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第21話☆樹ー自己言及のパラドックス



「<ボクの手には炎の魔剣があるよ!>」



 そのセリフと同時に、デリュージョンの手の中に紅い魔剣が握られた。


 妄語のデリュージョン。やつの能力は<嘘から出た実(リアリティ・ライアー)

 嘘を現実に変える能力だ。


 お前はもう死んでいる、と嘘をつかないあたり、直接死なせることはできない制限か消費する通力に限りがあるのだろう。



 迷宮上部に穴開けるのなんて、大分チカラ使いそうじゃないか?


 そんな舐めた事しても俺には勝てんぞ。



「シネェーーー!!!」


「死なんって。」


 単純思考の癖に、持った能力が勿体無い。

 流石に魔剣相手に素手じゃ分が悪いので、コチラも背負っていた剣を抜いて相手してやる。


 大量生産の鋳造(ちゅうぞう)品だ。研いではあるが切るより殴る使い方になる。


 魔剣相手にはこれも力不足だから、打ち合ったりは出来ない。


「<ボクは剣術の天才なんだよね!>」


「つまりお前の剣術はポンコツだってこと? 穴掘り楽しいね。」


嘘つくたびにコイツ、自分の墓穴掘ってることに気づけ。



「っ〜〜〜〜!! 死ね!」


褐色の顔を真っ赤にして剣を振るう。

流石天才の剣。太刀筋が見えない。


「緑竜剣術・(やなぎ)


 コレはずいぶん昔に孤児転生の世界で拾われた緑竜に叩き込まれた剣術。

 0歳スタートだったからマジ大変だった。

 竜の言語と魔法と武術を教えてもらう、俺、何かやっちゃいました? 系の物語だ。


 あの頃の俺は厨二病患者だったから、こんなことでもドヤドヤしない俺カッケーなんて思っていたけど。

 完全にドヤってたわ。今となっては恥ずかしい。


 しかも、一般人にも広く門戸を広げている有名道場だから、俺はただのイキリボーイだった、というオチまでつく。


 まあ、師範代じゃなく緑竜本人に直接教えてもらったから、あの爺さん以外には負けなしだったけども。



 柳は受け流しの技術。

 流して、流して、隙をつく。


 そんな剣術だ。


 歩法で距離をとりつつ、ガムシャラに振られる剣をバックステップで避ける、流す、逆らわず。

 俺は大振りの袈裟斬りに合わせて距離を詰め、やつの剣が空ぶると同時に左の肺に剣を突き刺した。


「<傷なんか負ってない!>」

「ほお、強引だなぁ。次は喉を潰せばいいのかな?」



 傷は一瞬で癒え、剣を振るう。

 こいつも剣術を習っていたのだろう。

 ごめんな、年季が違うんだ。


 眼が鍛えられ、反射神経を鍛えられ、魔法を鍛えられ、鍛錬方法まで知っている俺がおかしいんだ。


「<ボクは傷つかない!>」


「なるほど、嘘で塗り固めたその肉体、どこまで耐えられるのか、見せてもらおうか」


 いじめているみたいで嫌になる。

 とはいえ、まだこちらも決定打がないってのもあるけどね。ちゃんと強いよ。この魔族くん。


 俺は距離をとって魔力弾を放つが、魔剣に切り裂かれた。


「後ろからナイフが飛んでくるよ!」


「その能力、そこまでくると、ただの正直者………いやブラフだな。」


 後ろなんか見ない。ここで視線を逸らすような指示は俺の思考誘導だろう。

 引っかからんぞ、俺は。


 俺が距離をつめると、驚愕に目を見開くデリュージョンの首に突進しながら剣を突き入れた。

 ガギン! と音が鳴る。


 なるほど。傷つかないな。



 しかも、視界の誘導を行うブラフまで混ぜられると、やはり戦いづらい。


「<ほら、魔物の大群が押し寄せてくるよ>」

「ほーら、きたきた、そういうの! さすがだよ言霊使い!」


 ドドドド! とウルフやゴブリン、オーガ、オークなど多種多様な魔物がこちらにやってくるではないか


「上から目線でぶつぶつと、オマエ何様だよぉ!」

「勇者様に決まってんだろたわけが。」


 デリュージョンが炎の魔剣を振って大きな炎の刃を飛ばす。


 

 俺はそれをサイドステップで躱した。

 後ろの木が縦に裂け、炎上する


「おいおい、森林での火災は勘弁してくれよ………。こんな時にミカがいれば………なんていってもしょうがないか。【風喰い(エアブロック)】!!」


 ネガティブ雨女。池田美香。彼女のアビリティは<局所的雨女(スコール)

 雨を降らせることができる、天候操作のアビリティ。


 ないもんを妬んでも仕方ないが、森が焼ければデリュージョンもただではすまんというのに。


 しょうがないので、燃えるものがないように、木の周囲を真空にして鎮火しといた。


「うげえ、魔物の大群もうざったいな………………!」


 こちらを目掛けて大行進する魔物が到着してしまったので、魔力弾で頭を潰し、剣で首を刎ね飛ばし、死体を蹴り飛ばして、密集してきたのなら


「【ウインド・ボム】!!」


 敵の中心地で圧縮空気を爆発させる。

 おっと、いいこと思いついた。


「よくやるなあ、じゃあこれならどうだい!? <ボクは無色透明だ!>」


 感心したように頷きながら魔剣を振るうデリュージョンが、次第に透けて、見えなくなる。

 想定外の方向からやってくる斬撃に、肌を刺す殺気を頼りに、剣に魔力を通して受ける。


 さすがになまくら鋳造剣では受けきれないので、簡易強化をさせてもらう。


 しかし、剣まで見えなくなるのか。マジ厄介。ウケる。


「お、やるやん? 言霊系の能力特有の複数の能力を使うその感じ。逃げるか奇襲するか、魔物に紛れるか。やれるもんならやってみろよ」


「笑っていられるのも今のうちだだよ、<お前はボクのことを忘れてしまったんだからな!>」


「………。っと、魔物マジじゃまだな。水素と酸素を2:1で混ぜて水素爆鳴気を作り圧縮した【ウィンド・ボム】を………」


 ドン! と打ち出し、右手の指先にに火属性の魔力を集めて魔法の設定を行う。

 時限式の魔法、2秒後に灯火(トーチ)の魔法発動で、ウインドボムの場所に射撃。


 即座に俺は自分の周囲にドーム状の真空の壁を産み出すと


ーーーッドォオオオン!!!


 と、爆発したみたいだけど、真空の壁を作っているから振動が地面からしか伝わってこない。


 これは水素と酸素の結合による水の発生。

 2:1の割合で混合した水素()酸素()の結合によって生まれるのが、H2O つまり水だ。

 その反応に必要のは熱で、点火すれば爆発を起こす。そりゃあもうめちゃでかい音で。

 この実験を行う時には耳栓が必須だぞ。覚えといて。


「炎が燃えるのかと思ったけど、案外湯気っぽいな。反応が一瞬だったからかな」


 とはいえ、爆発の衝撃で大半の魔物は処分できた。

 亀裂に落ちた魔物もいたが、地下のみんなでどうにか対処してくれ。


「おーい、無色透明だとむしろ目立ってるぞ。デリュージョン」


 爆煙が避けている部分。無色透明なだけだから、そこだけくっきりはっきりしている。


「なんで!? お前はボクのことを忘れたはずじゃ!?」

「教えねーっつってんだろ。正直者やろう」

 

 言霊系を相手にするのに気をつけないといけないのが、自分にデバフをかけられること。


 アビリティってのが大体がスキルを使う【通力】の項目に依存している。

 魔法攻撃を受ける場合、魔力を纏うことによってある程度防御できる。

 普段何気なく纏っている魔力が魔力障壁。


 俊平が見つけてくれた【通魔活性】は、まぁ俺からすれば既に他の世界で知ってた強化技術みたいなもんだったんだけど、それのおかげで魔力と通力を同時に体に纏わせ、相手の魔力や通力が俺に通る前に、シャットアウトできる。貫通できるだけの力量があれば、流石にデバフ食らうが、まぁ今回は問題はない。


「お前、妄語とかいうくせに、やることなすこと正直すぎんだよ。正直者のデリュージョンに二つ名変えてみろよ」


「なんだと!? 嘘つきのボクが正直者!? 馬鹿にするのも大概にしなよ!」


「妄語のくせに、能力も嘘を全部本当にするからお前、全然嘘ついてねーじゃん。本当のことになるならそれは嘘じゃねえよ。嘘を本当に変える!? 嘘が本当になってるんだからもうそれ本当じゃねえかよ、嘘言ってんじゃねえぞ!」


「嘘じゃない! ボク本当に嘘つきで………え? え? あれれ? 嘘、本当? む、難しいこと言って煙に巻こうとしてもだめだかんな! ボクは本当に嘘つきだ!」


 なるほど、妄語のデリュージョンは、確かにその能力は強力だろう。勇者の中でも2人しかいない言霊系を持つ敵幹部だ。

 相当いろんなことをやってきたということもわかる。


 いかんせん、使用者の頭がよろしくない。


「お前が本当に嘘つきならば、能力を使って宣言してみろ。嘘を本当にするのならできるはずだ。復唱しろ!『ボクは嘘つきだ』」

「ふん!<ボクは嘘つきだ!>」



 <嘘から出た実(リアリティ・ライアー)>の封印完了。



「あれ? あれれ!? 姿が………魔剣も………!?」


 能力の全てのリソースがその復唱に費やされたのか、魔剣も透明も解除され、魔物は散り散りに去る。


 こいつ、基本正直者だから嘘つきが本当になる

 嘘つきになったので、嘘つきと言ったのは嘘で本当になる。


 本当になると嘘つきと言ったことも嘘になるわけで………………まさに無限ループ。


 自己言及のパラドックスでwikiっといて。 嘘つきの攻略法だ。


 

「さーあて。てこずらせてくれたな坊ちゃん。煽って対話させんのマジ苦労したわ。」

「ちょ、ちょっとまって!」

「おしりぺんぺんしたるわボケ!!」



 

 まあ、とうぜんおしりだけじゃなくて顔面もグーでぺんぺんして妙子にプレゼントしてあげるんだけどね。




 






あとがき


挿絵(By みてみん)



次回予告

【ふーん、なんだかえっちにゃ】


お楽しみに



読んでみて続きが気になる、気にならないけどとりあえず最後まで読める程度には面白かった


と思ってくださる方は


☆☆☆☆☆ → ★★★★☆(謙虚かよ)をお願いします。(できれば星5ほしいよ)

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