第25話 ■■■
俊平を飲み込んだ漆黒竜だが、飲み込まれた俊平によるアビリティ<自爆>により、内部から爆発。
その威力は凄まじく、漆黒竜の爆散だけには止まらず、迷宮の壁、地面をも巻き込んで崩壊した。
「緑川………」
運良く、光彦の近くに落ちてきたその腕を拾い上げる。
つい先ほどまで生きていた学友。
腕を拾い上げても、その死に実感が沸かない。
「ぅおおおおおおおおおお!!!!」
ズズン!! と、両の拳を地面に叩きつけるのは、光彦の幼なじみである、松擦力。
無口な彼が、涙を流し、叫びながら地面を叩いている。
彼が地に伏しながら睨み付けるのは
「………………………!!!!」
肩に縁子をかついでその場からの離脱を試みていた、赤城雄大。
「あん? ぐべぇあ!!?」
その巨体で、その膂力で、思い切り殴りつけた。
「おい、何やってんだよリキ!!」
「………! ………!!」
ふーっ、ふーっ! と荒い息を漏らす力。
雄大が振り落としてしまった縁子を、早風瞬がスライディングで滑り込み抱きとめる。
「あ? こいつが俊平を………? マジかよ、最低だな、雄大。」
「けっ、なんとでも言え。全員無事で切り抜けようなんて、虫のいい話だったんだ。」
「だからって、てめぇ、俊平を!!」
「切れるカードを切れる時に切る。それが今回、チビ介だったってだけだ。」
「………っ!!!!」
ドガン!! と、再び雄大を殴るリキ。
「………。ゴホッ! 気ぃ済むまで殴ればいいだろ。抵抗はしねえ。田中の異能も効かず、あのクソ野郎と、佐藤を一撃でぶっ飛ばした相手だぞ。俺が役満ぶち当てても勝てる保証はなかった。」
「だからと言って、味方を犠牲にするのか!」
そう叫んだのは、光彦であった。
彼の手の中にある、小さな腕を見つけた雄大は、目を逸らす。
「これが、君がやった結果だ。君が望んだことだ。満足かい?」
「………うるせぇ」
しゅるる、と、遠くの方で上からロープが落ちてきた。
複数のロープを本結びで固定した、極長のロープだ。
「この大穴だ。あんだけのロープを上からたらすのに、こんだけ時間がかかるんだ。あのドラゴンの攻撃を、ずっと防いで、無傷で帰還できると、本気で思っているのかよ?」
「それは………。」
「あのブレスは防げるのか? 爪は、牙は?」
「………。」
「俺は、それを天秤にかけた。チビ介の能力なら、時間を稼げるかもしれない。そう思ったからな。俺がやったことは、許されるとは思っていない。………。悪者は、俺一人でいい。」
「………俺は、赤城、君を許せない。」
「そうかよ。勝手にしろ。」
「おい! 喧嘩なんかしてる暇はないぞ! 登れ!!」
団長の言葉に雄大は肩をすくめ、ロープに捕まり、登っていく。
漆黒竜が階層を破壊しながらやってきた大穴。
そして、俊平が自爆したことにより生じた大穴。
そこかしこから、魔物が押し寄せてくる。
リビディアの置き土産。興奮した魔物たちが、そこで餌を求めてひしめいていた。
クリスタルモンキー、リトルドラゴン、マジックコックローチ。
ジュエルタランチュラやリザードマンも、新たにこちらに向かってきている
女子は萌の作り出す木につかまって。男子はロープを伝って迷宮からの脱出をしていた。
そんな時である。
ーーーピィイイイイ!!!!
突如、不吉な音が再び響く
「嘘だろ、まだあいつ生きてんのか!?」
「しぶとすぎだろ!!」
反響する指笛の音は、どこから聞こえるのか、まるでわからない。
光彦と瞬、リキ。雄大は登るのを取りやめて手を離し、地面に着地すると拳を握りしめて構える。
『限界よ、限界。もう無理。無理、バツだけど………』
「くそ、どこにいやがる!!」
尋ねても、姿を現さないリビディア。
『最後に一人くらい、道連れにしてあげるわ』
その声と同時に
「ぐぶっ!!!?」
「うわあああ!! 響子! 響子、しっかりしろ!!! くそっ! 貴様、何をする!!」
空手部大将、光彦の幼なじみである百地瑠々の叫ぶ声。
「うふふ、あはははは!! 言霊使いは厄介だもの。せめて地獄には一緒に落ちてあげる!!」
トカゲのような魔物の背に跨がり、全身が焼けただれたリビディア。左腕は炭化し、彼女の足はひしゃげている。
右の目ははとうに光を失い、左の目には執念のみを灯していた。
彼女の、その爛れた右腕が突き刺すのは、此度のリザードマンの掃討に多大なる尽力をした、白石響子の背。
彼女の胸の中央を貫通し、完全に息の根を止めていた。
魔人は、勇者と同等のステータスを持っている。
本人の戦闘力は低くとも、魔人というだけで、新米の勇者など一捻りにできるものなのだ。
勇者を一人を道連れにするなど、勇者たちが迷宮からの脱出に向かい、数が減った今、彼女にとってそれはできて当たり前のことだったのかもしれない。
「貴様、響子から離れろ!!」
瑠々の回し蹴りを避けることもできず、その回し蹴りを側頭部にくらい、魔物の背から転がり落ちるリビディア。
多少の怪我ならば、言霊使いの仲間であるデリュージョンに癒してもらえたかもしれない。
だが、いつまでたっても現れない仲間に、リビディアはもう、己の生存はあきらめた。
デリュ―ジョンも、唯一迷宮に落ちなかった、あの余裕ぶった男に、苦戦しているのかもしれない。そう思った。
「あと一人の言霊使いは、無理そうね………!」
もはやうつ伏せに倒れ込んだリビディアには、己の力で立ち上がる気力は残っていなかった。
明滅する視界。彼女がその視界に映すものは………
「<纏気> <剛気> <剛脚>!! うぉおおおおお!!!」
「魔王様………。」
ゴギン!! と、骨の砕ける音が聞こえる。
瑠々が気を纏い、漲らせ、高火力のかかと落としをその頸椎にお見舞いして、リビディアの灯は消えた。
あとがき
次回予告
【 有能な人材は早くどっかいくにゃ 】
お楽しみに
読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった
と思ってくださる方は
☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)




