第93話 由依ー悪だくみ
ショウゴの<次元収納>はRPGでいうところの無限収納とは違って、もっと自由度の高いものだ。
例えば、液体。
ポーション瓶に入った物として保管するのではなく、液体を液体としてそのままアイテムボックス内に保管することが出来る。
例えば、時間。
ちょっと言い方が大仰だったけれど、アイテムボックスに入れたものが、腐らない。時間の経過をしないのだ。
さらに、時間を進めておきたいものがあれば、一瞬で納豆の発酵も出来る始末。
はっきり言ってチート。
例えば、物を収納するとき。手に触れずともよい。
そのため、多少離れた所から物の出し入れが可能となるため
「ワハハ! そんなもんかいな!」
相手の装備を一方的に解除し、こちらの武器にすることが出来る上
「足元注意やで!」
と足を狙って剣を振るいながら、その視線や注意を剣と足元に固定させ
ーーーぐしゃ!
「ぐわああ!!」
敵の頭上からデカイ岩を落とす。
敵を無抵抗にして、かつ大岩の質量攻撃を行うことが出来る。
ショウゴはマジシャンでもある為、視線誘導が得意なのだ。
半径2m圏内ならば、かなり自由にモノの出し入れができ、なんなら半分出した状態で固定することすら可能の為
「ここまで来てみぃ!!!」
半分だけ出した剣を階段状にして、空中に留まったり、相手の背後に剣を出現させ、設置罠を張ることが出来る
大岩とともに魔人を押しつぶしながら落下することもできる。
ショウゴの<次元収納>には、大きさ、重さなどの制限はない。
液体でさえ、容器に入れて収納する必要はない。
「大技いくで。」
さらには、右手に魔力と通力の混ぜ合わせられた力の塊が渦巻き
それを周囲の魔人5人ほどに向かって手を振ると
「<次元閉鎖>」
その振るった先にいた魔人は、肩から上と お腹から下を残して、ドチャリと崩れ落ちる。
体の、心臓のある胸、その部分だけ、そのまま抉り取られたかのような死にざまだった。
【次元】とついているアビリティなだけあって、物体をしまうのではなく、物体を切断してでも、その部分を<次元収納>にしまうことが出来るらしい。
「これが本物の人体切断マジックってなぁ! ワハハハハハ!!!」
ただし、射程範囲は<次元収納>の射程範囲である2m前後らしいが、間違いなくぶっ壊れ能力だ。
その能力、わたしが欲しい。
つくづく、ショウゴが味方でよかったと思うよ。
そういった、一撃必殺の能力のお陰で、現在の魔人討伐数は、ショウゴがトップだ。
鉄太は2人以上同じ行動をとっている相手がいないと能力を発揮できないため、ひとまず剣を振るっているが、今朝ほどタツルとタナカちゃんとテツタと私で無限牢獄から帰ってきたときにテツタと恋仲になっていたヒトミさんの能力、透視と千里眼を手に入れていたらしい。
愛だね。
そのため、<空間探知>をもつ佐之助と共に敵の位置を調整しながら戦ってくれている。
魔人というのはそれだけで勇者に匹敵する成長をするものだから、決定打はないようだが、攻撃力のあるショウゴや、精霊とともに魔法を使えるユカリコならば、範囲攻撃をしかけられるため、そちらに任せてしまえばいい。
どちらかと言えば私もサポートよりの能力が多いんだけど、夢で経験してきたイベントが多いもんだから、
「<飛翔剣>!」
剣技として、飛ぶ斬撃を放つことくらいはできる。
レベルもステータスもわたしとタツルだけはインフレしているから、一撃で倒すことが可能ではある。
それなのに、攻撃力が俊平ちゃんの方が高い。
まじで自爆はイカレたアビリティだ。
わたしの施した<狂戦士精神>の効果なのか、やけにハイテンションで笑いながら敵を抉り殺す消吾の人体切断マジックを見た魔人たちは、おびえながら後ずさりするも
「ごめんなさい、通行止めだよ」
精霊使いである縁子が火の精霊サラマンダーに炎の壁を作ってもらい通せんぼを行う。
魔人たちは、獣人やエルフ・ドワーフなどの大陸をすでに侵略して植民地にしている。
そして、人間たちも同じように今、侵攻をうけている。
容赦などしていられない。
さすがは魔人族。タフなうえに反撃までしてくるから、こちらも無傷での戦闘はできない。
全員に<継続回復>かけたうえで、機を見て誰かのそばに寄った瞬間に辻<治癒>をかけているから、皆の怪我も少ない。
消吾なんかは半径2m圏内に敵を入れないといけないから、深手も負っている。
すぐに治療するも、合計100人にもなる魔人を掃討するには疲労が大きい。
とはいえ、みんなの活躍もあってか
「残り20人!」
佐之助の<空間探知>によるカウント。
かなりのハイペースで幹部と魔王以外のその他魔人を撃破することに成功している。
「みんな! 俊平ちゃんとマリスの戦闘はおそらく決着がつかないかもしれない!」
だからこそ、わたしは次の行動を予測しないといけない。
「どういうこと?」
とユカリコちゃんが聞き返す
「佐之助、マリスと俊平ちゃんの位置情報は常に確認しておいて!」
「おう」
「俊平ちゃんはあおいさんと融合して、再生の能力を手に入れているから、何があっても死なない!」
そう。自爆の能力と再生の能力の合わせ業は強力だ。
いまも俊平ちゃんの方向からデカイ爆発音が聞こえている。
それはつまり、マリスは俊平ちゃんを殺すことができない、ということ。
しかも、俊平ちゃんの攻撃力は、殺傷能力はバチクソに高いから、おそらく勝負の行方は早々に決まる。
こちらの掃討は間に合わない。
もともと、マリスがあおいさんを地下迷宮に封印したのは、戦闘能力は無くとも、いくら殺しても再生してしまうあおいさんの特異性ゆえのことだった。
それゆえ、俊平ちゃんもあおいさんも、死んだら元の世界に戻るこの世界に置いて、戻ることが出来ないというデメリットも抱えているのだが………。
「マリスは俊平ちゃんを殺すことができないから、ターゲットをこちらに向けて来る可能性がある!」
「ああ、なるほど。たしかにあいつは1対1にこだわるようなヤツには見えなかった。見るからに仕事人だっぜぃ」
佐之助もうなずいて空間探知を続ける。
俊平ちゃんは死なないけど、対策できないわけがない。
あおいさんが封印されていたように、何らかの方法で自爆と再生を封じられてしまえばこちらにくる可能性は大だ。
「その場合、私らではマリスに勝つのは難しい。誰かが殺される可能性すらある」
「そうやな。切断されたら終わりや」
俊平ちゃんの再生と自爆の能力は、あらゆる能力者に対するトップメタだ。
マリス相手はむしろ相性がいいとさえ言っていい。
だけど、私たちにとっては違う!
切断の能力者なんて、出会ったら死だ。
わたしは残り10人になった魔人を切り伏せながら
「だから、あがくよ。ショウゴ! あれ、持って来てるよね?」
「ああ? あれってなんや!?」
「さくらが作ったでっかい金食い虫マシンから出てきた冷たいやつ!」
「ああ、あれな。いっぱいあるで。」
モノづくり系の勇者である安達さくらが作ったとある機械から、魔力や魔石の続く限り無限に作れるようになったあれ。
タツルがこちらに召喚されてすぐに張った伏線の一つ。
技術革新。
「もし、マリスがこっちに来たら、動きが止まった瞬間に閉じ込めてぶち込むよ。」
悪だくみは、いくらしたっていい。
あとがき
次回予告
【 由依ー伝説の妖狐、玉藻前 】
お楽しみに
読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった
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