調査開始
繋ぎが長くてすみません
「さてと、出てきたはいいけどまずはどうしようか」
俺は体を伸ばしながらリリーに問いかける。実際言ってみたはいいものの、これだけ大きなイベントとなれば、参加者の数は膨大だ。一人一人虱潰しに調べていくのは無謀すぎる。寝巻きで龍に挑みに行くようなものだろう。
「一般人の方は聞き込み組に任せて、俺たちは一旦公演者たちの方を調べようか」
「そうですね、その方が良さそうです」
「となると、まずは参加者を調べないとな」
アストラの占いによれば、事件が起きるのは本祭中らしいから、前夜祭の公演者は一旦スルーしていいだろう。確か公演者をまとめたチラシがあったはずだし、開催地のどこかにはありそうなんだが……。
「あ、あった」
露店街に入り、あたりをキョロキョロと見渡すと、屋台の壁にたくさんのチラシがカウンターの端に用意されていた。チラシの入っている箱には、ご自由にお取りくださいと書いてある。俺は人混みをかき分けて、そのチラシの置いてある店まで近寄っていくと、こちらに気づいたのか、屋台の店主が声をかけてきた。
「よ、にいちゃんたち。 何か買っていくかい?」
そう言いながら忙しなく手を動かしている店主。どうやら手の感触で果物の仕分けを行っているみたいだ。
「えっとー、なんかおすすめってあります?」
「そうだなぁ、この時期だと、旬のグレブかマスカがおすすめだぜ」
「そうなんですね、じゃあそれぞれひとつづつ」
「あいよ! 酒にするかい?」
「朝早いので、お酒はなしで」
「お、そうか。 あ、じゃああれ試していくかい?」
「あれ?」
「最近異世界人が開発した、たんさんすい? ってやつで、それで果汁を割ると、酒よりシュワシュワして、こう……なんていうか喉が焼けるっていうか熱くなるっていうか」
「それ、飲んで大丈夫なやつなんですか……?」
「それは大丈夫だ! 既に自分で確認済みだからな!」
「じゃあ、それでお願いします」
「おう! ちょっとまってな!」
そう言って店主はテキパキと飲み物を作り出す。数分ほどで店主は二つのグラスを差し出してきた。紫色の方が、マスカで薄い黄緑色の液体の方がグレブらしい。どちらも酒の様にシュワシュワと無数の小さな気泡と音を立てている。
「ほらよ!」
「ありがとうございます。 あ、それとそこにあるチラシを二枚、いただいても?」
「ん? あぁ、いいぜ、好きにもっていきな」
「ありがとうございます」
俺はリリーにお願いしてチラシを二枚取ってもらう。俺は店主に銀貨一枚を渡して、飲み物を受け取った。
「じゃあ行こうか」
「はい」
「まいどありー」
「リリーはどっちがいい?」
「そちらで」
「グレブの方ね、はい」
「あ、ありがとうございます」
俺はグレブのドリンクを渡し、チラシを受け取る。そこには本祭参加者の名前が箇条書きで羅列されており、その中で一際大きく書かれている名前に、俺には見覚え……というか聞き覚えがあった。
「合奏総指揮者 テーラー、昨日の会食で話しかけてきた女性か」
何というか、掴みどころがないというか奇妙な感じがしたのを覚えている。とはいえ、ただそれだけで決めつけるのはよくないだろう。
俺はそう思い直し、改めてチラシに書かれた公演者の名前を確認する。
「うーん、本祭の参加者だけでも五十人は超えているのか……」
「困りましたね」
「うーん、なにか、こう絞り込める要素があればなぁ……」
俺はそう言いながらドリンクを一口飲む。確かに喉を通る時、シュワシュワとした感覚が心地いい。
「そういえば、殿下が言うには今回の件は計画的なものだろうっておっしゃってましたよね?」
「うん、そうだね。 それがどうしたの?」
「でしたら今回からの公演者は一旦除外してもいいと思うのですが」
「それはどうして?」
「えと、うまく言い表せないんですけど、もし私が講演者だったら、色々とわからない事だらけだと思うのでそんな危険を犯す様な真似はしにくいかなって思いまして……」
リリーが言うことも一理ある。相当念入りに計画をくむのであれば、できるだけイレギュラーは排除したいだろう。
「確かにリリーが言うことも一理あるね。 一旦その方向性で進めてみよう」
「はい! となれば除外される人は十三名ですね」
「残りは四十二名……か。 もう少し絞りたいね」
「ですね……」
俺はドリンクを一気に流し込んでから、考え出す。
(計画的に行うために、なるべくイレギュラーを排除したいって考えると……言い換えれば未知をなるべく減らして既知を増やしたい……特に周囲の情報はあればあるだけいい。ん? てことはもしかして……?!)
そこまで考えて、俺は一つの考えを思いつく。俺は魔法道具を通してみんなに質問する。
『誰か、過去にサンクチュアリで音楽国際交流が行われたのって何回かわかる?』
するとすぐにシンラからの返答があった。
『今回で四回目だ。 三回目は八年前で、二回目は十四年前、一回目に至っては二十一年前だったはずだ』
『ありがとう、たすかるよ!』
『何か分かったのか?』
『まだだけど、おかげで進展できるかも』
『そうか、期待しているぞ』
『できるだけやってみるよ』
俺は魔法道具の接続を切ったあと、隣にいるリリーに声をかける。リリーもさっきの会話を聞いていたので、何かわかった様な表情をしている。
「リリー」
「はい、わかってます。 過去のサンクチュアリで開催された音楽交際交流に参加したことがある人たちを調べるんですよね?」
「そう。 まずは過去の公演者と今回の公演者を照らし合わせていこう」
「でもどうやって調べるんですか?」
「大丈夫。 それについては心当たりがあるから、移動しよう」
「はい!」