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第44話 俊平ー変則的な武術(自爆)



「ひとまず、歩いて道に出るところに行くしかないよね」



 俊平は白無垢を着た神聖な衣装のまま、歩き始める。


 己が日本の女性が着る、婚姻用の衣装を着ているとはつゆほども思わぬまま。


『ここがどのあたりかを把握する必要がある。街に着いたら、地図を買おう』

「買おうったって………僕、お金持ってないよ………」

『いざとなったら白無垢を服屋にでも売ればいい話さ。』

「僕の服がなくなっちゃうよ………。あ、そのお金でまず服を買えばいいのか」

『そういうこと。』

「………とはいえ、僕の能力で爆散するような服は嫌だなあ。無限再生する服欲しい」

『そんな服があったら素敵だね。無限再生する肉体持ちの俊平。』


 俊平は道無き道を歩き続け、そして街道に出る。

 

「ようやく街道だ。日の光だ! 僕もう日光と結婚する!」


 俊平は両手を広げてその陽の光を体いっぱいに浴びる。

 その温かな陽気が身を焦がし、淀んだ迷宮の空気とは違ったお日様の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。


『なんてことだ。わたしは日光のせいで振られてしまった。よし、俊平、太陽に向かって猪突猛進。ついでに自爆するんだ。さすればわたしの恋敵はいなくなる。』


 そんな俊平の様子に、あおいは面白そうに含み笑いをしながら俊平に死ねと命令を下す。

 あまりにも身勝手な命令だ。

 勝手に太陽に嫉妬して太陽と心中しろなどととち狂った命令を俊平に下すものの


「残念。僕は第二宇宙速度で空を飛べません。」


 俊平もあっけらかんとそれを拒否。


『足の先から順に連鎖自爆と超速再生を繰り返したらできるのでは?』

「………やらないよ?」


 長らく共に行動を行ってきた俊平とあおいは、二人しかいない迷宮の中で会話を続けるために、よく馬鹿な掛け合いをするようになっていた。

 それは、互いに精神を病み始めていたから。


 俊平はやさしいといっても、やはりただの中学生で、一人だけ取り残される迷宮の生活は苦しいものであった。

 それを解してくれたのが、あおいという、存在。



 会話というのは、それだけで心を軽くしてくれていた。

 あおい自身も、長らく一人で囚われ続けていたからか、会話というものを楽しんでいる。


 どこかお調子者で、しっかりとした口調で、俊平の背中をおしてくれるあおいの存在は、俊平にとっても最高のパートナーであった。


『みたまえ俊平、あそこに、魔物に襲われている馬車があるぞ!』

「わあ! 由依ちゃんと樹くん(・・・)が見たらテンプレって言いそう!」


 俊平の視界の先には、狼の魔物に襲われている馬車。

 俊平は走り出す。

 白無垢は本来、ゆったりと歩く衣装だが、自身が動きやすいように、足元の布は短めに着付けしてある。

 俊平の基本戦術が近づいての自爆であるために、機動力は残しておかないといけなかったからだ。



『ほう、未来を見通す力を持つ俊平の友達だったかな』

「うん。この世界にきた時から、ずっとみんなが不安にならないように調整してくれていたすごい人なんだ。僕も樹くんに忠告を受けてなかったら、すでに心が折れていたかもしれないからね。ゴブリンの殺し方、僕に起こるであろう受難。彼の言葉がなかったら、生きることを諦めかけてた。」


 長い迷宮生活を支えていたのは、あおいの存在がたしかに一番だった。

 だが、俊平がこうなることを見越していたかのように俊平を導いてくれた友達。

 それが樹だった。

 テンプレを網羅する樹が、俊平には必ず受難が待っていると確信して、魔物の殺し童貞を捨てさせ、決して心を折るなと激励してくれた。

 彼の言葉が、彼の気遣いがなかったら、すでに俊平の心は折れて廃人になっていたなもしれない。


 俊平は知らないことだが、現在、外の世界で俊平の様子をライブビューしている樹は恥ずかしさのあまり悶絶している。


 本来記憶が抜け落ちるはずの俊平だが、抜け落ちた記憶も〈自己再生〉の効果で再生されているため、俊平の記憶には欠落は無かった。



『良い友を持ったね、俊平』

「………うん!」



 あおいは俊平の心を支えてくれるその友に若干の嫉妬をおぼえつつ、その者に尊敬の念を送る。

 現在進行形で悶絶しているとは知らずに。



 それはさておき、戦闘に思考を切り替えた俊平は走りながら両手の指から糸を射出。

 狼の群れの一体に糸を貼り付けると


「えいやあ!!」


 思い切り引っ張る。



 半年にも及ぶ迷宮生活にてレベルの上がった俊平。


 スピードもパワーも防御力もペラペラだが、たしかにレベルは上がっている。

 半年にも及ぶ迷宮探索と、2体分の漆黒竜の経験値だ。

 多少の効果が無い方がおかしい。


 そのため、糸を貼り付けたウルフを一本釣りすることなど、もはや容易いものだった。



『さすがだね、俊平』


「さすがに一斉に吊り上げることはできないけどね」



 さらに、地上のウルフなどは、迷宮の魔物よりも脆いし柔らかい。

 迷宮に住んでいたジュエルタランチュラなどは俊平が思い切り殴っても拳を痛めるだけだし、ジュエルタランチュラどうしを激突させてもその宝石のようなお腹には傷一つつかない。


 だが、俊平は自爆という爆撃の能力を持っているが故に、たやすくその頑丈を打ち破れた。



「爆裂パンチ!!」



 釣り上げられたウルフに対し、ふゅん! と、へなちょこパンチを繰り出す俊平。


 そのクソ雑魚パンチを受けたウルフは、バムッ! という破裂音と共に、その首がこの世から焼失した。


「あちち………。ウルフくらいだったらちょっとの火傷くらいで倒せるね」


『能力の調整も完璧じゃないか』


 ひらひらと手首をふれば、火傷の後は残らない。最小限の自傷でかたがつく。


『お、すごいぞ俊平! この白無垢、返り血を浴びたのに、血がすぐに流れ落ちて真っ白だ! しかも焼け焦げた裾もすぐに戻っている!』


「すごい! 再生する服だ! もう僕全裸じゃなくなるんだ!」


『やったな俊平!』


「うん! あおいさん!」



 俊平はあおいとの喜びを分かち合う。


 だが、ウルフの群れは俊平を驚異と判断したのか、次々と襲いかかってくるではないか。



「えと、えと………! 」

『爆風キックとかどうだい?』

「爆風キック!!」



 先ほどのへなちょこパンチはなんだったのか、そう言いたくなるくらいの鋭い蹴りが、ウルフの顎に爆音と共に突き刺さる。


 蹴りと一緒に、かかとを自爆させ、蹴りの速度を加速させる俊平の新手加減技。

 全力で自爆するとあたり一面をクレーターに変えてしまう俊平の、自ら編み出した手加減の技。


 基本的には俊平の自爆は、全力で全ての力を消費する自爆のみ。


 だが、魔力と通力を練り合わせる【通魔活性】のおかげで、少しだけの自爆や、部分自爆、切り離した体の一部を自爆させる遠隔自爆と、かなりのバリエーションが使えるようになっていた。


 そのバリエーションの一つが、爆風を利用して物理の威力をあげる爆風キック。


 それは、俊平のへなちょこの運動能力を補ってあまりある、物理エネルギーとなる。

 自壊を厭わないその俊平の攻撃は、俊平を変則的な武術家に仕立て上げていた。

 ついでに足の<硬化>も行っているため、相手へのダメージは大だ。



「あ………足袋もやっぱり再生してる………。この服すごいね!」

『これはもう売れないな。わたしの能力の影響を受けているのか?』


 などと喜ぶ二人を



「『白の神子……』」

「『白の神子だ』」


 などと呼ばれているとは知らず、俊平は己の白無垢の性能をただただ喜んでいた。







あとがき



次回予告

【 盛大に勘違いされるやつ 】


お楽しみに



読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった


と思ってくださる方は

ブクマと

☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)

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