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第61話 樹ー再会


もっちゃもっちゃと買い食いしながらコーデの街のお祭りの中心地へと向かっていく。



「おっ、ここがエデン湖か。めっちゃ透明度やべーな。バイカル湖みてー」

「ああ、知ってる。世界一透明度が高い湖だっけ? なんかの番組で見たかも。でも大きさが全然ちがくない? 確かに端が見えないくらい広いみたいだけど………。たぶん、こっちの方が小さいよ」

「透明度の話だって。大きさはいいの。」

「そっか。でも本当にきれいだよね………。」


 俺と由依はいろんな異世界を旅してきた。

 同じ夢を旅したことはない。


 だが、異世界の旅といえば、絶景スポットめぐりは異世界の旅の一つの目標とも言える。


 日本の絶景スポット回りなんか一切行かないのに、異世界では思い切り絶景スポットを巡れるのは、一重にその身の軽さと、資金力にある。


 もちろん、最初から資金があるわけではないが、俺や由依くらいの実力になれば、あらごとをひょいひょいっとどうにかすれば、お金の方が集まるってもんだ。


 しかもだ。どうせ元の世界に帰ることが確定している旅みたいなもんだから、その金は必要経費を残してパーっと使う。


 なんなら旅する。

 観光名所を廻り、絶景スポットを廻り、パワースポットを廻り、時にはそのパワースポットで新たな何かをもらったりする。


 きれいなものを見ると、素直に関心するんだよ。心躍る。デートみたい。

 付属の人間いっぱいいるけど。



「向こうの方はちょっと濁っとるやん」


 なんて消吾が呟くと、近くにいた俊平信者の方が声をかけてきた


「おお、なんでも、白の神子様が神の一撃を放ったから、そこからエデン湖の水が入って行ったかららしい。その神の一撃で、エデン湖の形が変わって、変わった場所こそ白の神子の、エデン酒の泉だ」


 ということらしい。


「湖なの、泉なの?」

「同じ地下水脈なんだろ。深い意味はなさそうだ。」

「ふむ………。事前の調べだと、湖は一つじゃったな。おそらく、その一撃で上空から見たら瓢箪(これ)のような形になっておる。ここから流れる川は小川じゃが、こちらの新しくできた湖のほうに水が流れ込んできておるおかげで川が干上がっておる。まあ、川の終着にはすぐ近くに海があるらしいので、大した被害ではないじゃろうが。」


 頭の中で大陸の地図を巡らせる妙子。


「湖の水位がそれなりになるには、一月くらいかかりそうじゃのう。」



 おそらく、神の一撃と称される白の神子のお話は、俊平が自爆した結果なのだろう。

 ここまで自爆するって、威力半端ねえよ。周囲の木々がなぎ倒されているし。


「んで、白の神子様が爆破したらしいのが、向こうだな。バイカル湖みたいな環境じゃないのに、いきなり水をぶち込まれたらそりゃあ泥巻き上げて濁るわ。納得した。そんで、白の神子が作った馬鹿でかいクレーターでなんかのミラクルが起きて、酒が取れるようになったと。意味わかんね。」


「にゃははー! 樹にゃんが見た勘違い話から、とんとん拍子におもしろいことになっているにゃ!」

「鈴木くんがみた勘違い? 田中さん、どういうこと?」


 俺からすでにネタバレ食らっていた田中がテンション高く笑っていると、縁子が首を捻った。


「おおっと、田中、ここで痛恨の失言にゃ。田中はなーんも知らんにゃー。」


 おどけた田中が口の前で人差し指を二本たててバッテン。

 俊平に繋がる情報を漏らしてしまうが、点と点がまだ線でつながっていない。

 田中はニヤニヤしながら縁子から距離をとる。趣味わりーぞ。


「嘘。みんながなにか隠しているってこと、私知っているんだから。」


 ずいっと田中に詰め寄る縁子。


「え? なになに?」

「なんや?」


 鉄太と消吾が田中と縁子を見て何事かと聞いてくるが、真相を知っているのは俺と由依と田中と妙子。あとは佐之助くらいだ。

 情報は漏らさんぞ。


「にゃははー! 隠しても隠し切れないにゃ〜。まあそのうちわかることにゃ。悪い話じゃないにゃ。むしろみんなが喜ぶハピハピな事実に縁子にゃんも鼻血だして狂喜乱舞するはずにゃ。」



 うーん、そんな縁子は見たくない。

 大和撫子が鼻血出して狂喜乱舞するのは漫画の中だけだ。


 由依ならやりかねん。そんな由依も好き。



「その鍵を握るのが、鈴木くん………?」

「いやん、こっちみんなえっち」

「死ぬ?」

「真顔で言われるのマジ怖い勘弁。ごめんなさい」



 わかったことが一つある。

 縁子は、執着がすごい。


 そんで、俺のことがそんなに好きじゃない。まあ、秘事が多いからね。生徒会副会長としてはあんまり良くは思わないだろう。


 いや、まあそれについては別にいいんだ。

 俺のことがそんなに好きじゃなくても会話をしてくれるだけで十分。


 好きじゃなくても、ある程度の信頼さえあれば問題ない。


「俺はいつだってみんなのことを思って行動しているよ。当然死なせたくないし、みんなには幸せになってもらいたい。この夢幻の世界では、俺にはそれだけの力があると自負している。」


 俺はトントンと自分の胸に拳を当てて縁子を見据えた。


「………………、いつも余裕を見せているのは知ってる。それを使って積極的に魔人を倒さなかったり、俊平くんを探しに行かなかったり、やっていることが矛盾しているのよ。いつもいつも適当に流して………。そういうところ、すっごく腹立つ。魔人族の幹部を一人で倒したんでしょ。私たちが迷宮に落とされた時。一人の魔人に苦戦している間に。なんでその力をみんなのために使わないの」



 やっぱり俊平に執着していても、クラスメイトのことはよく見ているのね。

 すごいよ、その責任感。正直、尊敬する。

 俺はそういう責任から逃れ、責任転嫁する方法ばかり考えちゃうからね。


「使ってるよ。わかりづらいだけで。今回の旅行もそう。数分後に縁子は必ず、俺にお礼を言う」

「………言わないよ。絶対」

「じゃあ言わなくていいよ。俺が勝手に自己満足するだけだ。」


 ま、みんなのために、なんて言っても、結局俺は自分が楽しむためにしか能力使ってないしな。


 今すぐにでもこの夢幻牢獄から脱出できるのにしないってのは、確かに俺の怠慢だ。

 縁子の言っていることも、的外れではない。


 でも、それじゃあ俊平が救われない。俊平の中にいる「あおい」が救われない。

 それに、妙子の願いも果たせない。


 俺の視点では魔王と妙子は点と点が線で結びついている。


 それを解消するくらいのお節介は焼くよ。あくまでも、たのしくな。


 さて、なんか話しているうちにお祭りの中心地にやってきたぞ



 見れば、真っ白な白無垢を着た俊平が簡易櫓の上で祭り上げられていた。


 俊平を真ん中に据えたその櫓の周りには人だかりができ、どんちゃかどんちゃかと太鼓や笛や弦楽器や吹奏楽器を奏でている。

 笑顔で笑いながら踊っている。


「ほら」


 双眼鏡を縁子に放り投げ、ちょいちょいと俊平を指差す。



 双眼鏡で見なくてもわかる。

 なんかいろいろ勘違いがデカくなった結果、めちゃくちゃ崇められている俊平は、絶対に内心で「ぴゃー!」とか叫んでいる困り顔だ。


「うそ………………。俊平、くん………?」


 髪が白くなっても、格好が変わっても、縁子は俊平を見間違えることはなかった。




 






あとがき



次回予告

【 合流 】


お楽しみに



読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった


と思ってくださる方は

ブクマと

☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)



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