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第一幕・とある日常の一節。

これはblack outと連動させて創りあげている前日譚のようなものです。black outがまだ完結していないのに書き始めるのはどうかと思ったのですが、基本的に世界は別なので、一つの作品と思ってくだされば幸いです!

   




    赤い赤い、真っ赤な御伽噺をはじめましょう。

    これは誰の記憶にも残らなかった、ある一人の青年のお話。

    そして誰にも看取られなかった、悲しい青年のお話。

    

    

    残酷劇は、連鎖する。



    運命と呼ぶにはあまりに残酷で

    悲劇と嘆くにはあまりに切ない。



    誰も知らない、物語―――――――。















※「こらああああああああああああああああああああああっっ!!!待ちなさいっ!!待てと言っているでしょう李・抄焔り・しゃうえんーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!」



とある小さな町の学び舎に、鳴り響く怒声。

赤い瓦屋根が目立つその学び舎には、町に住まう中流階級以上の家庭の子どもたちが通い、日々勉学に励んでいる。


はずなのだか。


「またやってるよ、しょうの奴…」


まったく、と腕を組んでため息をついたのは、抄の友人である挺・ちょう・りぇんである。蓮は、抄の騒ぎにざわついている学び舎の仲間たちを一通り眺め、再びため息をついた。


「いつものことなんだから、もう少し冷静になれないものなのか…」


しかし、この場にいるのはまだ幼さを残した少年少女ばかり。蓮は学び舎の仲間たちと比べるとだいぶ大人びていたが、わりと短気な性格なので、そういうところはまだまだ一人の少年だった。

自身の漆黒の三つ編みを片手で弄びながら、蓮は隣の席の少女を一瞥する。

少女はそわそわと、抄が師に追いかけられていった方向を見ていた。


「ねえ蓮、なんで抄はいつもああなのかしら…」


「くく…大変だな、あんなやんちゃな許婚いいなずけを持ってしまうとは…」 


「もう、からかわないでよ……」


少女の名は延・李鈴えん・りーれい。蓮が言った通り、抄と婚約しているのである。この時代、抄たちの貴族階級は生まれながらにして婚約者がいることは珍しくなかった。 


「それにしても、あいつは懲りないな…」


諦めたように、しかしどこか楽しそうな蓮。

机の上で頬杖をつき、憂いを帯びた瞳の李鈴を、「君もそう思うだろ?」と見る。

すると李鈴は、いつものようにこう言った。





「抄のそういうところ、悪くないとは思うんだけどねー……」








「くっそ〜う……冠儒かんじゅ先生の奴、思いっきり殴りやがって…」


しぶしぶ水で濡らした布を片手に、抄は独り言のように呟いた。

学生鞄を肩から下げて、本を読んでいる三つ編みの少年…蓮は顔を上げて抄を見る。


「ま、廊下教室すべて水拭きだけで済んでよかったじゃないか。で、お前。今度は一体何をやらかしたんだ?」

「べっつにー…ただ玉蹴りン時に、間違って冠儒先生の壷を割っただけだよ」

「抄のことだ。どうせそれを隠蔽しようとでもしたんだろ。」


くく、と皮肉気に笑い、蓮は再び読んでいた本に視線を落とす。


「ちぇ、」と抄は納得できない様子で布を思い切り絞った。

「ばれないと思ったのになー。」

「まったく、抄は運動神経ばかりで、そういう注意力が足り無すぎるんだよ。」


時刻はもう夕方。学生たちはもうとっくに家路につき、外で遊んでいる頃だろう。例にして例の如く、抄の居残りの罰はいつものことなので帰るのはこの時間帯になることも多い。いつもは李鈴も待ってくれているのだが、今日は器楽の習い事があるとかで先に帰っている。


「いよっし、終ーわりっと♪」


ぐっと拳を握り、仁王立ちな抄を合図にして蓮は読み物を閉じた。









※どこにでもある日常を切り離した、とある小話。

この少年たちを無慈悲に悲劇が襲うのは、これからまだ、五年後の未来である。






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