表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

76/96

第76話 樹ー起床


 意識が覚醒する。

 夢幻召喚RTAを終えてコーデの街での起床だ。


「おはもっふうお!!?」


 声が聞こえた瞬間に高速チョップ。


「あ、すまん由依。おはよう」

「あ、あぶ、びびったぁ………。おはようタツル」


 ギリギリで止めた。手をつないでなかったら危なかった。


「おはようにゃ。まさかパジャマで夢の世界へ旅立てる能力獲得とはにゃあ。ステータスオープン。お、アビリティが生えてるにゃ。<夢幻召喚(ドリームサモン)><魔導士(ウィザード)>。実はさっきの世界での田中の役割は魔法使いだったのにゃ」

「おはようタナカちゃん。寝起きから元気だね。」

「そりゃそうにゃ。実験結果が成功と分かって万々歳にゃ。」


 さっそく田中はステータスを開いてアビリティが生えているかの確認を行ったようだ。

 これで田中の大幅なインフレが始まってしまうわけだ。


「………。」


 しかし、俺の左隣で寝ていた鉄太は、壁を向きながら黙っている。

 絶対に起きている。


 消沈した鉄太。

 せっかく結ばれた鉄太と瞳美だったが、シナリオが破綻すると同時にこの世界に戻ってきた。

 向こうの世界で手に入れたものはこっちでは引き継がない。

 引き継ぐものは、経験と記憶と能力のみ。人は対象外だ。


 もともと、夢幻の世界の出来事だ。

 そこにあるのは、夢と幻。現実ではないのだ。こちらの世界への持越しは出来ない。


「なあ、樹」

「おう。」


 鉄太は壁を向いたまま、聞いてきた。

 声に覇気がない。スンっと鼻水をすする音が聞こえる。


「瞳美さんは、本当にいたのかな………」

「残酷な事を言うようだけど、いない。あの夢はおそらく誰かが作った虚構(フィクション)の世界。全部、作り物、まがい物だ」


 鉄太は体を起こす。

 その横顔は、涙の跡でぐちゃぐちゃだった。


「俺さ、初めて、自分の意志で、彼女を幸せにしたいなって思ったんだ。」

「ああ」

「少しずつ、心を開いてくれてさ………。便乗するしかない俺の道しるべになってくれてさ………」

「ああ………。」


 ポツリポツリと言葉を、あふれる思いを、心から口へと伝える。

 ぐちゃぐちゃの心に、言語化できないその気持ちを、なんとか言葉にする。


「幻想、だったんだな。っく、なにもかも………っ。」


 はたた、とシーツにシミが落ちる。


「ああ、だが、彼女は本当に鉄太のことを好きになってくれた。一生懸命、自分の意志で彼女を幸せにしようとする鉄太自身をみて、お前を好きになってくれた。瞳美さんはいないが、瞳美さんが鉄太を好きになって、鉄太が瞳美さんを好きになった事実は消せない。」

「そうかな………」

「鉄太が言ったんだろ。自分の歩いた後にちゃんと足跡は残っていたって。お前はようやく自分の道を見つけたんだろ。鉄太はもう便乗するだけの男の子じゃないよ。」


 俺がそういって背中を撫でると、鉄太はグイっと袖で涙をぬぐう。


「たぶん、俺は瞳美さん以上の人と出会うことはないと思う。彼女はヒロインとして作られた存在。都合のいい存在。だからこそ、俺にとっても魅力的に映ったのだと思う。本当の人間が、女性が………彼女みたいな人が………。いるとは、思わないけれど、それでも………」

「………。」

「前を向こうと思う。俺が歩む道の後ろで、瞳美さんが見てるから。暗闇を照らすアイテムは、ちゃんと見つけたよ。彼女と一緒に。」


 鉄太は顔を上げ、しっかりと前を向いていた。


「そっか。」


 俺はそれ以上は何も言わない。

 ポンと鉄太の頭に手を置いて、ベッドから降りる。


「頑張ってね、テツタ。」


 由依も、鉄太の決心に水を差すようなことはせず、バシッと背中をたたいて、ベッドを降りた。


「ちゃんと自分の意見を言える男は、田中もかっこいいとおもうにゃ。よく頑張ったにゃ、鉄太にゃん」


 田中は横から鉄太の頭をギュッと抱きしめてやると


「えらーい、えらーいにゃ。この自身は鉄太にゃんを成長させてくれたハズにゃ。次の恋を探すにゃ。田中は鉄太にゃんの恋を応援するにゃ」


 そのままポンポンと背中をなでる。


 田中はそっと鉄太から離れると、俺たちと一緒に部屋から出た。


「田中、あれじゃ心の穴埋めるために田中に惚れるぞ」

「にゃにゃ!?」

「タナカちゃんのバブみ。」

「うにゃ!!? 田中のやさしさが裏目に! 鉄太にゃんのことは別に嫌いじゃないけど、うーん………その時はその時にゃ!」


 そういや田中、寝てる時もカチューシャ外さなかったな。


 どうでもいいけど。


 鉄太は鉄太で、自分の心とうまく折り合いをつけてくれるだろう。

 あの夢の世界で、鉄太は便乗するだけじゃなく、自分の意志で行動する事を覚え、人に好かれるにはどうすればいいのかを自分で考え、結果、瞳美さんと心を通わせることが出来たのだから。

 

「それはともかくにゃ。俊平にゃんと合流したあとはどうするにゃ?」

「どうするって………。俊平と合流したのなら、合流後にまたなにかしらのハプニング的なイベントが発生するだろ。俊平と一緒になにかする系が。」

「まさか! この合流を考えたのってタツルが元の世界からこの世界をのぞき見したからでしょ。そんな合流した後に突発的なイベントなんて………」


―――カンカンカン!!!


『魔王軍襲来! 魔王軍襲来!! 動ける冒険者の皆さんは直ちに広場にあつまってください!!!』



「な?」


「突発性のハプニングなのに予想通りがすぎる!!!」








あとがき


次回予告

【 魔王軍襲来 】


お楽しみに



読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった


と思ってくださる方は

ブクマと

☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング←ここをクリックすると作者が嬉しくなるよ
ツギクルバナー
cont_access.php?citi_cont_id=843467514&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ