第79話 樹ーロマンボード
「大陸をつなぐ大橋を超えてきたってことはさ、本格的に魔人の侵攻が始まったってことだよな」
「そうなるね」
「魔人も獣人や精霊種との戦争で疲弊している。だから、捕虜にした獣人を使って侵攻している」
「うん。」
「やるせねえなぁ………」
あまりやる気が起きないタイプの戦争なんだよ。
なぜって? どう転んだって胸糞悪い結果にしかならないから。
魔人の侵攻に伴い、獣人が無理やり攻めさせられているんだろう?
人間族としてはそれを迎え撃つしかない。何も悪くない獣人族を、殺すしか選択肢がなくなるから。
生存を賭けた戦争だ。そりゃあどっちも必死になるしかない。
獣人も自分の命が惜しいから、死ぬ気で攻撃してくるだろう
だからこそ、こちらも決死の覚悟で迎え撃つ。ああ、どう転んでも胸糞悪い。
だってそうじゃん。これ、最善がないんだよ?
最悪しかない。
どんな選択肢を選んだところで、どこかしらから問題が発生する。
あー、くっそ面倒くせえ………。
「由依、ロマンボードちょーだい」
「あー、あれ? 私が錬金のアビリティで作ったサーフボードでしょ?」
「そうそう。飛行アイテムじゃん。ちょっと突撃してくるわ………」
「そう高くは飛べないよ。せいぜい地上から1mくらいだし」
「ロマンあっていいじゃん。」
「ケガしても知らないよ」
由依がインフレして手に入れていた錬金アビリティ。
これは、まあなんというかモノづくり系のアビリティ。
俺の知らんところでモノづくりが得意な安立さくらとともに不思議アイテムを作っていたのだ。
由依が収納から出してくれたロマンボードは、重力の魔法を組み込んだ浮く板。
地面という摩擦をなくすことで、メインが風魔法である俺にとって、かなり有効な移動手段になるのだ。
向かい風に弱いという欠点があるものの、その辺は俺が魔法の腕でカバーするっしょ。
「今更ながら、ズルい能力やな………。ワイの存在意義ないやんけそれ」
由依が収納してあったロマンボードを取り出すと、収納の異能を持つ消吾がなんとも言えない表情を浮かべていた。
まあ、そうなるよな。
複数の能力を得るような異能は、俺と由依と田中、鉄太と、あとは暴食持ちの稔………言霊使いの太郎くらいだもんな。
意外といっぱいいるな。
それで、俺も由依も収納系の魔法手に入れちゃってるんだもの。どうしようもない。
どうしようもないくらいインフレしているからな。
由依の取り出したロマンボードに足を乗っけると、重力を反発してちょっと浮いた。
これで前に体重をかけると、前進、水平にすると停止なんだけど、人間はそううまいこと出来てないので、微妙な体重移動を繰り返してふらふらしながら直立する。
「うん。行けるわ。じゃあの」
俺は前に体重を掛けながら、後ろに向かって風を出すと、20秒くらい加速が必要だったけど時速60kmは出たんじゃないかな。
生身で乗ってると怖い。
さすがに俺は車の免許を取ったことなどないし、最高時速65kmの恐怖の自転車山下りくらいしか体験したことがない。あの時も死ぬかと思ったけど、障害物さえなければ、あとは加速さえしてしまえばあとはスイスイだ。
「樹のやつ、本当に何でもできるよな………。」
「タツルは勉強できないけど、なんかいろんなバランス感覚が良いからね………。」
そんな会話をされているとはつゆほども思わぬまま。
☆
さて、個人で勝手に飛び出しておいてなんだけど、軍勢を一人でどうにかできるか?
答えはまあ、YESなんですが。
曲がりなりにも夢の中で魔王シナリオをクリアしてきた俺は完全にインフレしているわけで、一発ドン! と打てば俊平程じゃないとしてもかなりの被害を相手に与えることが出来るわけよ。
1時間ほど田中の言ってた方向に向かってかっ飛ばしてみた所、確かにいたよ。軍勢。
田中のやつ、かなり目が良いな。
空では田中らしき飛行物体がなにやら別の飛行物体を消滅させているように見える。
田中は田中でチート性能過ぎるんだよ。
「止まれーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
俺はロマンボードから降りて相手に聞こえるように全力で叫んだ。
これで止まれば苦労はないんだけどさ………。
『なんだありゃ』
『ガキか!?』
『人間だ!』
『なら殺せ!!!』
聖徳太子じゃないけれど、聞き取れた単語は物騒なものそのもの。
殺気立っている。
こりゃあ無理やり戦わされているって俺の予想は外れたか?
「代表者と話がしたい!!!」
『なんか言ってるぞ』
『わからん殺せ!』
『犯せ!』
『潰せ!!』
だめだ、向こうが殺気立っていると俺の声は一切届かない。
ギルド長の情報によれば勇者が撃破され、大橋の検問はぶっ壊されているんだ。
それだったらもう、政治的にも大義はこちらにあるかもしれん。
ああ………だめだ。ギルド長とかに全部ぶっ飛ばしていいか聞いておけばよかった………。
どうしようかな………。
「前面に<スロウ>」
しょうがないから俺は軍勢の前面に<スロウ>のデバフをかけてやる。
ごっそりと魔力を持ってかれたけど、まあそんなもんだろう。
前に進む者の一部がいきなり速度を落としたらどうなる?
答え、玉突き事故。
好き好んで味方を引きつぶそうとは思わないだろ。
なんて思ってたら
『邪魔だ!!』
『邪魔な奴は死ね!』
『踏みつぶせ!!』
マジかよ………理性のりの字もないじゃん
あとがき
次回予告
【 ロジックとオカルト 】
お楽しみに
読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった
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