を覚える程の狂気だった。
「チッ、ったく、しゃあねぇなぁ……」
威圧感を背中に浴びた修も、舌打ちしながら面倒くさそうに立ち上がり、大きな欠伸を済ませ、太一の方へ顔を向けた。
「んで、なにがいいんだ?」
「お餅〜!!」
機嫌が治ったのか、さっきとは打って変わっての笑顔でそう答える太一。それを見て露骨なため息を吐いた修は、後頭部を掻きむしる。
「餅ってコンビニに売ってあんの? まぁ、無けりゃ別のでも買ってくっか。じゃあ、ちょっくら買ってくるから。皆はなにがいい?」
「握り飯を所望す。中身は梅以外認めぬ」
「あいあい、んで、恭弥君はなにか希望ある?」
「俺はサンドイッチな。チキンカツ入ってるやつ」
「好きだね〜。朝からカツサンドって重すぎでしょ。んで、遥斗君はなにがいい?」
「いやいや何普通に朝飯何食うか話しあってんの? さっきから王様っぽい人がずっと睨んでんだよ?」
「うわ、なんかいる。……でもあれじゃね? コスプレとかそういうやつじゃね? 今流行ってるって言うし。ほら、好きなアニメキャラとかの格好してSNSに上げたりするじゃん」
「やけに詳しいな。修もそういうのに興味あんのか?」
「稀に親父の店に来るんだよ。バイクをアニメ風にしてくれってやつ。そん時聞いた」
「へ〜、色んなやつがいるんだな。なぁ遥斗、今度の日曜に俺達もバイクをカスタマイズしね?」
「呑気か!!! いくらコスプレかもしれないからって話しかけられてるんだから無視は駄目だろ!!」
「そう怒鳴るなって遥斗君。また血圧上がるよ?」
「誰のせいだと!!」
「まぁまぁ落ち着けって。すいませんタイム!!」
玉座にふんぞり返る王様に向かって腕でTの字を作って見せた修は、啞然とする王様を無視して遥斗の肩を組み、彼に耳打ちし始めた。
「だいたいよく考えてもみろって。腹を空かせて暴走寸前の太一と見ず知らずのコスプレしたおっさん、どっちを優先すべきだと思う?」
「そりゃあ……太一だけどさ……」
「そりゃそうだよな!! やっぱり見ず知らずのおっさんより仲間だよな!! って訳で何がいい?」
その質問で全てを投げ出したのか、遥斗は露骨な溜め息を吐いた。
「僕もなんか片手間で食べれるもんでいいや。なんか適当にパンでも買ってきて」
「おけおけ。それとさ、ちょおっと相談なんだけどさぁ……」
「もしかしなくてもまたか?」
「いやぁ、今月は色々と入り用でさぁ……」
「いい加減、小遣い全部使って工具買うのやめろよ……」
そう言いながらも、ポケットに畳んで入れていた一万円札を渡す遥斗。それを修は素早く手の内に入れた。
「ありがとう、ハルちゃん、愛してる〜!!」
「そういうのいいから。今度店行った時に割り引いといて」
「もちのろんだよ〜」
そう言いながら、楽しそうに扉へと向かう修の前に、槍が交差される。
「……いったいどういうつもりだ?」
先程までテンションが高かった修の表情が一変し、目の前に立つ兵士ニ名を威圧する。
「吾輩の用件はまだ終わっとらんぞ?」
額に筋を立たせ、瞳孔まで開いた王様が呼び止めると、修はデニムパンツに左手を突っ込み右手でモンキーレンチを遊ばせた状態で呆れたように彼を見上げた。
「おっさん聞いて無かったのか? 俺っちさ、ちょっくら太一君の為にも飯買ってこないとなんだよね? 悪いんだけどさ、そういうのは帰ってからにしてくんない?」
「悪いが聞いてもらうまではどこにも行かせはせんぞ?」
玉座に座る男が右手を上げると、甲冑の騎士達の何人かが彼らの周囲を取り囲み、一斉に持っていた剣を彼らに向けた。
その対応を見て深い溜息を吐いた修はガシガシとボサボサの頭を掻きむしる。
そして、先程よりも鋭い視線を玉座に座る王様へ向けた。
「これはもう……冗談じゃ済まされないよ?」
その言葉の直後、遥斗と政宗がその場から立ち上がり、臨戦態勢に移った。その直後だった。
「まぁ待て、お前達」
低く、全体に響き渡る声が、一触即発の空気を緩和させた。
そして、その場にいる全員の視線が、声の主である海原恭也へと向けられた。
「太一、ポケットにビスケットがあった。それやるから少し我慢しといてくれ」
いつの間にか立ち上がっていた恭也は、ポケットからビスケットを取り出し、太一に投げ渡した。
「え〜!! 僕ちん、もうちょっとお腹に溜まる方が……」
「我慢しろ」
「……しょうがないなぁ……」
未だに納得しきれていなさそうな表情を見てサンキューなと笑顔で告げる恭也は、改めて苛立ちを隠そうともしない修の方に向き直った。
「このおっさんらはわざわざ俺達が起きるのを待っててくれたんだぜ? 俺達にも用事があるようにこのおっさんらにも用事とかあんだろ。これ以上、俺達の都合で待たせちゃ可哀想だろ?」
「……まぁ、恭弥君がそう言うなら俺っちは別に聞いてやってもいいさ。太一君も待つって言ってるのに俺っちがうだうだ言うのもかっこわりぃからな」
「拙者も構わぬでござるよ。敵意の無い弱者に刃を向けるのは弱い者いじめと変わらぬでござるからな。拙者達をどうやって覚らせずにこのような場所へ連れて来たのかも気になっておったところゆえ」
「てか、こんな加齢臭が蔓延してそうな部屋からは一刻も出たいんだけど。てかあれ、お姫様とか居ないの? 僕さ、胡散臭いおっさんより綺麗な女性と二人っきりで話を聞きたいんだけど」
「遥斗君は相変わらずだな〜。僕ちんは早くご飯が食べれたらそれでいいよ?」
「……てな訳で、俺達はあんたらの話を聞いてやることにした。うちん連中はあんたらが思っている以上に気が短いんだ。手短に頼むよ?」
「貴様!! 陛下に対して無礼であるぞ!!!」
「黙れ」
先程までの気さくな雰囲気が一瞬で消え去り、心臓を鷲掴みにされたかのような悪寒が、恭弥を嗜めた男性の背筋を凍りつかせた。
そして、恭弥の鋭い眼差しがその男性に向けられる。
その威圧感たるや、獅子と檻の中に閉じ込められたかの如き恐怖を彼に植え付けさせるほどであった。
「俺達はお前らの勝手な理屈で無理矢理連れてこられてんだ? ましてや今日はジャ○プの発売日、ル○ィが兄のエ○スを助けにインペ○ダウンまで助けにいってようやく再会出来そうってところで切られたんだ。早く用事を済ませねぇってんならぶっ殺すぞ?」
得も言われぬ迫力に気圧され、彼らを囲んでいた甲冑の騎士達も思わずたじろいでしまった。
だが、恭弥に突っかかった男性は、その表情に恐怖の色を見せながらも、プライドからなのか一歩も退こうとはしなかった。
そして、震える口を開こうとした時だった。
「もう良い。下がっておれ、エラルド公」
玉座の上から、威厳に満ちた声が放たれる。
その声はその場にいた全員の視線を集め、玉座にふんぞり返っていた王様は、皆の見ている前で露骨な溜め息を吐いた。
「この者らに今更態度を改めよと言うたところで無意味なのは見て明らかであろう。無意味な問答で時間を浪費するのは吾輩にとってもその者らにとっても不都合というものだ。さっさと本題に入ろう」
「おっさんわかってるじゃん」
先程までの威圧感が嘘のように消え去り、恭弥は玉座に座る国王にニカッと笑った。
半ば諦めたような顔でその言葉を受け流すと、国王は彼らに向かって告げた。
「貴様らをここへ招いたのは他でもない。五年前、突如魔王を自称する者が復活を遂げたのだ」
堂々と臆することなく、その言葉を言い放った国王は少しの期待を込めて彼らを見た。
国王は知っている。
彼らの世界では、死んだ者や神に選ばれた者達が異なる世界に赴き、旅したり生活したりする物語が流行っていることを。
現実ではありえない魔法や、常軌を逸した能力を持たされ、面白くも波乱万丈な人生を遂げ、中には多くの異性に囲まれ生活するという変わった物語が若者を中心に流行していることを、この国王は事前に調べたうえで、召喚の指定を十代の中で一番強そうな者達とし、彼らを召喚したのだった。
だからこそ、国王は彼らの反応に戸惑った。
リーダー格であろう男を含め、全員が意味をまったく理解できなかったかのような顔で首を同時に傾げたことに。
「なぁ、お前ら、あのおっさんの言ってることがわかったか?」
「さっぱりわからぬでござるな。魔王……というのは、かの有名な信長公のことであろうことはわかったのでござるが……」
「いやいや、信長って織田信長のことでしょ? 戦国時代の人じゃん。魔王ってあれだよ。あのマイクロビキニを着て大剣担いだ美少女のことじゃないの?」
「何それ痴女じゃん。そんなのと戦うなんて俺っちはやだぜ。女にそこまで興味ねぇし」
「僕ちんお腹空いたー」
あーだこうだと話し始め、全員が全員、魔王についてなにか誤認しているようで、国王は直ぐに訂正しようと口を開いた。
直後、グ~〜〜という腹の悲鳴が、室内全体に響き渡った。
「なぁおっさん、まだ終わんねぇの? そろそろ太一のやつが限界っぽいんだけど」
「いやまだ、本題に入ったばか――」
再び鳴る大きな腹の音は、国王の言葉をまたしても遮った。
「え、なんて?」
「だから――」
再び腹の音が鳴り、国王の額に筋が立つ。だが、ここでことを荒立てるのは得策ではないと、国王は己を落ち着かせ、暫し機会を窺った。
再び遮られないように機会を待つ。
腹の音も自重したのだろう。
そう思い、口を開いた。
「……だ――」
再び腹の音が国王の声を遮り、とうとう堪忍袋の緒が切れた国王が立ち上がり、腹の音を鳴らす太一に向かって指を差した。
「その者を捕えよぉおおお!!!」
国王の命令に、待機していた騎士達の何人かが動き、素早くも無駄の無い動作で太一の丸太のように太い腕を掴んだ。
その動作に対し、恭弥達は助け出そうとはしないが国王を睨みつけた。
「なんのつもりだ?」
腰を椅子に落ち着かせ、ふんぞり返った国王は恭弥達を見下しながら、こちらを睨みつけてくる恭弥達に向かって告げた。
「吾輩の言葉を遮るからそうなるのだ。そもそも勇者など四人もいれば事足りるというもの。吾輩の怒りを買った輩がどうなるか。そこで見ているが良い」
「あっそ、そう来るのね?」
マイペースな太一以外の四人は目を細め、各々が臨戦態勢に入った。
そして、何かを思いついたのか、恭弥はニヤリと笑い、太一の方へと体を向けた。
太一の周りには四人の騎士がおり、必死になって座っている彼を連れていこうとしていたが、びくともしていない。
ましてや太一本人は、何をしているのかすらわかっていないかのような表情で自分に纏わりついてくる騎士達を見ている様子だった。
そんな太一を満足気に見た恭弥は、彼に向かってこう告げた。
「おい太一、こいつらお前に飯を食わせないんだってよ?」
恭弥が告げた言葉を聞いた瞬間、修と遥斗はなるほどねと全てを察した。
そして、異変はすぐに起こった。
まるで地鳴りが起こったかのように、室内が揺れる。
大気中の温度が違うのか、太一の周辺が歪んだかのような錯覚が見ている者の興味を引いた。
そして、呑気の一言に尽きる彼ののっぺりとした表情は、憤怒と表現するに相応しいものになっていた。
「ご飯待ったのに……我慢……したのに……」
言葉の圧が先程までとは明らかに違っており、太一に纏わりついていた騎士達の表情に怯えの色が浮かんだ。
次の瞬間、太一はまとわりついてきていた騎士達を軽々と弾き飛ばしてみせた。
そして、ゆっくりと立ち上がり、ニメートルを超える巨体を揺らしながら、ゆっくりと恭弥の前に立った。
「恭弥君……暴れてもいいよね?」
「好きにしな」
威圧的な声で問われるも、恭弥はその表情に一切の恐怖を見せない。それどころか、楽しそうな笑みを隠そうともしていなかった。
そして、恭弥に確認を取った太一は、その場で獣のような雄叫びを上げた。
「お腹減ったぁあああああああああああああああああ!!!!」
空間がひりつく恐怖に多くの者が尻餅をつき、尻餅をつく貴族達の中には床を濡らす者もいた。
そんな彼らを見て、恭弥は臨戦態勢を整えた三人に顔を向けた。
「さて、俺らだけが静観するって訳にもいかねぇよなぁ?」
「当然。僕達の仲間を殺そうとする奴に生かす価値は無いよ。例え相手が美少女だったとしてもそれだけは絶対に許せないね」
「拙者の命よりも大切な仲間を侮辱されるのは我慢ならん。打首獄門、あらゆる苦痛をもって、思い知らせてくれるわ!!!」
「コスプレジジイの分際で好き勝手言いやがって、黙って聞いてりゃ太一君を殺すって? 流石に調子乗りすぎっしょ?」
「だよなぁ! 俺達『ステラバルダーナ』の実力、このおっさん共に思い知らせてやろうぜ!!!」
恭弥のその言葉を合図に、彼らは動いた。
最初に動いたのは当然太一だった。
彼は王や貴族を守らんと前に出てきた騎士達をその身一つでなぎ倒していき、見ている者を恐怖のどん底に叩き落としていった。
そんな太一を見て恐れを抱いていた騎士の一人の肩が、唐突に叩かれた。
それはまるで自分の存在を気付かせるかのような軽いもので、叩かれた騎士もその表情には怒りの欠片も無かった。
しかし、自分を叩いてきた者の顔を見た瞬間、その表情は驚き一色に変わった。
「やぁ」
笑顔で挨拶をしてきたのは召喚された五人の内の一人、伊佐敷遥斗だった。
遥斗は、驚きのせいかすぐに反応出来なかった騎士の無防備な胸に触れた。
敵意や殺意といったものを一切感じなかったからか、騎士は不思議そうに首を傾げた。
次の瞬間、騎士の体は軽々と浮かび上がり、背中から壁に激突していった。
その光景は見ていた者を恐々とさせてしまう。
「なんだ今のは!?」
「魔法でも使ったのか!?」
「だ……だが、魔力の放出は感じられなかったぞ!?」
見ていた者が遥斗に畏怖の視線を送るが、当の本人は、何故かがっかりしていた。
「触るなら女の人の胸が良かったな〜」
「それは確かに同感だね」
聞き馴染みのある声に同意され、遥斗はそちらへと顔を向けた。
そこには赤色に染まったモンキーレンチを肩に担いだ雷堂修が、にこにこした表情でこちらに歩み寄ってきていた。
「あ〜あ、俺っちも早く女のところに帰って遊びたいよ」
「女って……シュウのはバイクだろ? 僕の場合は本物の女性だよ」
「別にいいじゃん、細かいことは気にすんなって。それよか後ろ、危ないよん」
修の呑気な忠告で遥斗は後ろを振り向いた。
そこには破れかぶれといった様子で両手剣を振り上げた騎士が遥斗を斬らんと迫っていた。
だが、遥斗の表情に焦りは見えない。
そして、遥斗が右足による後ろ蹴りを放とうとした瞬間、遥斗の前で騎士は白目になって倒れた。
「油断大敵、でござるよ、遥斗殿」
群青色のまとめられた髪をなびかせ、刀をゆっくりと鞘に収めた須賀政宗に対し、遥斗は憎々しげなジト目を向けた。
「毎度のことだけどさ、油断してるように見せてるだけだっての。戦場で何も考えずに棒立ちで談笑する訳ないだろ?」
「そうでござったか。それはすまなかったな」
そう言うと、政宗はさっさと次の獲物を探しに去っていった。
そんな政宗を見て、遥斗は重々しい溜め息を吐いた。
「マサムネさ、もしかしてここにいる連中やっつければ終わりとか思って全力出してないよな?」
「刀抜いてるし問題無いんじゃね? 体力面は知らんけど」
修の言葉で遥斗は重々しい溜め息を吐いた。
「……シュウ、あいつのカバーメインで頼むわ。万が一の事も考えたらマサムネにバテられると困る」
「はいはい。まったく、遥斗君は人使いが荒いな〜」
「よろしく〜……さて、僕も少しは働くとしますか〜」
そう言うと、遥斗は背伸びをしながら再び騎士達の元に赴いていった。
この日、ファルベレッザ王国の王城に一つの伝説が起きた。
その話を拡げた門衛の話によると、突然見ず知らずの五人組が中から出てきた為、訳もわからず送りだしたものの、一応気になって王城の中に入ると、そこには騎士の山が出来ており、玉座にいたファルマイベス十四世は身体中の骨という骨を折られ、顔や身体のあちこちに痣を作っていた。
そして、涙で顔を汚しながら告げたのだそうだ。
召喚なんてしなきゃよかった、と。
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます。
この小説の作者は基本的にやりたい事をやってみたい性格であるため、今回は出来たら次の日には投稿というアホみたいな事をしています。
その為、書きだめは無く、次話のアイデアも殆ど無いという実質ノープラン状態。結果、不定期更新となります。
こんな馬鹿な作者ですが、読者の皆様方には暖かい目で見守っていただけると幸いです。
もし続きが気になるって方がいれば、応援メッセージに「続きまだですか?」とでも送ってください。
※試食的に戦闘シーンを入れてみてはとアドバイスされたので少し入れてみました。
伏線みたいになって面白くなったらいいんだけど