第87話 由依ー魔王キュウビ襲来
佐之助の案内の元、エデン湖に到着。
ここ、そんなに大事な拠点には見えないけれど、魔人にとっては飲酒のドリンキーが倒された場所でもある。
俊平ちゃんの話によればここでドリンキーと対峙して、至近距離にて全力で自爆したことによる道連れで相手を倒し、自分自身もバラバラにぶっ飛んだが、俊平ちゃんの中にいるあおいさんという人格が持つアビリティ<自己再生>の効果により再生。なんとか無事に切り抜けることができたというわけ。
うーん。聞けば聞くほど爆弾として完成された存在だね、俊平ちゃん。
死兵となって爆弾兵となって、突撃兵となって、そのうえでほぼ確実に相手を巻き込んで戦果を挙げたうえで生きて帰ってこれる。
しかも、なんだかんだ、裏ダンジョン攻略RTAを経験した今の俊平ちゃんは自らの自爆を厭わない。
覚悟がガンギマっている。
それに、優秀な参謀役でもあるあおいさんが付いてるし、いざとなったら俊平ちゃんの肉体の主導権を受け持つことも可能ときた。
もう、なにものなのよと言いたい。
そんな俊平ちゃんが地形を変えてまで倒した敵の居た場所に、また新たな敵が現れた。
「あらぁ。どこかで見たタヌキ顔だと思ったらぁ、………豆狸。アナタだったのねぇ、葉隠妙子。」
エデン湖にいたのは、和服をはだけさせて椅子に座り、その椅子を神輿のように魔人に持ち上げさせているケモミミの美人。
ただし、肌は褐色、瞳は紅色。魔人に扮しているように見える。
その椅子からはみ出るように、毛先の白い黄金色の尻尾が9本伸びている。
ふわっふわだ。顔をうずめたい。
彼女は私達と一緒にやって来たタエコちゃんを見下ろし、キセルから口をはなし、煙をふかした。
「そちらこそ、どこで何をしておるかと思えば、こんな異世界でも妖の大将を張っているとは思わなんだよ、化け狐。明柴咲子。今は<キュウビ>と名乗っているのだったか?」
そして、どうやらタエコちゃんも彼女の事を知っているらしく、牙を見せて笑っている。
キュウビの名はタツルから聞いたことがある。
現在の魔王の名前で、タツルが倒した魔人の幹部、妄語のデリュージョンという五戒魔帝の一角を拷問にかけ、聞き出した魔王の名前だ。
「ふん。何も考えずに魔王なんてやっているわけないでしょぉ?」
そういって、キセルの中のタバコをトントンと落としながら、褐色の肌と紅色の瞳は、色白の素肌、ブラウンの瞳へと代わった。
魔人に化けるのをやめたらしい。魔王として魔人の姿を借りていただろうが、別にそれは一目見て便利だからだろう。相手がタエコちゃんだと分かったのなら、余計な力を使わない為に変化を説いたのかもしれない。
さらに、彼女が落としたキセルの中身、その落ちた灰は右手側にいた神輿を担いだ魔人に触れる。
「熱ッ!?」
その灰に触れた瞬間にビクッ!! と反射的に体を動かしてしまったらしく、タエコちゃんにキュウビと呼ばれた美女の座る椅子が大きく揺れた。
キュウビは眉を顰め
「おい、お前。椅子が揺れたわよぉ。」
その揺れに不快感をあらわにするサクコさん。
「ひぃ! 申し訳御座いません! キュウビ様!! もうしわけ」
ーーーバチュッ!!!
キュウビの尾の一つが鞭のようにうねり、血のはじけるような音と共に神輿を担いでいた男の首がはじけ飛んだ。
ドクッ ドクッと首から血が噴き出す。
数拍遅れて、どちゃりと血の池を作りながら崩れるように倒れた。
魔人というのは、それだけで勇者一人に匹敵する成長をするとルルディア王国のお姫様。ミシェルから教えて貰っていた。
………その魔人を、一撃。
尾の先に着いた血を払い、そこには汚れのない黄金色の尻尾が残る。
支えの一つを失ったというのに、椅子は微動だにせず、いや、動いたら殺されてしまうというのがありありと伝わった。
「おい。お前、この神輿を持て。」
キセルで指さした周囲にいた魔人に命令を下し、神輿は再びしっかりと持ち上がる。
独裁だ。
周囲の魔人の顔色も悪い。
「なるほどのう。恐怖で縛る魔王か。それで組織は持つのかの?」
「はん。いいのよぉ。ここにいるこいつらみーんなわたしの駒。こいつらだってぇ、わたしの為に死ねるなんて、光栄でしょぉ?」
黄金色のしっぽの先から、緑色の炎が立ち上り、それは先ほど殺した魔人の死体に触れると、その炎は死体のみを焼き尽くす。
「それよりも、なによぉ、異世界にまでついてきちゃって。もしかしてアナタ、わたしのストーカーかなにかかしらぁ?」
挑発するようなその瞳。
傍らに置いていた扇子を開いて口元を隠しているが、恐らく口元が嫌らしく笑っているというのが、光の加減なのか、透けて見える。
「はっはっは! 面白い冗談じゃ。儂がお主のストーカー? 自惚れもそこまで来ると傑作じゃのう。儂と同じ時を生きたババアのストーカーなどしてもなにも面白くないわ。」
とは言っているものの、私たちはすでに知っている。
タエコちゃんが自室で神隠しについて新聞の切り抜きなどで情報を集めていることを。
ライバルの不在を良く思わないタエコちゃんが必死で彼女を探していたことを。
「ね、ねえ。由依。妙子ちゃんって、やっぱり、たぬきなの?」
ユカリコが小声で今更な質問をしてきた。
そういや知らなかったんだっけ。
とはいえ、頭に葉っぱのせてるしそりゃあ気付くよね。
「うん。化け狸の総大将らしいよ。で、おそらく相手は九尾の狐。現在の魔王。どうやら魔王とタエコちゃんは因縁があるみたいだね」
「はえー。そないなことなっとったんか。昔話でも狐と狸の仲は悪いっていうとるが、ホンマにそうやとは思わんかったで」
ショウゴも初耳だったようだが、予想はついていたらしく感心した声を漏らしていた。
そんな後ろで俊平ちゃんが、「はぁ、はぁ………はぁっ………!」と荒い息をしていた。
「どうしたの? 俊平くん。様子が変だけど」
ユカリコがそれを心配して声をかけるけど………。
「う、うん………な、なんだか、あおいさんの様子が………落ち着かなくて………!」
心臓を抑えて膝をつく俊平ちゃん。
自爆特攻とかいう無敵の人である俊平ちゃんは現状不本意ながら私たちの中での最高火力だ。
俊平ちゃんの異常は私達の不利益になりうる。
「さ、さく、こ………」
絞り出すように俊平ちゃんが呟く。
「咲子!!! お前のせいで、わたしはァ!!!」
「!?」
あおいさんが俊平の肉体の制御権を奪っている!?
もとは俊平とあおいさん二人の肉体だ。普段は俊平に譲っているに過ぎないのかもしれない
「うぉおおおおお!!!」
両手のひらを後ろに向けて手のひらを爆発させながら急加速を行う
ドン、ドドドン!!
と、手のひらを爆破させ、即座に再生させ、さらに爆破させて加速と空中での推進力を得ている。
さながら小さなロケットだ。
「ちょっとぉ、なによお! 妙子との話がまだおわってないのよぉ?」
超速度で目の前まで肉薄する俊平ちゃんを、キュウビは面倒くさそうに一瞥すると
「堪え性のない子ねぇ。」
尻尾の先から赤い炎をまとい、鞭のようにしなるそれで、俊平ちゃんを弾き飛ばした。
「っぎゃあああ!!?」
首を一撃で弾け飛ばす一撃を生身で受け、ガードで受けた右腕が消し飛ぶ俊平ちゃん。
さすがに日本でも語られる伝説の妖怪だ。
蓄積された力がちがう。
「こらえ性のない早漏は嫌われるんだぞぉ」
パタパタと扇を仰ぐキュウビのその目は、あたらしいおもちゃをどう壊そうかと愉快そうに笑っていた。
あとがき
次回予告
【 殺戮のマリス 】
お楽しみに
読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった
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