成り立ちと理解
今回、葬り去られた魔法の一つ、天候魔法の成り立ちが明かされます!
「まず天候魔法とは何かについて考えてみようか」
「はい」
「シンラは今どのあたりまで理解している?」
「はい、えっと……名の通り、天候に干渉し、影響を及ぼす魔法で、広範囲制圧に向いている魔法ということは……」
「なるほど……じゃあ成り立ちは?」
「成り立ち……すみません、分かりません」
「そうか……えっとね、天候魔法は元は国を豊かにするために生まれたんだよ」
「国を豊かにするため……とは?」
「ある国はなかなか雨が降らず、農作物が安定して取れなかったそうだ」
「国民は日に日にやせ細っていくのに、国民を第一に動いてくれる国王をはじめとした王族に、わずかにできた作物を納品してくれていたそうだ。 それを常に申し訳なく思っていた王は何かできないかと模索していた」
「毎日毎日、天に祈ったそうだ。 非力な自分にはほとんど何もできないからと、何があろうと祈ることだけは辞めなかったそうだ」
「そして数えるのも億劫になるほどの日にちが過ぎた。 今日も駄目だったのかと王が落胆しながら、日課となった祈りを終えて立ち上がろうとしたその時、王の頬に一滴の水が当たった。不思議に思った王が天を見上げると、今度は目に、肩に、水滴が落ちた。 それが引き金になったのか、国に雨が降り注ぎ始めたんだ」
「じゃあ……」
「そう、王の国民を思う祈り、それこそが天候魔法の成り立ちであり、真髄だよ」
「そうなんですね……」
「だから、それだけは忘れちゃだめだよ」
「……わかりました」
「よし、じゃあお手本見せようか」
「よろしくお願いします」
さて、何にしようか。天候魔法は確かに成り立ちこそ感動的だが、殺戮の力が高いのも違いはない。だからそのあたりははき違えてほしくはないし……よし、あれにしよう。
「シンラ見ててね」
「はい」
「天よ聞き届けてくれたまえ。 愚かな我らの願いをかなえてくれ。 誰も失いたくない……誰も死なせたくない。 誰もが等しく尊いのだ。癒してくれたまえ。 隣にいる者の傷を……大地の穢れを。 その神聖なる慈悲で洗い流してくれたまえ。 天候魔法【癒しの涙雨】」
今回、シンラのためにあえて詠唱をしてみた。俺が詠唱を終えたあと、少しすると、翡翠色の雨雲が現れ、ポツリ、ポツリと雨が降り出した。
「これは……?」
「まぁ見てて」
俺はそういうと、俺は手の甲を鏡の世界から取り出したナイフで斬った。
「何してるんですか?! 早く止血しないと……」
「見てシンラ」
「そんなことしている場合じゃ……」
俺の手の甲にできた傷は涙雨にあたると、みるみると塞がっていった。まるで初めから傷が存在しなかったようにきれいに塞がった。
「これが今回シンラに教える天候魔法で、広範囲を治癒させる雨、【癒しの涙雨】だよ」
俺はシンラに向かってそういった。癒しの雨は……まだ止みそうにない。
癒しの涙雨
天候魔法の一つで、雨に触れた者の傷を癒す魔法。広範囲に影響を及ぼし、敵味方関係なく効果がある。その癒しの雫は雨雲と同じく翡翠色をしており、光を反射すると宝石のようにきらきらと光る。
効果は使用者に依存